バイクの桃源郷、マン島:第2回 マン島TTレース、実走コース解説
- 掲載日/2011年07月08日【トピックス】
- 取材・写真・文/山下剛 撮影協力/ 三上勝久(FRM編集長)
グランドスタンドのコントロールラインをスタート。フロントを浮かせないように慎重なスロットルワークで、ライダーたちは全力で加速していきます。
レースとなれば過酷なれど
ツーリングとあれば爽快なTTコース
世界でもっとも過酷といわれるロードレース、それがマン島TTレースです。そのコースはマン島内を1周する公道を閉鎖して作られ、プラクティスやレース開始のおよそ1時間前からコースマーシャルや警察によって公道が閉鎖され、約60kmのコースが姿を現します。
104年の歴史の中で路面が改修された部分もありますが、それでも路面のうねりや起伏はいわゆるサーキットレベルにあるわけではなく、あくまで一般公道です。ウィリーはもちろんジャンプしてしまうポイントも多くあり、リコ・ペンツコファー選手(PENZ13.com)曰く「200km/h以上で走るモトクロス」だそうです。
今回はそんなコースを一般開放日に走行して撮影したスチール写真と、ムービーからの切り出し画像で紹介します。 また、Google Mapを使いコース解説ページを作成しましたので、そちらも併せてご覧くださるとよりいっそうTTコースを深く知ることができます。
フォトTOPICS(写真点数/56枚)
01右手にはラップタイムボード、左手にはグランドスタンドを望みながら、一心不乱に加速していく区間。
02交差点をひとつ超えると『ブレイヒル』と呼ばれる一帯。このあたりは住宅街を抜ける下り坂で、TTライダーたちはここを全開で駆け下りていきます。そしてすぐに上り坂になるという、スタート早々TTコースの厳しさを感じさせられるエリアです。
03スタートして初めてのきついコーナーが『クォーターブリッジ』。ランナバウトを右折するため、ほぼ直角の90度コーナーです。コーナーのアウト側にはパブがあり、ここでビール片手に観戦する人たちも多くいます。
04クォーターブリッジを曲がるとしばらくは直線区間。コース両側は石垣と古い大木が並び、天気のいい日中はこんな感じの日陰になります。いや、しばらくといいましたが、それは一般ペースの話で、TTライダーにとってはほんの一瞬…。
05左、右とランナバウトをふたつ越える、シケインのような『ブラダンブリッジ』。ここには観戦スタンドが設けられ、墓地の合間に多くの観戦客が詰めかけます。
06『ユニオンミルズ』は森の中を駆け抜ける右コーナーから切り返しての緩やかな左高速コーナー。教会や民家、ガソリンスタンドなどが建ち並びます。ライダーにとっては難しいコーナーのひとつだそうです。
07この先はしばらくストレートが続きます。左手には牧場が広がり、ツーリングならこれほどキモチよいところはないんですけどね。
08一般車両にとってはコーナーともいえないような緩いカーブでも、TTライダーにとっては超高速コーナーになります。そんなコーナーをいくつか越えると『クロスビー』に辿り着きます。ここにはこんな城のような建物もあります。
09一般車両にとってはコーナーともいえないような緩いカーブでも、TTライダーにとっては超高速コーナーになります。そんなコーナーをいくつか越えると『クロスビー』に辿り着きます。ここにはこんな城のような建物もあります。
10マン島に限らずイギリスは過去に多くの樹木を伐採して牧場や畑を作ったため、森や林が少ないのが特徴です。しかし残された木々は高い樹齢のものが多く、この土地の地質がそうとう古い時代に作られたことを感じさせてくれます。
11きついコーナーこそありませんが、先に述べたように緩いコーナーですらTTライダーのペースでは超高速コーナーとなるため、こんな場所にもクラッシュパッドが設置されています。
12この左コーナーは、この周辺ではかなりきつめのコーナー。しかしこの先にもっときつい右コーナーが待っています。
13ここは『バラクレーン』と呼ばれるポイント。普段は信号のある交差点ですが、TTコースはここを右折していきます。つまりここも90度の直角コーナー。この先は森の中へとコースは続いていきます。
14バラクレーンから『グレンヘレン』までは、森の中を駆け抜ける爽快なワインディングコース。まあそれも一般ペースでの話ですが…。とくに晴れた日中はこの写真のように日向と日陰のコントラストがきつく、ライダーにとっては視界の悪いエリアでもあります。
15ここがグレンヘレン。左コーナーのアウト側に観戦スタンドが設けられています。
16グレンヘレンの先で森は終わり、視界が一気に開けます。コース左側はキャンプ場で、レースウィーク中はここでキャンプをしながら観戦を楽しむ人々も多く見られます。ここに限らず、マン島には多くのキャンプ場があり、シャワーやトイレはもちろん電源やWiFiも完備されていたりするので、キャンプ生活も快適そうです。
17この一帯の景色は本当にすばらしいです。左手には青々とした牧場が広がり、その向こうにアイリッシュ海を望むことができ、思わず「うわーーーーーあああ」と意味もない叫び声を上げてしまうほど(いや、それは私だけかも)。
18しかも適度にキモチいいコーナーが連続し、右手に広がる丘陵地帯の眺めも最高です。あ、もちろんこれはツーリングペースで走っているときの話。ちなみにライダーズブリーフィングでは「NO TOURING」、つまりちゃんとレースしろ、ときつく釘を刺されます…。
19コース右手には高い石垣が続きます。これにしても一般走行ではまったく気になりませんが、TTレースではおそらくかなり石垣に迫りつつインをついて駆け抜けていくハズ…。
20そしてコースは『カークマイケル』にやってきます。通常、町や村など集落の入口は時速20~30マイルに規制されているため、一般車両が走行できる時間帯にはこのように警察がスピード違反取締りをしている姿をよく見かけます。ヨーロッパでは「民家のないエリアの速度上限は約100km/h」としている国が多いのですが、反対に民家がある一帯ではきっちり速度を落とすというのが一般的です。速度規制の傾向としては日本も同じですが、そのメリハリがきっちりとしていること、こうして警察が取り締まらずとも多くのドライバーやライダーは、集落に差しかかるときちんと速度を落として走行していくことが日本との大きな違いです。
21カークマイケルは両側から民家が迫ってくるような錯覚をするほど、道が狭く民家が接近している区間。しかしTTレースとなればライダーたちはここも5速(または6速)全開で駆け抜けていきます。
22カークマイケルを抜けても油断はできません。こんなふうに超高速コーナーのイン側ギリギリまで民家がせり出しているところもあるのです。
23前述しましたが、マン島TTレースのコースは決して路面状態はよくありません。補修や改修工事はしているようですが、それでもあくまで一般公道レベルです。何度も書いてますが、そんなのはこうしてツーリングしているときはまーったく気にならないんですけどね、ひたすらキモチいいだけです。
24さて、ここが有名なジャンプスポットの『バラフブリッジ』をまさに通過しているところです。たしかに太鼓橋を越えるためやや急な上りではありますが、もちろん普通に規制速度内で走ってくればジャンプすることなんてありません(その気になればできますが)。しかもここは、フルブレーキ、左コーナー、ジャンプ、右コーナー、左コーナーと続くため、TTライダーにとってはかなり厄介な場所のハズ。
25トップスピードが300km/hを超えるといわれる『サルビーストレート』。およそ5kmほどのストレート区間ともいわれますが、実際は細かな超高速コーナーがいくつかあるため、純粋なストレート区間はそこまで長くありません。しかも木漏れ日が作るコントラストがきつく、ライダーを疲労させる要因がたくさんあるところでもありますが、トップライダーの中には「ここが休憩区間」という人もいるそうで…。
26サルビーストレートにピリオドを打つ『サルビーブリッジ』は、観戦スタンドのある右コーナー。
27右前方に見えるのが『ジンジャーホールホテル』。コースはこの先で左コーナーへと続いていきます。ここも多くの観戦客で賑わうポイントです。
28ジンジャーホールの先はワインディングが続きます。シャッタースピードを遅くして撮ったこの写真なら、少しはTTライダーの視界を再現できてるでしょうか!?
29さて、マン島は原則的に速度無制限の国です。といっても多くの区間では時速60マイルに制限されていますから無法地帯ではありません。しかしライダーのペースは全般に高く、また追い越し禁止区間もあまりないため、ちょっと気を抜いているとすぐにこうして右側からパッシングされます。しかもこんなタンデムしてるライダーにもかなりのペースで抜かれます。
30ここも有名な観戦ポイントの『パーラメントスクエア』。信号のある交差点を右折するコーナーです。ここは両側にパブがあるため、ギネスやエールを飲みながらレースを観る人々がたくさんいます。レースのない日曜日にも多くの観戦ライダーがやってきて、かなりの大賑わいとなります。
31パーラメントスクエアのあるラムジーの町を抜けると、コースは上り坂となっていきます。道路中央に並んでいるパイロンは、マウンテンコースがはじまる合図ともいえます。前回お伝えしたように、レースウィーク中のマウンテンコースは事故軽減のため一方通行になるので、このようにパイロンで通行を制限しているのです。
32『ラムジーヘアピン』は、そんなマウンテンコースの入口ともいえるポイントです。しかしこの路面の荒れ方、たまらんものがありますねえ。
33ラムジーヘアピンを抜け、コースは一気に標高を上げていきます。道路両側には一方通行であることを示す標識が建てられています。ここからは片側2車線、つまり左側は走行車線、右側は追越車線となります。
34もう恒例って感じでしょうか、コーナーイン側の石垣。
35『グースネックコーナー』は曲率もきついですが、勾配もきつい右上りコーナーです。ところで紹介が遅れましたが、先ほどから前を走っているフォードはマッちゃん(松下ヨシナリ)がコースの下見のために走らせているクルマで、私はその後をついて走っているわけです。ちなみに今回の記事では、「マッちゃん下見の後追い」と「FRM編集長ミカミさんとタンデム走行」「マッちゃん後追いしながらのムービー撮影」「ヤマシタ単独走行」など、いろいろなタイミングで撮影したコース写真を織り交ぜて構成してます。
36マウンテンコースは速度無制限、さらに高速コーナーが連続する上り坂なので、スロットルをグワッと全開にできる爽快さ!
37しかしそんなことしてると、こんなキレイな景色を眺める余裕はどこにも生まれません。マン島を楽しむには、スピードを楽しむときと景色を楽しむとき、そのふたつをきっちりと分けて走らないとおもしろさ半減です。
38この写真はマッちゃんの後を追いかけながら、左手でカメラを構えてシャッターを切ってます。普通のペースならなんてことないんですが、マウンテンコースになると速度域が常に100km/h以上なので、写真を撮ろうと腕をのばすと風圧はスゴイし、コーナリング中に撮ろうもんならそれこそライディングテクニックが問われるワケで。左コーナーでのスピード感を撮ろうとしていたら不意にアウト側にはらんでしまったのがこの写真。ちなみにフォードの車内では「おっと、ヤマシタ選手危ない、アウトにふくらんでおります!」とルームミラーで私を確認したマッちゃんが実況していたとか。
39で、初めはこの一方通行区間、右コーナーでは2車線を使ったアウトインアウトで走っていたのですが、たかだか時速100マイル(160km/h)くらいだと“遅い”んですよ、ここでは。おそらくは150mph以上(つまり240km/h)で「ぶわんッ!」と抜かれるので(しかもタンデムライダーにも抜かれる)、うかつに右車線に出ようものなら重大事故! それに気づいてからは常に右ミラーを見ながら左車線を走るようにしました。あー、生きててよかった。
40ここは『ブラックハット』と呼ばれる左コーナー。09年のスーパーストック決勝3周目、マッちゃんはこのコーナーで痛恨の進入ミスをしてしまいクラッシュ、アウト側に吹っ飛んで重傷を負ったそうです。このレースの車載映像のなかには、コース上に散らばるマッちゃんのマシンが映っているものもあるのだとか。
41マウンテンコースといっても、こんなストレート区間もあります。ここはスネーフェル山(写真右手にそびえるマン島でもっとも高い山=標高621m)を南側から回り込むところです。左手の山にすっと真っ直ぐ延びて見えるのは、スネーフェル山頂まで行ける登山鉄道の線路です。
42そのストレートの先には『バンガロー』と呼ばれるポイントがあります。そこはS字コーナーになっていること、ジョイ・ダンロップの銅像があること、登山鉄道の踏切があることなどから速度を落とすためにパイロンが設置されています。そこで後ろを振り返って写真を撮っていたら、後続のライダーがそれに気づいてポーズをとってくれました。わかるかな?
43これがバンガロー。右手にある小屋の手前をUターンするように登って行くとジョイ・ダンロップの銅像がコースを眺めるように佇んでいます。
44バンガローを抜けると、また爽快な超高速コーナーが連続します。もうここまで来ると、バイクに乗っててヨカッタ!と、ひたすらヨダレやら汗やらアドレナリンやら、とにかくいろんな汁が出てきちゃいます。
45日本で似たようなところというと、九州は熊本の草千里ですかね。とにかく緩やかな丘陵地帯の尾根に近いところをひたすらに走り続けられます。スロットルは思うがままに開けられるし、景色はどこを見てもすばらしいし、ああホントに生きててよかった。
46マン島やイギリスの道路事情で、日本と大きく違うところのひとつが追越禁止区間の少なさです。原則的に速いクルマはとっとと追い越せという具合になっています。なのでこうして直線区間が終わりそうになる付近には、「そろそろここらで本来の車線に戻れ」という意味の矢印があります。日本もこうなればいいのにと痛切に感じましたが、曲率の高いコーナーが多い日本での実現は困難であることも事実。でももう少し柔軟に対応できるところもあるはずなんですけどね…。
47さて、再びパイロンが現れました。そうです、爽快痛快愉快なマウンテンコースも終わりを迎えます。右手前方にある白い建物は『ケイトコテージ』と呼ばれていて、これが見えたらコースは左コーナーとなり、急激な下り直線となります。
48パイロンがやや邪魔なことは否めませんが、これがマウンテンコースを一気に駆け下りるストレートです。正面に白い建物が見えるの、わかりますか? コースはそこで右コーナーとなりまして、そこが『クレッグ・ニー・バー』と呼ばれるポイント。TTライダーはここを5速とか6速全開で駆け下りてきて、クレッグ・ニー・バーの手前でフルブレーキしてコーナーに入っていきます。
49クレッグ・ニー・バーの右コーナーを抜けているところ。実際のレースではインをついて走るのでこのラインではありませんが、全開で駆け下りてきての正面にこの建物があるのは相当なプレッシャーになっているのではないでしょうか。
50一方通行区間は終わりましたが、追越禁止ではないのでライダーたちはこうして右車線に出てビュンビュンと走っていきます。
51約60kmのTTコース中、唯一クローズドサーキットのような様相を呈している『ブランディッシュコーナー』。ここは私のようなヘッポコライダーでもレース気分を味わえるコーナーでもあります。
52『サインポストコーナー』はランナバウトを右折するコーナー。TTレース中は正面にクラッシュパッドが並べられます。このあたりからコースは住宅街を貫くように抜けていき、グランドスタンドへと向かっていきます。
53マン島の道路はどこも両側の見通しがいいわけではありません。たいていは民家や牧場と道路を安全に隔てるために石垣や生垣などで仕切られています。また、駐車についても比較的きっちりと守られていて、ふとしたところにクルマが止まっているということもありません。これは道路の設計が根本的に日本とは異なっていることが大きな要因かと思われます。
54『ガバナーズブリッジ』は、TTコースの最終コーナー。しかしこの周辺でTTコースは普段は閉鎖されている旧道を使うため、一般車両は走ることができません。TTコースは写真右手にある植え込みとヤマハのバナーの間を通ってきて、そのバナーを回り込むように右ヘアピンコーナーを描いて森の中へと入っていきます。日頃の通行がない旧道はそれゆえ路面が滑りやすく、ミスを誘発しやすいポイントだそうです。
55TTコースは写真右奥のパイロンが置かれているところから、この道へと合流します。つまりここが最終コーナーということになります。あとはコントロールラインに向けてフルスロットル!!
56コントロールライン直前、左手にはキャンプ場があります。ここでテントを張ってTT観戦するのもかなり楽しそうです。今度、マン島に行ったときはぜひキャンプしてみたい。というわけで、これで約60kmのマン島TTコースをぐるっと1周しました。通常ですと1周するのに40~50分ほどかかりますが、トップライダーたちはここをわずか18分かからずに走り切るのですから…彼らの速さの一端を想像できるかと思います。