VIRGIN BMW | 八木原 昇(モトパーク 前社長) インタビュー

八木原 昇(モトパーク 前社長)

  • 掲載日/2006年05月30日【インタビュー】
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オートバイ乗りが「俺は歳だから…」と言ってもね
実際は年齢なんて気にしてないものなんです

各地のサーキットで開催されているBMWボクサーエンジン搭載車を対象にしたワンメイクレース「ボクサートロフィー」。このイベントのスタート当初からほとんどのレースに参加しているのが、群馬県のBMW正規ディーラー「Moto Park」前社長の八木原 昇氏。ボクサートロフィーだけでなく、毎年7月に「ツインリンクもてぎ」で開催される、日本最大級の耐久草レース「もて耐」にも毎年参戦している、まさに走る社長だ。革ツナギに身を包み、若いライダーに混じって熱い走りを見せる八木原氏の姿からは、決して66歳という年齢を感じさせない。そこで今回はそんな八木原氏の、還暦を過ぎてもなおBMWでサーキットを走りつづける想いについて、伺ってみた。

BMWでサーキットを走ることは
感覚的には一般公道の延長線上でした

ー八木原さんがBMWでレースを始められたのは何歳のときだったんですか?

八木原●54歳のときで、もう12年前になりますか。ちょうど『R1100RS』が出たばかりの頃でしたね。「BMWのスポーツ性の高さをアピールするため、ワンメイクレースをやる」とお誘いが来たのですが、最初は「走り出すと夢中になっちゃうからダメだよ」って断っていたんですよ。でも、人数集まらないから、というので始めました。案の定と言いますか、参加して走り出すと、やはり面白いもので。だんだんハマっちゃって今に至りました。

ーそれまでレースをやったことがない人がチャレンジするのは、かなりハードルが高かったのではないですか?

八木原●走ること自体は好きでしたから苦にはなりませんでしたね。当時、筑波サーキットで月曜日にファミリー走行があって、モトパークは月曜日が休みでしたから練習に行く機会はありました。レースに出る前に、何度も練習に行きましたよ。「レースのときはちゃんと走れるのか。おっかないなぁ」って不安でしたから(笑)。練習に行っていたおかげで、本番では何とか走れましたね。

ー初めて出たレースはいかがでしたか?

八木原●直線ではスピードがそんなに出ないせいか、わりとスムーズに走れましたね。走る前は「自分の年齢や体格では、この重さのバイク、この馬力だと結構大変だろうな」と思っていました。でも、走り出してみると、切り返しなんかも別に難しくない。もちろん、レースの順位はよくありませんでしたが、スムーズに走れたことに満足できました。スピードも出さずに走ったので、感覚的には公道を走るのとあまり違いませんでしたね。もちろん、緊張感は高かったですけれど。

ー54歳からレースを始めるということで、周りの方々の反応はいかがでしたか?

八木原●一緒にレースに出たお客さんは、それまでに一緒に走っていたツーリングの延長線上的な感覚だったようです。もちろん私の場合は、歳が歳だから。僕の女房なんかは「コケないでよ。怪我しないでよ」といつも言っていましたね。でも、やめてくれというのはありませんでしたね。「本人がやりたいんだから、しょうがないよね」と諦めていたんでしょうか(笑)。

ー同じ“道”でも、公道とサーキットを走ることは違いませんか?

八木原●一般道は危険がたくさんありますから、まさか飛ばすわけにはいきませんよね。でもサーキットだと歩行者も対向車もいないので、全開に近いところで走ることができる。サーキットの場合は「うまい・ヘタ、遅い速い」の差はありますけれど、自分の限界に近いところで走ることができますね。どんなときでも自分の限界にチャレンジするのは面白いものですよ。

ーサーキットを走ることの楽しさは、そういうところにあるんですね。

八木原●「走る度にいつも新鮮な気分になれる」楽しさもありますね。たとえば、最初の頃は練習する時間があったので、どんどんタイムが縮んでくる。ある程度タイムが縮んでくる。そこそこ走れるようになると、本当はそれを維持するために練習しないといけないんだけれど、練習する時間がないからタイムが出なくなる。同じコースを走っても、走る度に感じることは違うものなんです。それも、また楽しい。まぁ、一度走り出すと、走ることに夢中になりますから余計なことは考えませんけどね。

ー八木原さんは’98年型のR1100Sでサーキットを走っておられますが、BMWだからこそサーキットでも安全、といったようなことはありますか?

八木原●ブレーキをかけたとき、車両姿勢の変化が非常に少ないですし、他のスーパースポーツのように、特別な技術がなければ走れないということがありません。“その人の運動神経で走れる”のがBMWなんですね。もちろん、エキスパートクラスなんかを走っている人はそれ以上の走りをしているんでしょうけれど…。僕らのような一般レベルだと、ツーリングしていようがサーキットを走っていようが、普通の人の運動神経で乗りこなせるような作りになっているんですよ、BMWというバイクは。普通、レースというと特別なバイクが用意され、特別な人が乗るものですが、BMWの場合そうじゃないんです。普通の人が乗って走れちゃう。

ー“普通の人の運動神経で走れる”バイクというのをもう少し具体的に教えていただけますか?

八木原●例えば国産スーパースポーツだったら「全開にしたら、こんなにすごいんだよ」という作り方をしているんです。 そういうバイクだと、街乗りまでは普通の人でも難なく走れてしまうかもしれない。でも、街乗りを超えた領域になるとバイクが乗り手に技術を要求してくるわけですよ。そうすると、せっかく高性能なバイクであっても、普通の人が乗ると乗りこなせなくてタダのバイクになってしまうわけです。それに対してBMWというのは、そのオートバイが持っているポテンシャル全部を普通の人が使えるんですよ。そういう作り方をしているので、誰でも快適に走れちゃうんです。

「まだ俺、走りたいよね、まだ走れるよね」
サーキットを走ることは自分自身に対する挑戦

ー12年間レースをやっていて、危険な思いをしたことはありますか?

八木原●うーん、あまりありませんね。大きい怪我だと「ツインリンクもてぎ」で練習のときにコケて怪我したことでしょうか。左足の甲を亀裂骨折してしまいました。ちょうどレース本番の1か月前だったので、コレはきつかったですよね。医者に行って調べてみたら亀裂骨折だと言われて、どうしても1か月後に走りたいというと、もうその日から松葉杖。医者からはレースの週まで足を地面に着いちゃダメって言われてね。レースの週になって初めて足を少しずつ着くことができました。そんな状態でも、やっぱり走りたくてね。なんとか出走しましたよ。

ー転んだときにレースを走ることをやめる、といったことは考えませんでしたか?

八木原●考えたことはありませんね。いつまでも走りたい、やめたくない、という気持ちしかありません。人間って無意識のうちに何かを目指している、何かに挑戦しているものだと思うんです。プロのレースライダーであれば記録のようにね。僕のレースはそうじゃなくて、相手に対してではなく自分に対する挑戦をしているんです。それをやめたくない、走り続けたい。若い人やある程度高いレベルの人たちというのは、タイムとか自分の順位といったものに常に挑戦しています。だけども僕はそうじゃなくて。そういうところに行けない歳だし、行けっこないから(笑)、いつも走っているときは「まだ俺、走りたいよね、まだ走れるよね」と自問自答しているんです。だから、怪我をしても「ここで終わりたくない」と思ってしまうんでしょう。

ーサーキットを走ることは「走り続けることへの挑戦」なんですね。

八木原●僕の場合、54歳でスタートしたでしょ。当面、目標として60歳まで走りたいよね、というのがあったんです。でも、あっさり60歳まで来ちゃった。次は65歳まで走りたいよね、65歳の「もて耐」まで走りたいというのが目標でした。そして去年、65歳のもて耐を走って目標を達成してしまった。そこで精神的な面ではモチベーションが一度切れてしまったので、最近のレースはうまく走れていないんですよ。

ーでは、八木原さんの挑戦はこのまま終わってしまうのでしょうか?

八木原●なかなか時間が取れなくて練習もせずにレースに出ていたから、レースそのものに思い切りチャレンジができていないのかもしれません。だから、ここでもう一度、じっくり準備をして自分のペースで走りたいな、と考えています。実はここに来てようやく走る機会が増えてきそうなんです。今年も「もて耐」に出るので、事前の公開練習でも走れますから。それに、明日いっぱいで社長を辞めるので、練習の時間も余裕を持って取れそうなんですよ。練習もせずにぶっつけ本番で走るのは危険ですから、次からはもっと安全に走れるようになるでしょうね。

※取材は2006年5月30日に行った。八木原氏は5月31日をもって株式会社モトパークの社長を引退された。
ーえ、社長をお辞めになるんですか! それも明日に!

八木原●前から65歳で辞めるって言っていたんです。もう長年お店をやってきて、僕の能力は使い切っている気がするんです。惰性で仕事をやっても意味がありませんし、だったら若い人たちに任せたほうがいいだろうと。そういう想いがあったので「65歳で辞めるよ」と言っていたんです。で、来週に66歳になってしまうので、明日で社長を辞めて少し遊ぼうかと。体力も何もなくなってから遊ぶ時間もらったって、遊びようがありませんからね。体力が残っているうちに役職を離れることにしました。人生は一度しかありませんしね。

ー今後は社長ではないということですが、お店ではどういうお立場に?

八木原●名刺上は「ツーリングアドバイザー」と「セールスアシスタント」、そういう肩書きになります。普通だと顧問だとか会長だとかになっちゃうじゃない。そうすると、また仕事に縛られちゃう(笑)。いままでは、会社の中のことを一生懸命やってきたわけですが、今後は外のこと、お客さんをもっと大切にしようと。せっかく買ってくれたお客さんがBMWを楽しんでないのでは申し訳ないし。その人たちの遊び相手になりたいんですよ。

ー八木原さんのように、60歳を越えてもバイクを楽しむためにはどうすればいいのでしょうか。

八木原●一番いけないのは派手な転倒なんかすることですね。がんばって「ここ一発!」と無茶するような、自分の技量や練習量を無視して走ってしまうと、大きな転倒につながる可能性が高いですね。転倒して、運悪く大きな怪我をしてしまうと、サーキットどころか、バイクを楽しむことが終わってしまうことだってあります。ですから、やはり、怪我をしないということが歳を取ってもバイクに乗っていられる最大のポイントでしょう。大きなヘマをやらない限り、66歳でも70歳でもバイクを楽しめますよ。今、35歳の人だったら…まだ30年以上も楽しめる、30年以上もサーキット生活できるわけです。無理をして速く走るのではなく、遅く走ってもいいから長い間バイクで走っていたい。公道でもサーキットでもこの考えは変わりませんね。

ー歳のことばかり聞いてすいません。でも、ボクも八木原さんのような60代になりたいものです。

八木原●オートバイ乗りが「俺はもう歳だから…」と言っても、実際は年齢のことなんて絶対に気にしてないはずですよ。つい口にするけれども、誰も年齢のことなんてそれほど意識していないはず。「歳だから遅くていい」とか「若いんだからもっと前に行かなくちゃ」なんてね。きっと、バイク乗りはみんな「自分なりのフルスロットル」で攻めているんだと思います。体力的に昔のように走れなくはなりますけれど、気持ちは若い頃と何も変わらずバイクを走らせているはず。それが楽しくて堪らない、バイクの楽しさってそういうところにあるのでしょうね。

株式会社モトパーク Moto Park

  • 住所/群馬県邑楽郡大泉町坂田275
  • 電話/0276-63-6421
  • 営業/9:00~19:30
  • 休日/月曜日、第3日曜日
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プロフィール
八木原 昇
66歳。株式会社モトパーク前社長。高校卒業後、電機メーカーを経て20歳で本田技研に入社。25歳で本田技研を辞めホンダの二輪車販売店「太田ホンダ」を開業。89年からBMWディーラー「Moto Park」を始める。現在は引退し、よきお客さんの遊び相手という存在でお店を支える。

Interviewer Column

これまで八木原氏とは、サーキットでしかお会いしたことがなかった。そのためか、いつもレーシングスピードでコースを疾走している激しいオジサンというイメージが強かったのだが、実際にこうして話を伺っていると、とても温厚で優しい人柄でちょっと安心?した。とはいえ、そこには、BMWに対するひとかたならぬこだわり、BMWで走り続ける熱い思いというのが、ひしひしと伝わってきた。BMWモーターサイクルといえば紳士的なオートバイというイメージがあるが、紳士は静かなだけではなくその中には熱い血が流れているのである(八百山ゆーすけ)。

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