#11 最終戦 『MFJグランプリ』 ウラ話(その2)
- 掲載日/2013年01月29日【S1000RR 全日本選手権参戦記】
- 取材協力/G-TRIBE 文・写真/淺倉 恵介
1シーズンに渡り、戸田さんと S1000RR のレース活動を追いかけてきた本コラムですが、今回をもって最終回となります。記念すべき最終回のテーマは、『MFJ 全日本ロードレース選手権』 の最終戦 MFJ グランプリ決勝レースです。豪雨に見舞われた最悪のコンディションの中、戸田さんと S1000RR かく戦えり。
最終戦は稀に見るほどの悪天候
嵐の決勝レースの結果や如何に?
予選で華麗にベストラップを更新。新型タイヤのキャラクターもしっかり把握できたということで、更なるタイムアップが期待された決勝レースですが…。
「もーサイアクだったよー」
ばっちり雨でしたもんね。しかも季節外れの大嵐。
「これで何年連続って言ったかな? ここ数年、全日本の最終戦はいつも雨なんだよ。雨は苦手ってワケじゃないんだけど、やっぱり思い切り攻めることはできないからね。レースが楽しくないんだよおぉ」
2012年10月28日、MFJ 全日本ロードレース選手権の最終戦 MFJ グランプリ決勝日は雨。しかもかなりのヘビーレインで、レースを行うには最悪のコンディションになってしまいました。実際に、最も雨足が強かった時間帯にぶつかってしまった GP-3 クラスは、あまりの悪天候のためにレース自体がキャンセルになってしまうほどでした。そんな状況下でも、オーガナイザーがレース開催を宣言したのなら、走るのがプロフェッショナルのレーシングライダーです。戸田さんも、その1人。豪雨の中、決勝レース1に臨んだのです…。
しかし、ホントにスゴい雨でしたよね。レースがスタートしたときは特に雨が強かったし、水煙で後ろのバイクが見えないくらいでした。
「スタート直後はダンゴ状態だから、余計にね」
あんな状態でレースするとか、全日本レベルのライダーって、やっぱりどこかフツーじゃないと思いました。
「失礼なっ! 真剣にレースに取り組んでいるから、走るんです! シリーズを通してレースを戦うのなら、ウェットのレースがあることも仕方がない。どんな状況にも対応できてこそ、全日本を戦う資格があるってことです」
改めて、プロの世界の厳しさを感じますねぇ。カッコいいです。さて、そんな豪雨の中で行われたレース1なんですが…。
「サイアクだった…。マジメに途中で走るの止めようかと思ったもん」
プロのプライドはどこに!?
「いや、レース2もあるじゃん? 無理して転倒して、レース2走れないとイヤだし」
それも戦略的判断だと?
「だってさあ、タイヤが全然グリップしないんだもん。2011年もこのレースは雨だったんだけど、フロントタイヤをミスチョイスしてサ、とにかくフロントがグリップしなかった…。で、2012年はフロントに違うタイヤを選んだら、これは当たったのね。けど、リアを外しちゃってさあ。スロットルを開けると、即バイクが横を向いちゃうの。何度、転びそうになったかわからないよ」
確かに、みるみるウチに順位を落としていましたよね。あんな精彩を欠いた戸田さんを見るのは初めてでした。周回毎に抜かれている感じで…。
「でしょ? もう、危ないからリタイアしようかって考えてたの。けどさあ、どんどん周りが転んでリタイアしていくわけサ。と、なると、生き残りさえすればポイント取れるんじゃないかと思ってね。もうほとんど半ベソかきながら走ってね。なんとか完走したってワケ」
レースが後半にさしかかると多少雨も弱まりましたし、終わってみれば16位で、スターティンググリッドからひとつ順位を上げましたもんね。これは確かに走り抜いて正解だ。
「シーズン終盤だから、1ポイントの差が重要になってくるワケ。だからこそレース2も走りたかったし、絶対に転べないと考えながら走ってたよ」
レースを “点” でなく “線” で考えると、ガマンのレースも必要だってことですね。なにせ30台が出走して、ゴールラインを通過したのが20台ですからね。3分の1が脱落したんですから、サバイバルレースもいいとこです。よくぞ完走されました! ところで、雨のレースだとマシンのセッティングを変えたりするものですか?
「それほど大きくは変えないね。タイヤの性能が上がってきたおかげで、サスセッティングに関してはドライでもウェットでも大きな変更はしないのが一般的。もちろんライダーによって程度の違いはあるけどね。自分は、このレースではプリロードを若干緩めたくらい、ダンピングは一切変更していないよ」
それは意外ですね。
「ウェットだと、絶対的なスピードが下がるでしょ? だから、ブレーキのポイントとかも、あまり変わらないんだ。もちろん、タイヤのグリップは全然違うから、乗り方はそれに合わせたものにはなるけどね。それがドライとのタイム差に出るワケです」
なるほど。で、苦しんだレース1を切り抜けてのレース2ですが?
「レース1の反省を踏まえて、リアタイヤのコンパウンドをソフトなものに換えました。けどねぇ…、レース1よりはマシって状態で、決して楽しく走れたわけではなかったね」
17番グリッドからスタートして、16位でゴールしましたね。結果だけみるとレース1と全く同じでしたけど…。
「レース2はだいぶ雨も弱くなっていたし、転倒車もあまり出なかったしね。転ばないように淡々と走ったというレースです。やっぱり、ドライで思い切り攻め込みたかったなあ…。不完全燃焼でシーズンを終えたという感じです。まあでも、これもレースなんだけどね」
とりあえずシーズン終了ですね、1年間お疲れさまでした。2012年はランキング18位で終えたわけですが、シーズンを振り返っていかがですか?
「納得いっているわけがないよね」
前年からすると、ランキングも落ちてしまいましたし。
「やっぱり、第1戦の転倒で骨折してしまったのが尾を引いたよねぇ。あれで全ての歯車が狂った。レースを休んだのは第1戦と第2戦だけなんだけど、復帰した第3戦の つくばRd. は “走り切った” ってだけだし…。8耐 も第4戦の 菅生Rd. も、リハビリ段階で思うようには走れなかった。第5戦の オートポリスRd. で、やっと自分の走りが戻ってきた実感が持てたけど、既に後半戦だったしね」
“モータースポーツ” と言うだけあって、やはり身体のコンディションは大きなファクターですよね。
「マシンの熟成も遅れたしね。2012年モデルの S1000RR は、確実にレースでの戦闘力が向上しているんだ。でも、マシンが変わったのだから、それまでに積み上げてきたデータがそのまま使えるわけじゃない。レーサーとしては、イチから造り直す必要があった。だからこそ、最初に走り込んでおきたかったのに、シーズンのアタマを怪我で棒に振ってしまった。最初のつまずきが、全ての面で影響を及ぼしたよ。最終戦の予選でタイムが出せたのは、ようやく最後にきて、いろいろな要素が噛み合いはじめたってこと。それでも最終形に辿り着いたってワケじゃない。“ココをこうすれば、これだけ速くなる” ってのが見えているだけに悔しいね」
悔いの残るシーズンとなってしまったということですね。そうなると気になるのは2013年についてなのですが…。
「まだ何も発表出来る段階ではないけれど、走る方向で動いてはいます。もちろん S1000RR でね。先シーズンは惜しい形で終わってしまったけれど、得たものも多い。その分、今シーズンが楽しみでもあるよね。バージン BMW 読者の皆さんも期待していて欲しいです。レース活動から得たノウハウは、どんどんユーザーの皆さんに還元していく予定ですし、S1000RR ユーザーの方はどんどん自分に声をかけてください」
その言葉を待っていました! 1ファンとして期待しています!
1シーズンに渡って、レーシングライダー戸田 隆さんと S1000RR のレース活動を追いかけてきた本コラムは、今回で一旦幕を閉じます。ですが、戸田さんと S1000RR のレースは、まだまだ終わりません。きっと、2013年もサーキットでその姿を見ることができるでしょう。その時が来たら、思いっきり応援しましょう! ご愛読、ありがとうございました!
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