【海外試乗速報】BMW F850GS メディア向け発表会
- 掲載日/2018年04月10日【トピックス】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 文/河野 正士
すべてが新しく、そしてパワフルで軽量になった
ミドルクラス・アドベンチャー・モデルの雄
昨年2017年に開催されたEICMAミラノショーで発表された「F850GS」に試乗する機会を得た。エンジン、フレームともに、全くの新設計となったことは大きな話題となり、世界中のジャーナリストを集めたこの国際試乗会でも、そのフィーリングと各ディテールを採用した理由に注目が集まった。
排気量を約55cc大きくしたエンジンは、270度クランクを採用。これまでは360度クランクの等間隔爆発エンジンであり、それはBMW伝統の水平対向二気筒エンジンも同じ。そのフラットで滑らかな出力特性がBMWの特徴であった。しかし新型エンジンは不等間隔爆発となり、その排気音はVツインと酷似している。新型エンジンは2つのバランサーが装備されていることから振動こそ感じないものの、車体をグイグイと前に押しだしていくフィーリングはBMWにとってはまさに新感覚だ。新型エンジンは非常にコンパクトなことも特徴だ。
フレームも一新されている。FシリーズGSのアイコン的存在だった、鋼管を組み合わせたトレリス構造のフレームから、鋼鈑を折り曲げた中空パイプによってエンジンをつり下げるブリッジフレームへと変更。またシート下に配置されていた燃料タンクは、シート前スペースに移動。それによってマスの集中化が計られている。
車体は、とにかく軽い。コンパクトなエンジンと軽量で高剛性な車体、そしてマスの集中化が計られたこと。そしてトルクを重視した270度クランクを採用したことなどで、アクセル操作とエンジンおよび車体のシンクロ率が上がり、いままで以上に車体をコントロールしやすくなった。これは、オンロードはもちろんオフロードでも同じだ。もちろんここに、4つのライディングモードと、それと連動したトラクションコントロールやスタビリティコントロール、コーナーリングABSがライディングをサポートする。激化するミドルクラス・アドベンチャー・カテゴリーにおいて、その存在感を強くアピールできる存在となった。
BMWモータースポーツ・カラーをモチーフにしたボディカラーを採用した新型「F850GS」。GSシリーズのDNAを受け継ぎながら、アグレッシブなスタイルを造り上げた。エンジンがコンパクトになったこと、ブリッジフレームとなったことで側面からフレームが見えないこと、また燃料タンクがシート前に移動しシートレールおよびシート周りがスリムになったことで、非常にコンパクトに見える。
今回の国際試乗会は、イベリア半島の南端/スペイン・マラガで開催された。開発者が開発意図などを一方的に説明する一般的なプレスカンファレンスは行われず、車体/アクセアリー/BMW独自開発のスマートフォン用アプリの3つに別れたミニ・プレゼンテーションが行われ、それ以外はすべての行程に同行する開発者に、好きなタイミングで好きなことを聞くというスタイルで試乗会が進んだ。
外装を外したストリップ(車体はF750GS)。新型フレームは、ステアリングヘッド上端から二手に分かれたメインフレームが、リアサスペンション取付位置付近までほぼ一直線で結び、そこからステッププレートへと向かう。このステッププレートはスイングアームピボットとエンジン後端のマウントを兼ねており、この新型フレームの肝になる。写真ではエンジン上にエアクリーナーボックスが装備されているのが分かる。その上からミッションケース上方まで、逆L字を描くように燃料タンクが配置される。
新型エンジンは中国メーカー/ロンシンとの共同開発。生産はロンシンで行い、車体組立はベルリンの本社工場で行う。逆回転の270度クランク、シリンダーを挟み前後に配置されたバランサー、アンチホッピングクラッチ(スリッパークラッチ)など、今までに無いディテールを採用している。潤滑方法を、クランクケース外にオイルタンクを必要としないドライサンプとしたことで、さらなるコンパクト化が実現している。
F850GSに純正採用されたブリヂストンの新型タイヤ/バトラックス・アドベンチャーA41を履いてのワインディング走行は、初日午前中にセッティングされていたがあいにくの雨。終始ウエット路面での走行となり、ペースを落としての走行となった。F850GSはオフロードでの走破性を高めるために足の長いサスペンションを装備するが、そのネガティブな要素は感じられなかった。
初日午後は、オプションでラインアップされるメッツラー・カルー3を履いた車両に交替。オフロードパークでABSの動作確認やスラローム走行といったオフロード走行の基本的な動きをチェック。その後ホテルまでの帰路はフラットダートを走ることができた。270度クランクを採用したことでトラクションを感じやすく、また燃料タンク位置の変更やコンパクトなエンジンを採用したことで軽量化とマスの集中化が進んだことを感じることができた。
BMWスポーツ・カラーを採用したライトホワイト(写真右)、またシックなマットメタリック(写真左)にくわえ、レーシングレッド(写真未掲載)の3色をラインアップしている。
まったく新しい車体で構成されながら、Fシリーズ、そしてGSシリーズの一員であることがひと目で分かるデザインに仕上げられている。ホイールベースは1,593mm、装備重量は229kgとなる。
ボア84mm/ストローク77mm/排気量853ccの新型エンジン。クランクを90度位相し270/450度の順番で点火する。またエンジンコントロールユニットは最新のBMS-Mを採用。スロットルグリップからダイレクトに感知したライダーの意思を、よりダイレクトで、そしてコントローラブルにリアタイヤに伝える。F850GSは最高出力95hp@8,250rpm/最大トルク92Nm@6,250rpmを発揮する。
新しさと伝統を併せ持ったフロントフェイス。ヘッドライト、デイタイム・ランニングライト、ウインカーはLED仕様となる。またスクリーンの形状はF850GSオリジナルとなる。
6.5インチのTFTディスプレイは非常に存在感があり、走行中の視認性もいい。またオリジナル・スマートフォンアプリ/BMW Motorrad Connectedによる様々なコンテンツも、ここに表示することができる。Bluetooth内蔵インカムとセットすれば、携帯電話を使ったナビ画面をこのディスプレイに表示しながら、ナビ音声を聞くことができる。
F850GSは前後ともにクロススポークホイールを装備。フロントには21インチを履く。フロントフォークはφ43mmの倒立タイプ。オフロードでの走破性を高めるため204mmのスプリングトラベルを持つ。
クロススポークを採用するリアホイールは17インチ。両持ちタイプのアルミ製スイングアームを装備する。またチェーンは、前モデルから異なり、車体左側から取り出されている。
試乗車にはオプションでラインアップされるギアシフト・アシストプロ/いわゆるクイックシフターを装備していた。シフトアップおよびダウンの両方に使用することができる。またこのステッププレートがスイングアームピボットとエンジンマウントを兼ねる、フレームの重要なパートとなる。
リアサスペンションはZF製。リンクを持たない直押しタイプ。219mmのスプリングトラベルを持っている。それを囲うように配置されたリアフレームは、燃料タンクがシート前に移動したことから、パニアケースなどの装着を考慮しても以前よりスリムな仕上げとなっている。
リアサスペンション下/右側にボックス状の消音器を持つことからスイングアーム右側はへの字を描いている。その大型消音器からサイレンサーからは、不等間隔爆発による歯切れの良い排気音を聞くことができるが、しっかりと消音されている。
キーレスライド仕様を採用。このボタンを押すとイグニッションがONになり、長押しでハンドルロックがかかる。イグニッションON状態であれば、タンクキャップもキーレスで開けることができる。
左グリップ周りのスイッチボックス。「MENU」ボタンを下に押せばスマートフォンや専用アプリとの接続および設定の選択画面となり、その選択や決定はグリップ根元のジョグダイヤルを使用。「MENU」ボタンを上に押せば、スピード&エンジン回転計などが示されるトップ画面に戻ることができる。
右グリップ周りのスイッチボックス。エンジンの出力特性を変化させるモード変更はここで行う。「SOS」ボックスはオプション設定(日本導入は未定)。転倒や衝撃を感知し、その際には自動的にオペレーターに接続。救急車の手配などを行う。
ESA/エレクトリック・サスペンション・アジャストメントの油圧プリロード調整用タンク。ESAの装備を選択すると、車体左側のタンデムシート下側付近にこのタンクが装備される。
足つき確認に使用した車両は、シート高860mmの標準シートを装着。ライダーは身長170cm、体重68kg。両足のつま先が何とか付く程度だが、一般的な走行では不安を感じなかった。