福田 晴次(福田モーター商会 代表取締役)
- 掲載日/2006年05月02日【インタビュー】
「老舗」であることに奢らず
それを生かして常に前進していきたい
昭和20年に東京都は有楽町の毎日新聞社裏の倉庫で創業されたという「福田モーター商会」。輸入バイクに乗る、また興味のある人にとってはお馴染みの老舗ディーラーも最初は地味で質素な店構えだった。まだそれほど多くの二輪車が走っていなかった創業当時は、毎日新聞社の車両の整備業務を行っていたという。車両販売や整備に真摯に努めた姿勢が評判になり、メグロの東京総代理店やノートン、ロイヤルエンフィールド、T.W.N.(ジャーマン・トライアンフ)などの外車を扱うまでに成長、現在の老舗ディーラーとしての地位を固めることができた。しかし、今回、話をうかがった現・社長の福田晴次氏が入社した当時は福田モーター商会が外車を扱わなくなってしばらくたっていた時期だったという。福田氏の入社がなければ、現在、福田モーター商会がBMWを取り扱うことはきっとなかっただろう。福田氏の輸入バイクにかける情熱、BMWにかける情熱をお聞きすることで、BMWの魅力を解き明かしてみた。
1年で362日働く
地道な日々の積み重ねで信頼を築きました
福田●最初は『ヤナセ』に就職し、航空測量用の飛行機を販売する部署に勤務していました。今のヤナセはベンツのイメージが強いですけれど、昔はいろいろなことをやっていましてね。私は自分で操縦ライセンスを取得したくらい飛行機が好きで、バイクより接する時間が多かったときもあったほどです(笑)。ご存じのように実家は輸入バイクのディーラーでしたけれど、ウチの親父(先代社長)はバイクでケガする人を見てきたせいか、私にバイクを勧めずいつも「乗るな」と言っていました。ですから、バイクの免許は持っていましたが、若い頃はほとんど乗っていませんでしたね。
福田●私がヤナセに入社してしばらく経つと、測量機のビジネスから手を引くことが決まりまして。そんなことがあって、親父の意向で親戚でもある村山モータースに就職しました。「ふたつの会社をひとつにできないか」という親父の命を受けての就職でしたが、結果は夢として終わり、家業を継ぐことを決めました。ただ、私が福田モーター商会に入った昭和51年はウチが外車を扱わなくなってしばらく経った頃で、親父は「外車は村山、ウチは国産」と決めていたようでした。けれど、私は「外車の販売を再開したい」と思っていたんです。予想通り親父に即答で反対されましたが、私は非常に残念に感じていましたね。サービス工場には外車の整備に長けたメカニックがいて、販売のノウハウもある。若く血気盛んな頃でしたから「なぜ自分たちの強みを生かせないのか?」という気持ちでいっぱいで。それで、思いきってディーラーの資格や権利を取り直し、再びBMWを始めとする輸入バイクを扱いはじめることにしたんです。
福田●お客さんは「またやるんだね」という感じで快く受け入れてくださりましたけれど、社内からは反感を買ったようでした。確かに、営業からメカニックまで、みなさんベテランの方ばかりでしたから、私は生意気な若造に見えたのでしょう。「途中から入ってきたヤツが何言っているんだ」と。ですから、ベテランの方から信頼してもらうためにはとにかく働くしかないと思い、正月三が日以外は年中無休で店を開けて働いていました。1年362日営業です(笑)。それを3年続けると、周りの私を見る目が変わってきて…。やっているときは夢中でしたから、あまり深く考えていませんでしたが「やるぞ」という強い意思だけで働いていた。若かったからこそ出来、私の情熱が周りに伝わったんでしょうね。
何百万円もする宝物を販売するわけですから
何から何まで手を抜きたくはない
福田●BMWに限りませんが、輸入車を購入するときには皆さん勇気が必要です。しっかりとカタログに目を通し、何度もお店に通ってくださってご契約をいただける方がほとんどです。たかが1台のバイクを、と思われるかもしれませんが、購入するオーナーの方に取ってはただのバイクではありません。”かけがえの無い宝物”なわけですよ。
福田●女性が少しずつ増えてきているのが嬉しいですね。もちろん30代、40代の男性が中心ですけれど、性別・年齢を問わず、どんな方がいらっしゃっても気持ちよく過ごしていただけるよう、ショールームはゆっくりくつろげるスペースやBMWを知らない方も楽しめるような展示品を揃えています。初めからBMWに詳しい人だけが楽しめる場所ではなく、何となくBMWに興味を持ってやってきた方でも楽しめるようなお店造りを心がけています。最近は週末になると店内は賑やかで、私たちが思い悩んで実現しているお店造りを喜んでいただけているのかな、と嬉しい気持ちです。
福田●BMWを含めた輸入バイクは、西欧の方に合わせて造られていて日本人には大きすぎる、というイメージがあります。確かにBMWは全体的に大柄で、シート高の高い車種が多いですけれど、日本仕様が用意され足付き性が確保されていたり、古くは日本限定モデルが発売されたことがあったりと、メーカー側もしっかりと日本のユーザーを見てくれていると感じています。また、社外品にも良いパーツがありますから、自分好みの理想のポジションをお一人お一人に合わせて作り出すこともできます。そういった情報も日々のお客さんとのやり取りから経験を重ねていますので、何か不安なことがあればご相談いただければ満足のいくご提案ができるでしょう。
福田●“高級”というお話ですけど、極端にゴージャスにしているわけではありません(笑)。私たちで出来る限りの接客をさせていただこうと、努力を重ねてきて辿り着いた結果なんです。そうですね、例えるなら…デパートだと1000円の商品を買っても丁寧に接客してくれますよね? 店内も明るく、商品がよく見えるように工夫がされています。けれど、今までの“バイク屋”というと店内は暗く、座るところも無く、バイクは表に置きっぱなし、トイレは事務所を抜けてお店の奥の方に…そんな店だと、男同士での来店ならいいかもしれませんが、恋人や奥さん、家族と訪れる気にはならないでしょう。ウチはどなたと来ていただいても気持ちよく過ごせるよう、内装やインテリア、照明などにこだわってショールームをデザインしています。それはすべて「デパートと同等の接客はできないんだろうか?」という疑問から始まっています。100~200万円もするバイクを買っていただくわけですから「それ相応の対応があるのでは?」と昔から思っていました。ですから、展示方法、説明、接客…私どもがディーラーである以上、同伴者の方にも満足していただけるレベルを維持していきたいと思っています。
福田●「BMWの魅力を正しく伝え、興味を持っていただく」これが基本なのですが、それ以上のものを提案したいですね。ほとんどのお客さまは来店される前に雑誌やウェブサイトで下調べをし、車両を確認しにいらっしゃいます。ですから、ただ車両の魅力をお伝えするだけではなく、その方がこれからどんなBMWライフを送っていくのか、会話の中から想像し、お客さまが気づかないような悩みを解決するパーツ選びなどもアドバイスしていきたいですね。もちろん、アイテム以外でもお答えしていくつもりです。
福田●長く続けているだけで「老舗」と呼ばれてしまうので、その言葉は怖くもあります。老舗でも、新しいお店でも売っている車両は同じです。老舗の看板にあぐらをかいていると、お客さまにそっぽを向かれてしまいますから、必要以上に“老舗”を意識することはありません。ただ、経験豊富なメカニックが多く在籍していること、旧いモデルから最新モデルまで、すべてのモデルに対応できる調整器具・テスターなどの機材が万全なことは長年やってきた強みだと考えています。また、長くBMWを販売しているとさまざまなトラブルに遭遇します。そうやって1つずつトラブルに対処してくると、どんなトラブルにも対応できるようになってきます。「どんなモデルでも、メンテナンスは安心してお任せください」ということには自信を持てる。スタッフが自信を持ってそう言えること…それもきっと強みなのでしょう。「老舗」と言われる強みはそんなものでしょうか。ただ、強みより積み重ねてきた歴史の重さを感じる日々ですけれどね(笑)。
株式会社福田モーターサイクル商会 BMW Motorrad Tokyo
- 住所/東京都港区赤坂2-10-10
- 休日/毎週月曜日、第1/2火曜日
- 電話/03-3582-3231
株式会社福田モーターサイクル商会 渋谷ショールーム
Interviewer Column
老舗の経験と現代の設備、接客サービス。重ねてきた歴史にあぐらをかくことなく、日々未来への課題を探し続ける、そこにお客さんからの信頼は生まれてくる。何でもかんでも「老舗」という言葉で礼賛するのはいかがなものかと思うけれど、たゆまない努力を重ねて信頼を積み上げてきたお店は敬意を込め「老舗」とあえて呼びたい。今回の取材で「老舗」とは何たるかを学ばせていただいた気がする(山田)。
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