#09 岡山国際サーキット大会ウラ話(その2)
- 掲載日/2012年11月27日【S1000RR 全日本選手権参戦記】
- 取材協力/G-TRIBE 文・写真/淺倉 恵介
今シーズン、戸田さんを悩ませ続けたクイックシフターの不調が解消し、いよいよ本調子の走りが期待出来るMFJ全日本ロードレース選手権 第8戦 『岡山国際サーキット大会』。ですが、レース前に問題発生。決勝レースもトラブルに泣かされる結果となってしまいます。
マシンの問題が解消したと思ったら
戸田さん本人にトラブルが発生
さて、クイックシフター問題も解決し、いよいよ岡山国際サーキットでのレースのお話なんですが…なんでもレースウィークに入る前に、既に事件が起こっていたとか?
「そーなんだよー、大変だったんだよー。思い出したくもないね」
それはそれは。で、何がどうしたんですか?
「体調を崩して、タイヤテストに参加出来なかったんだ」
MFJ 全日本ロードレース選手権のエントラントは、レース以外でも様々なテスト走行を行っています。基本的にレースの少し前に、実際にレースが開催されるサーキットで行われ、そのテストで練習したり、セッティングを進めたりするわけです。そのひとつがタイヤメーカー主催の合同テスト。戸田さんはブリヂストンタイヤの契約ライダーですから、原則的にタイヤテストには参加します。ですが、岡山国際サーキット Rd. に向けたテストを体調不良でキャンセルせざるを得なかっとのこと。となると、レースで使用するタイヤのセレクトや、マシンのセッティングをレースウイーク中に行わなければならないので、非常に不利なのです。
ライダーは身体が資本、健康には気をつけたいものです。ところで今回は、どんな病気にかかってしまったんですか?
「とにかく高熱が出てねえ、40度近くまで体温が上がってしまったよ」
それはお気の毒でしたねぇ。
「まだ熱だけならよかったんだけど、お腹に来ちゃってさあ。もうとにかくトイレから出られないの。生まれて初めて『トイレに飽きる』という経験をしたよ。便座に座ろうとすると、身体が拒絶反応をみせるんだ」
お腹が、ジェットコースターでしたか。
「いや、例えるならもてぎのダウンヒルストレートだな」
最高速度が 300km/h を超えたわけですね。それは一大事だ。
「モト GP クラスの体調不良だった」
意味が解りませんが、大変だったことは解ります。して、病名は?
「プール熱」
子供かっ!? アラフィフ(もうすぐ50歳ということ)なのに! しかし、なんでそんな病気に? 季節外れの水泳でもしたのですか?
「いやあ、どこでもらったのかさっぱり見当がつかない。まあ、子供に多い病気だからねえ、しっかりウチの小学生の娘にうつしてやりましたよ」
何を威張っているんですか、困ったお父さんですね。で、タイヤテストに参加出来ずにレースウィークに突入したわけですが?
「オートポリスで使ったタイヤは新しいタイヤだったんだけど、すごく感触がよかったんだよね。岡山でもそのタイヤを使いたいと考えてはいたんだけど、やっぱり事前に試してみたかったねぇ。オートポリスで良くても、岡山に合うとは限らないからさ」
あるサーキットで好結果を出したタイヤでも、全てのサーキットで同じようにパフォーマンスが発揮出来るかはわかりません。サーキットは、それぞれ路面のミューが異なりますし、コースレイアウトや気候など様々な要素が影響してくるというわけなのです。
「岡山は路面のミューが比較的低めだし、試したことのないタイヤを使うのはリスクが大きかった。だから最初は、岡山で実績のある他のタイヤで走ったの。そうしたら、すぐ自己ベストが出てさ。じゃあってことで、次は新しいタイヤを試した。そうしたらこれが問題でね。タイヤのキャラクターがあまりにも違って、とても同じセッティングじゃ走れない。新タイヤに賭けてみたい気持ちはあったんだけど、データがあまりにも足りないから予選は実績あるタイヤで走りました。まあ、実績があるといっても、その分天井も見えてたし、Q1 を通過するのは何の問題もなかったけど、Q2 を突破する力はなかったね。それが解っていたから、無理なアタックもしなかった。タイヤテストを走ることが出来ていれば、もうちょっと違う選択もできたと思うし、つくづくプール熱が恨めしい」
人間、健康が一番です。
「でも、ただでは転ばないよ。データがとれたんで、決勝に向けてファイナルの変更をした」
予選終了後にスプロケットを換えていましたよね。その目的は?
「ギア比をショートに振って、より高回転域を使うことが狙い。例えば、最終コーナー立ち上がりから第1コーナー進入までの区間。元のギア比だと、3速で最終コーナーを立ち上がって、メインストレートで4速に上げて引っぱり3速→2速と落として1コーナーに入っていく。ショート化すると、最終立ち上がりが3速なことは変わらないけれど、メインストレートでは5速まで入れられる。1コーナーまで2速まで落とすんだけど、バックトルクが効いて1次旋回も良くなったよ。これはクイックシフターが使えるようになったことも大きいね。マニュアルシフトだと5速まで入れるのは難しいと思う」
ファイナルを合わせるというのは、パワーバンドを使ってキッチリ吹けきるようにするだけでなく、コーナーへのアプローチにも関係してくるんですね。
「現在のレギュレーションでは、ミッションは6段しか持たせられないから、それを如何に有効に使うかを考える必要があるのですよ」
なるほどなるほど。で、決勝レースですが。
「予選が 14 番手でしょ、ここは微妙な位置なんだよね。1位から5位くらいまでのトップグループはほぼ固定メンツ。そこから 10 位台前半までのグループもほぼ固定のメンツで、大概同じメンバーが順位を争ってる。自分のいるところはその第2グループの後方だけど、正直なところ第2グループとはちょっと差があって届かない。かと言って、自分より後方のグループともちょっと差があるので抜かれることもあまりない。ちょっと孤立してる感じだから、タイムも伸び難い。やっぱり競り合わないと、良いタイムは出難いよね。このレースでも最初の3周くらいは、必死に前を追いかけていたんだけど、離されちゃった。そうなるとモチベーションが落ちるよね。淡々と周回を重ねてしまった感じだなあ。本当は、もっと攻め込まなきゃいけないんだけど…」
確かに単独走行していることが多かったですよね。レース序盤では食らいついていた後続車も、周回を重ねるごとに引き離してしまったし。でも、最終ラップで1台に抜かれていましたよね。随分引き離していたのに、どこかのコーナーでミスでもしましたか?
「それがさあ、またトラブルなんだよ。最終ラップの第1コーナー進入でシフトダウンしたらさ、2速に入ったところでギアチェンジが出来なくなってしまったの。どうせもうあと1周回ればゴールだしさ、そのまま2速だけで走り切ったよ。メチャクチャしんどかったし、抜かれたしで、終わり方が納得いかないレースだったね」
なんと、マシントラブルが発生していましたか、それは残念です。して、どこが壊れたのですか?
「それがねえ、情けないことにシフトロッドが折れちゃったのよ。2010年シーズンから使い続けてきたパーツだし、金属疲労が原因だね。それで最終ラップで抜かれて、結果 14 位でしょ? 菅生、オートポリス、岡山と三戦連続 14 位なんだよね。なんかもう、14 という数字に取り憑かれている気がしてきた」
なんなんでしょうね。
「でもね、この 14 位という数字が、今の実力という気もするよね。マシンの戦闘力と、乗り手である自分の技量、あとチームの力を含めたパッケージングとしてのね。でも、もっとイケる確信はある。マシンもまだまだ速くなるし、自分だってもっと速く走れる。上のグループに食らいついていけるように、頑張るよ」
と、闘志を燃やす戸田さんでありました。
次回はいよいよ最終戦、鈴鹿サーキットの MFJ グランプリの様子をお伝えします。
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