VIRGIN BMW | 滝本 幸一(Motorrad SHONAN Craft 専務取締役) インタビュー

滝本 幸一(Motorrad SHONAN Craft 専務取締役)

  • 掲載日/2006年08月10日【インタビュー】
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単気筒、2気筒バイクのチューニングと相通ずる
滝本氏のBMWに対するスタンス

今回紹介するのは神奈川県大和市の「クラフト(現Motorrad SHONAN Craft)」取締役、滝本 幸一氏。最近では『ボクサートロフィー』や『もてぎ7時間耐久ロードレース』といった、BMWが活躍するほとんどのアマチュアレースに参加しており、スポーツするBMWの“伝道師”的な存在だ。しかし、クラフトがBMW正規ディーラーになってからは、意外にもまだ4年なのだという。それまではヤマハ系ショップとして、単気筒、2気筒エンジンのバイクのカスタム、チューニングに取り組んでいた。今の滝本氏の活動は、このヤマハ系ショップ時代に培われた技術と反骨精神、チャレンジ精神に裏付けられている。そんな滝本氏の、BMWへの関わり方を紹介しよう。

ツーリングでたまたま行ったサーキット
そこで見た景色が僕の人生を変えました

ー「クラフト」といえばBMWディーラーになる前から、単気筒、2気筒バイクのチューニングやカスタムで有名なお店というイメージがありますが、いつ頃からそういったことを手がけ始めたのでしょうか。

滝本●BMWディーラーを4年前に始めるまで、ずっとヤマハの専売店をやっていました。当初は本当に“街のバイク屋さん”という感じでしたね。はじめは私自身、まったくサーキットやカスタムといったことには関心がなかったんです。でも、1989年の冬に、アマチュアレースのパドックで見た風景に衝撃を受けてしまいまして、それが転機になりました。

真冬の1月にお店のツーリングを企画したのですが、なかなか走れるところがなくてね。お客さんを連れて筑波サーキットに「バトル・オブ・ザ・ツイン」という単気筒、2気筒のバイクのアマチュアレースを見に行ったんです。その当時はこのレースがとても盛り上がっていた頃で、パドックは混雑していてね。我々は金網の外から遠巻きにパドックの様子を見るんです。レースをする、バイクをいじる、カスタムをするといった面白さのすべては、その金網越しの風景がきっかけでした。

ー滝本さんに衝撃を与えたパドックの様子というのは?

滝本●自分達が乗っているのと同じようなバイクを、自分達と同じようなライダーが手を汚しながら整備していて。決して格好いいとは言えない風景かもしれませんが、僕にはすごく輝いていて楽しそうに見えたんです。奥さんや子ども、友達が周りにいて、ワイワイガヤガヤと賑やかな中でのその作業がとてもうらやましく思えたんです。それまで、そんな世界を知らなかっただけに、とてつもなく楽しそうに見えてね。「俺も金網の向こう側にいたい!」と思っちゃったんです。「レースをしたい」というよりも「金網の向こうで、一緒に遊びたい」という感じ。これがチューニングやカスタム、レース活動の始まりでした。

ーそれ以降、単気筒、2気筒バイクを中心にチューニングやカスタムに力を入れていた滝本さんが、なぜBMWに関心を持たれたのでしょうか?

滝本●その後、十数年にわたって単気筒のカスタムやチューニングを手がけました。エンジンを作っては壊し、走っては壊しして、“止まらない、曲がらない”単気筒を、いかに“止まる、曲がる”バイクにするかを追求してきたわけです。その結果、SRではレースに年間7戦出て6勝するくらいの結果を残し、最終的にレースに出たら「パワーが出すぎてエンジンが壊れるか、優勝するか」というところまで行くことができました。また、当時非力だったTRXで筑波サーキットを1分2秒で走れるまでに仕上ることができました。そうなると「何か新しいバイクでチャレンジしたい」と思うようになって、僕を楽しませてくれる素材を探していました。そのときに、同じアマチュアレースを走るBMWライダーと酒を飲む機会があって「BMWで走るのは面白いよ」と勧められました。これがきっかけですね。

ー滝本さんの、それまでのBMWに対するイメージというのは?

滝本●実はそれまでも『OHVボクサー』や『K75』といったBMWには乗ったことはありました。でも、自分のフィーリングとはちょっと違っていたんです。「水平対向」とか「シャフトドライブ」というものが、自分と合わなかったのかな。「BMWはもうちょっと年をとってから乗るもの」というイメージを持っていたんですよ(笑)。そこに『R1100S』が登場してきたわけです。R1100Sを実際に買って乗ってみたところ、驚きましたね。今までのボクサーツインに対するイメージが180度変わりました。

ーどんな風にイメージが変わったのでしょう。

滝本●それまでは“止まらない、曲がらない”バイクを“よく止まり、曲がる”ようにして走る楽しみを追求してきました。それがR1100Sは“ノーマルのままで、よく曲がり、よく止まり、よく走る”。それまでのBMWに対するイメージと大きく違っていました。R1100Sに乗って「これは面白い。乗っていて楽しい」と、走って楽しいBMWの面白さに目覚めちゃったんです。「R1100Sをベースに遊んでみよう」と考えはじめ、とりあえず「ボクサートロフィー」というBMWのワンメイクレースに出始めたんです。

ーそこから滝本さんのBMWとの付き合いが始まったわけですね。

滝本●街中やワインディングでは「R1100Sって速ぇ!」と驚きの連続でしたね。よく曲がり、よく止まるのにポジションは楽で疲れない。「これはポテンシャルが高いな」とサーキットで走らせたら、たいへんな深みにハマってしまいました(笑)。初めてのうちは公道と同じ感覚で走れましたが、だんだん慣れてタイムが上がってくると、R1100Sの難しいキャラクターが見えはじめました。そうなると、メカニック根性で、何とかして自分のものにしたくなるわけです。単気筒のバイクでやっていたときのように、バイクに向き合う闘志が湧いてきましたね。

ーR1100Sを自分のものにするうえで、苦労なさったのはどんなところですか?

滝本●BMWを本格的にいじっていこうとすると、それまでのバイクのようにキャブレターを変えて…といったようにはいきません。何をいじるにしても専用のコンピューターシステムが必要になってきます。それがないとまったく前に進みません。98年にR1100Sを手に入れて、3年くらいはいろいろ試行錯誤しましたが、結局その壁に突き当たりました。「BMWのディーラーになればBMW専用の設備を手に入れて、もっといろいろなことに取り組むことができるな」と考えて、2003年にクラフトはBMWの正規ディーラーになりました。

ー最近ではボクサートロフィーだけでなく、今年のもて耐(もてぎオープン7時間耐久ロードレース)にK1200Sでチャレンジされていますよね。

滝本●今年の鈴鹿8耐(鈴鹿8時間耐久ロードレース)に「Tras&PIAA Racing」から『K1200R』が参戦しましたが、ウチは「もて耐」に『K1200S』でチャレンジしました。いざ参戦してみると「樹脂製の燃料タンクがレギュレーションに引っかかる」と指摘を受けて、アルミでオリジナルのタンクを作ることになって。これは、とても苦労しましたね。

結局、準備段階の練習走行でマシンを大破させてしまい、本番に臨むことはかないませんでしたが、もし決勝に出ていたら、国産車に引けを取らないスピードで走れたと思っていますよ。サーキットでも走れるポテンシャルを持つ一方で、そんなバイクでいざツーリングに出かけると、とても楽しく快適に安全な時間を与えてくれる。BMWはそういうバランスの取れたバイクなんだ、ということを本番で多くの人に伝えられなかったのは残念です。ただ、実際にこういったチャレンジをしていると、性能に劣る単気筒、2気筒バイクを一生懸命チューニングした昔を思い出してワクワクしちゃいますね。

少しでいいから自分のバイクを触ってほしい
そうやって積極的にバイクに関って欲しいんです

ーレース活動と平行して、ツーリングにも力をいれていらっしゃいますね。「早朝練習」というのを毎月やっていらっしゃるとか。

滝本●“練習”じゃなく“ツーリング”です。お店のイベントがない日曜日の朝6時に、西湘バイパスに集合して箱根に走りに行っています。1人では朝4時に起きて5時出発など、なかなか難しいものですよね。でも、人と約束しちゃったら、誰かが待っていると思ったら、眠い目こすりながらでも出てきてくれるだろう、そうと思って始めました。早朝に箱根というとどうしても“走り屋”的なイメージがありますが、決してそんなことはないんです(笑)。

BMWはバイクの出来がいいので、国産車に比べると乗り手がそれほど苦労しなくてもワインディングを走れてしまいます。そうすると乗り手はラインディングにあまり関心が向かなくなっちゃうんですね。そうなると「どんなライン取りで、どう曲がり、どう停まればいいのか」ということがなかなか理解できません。そういう人たちに向けて、バイクの持っている安全性をより引き出せるようなアドバイスをしながらツーリングを楽しむ。バイクの面白さを理解し、もっと楽しめるようにと思って早朝から走っています。

ーBMWディーラーとしては珍しいですが、オイル交換を自分でやるように勧めていらっしゃるとか…。それも「自分のバイクを理解する」一環なのでしょうか。

滝本●バイクって所詮は“おもちゃ”です。自分の遊び道具なんですから「少しだけ自分で手入れしてみませんか?」というチャンスを用意させて頂いているだけですよ。自分でオイル交換をしたり、タイヤに空気を入れたりなどは自分でもできますし。その方が、バイクのことを知って愛着も湧きますからね。僕はそういう方を、できるだけサポートしたいと思っているんです。単気筒、2気筒バイクを扱っていた頃、工場にお客さんを集めて、オイル交換やエアクリーナーエレメントの清掃、バルブの交換といったメンテナンススクールをやっていました。それをBMWでもできたらいいなぁ、と思っているんです。もちろん、メンテは“お任せ”という人はウチで責任もってやらせていただきますよ。

ーでも、自分でやってみたいと思っても不安はあるでしょう。

滝本●はじめてのオイル交換のときにオイル交換手順はお教えしますし、自分でやると言ってもお店に来て、僕たちのすぐ近くで作業をしていただきますから、何かあっても安心です。ウチには自分でオイル交換できる専用のピットがあって「オイル会員」はこのピットを自由に利用することができるんですよ。オイル会員といっても、ウチでオイル買ってくれた人全員が対象なんですけれどね(笑)。ピットにはオイル交換に必要な工具などを揃えています。オイル交換を行って、廃油を捨て、最後に手を洗うまでの一連の作業がすべてできるピットです。

ーとはいえ、どうしても今のBMWって素人には触れないイメージがあるのですが。

滝本●基本的にはどんなバイクだって同じバイクですから大丈夫ですよ。ヤマハでもハーレーでもドカでもBMWでも、同じようにヒザが擦れる乗り物です。BMWはヘッドを擦ってしまいますけどね(笑)。それにBMWの取扱説明書にはメンテナンスマニュアルが付いてきます。バルブ交換からオイル交換、タイヤ交換まで全部書いてあります。というのも、ドイツやイギリスでは、こういった整備のほとんどを自分でするからなんですよ。日本ではなぜか特別なバイクというイメージがあります。確かにディーラーでなければ直せないというところもありますが、どうもオーナーの皆さんが特別なバイクにしすぎちゃっている傾向がある気がします。そんなことはありませんよ。

ー実際の手で少しでも触ると、バイクへの愛情が増しますものね。

滝本●私がいつも考えているのは「バイクでいかに遊び、楽しむのか」ということ。バイクはオモチャで、オモチャは遊んでナンボのもの。楽しく遊べなくては意味がないわけです。楽しみ方は人それぞれで、日常のメンテナンスやカスタム、サーキット走行でもツーリングでもキャンプでもなんでもいいんです。確かにBMWは高級品であり、所有する歓びを与えてくれる車両です。でも、BMWをあまり特殊なものと祭り上げて腫れ物に触るように扱っていては、十二分に楽しめませんから、自分から積極的にバイクに接して行って欲しいですね。

Motorrad SHONAN Craft

  • 住所/神奈川県大和市下和田953
  • 電話/046-269-1377
  • 営業/10:00~19:00
  • 休日/火曜日
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プロフィール
滝本 幸一
ボクサートロフィー参戦など、BMWでサーキット走行を楽しむMotorrad SHONAN Craft(神奈川県大和市)の店長。BMWといえばツーリング、という従来のイメージを塗り替えるため、ひたすらBMWでスポーツすることに情熱を傾けている。

Interviewer Column

クラフトといえばシングルのカスタムでは有名で、十数年前からお店の名前だけは知っていた。それが数年前にBMWディーラーになったと聞いて、正直なところ意外な印象を受けたことを覚えている。単気筒、2気筒バイクのチューニングとBMWディーラー。そのつながりは、今回、滝本氏に直接お話を伺ってようやくなぞが解けたような気がした。人がやっていないことにチャレンジしようとする滝本氏のスタンス。いつかはBMWもレースシーンで国産車と肩を並べて戦ってほしいと願っているだけに、滝本氏の次の一手がとても楽しみだ。(八百山ゆーすけ)。

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