8耐ライダーがG310Rでツーリング!?「チームトラスの夏休み」
- 掲載日/2017年09月22日【トピックス】
- Text & Photo / Takeshi Yamashita
「”コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第40回大会」で、BMW最高順位となる総合21位、世界耐久戦リザルトでは20位となりシリーズ戦ポイントと来年のシード権を獲得した「TeamTras(チームトラス)135HP」。
すでにお伝えしたように今年は44歳のベテラン・星野知也選手を筆頭に、18歳の田所隼選手、20歳の山元聖選手という若手を起用した。耐久レースは経験がものを言うだけあり、若手起用を不安視する声もあったが、見事にそれを跳ねのけるレース結果を叩き出した。
それから半月後、新田正直・チーム代表は3人のライダーと2人にメカニックを自宅アトリエに呼んで労をねぎらった。しかしただ飲み食いするだけでなく、BMWの市販車を走らせてツーリングをしようという、いわば「トラスの夏休み」だ。
BMW JAPANの広報車の他、モトラッド高崎(ヤナセオート)とモトパークの協力で試乗車を借り出し、K1600GT、G310R、R nineT Urban G/Sの3モデル6台が用意され、トラス本拠地の沼津にチームトラスのコアメンバーが集合した。
ツーリング前夜、埼玉からG310Rを走らせて沼津までやってきた田所は「物足りない。もっと走りたいです」とG310Rの走りに満足したようで、とくに後傾単気筒エンジンが生み出すトルクの太さが気に入ったようだ。
まずはシード権獲得という成果を祝って乾杯。新田代表が用意した沼津の海の幸を味わいながら、8耐話に花が咲く。
「チームメンバーが初顔わせしたのが4月30日。決勝までの3カ月で2人の若手をどうコントロールしていくかが課題だった」
星野選手はそう振り返る。「レースの結果を残せなかったときでもチームとして残せるもの」を模索した新田代表が選んだ決断は、「自分たちがやってきたこと、失敗したことも踏まえて次世代へと知恵や勇気を伝えられる」という考えに基づく若手ライダーの起用だった。新田代表はそのスカウトと育成を星野選手に託したのだ。
「自分が若い頃は地方選手権の出走台数も多く、だからライダーのレベルも高かったし、スキルを磨くチャンスが多かった。でも今は出走台数が少ない分、ちょっと速ければ地方選に簡単に出られるし、上位にいけてしまう」
だからこそ若いライダーたちは早い段階でそこに気づき、スキルアップに必要なことが何なのかを見極めていくことが重要だという。
「レースで大事なことはベストラップじゃなく、リザルト。8耐決勝でも(2分)10秒台を狙いたくなるが、チームの結果を出すことを考えれば14秒台がベストだった。それは前後に他のライダーがいる、いないの状況にかかわらず、常に14秒台を出せることが重要。その点でいえば、聖も隼もまだできていなかった。でもそれは初めての8耐なんだから、できなくて当たり前」
星野選手の言葉を、新田代表が継ぐ。
「今年、結果を残せたことにはいくつか理由があるけど、その中でも大きなことはチームメンバー各人が自分がやるべきことを理解していること。そこがきちんとしていれば、チームは自ずと目的を共有できて、そこへ向かっていける」
遅れてやってきた高橋メカニックも新田代表と同じように感じていたようで、「最初は若手に不安もあったけど、今年はレースウィークがとくに楽しかった」と話した。
「自分の能力の8割以上で走ると転倒のリスクが高まることはわかってたので、7割くらいで走ることを心がけてました。テストから予選、そして決勝にかけて、7割でのペースそのものを上げることができたことが自信になりました」
山元選手は鈴鹿8耐を振り返ってそう話した。
「他のライダーに接触されてクラッチレバーが曲がったし、シフターが壊れたからクラッチレスで走ってました。シフターの不調はメインスイッチを一度切ってからまたオンにすれば直ることがテストのときにわかっていたのですが、決勝のときはそれを忘れてました。ラップタイムにムラがあることを星野さんや新田さんに指摘されたので、そこを改善していきたいです」
田所選手がそう言うと、「たしかにそうだけど、まだ今はガムシャラでいいよ」と星野選手が微笑み、鈴鹿8耐の反省会で夜が更けていった。
翌朝。ヤナセオートの寺島さんが合流し、伊豆半島ツーリングがはじまった。地元住民の新田代表がK1600GTで先頭を走り、沼津市内の渋滞ポイントを避けながら裏道を行く。西伊豆スカイラインは混雑する伊豆半島の中でも比較的交通量が少なく、快適なツーリングを楽しめるルートだ。快晴ならここから富士山の雄大な姿を見ることができるのだが、この日は曇天だったのが残念。
スカイラインという名のとおり、標高の高いところを縦走していくルートだけに、アップダウンとカーブが連続する。K1600GTが先頭だとG310Rはいくぶん不利かと思われたが、星野・山元・田所の3選手が走らせるG310Rは軽快にワインディングを駆け上がっていく。
「エンジンは扱いやすいしパワーも十分。ワインディングではコーナリングのきっかけにやや重さを感じるものの、それは低重心が効いた車体構成の裏返しで、直進安定性が高いからビギナーでも安心して乗れる」
というのが3選手が揃って答えたG310Rのファーストインプレッション。傍目に見ていても、大型バイクとのマスツーリングでもG310Rのパワーにそれほどの不足はなさそうで、小排気量クラスながらも走りごたえに溢れるツーリング性能を持っていることが見て取れた。
BMW Motorradが提携して制作されたスマホアプリ「Rever Motorcycle」。走行距離やルート、平均移動速度などを記録して友だちとシェアすることができる。Android、iOSのいずれにも対応。「Rever Motorcycle」で検索!
ライダーたちは日頃サーキットでバイクを走らせることばかりだからか、タイムを念頭に置くことなく、景色を眺めながらバイクを走らせることの楽しさを満喫しているようだ。駿河湾を一望できるポイントに来ればもっと遠くまで眺めようとステップに立ち上がりながら走り、市街地の赤信号になれば3人はバイクを寄せ合って何かしら会話している。
西伊豆スカイラインで伊豆半島を南下し、松崎町へ。港町ならではの魚介で腹を満たす。
「ツーリングで伊豆に来たのは20年ぶりくらいかな。懐かしいな」
星野選手がそう話すと、「僕は今日が公道デビューです」と山元選手が返す。
「鈴鹿8耐はライダーの速さがまちまちで、バックマーカーが集中したときは緊張するけど、公道はそれよりもずっと緊張が高まる場面ばかりだからな。サーキットよりも危険は多いよ」
「それでもやっぱり公道でバイクを走らせるのも楽しいですね!」と山元選手が満面の笑みで答える。
S1000RRによってBMWはレースにおける高いポテンシャルを持つバイクを作れることを世界中に知らしめた。しかしいっぽうで、安易にハイパワーエンジンを搭載することなく、公道における走る楽しさと安全性を他メーカーに先駆けて追求してきたのもBMWである。BMWで鈴鹿8耐を走り、21位完走というプライベーターとして堂々たる成績を残すことができた彼らは、伊豆半島ツーリングでBMWの先見性をあらためて実感したようだった。
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