第1回 エンジン
BMW 初のパラレルツインエンジン。一見して従来のFシリーズとは異なるキャラクター、サプライズともいえるプライスタグなど、各方面から注目の F800 シリーズが到着。そのメカニズムについて、メンテナンス方法も交えて世界一詳しく紹介しよう。
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新車到着。木枠を壊してバイクを引き出し、整備と点検をしながら走行可能状態にセットアップしていく。ごらんの通り前輪が付いているのでとりあえずの開梱が楽だ。F650GS は(背が高いので)前輪が別梱包で、フォークリフトで吊り上げながらの組み立てが面倒だった。
F800 の心臓部。並んだピストンが同時に上下する 360度クランク (BMW BIKES VOL.22 のP.76参照) パラレルツイン (並列2気筒)。ミドルクラスと呼ばれているが、堂々のビッグツインである。ボア×トローク 82 × 75.6 ミリの 798cc だから超ショートストロークではない。最高出力 85ps を 8000rpm、最大トルク 86Nm を 5800rpm で発生する。レブリミッターは 9000 rpm で作動。高回転高出力を目指していない設計であることがわかる。排気量が近いツインエンジンを比較してみよう。
◎BMW 850R
87.5 × 70.5 の 848cc。圧縮比 10.3 で、70PS を 7000rpm、77Nm を 5500rpm。
◎ヤマハ TDM900
92 × 67.5 の 897cc。圧縮比 10.4 で、86.2PS を 7500rpm、88.8Nm を 6000rpm。
◎ドゥカティ 749R
94 × 54 の 749cc。圧縮比 12.3 で、121PS を 10500rpm、84.4Nm を 8500rpm。典型的な高回転高出力型。
左サイドにはカムチェーントンネルとクラッチが配置される。クランクケースは上下分割式だが、シリンダーとクランクケース上部は一体成形される。
黒い半月状のゴムパッキンはカムシャフトジャーナルの加工跡をふさぐための部品。その間隔の狭さから、バルブ挟み角が非常に狭いのがわかる (IN10°/EX11°)。
エンジンはラバーマウントではなくフレームに直付けされる。エンジンを車体の強度部材とするためだが、それゆえにエンジンや駆動系の振動対策が重要なのは言うまでもない。ベルトドライブ採用の一因でもあるだろう。
BMW ジャパン主催 ニューモデルトレーニング中の画像 (以下エンジン分解写真すべて)。ROTAX の刻印が見える。初代 F650 (キャブ) 以来のオーストリアのロータックス社生産 (F650GS 系は BMW 生産) で、車体と車体への組み付けは BMW ベルリン工場である。歴代F系エンジンは BMW と同社の共同開発だ。ロータックスを格下扱いする風潮が感じられるが、アプリリア社バイクエンジン・小型飛行機・スノーモービル・レーシングカート用等、エンジンのスペシャリストである。
エンジンオイルのレベルチェック。エンジンは完全暖気 (電動ファン作動状態) で、一分以上アイドリング後、停止。すぐにゲージをゆるめて抜く。
よく拭いてからゆっくりと差し入れる。ねじ込まなくていい。もちろん、車体は直立状態である。
ゆっくり引き出してレベルを読む。MAX と MIN の間 (0.3L) にあれば良い。総量は 3.0L である。オイルは 15W40 が指定される。
ドレインプラグは左下に横向きに付く。フレームにアンダークレードルが無いので、路面にヒットしての破損を防ぐためだろう。ドライサンプにもかかわらず、オイルタンクがエンジン内にあるので、ドレインプラグはこの一個だけである。二面幅は 24 ミリ。トルクス規格ボルトが多用されている BMW だが、ドレインプラグだけは六角 (RやKはヘキサゴン) のままなのはユーザーの使い勝手を考えてか? 締め付けトルクは 40Nm。ガスケットは毎回交換する事。
オイルフィルターはカートリッジタイプ。RやKと基本的に同じモノだが、エンジンの色に合わせて銀色。オイル交換2回ごとの交換を推奨する。エンジンオイル関連の整備性は抜群に良い。
真横から見ると、クランクシャフトセンターの位置が低めであることがわかる。興味があったので乗車1Gで測定してみたら 340ミリであった。F650GS は 365ミリ。K1200S は極端に低い 310ミリ。近くにあったホンダ CBR1000R は 375ミリであった。クランクシャフトは構成部品の中で最も重いうえに高回転しているので、乗り味に与える影響は大きい。
シリンダーの前傾角度は一般的。フロントホイールストロークに影響するため、極端な前傾にできない。前輪が斜め後方に動くテレスコピックサスペンションの泣き所である。K1200 の超前傾エンジンは前輪が上下運動するデュオレバーだから実現できたのだ。左側からみると、エンジンの上下長の長さがよくわかる。F650GS と比べると、ちょうどオイルパンの分だけ大きく見える。
エンジン下のふくらみ (オイルパン) はドライサンプのオイルタンクである。BMW では「セミ・ドライサンプ」と呼んでいる。ドライサンプのメリットのひとつとして、エンジンオイルを別体のオイルタンクで管理するので、エンジン内には潤滑中以外のオイルはほとんど無い。したがってクランクケースを小さく設計できる。ところが、F800 では別構造のタンクをわざわざエンジン内部のクランクシャフト下に置いている。本来ならばオイルタンクを別に設置して、F650GS のように最低地上高を確保しつつ、K1200 系のようにクランクセンターの位置を下げられたはずだが、あえてそこまではしなかった意図が見える。クランク幅が長いのでバンク角を確保したかったのかも知れない。
オイルパンには深い冷却フィンが刻まれている。単独で取り外すことができるのでメインテナンス上便利だ。後述するが、異常にブ厚いので強度を高めているのがよくわかる。
エンジン前の四角い箱はヒートエクスチェンジャー (熱交換器・水冷式オイルクーラー) である。
内部構造。冷間時は水温によってオイルを暖め、温間時は水温によってオイルを冷却する。互いの温度の干渉により、エンジン温度を安定化させる仕組み。燃費向上と排ガス減少を狙った採用だろう。一般的な空冷式オイルクーラーは走行風で冷却するので効率は良いが、速度が一定でなければ油温変化が大きい。
エンジン右カバーを外し、クランク横に直結のオルターネーター (発電器) を分解中。400W / 14A と充分なスペックだ。いまどきのエンジンなら、エンジン幅を詰めるためにギアやチェーンを介してクランクケース背面に移動させることが多いが、ギアノイズの発生を嫌ったレイアウトだろうか。
エンジン最前部のスターターモーターからギアで減速され、クランクシャフトを回すしくみ。スターターワンウェイクラッチはオルターネーター内部に挿入される。
ヘッドカバーを開ける。バルブは小さなロッカーアームを介してカムシャフトから駆動される。バルブ廻りは K1200 系、カムシャフト廻りは F650 系に似ている。
発売前のトレーニングには、全国正規ディーラーのマイスタークラスが参加する。あちこちから手が伸びてあっと言う間にバラバラになる。
スペシャルツールを使ってウォーターポンプのシールを抜いてみる。シールはゴムではなく、メカニカルシール採用。
シリンダーヘッドが外れた。気筒あたり4バルブ。F650 後期のようなツインスパークではない。
ロッカーアーム式 DOHC のメリットを生かした直立に近いバルブ挟み角のため、燃焼室はほぼ平面で極端に小さい。圧縮比は1:12と高い。
ピストンヘッドは凹んでいて、ここで燃焼室容量を稼いでいる。四輪の直噴エンジンのようだ。おそらく混合気の対流によって燃焼効率を高める目的だろう。
エンジン下部のオイルパンはドライサンプのオイルタンクである。オイルの偏りを防ぐバッフルプレートが装備される。この部品に限らず、エンジンカバー類は (現代のエンジンにしては) 異常にブ厚い。騒音対策も兼ねているようだが、転倒しても簡単に割れることはないだろう。クランクケースの厚さや補強リブを見ると、軽量さを犠牲にしてもエンジン単体の剛性を上げたかったことが想像できる。エンジンはフレームに直付けだし、スイングアームの支点でもあるのだ。
エンジン側を見るとクランクシャフトなどのエンジン部品が見えない。ここから上が本来のエンジンの部屋なのだ。可動部分から油面が隔離されているので、各部品の動作による内圧変化の影響を受けない。
さらに部品を外していくと、二つのピストンとコンロッドと同じ質量を持つ慣性バランサーウェイトとコンロッドが見えた。上下対向三気筒エンジンのようなもので、一時振動と二次振動を打ち消す仕組み。ギアやチェーンを使わないので低騒音でフリクションロスが少ない。同じような慣性重量バランサーを採用しているのは、ヤマハ T-MAX500 とドゥカティ SUPERMONO くらいしか記憶にない。
ウォーターポンプは吸気カムシャフトで駆動される。エンジンとラジエターを最短距離でつないでおり、ホース類は短い。
ラジエターは一般的な長方形の平面成形。F650 よりは当然大きい。容量は 1.5L である。ファンは 105℃ で作動する。115℃ まで水温が上昇すると、メーターパネルの警告灯が点く。
フロントフェンダーには、ラジエターへの冷却風誘導のための整流フィンがデザインされている。
クーラントのサブタンクは右カウル内。このスリットから量の目視点検をするのだが、はっきり言って見にくい。
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