最終回 総括
ど真ん中ストレート
かつて BMW には C1 というスクーターがあった。独創の塊のようなメカニズムを持つ、ある意味スクーターに似た別の乗り物だった。諸般の事情から短命に終わったが、いかにも BMW らしいチャレンジ精神と革新の気概に満ちた作品だった。
Cシリーズスクーターデビューの噂を聞いたときは、どんなモデルを投入するのか興味津々だった。予想では本命は電子デバイスをフル投入したハイテク・スクーター。対抗はプラグインハイブリッド。欧州で人気のディーゼルエンジンやコンパクトなボクサーエンジンでも良かった。車体はピアジオ MP3 のような三輪車も考えられる。要するに『普通』のスクーターであろうはずはなかった。
市場のライバルたちは、なんらかの付加価値や見た目でわかりやすいキャラクターを与えられている。たとえばホンダは低価格と燃費、ヤマハなら軽量な車体とスポーツ性、スズキはヘビーだがゴージャスなクルーザーだ。ところがデビューしたCシリーズは、人目を引く極端な個性や誰もが驚くような特技・一芸に乏しい、良く言えば正統派、悪く言えば平凡なスクーターだ。
今までの BMW は、(野球にたとえると)ストライクゾーンギリギリに変化球を投げていた。それはマニアックな特定非多数派に支持されれば良しというゾーンだ。(GS シリーズのように新しいストライクゾーンを創造した例もあるが)
今回 BMW は、他メーカーが個性化差別化に躍起になっているなか、あえてストライクゾーンど真ん中に直球を投げ込んできた。コンセプト(Urban Mobility=都市交通)からブレることなく、いまできる最善のものを全力投球したのだ。本当に良くできていると思う。ゾーンギリギリ変化球というリスクを犯したくないからど真ん中(正統派)なのではなく、ど真ん中ストレート(平凡)というリスクを承知の上で、ブランドネームに頼らない真っ当な商品力で勝負をかけた、と評価したい。
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