VIRGIN BMW | #08 岡山国際サーキット大会ウラ話(その1) S1000RR 全日本選手権参戦記

#08 岡山国際サーキット大会ウラ話(その1)

  • 掲載日/2012年11月22日【S1000RR 全日本選手権参戦記】
  • 取材協力/G-TRIBE  文・写真/淺倉 恵介
S1000RRレースの画像

戸田さんが S1000RR で参戦中の、国内ロードレースの最高峰 MFJ 全日本ロードレース選手権は、先日最終戦を迎えましたが、このコラムはまだまだ続きます。今回と次回は、最終戦ひとつ前の『岡山国際サーキットRd.』の様子をお伝えします。

2戦連続シフトミスでチャンスを失った戸田さん
そこには意外なほど深刻な理由があった

前々回をロコツな引きで締めくくり、読者の皆さんから非難轟々のこのコラムですが、いよいよ今回『オートポリス Rd. 』でタイムを落とす原因となったシフトミスの理由を戸田さん自ら明かすわけです。で、その理由なんですが?

「世の中には秘密のままにしておいた方が、皆が幸せであることもあるんだ…」

いや、そういうのいいですから。サッサと教えてくださいよ。

「本当に知りたいのか? 命が惜しくないのか? 好奇心は猫を殺すぞ」

いいから早く教えてください(めんどくせぇ…)!

「仕方ない、語ろう。だが、命の保証はしないぞ? …実はさぁ、今シーズンのレースはずーっとクイックシフターを使ってなかったの。正確に言うと、使えなかった」

クイックシフターと言うと、スロットルやクラッチの操作が不要でシフトペダルだけでシフトアップができる装置ですね。現代のレースでは使用するのが当たり前ですし、S1000RR には元々備わっている機能ですけれど…。

「だから、使いたくても使えなかったのヨ。開幕戦のツインリンクもてぎ Rd. でクラッシュして、つくば Rd. で復帰したでしょ? 実は、もてぎで使えていたクイックシフターがつくばでは機能しなくなっちゃって…そのままオートポリス Rd. までクイックシフターなしで走ってたんだ。自分はシフト操作には自信がある方なんだけどね、さすがに全日本は余裕を持って走れるレースじゃないから、マニュアルシフトではミスもするってことです」

でもそれって、そんなに大きな問題なんですか? ほとんどの街乗りバイクには無い機能ですし、だからと言って皆そんなに困っているとも思えません。

「考えてもみてよ、クイックシフターはスロットルを全開にしたままシフトアップ出来るのがメリットなワケ。つまり、加速時のロスが少ない。逆にいうとマニュアルシフトはロスが大きい。そりゃあ、わずかな差だよ。ゼロコンマ何秒の世界。けれど、積み重なるとバカにならないんだ。仮に、1回のシフトアップで 0.1 秒遅れるとするでしょ? サーキットを1周する間に5回シフトアップするとすれば、それだけで 0.5 秒も差がついちゃうワケ。ラップタイムで 0.5 秒違うというのは、レースの世界では致命的な差なんだよね。コースにもよるけど、実際には1周あたり5回しかシフトアップしないサーキットなんてない。シフトアップ1回あたり、どれだけのタイム差が出るか測ったわけじゃないけど、クイックシフターが使えないと体感的に 0.5 秒遅いというのはイイ線ついてると思うよ。しかも、ミスとか関係なく周回ごとに必ず背負うハンデだから、これは大きいよね」

100 分の1秒を争うのがレースの世界というのは、比喩ではなく真実ということですね。しかし、壊れたものは直せばよかったじゃないですか?

「それが直らなかったから困ってたんだよっ! 大変だったんだぞ? クイックシフターのセンサーは2回も3回も交換したし、当然 ECU やハーネスも交換してみた。しまいにはエンジン載せ換えまでやってみたんだ。けれど直らなかったんだよねえ…まあ、もう原因が解ったから、岡山国際サーキットでは久々にクイックシフターを使って走れたけどね。いやあ、快適だった」

S1000RRレースの画像

オートポリスで力走する戸田さん。快調に走っているようにみえますが、実はクイックシフターが使用出来ないというトラブルを抱えていたのです。

それはなによりですけど、原因はなんだったんですか?

「それがねえ…クラッチスイッチの動作不良だったんだ…」

クラッチスイッチって、あのクラッチレバーの根元についてるアレですか?

「そうアレ」

なんでまた?

「開幕戦のもてぎで公式練習中にクラッシュした時、速度の出ているコーナーでヤっちゃったもんだから、けっこう激しく壊れたんだよね。その時にクラッチレバー周りも全部フッ飛んでしまったの。それで、修復したんだけど、手持ちのパーツとか、いろいろなもの組み合わせたのがいけなかった。そのせいで、高速域で振動が大きくなったりすると、クラッチスイッチが誤作動を起こしてたの。ECU はクラッチが切れた状態だと判断してしまっていて、クイックシフターを動作させなかったんだ。低速域だと正常に作動するものだから、トラブル箇所の特定がし難くてねえ…」

はあ、なるほど…。S1000RR のメリットである進んだ電子制御がアダになったということですか。

「S1000RR の2010年モデル、それもごく初期型の場合はクラッチスイッチを取り外してもクイックシフターは作動するんだ。けれど、2010年モデルの後期の生産車からはクラッチスイッチを機能させておかないとクイックシフターは動作しない。自分は2010年から S1000RR でレースをしているけど、2010年と2011年のシーズンは、基本的に2010年の初期に生産された車両を使っていたんだよね。S1000RR は2012年にモデルチェンジしているけど、それ以前のモデルとも互換性を持っているパーツがかなりある。今年は当然2012年モデルを使っているのだけれど、2010年モデルのパーツも結構ストックがあったんで、クラッシュしたマシンを修復する時に、使えるパーツを年式に関係なく組み合わせた部分もあってね。余計、原因の解明を難しくしていたみたい」

大変でしたねえ。でも、そんなに苦しんでいるなら早く打ち明けてくれれば…

「前にも言ったけど、S1000RR ユーザーへの技術的なフィードバックを目標にしてレースに出ているから、きちんと原因が判明するまでは公表すべきじゃないと考えたんだ。苦しんだ分、マシンへの理解は深まったし、良しとしようかと考えているよ」

おお、殊勝だ! で、ホンネは?

「失ったレースのことを考えると、悔しくて夜も眠れないっ!」

人間らしい、素直な感情表現がステキです。

「夜寝られないので、レース中に居眠りしてしまいました」

危ないじゃないですかっ!

「もちろんウソです」

当たり前ですってばっ!

次回は、岡山国際サーキット Rd. についてですが?

「これがまた、波瀾万丈なんだよなー」

乞うご期待ですね…。

S1000RRレースの画像
問題のクイックシフターの主要パーツであるセンサー。圧力センサーの一種でシフトロッドの中間に取付けられており、シフトチェンジ時にロッドにかかる圧力を検知してECUへ情報を送ります。クイックシフターのトラブルで一番に疑われる部分ですが、戸田さんのS1000RRで起きた現象に関しては、原因は他にあったということです。
S1000RRレースの画像
クイックシフター動作不良の原因を究明するため、エンジンの載せ換え作業を行っているところ。手前の台車に積まれているのは、以前レースで使用していた2010年モデルのエンジンです。実はこの時点で、原因がエンジンに無いことの予想はついていたとのこと。ですが、トラブルの原因を正確に確定させるため、あえてエンジン載せ換えを行ったそうです。この写真、オートポリスへと向かう前日の夜に撮られたもの。Gトライブの会澤メカニックは、ほぼ徹夜でエンジンの載せ換え作業を行い、そのまま九州へと向かったのです。
S1000RRレースの画像
戸田さんも使用しているHPパーツのS1000RR用クラッチレバー。剛性が高く、握ったフィーリングも素晴らしい逸品。形状は2010~2011年モデル用と、2012年モデル用は基本的に共通。だが、2012年モデルに装着する場合はクラッチスイッチを確実に作動させるための別パーツが必要なので、使用する場合は必ず併せて装着すること。
国際ライダー
戸田 隆
バイクのサスペンションとシャシーの専門ショップ 『Gトライブ』 代表。セッティング能力とマシンの分析能力には定評があり、ジャーナリストとしても活躍中。BMW でのレース経験は豊富で、鈴鹿8耐では R1100S や K1200R で、もて耐では K1200R や HP2 Sport で参戦(HP2 Sport では優勝も果たしている)。2010年からは国内レースの最高峰 『MFJ全日本ロードレース選手権』 の最速クラス 『JSB1000』 に S1000RR を駆って参戦中。 戸田さんのブログ も要チェック。
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