VIRGIN BMW | 西元 朗(R100RS) インタビュー

西元 朗(R100RS)

  • 掲載日/2009年01月20日【インタビュー】
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10年のブランクが与えてくれた
あのころの2本サスR 100 RS

以前、東北でのディーラーイベントの取材中に珍しいR 100 RSと出会った。2本サスでブルーのグラデーションがとてもキレイな車両だ。いままで見たこともなく、思わずオーナーさんに声を掛けると、興味深い言葉が返ってきた。「今日は10年ぶりにBMWに乗った、記念すべき日なんですよ」と。東京から自走でやってきたそのオーナーさんは、おもむろにパニアケースからスウェットシャツを取り出し「ほら、このイベントに来るのもほとんど10年ぶりなんだ」。そこには86年開催を示す記念プリントが施されていた。2005年6月、福島県裏磐梯猫魔『東北ジャンボリー』でのことだった。

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BMWは二の次だったブランク期間
息子と共に歩んできたトライアルの世界

ーお久しぶりです。あれから3年以上になりますね。その後もBMWのイベント会場でちょくちょく見かけるようになりましたが、あれ以来、走るのを愉しんでいるようですね。

西元●いや~あのときは本当に誰も知っている人がいなくてさぁ! ドキドキしながら行ったんだよ。周りは現行モデルばかりで、俺なんか浦島太郎状態(笑)。「場違いなところに来ちゃったな~」と思ったね。でも行けば何か新しい発見があるんじゃないかと思ってサ。そこで数少ない2バルブオーナーと知り合いになれたから、行ってよかったよ。

ーしかし10年ものあいだ乗れなかったというのは、何か意味深ですね。

西元●ず~っと息子にくっついてトライアルやってたからね。

ーたしか息子さんはトライアルの選手で、長いことサポートされていたんですよね。

西元●そう、BMWに乗れなかった10年間というのは、トライアル漬けの毎日だったからね。BMWも乗りたかったけど、乗る時間が無い。そんなことよりもまずマシンの整備を覚えるのが大変だったから。全日本選手権のシーズンに入ったら全国を巡るし、試合に向けてマシンの整備、試合が終わったらまた整備して次に備える。シーズンオフでも練習、どこでもできるわけじゃないから地方の山奥へ行ってね。乗ったら整備、その繰り返し。それを仕事もしながらこなすというのは、大変なことだよ…。

ーそれを続けてこられて、息子さんは立派な選手になられたわけですよね。

西元●苦節10年、A級7年目にしてようやくチーム所属になったけど、まだ“セミプロ”だよ。マシンはもちろん、整備に必要なすべてのパーツ、消耗品、ライダーが身に着ける物も何からなにまで全てチームから支給されるようになったものの、給料がもらえるということではない。選手だからといって、乗るだけで食っていける人間はほんの一握り、数人という世界なんだよね。

ーとくにトライアルの世界は、こう言っては失礼かもしれませんが、日本ではあまり脚光を浴びるモータースポーツではありませんよね。

西元●トライアルは“真似事すらできない”もの。ものすごく難易度の高いモータースポーツだけど、日本じゃマイナー(笑)。スピード感がないから、観ている方も飽きちゃうんだろうね。

ー良太さんのチームへの所属が決まって、西元さんの仕事(サポート)もようやくひと段落したということですか?

西元●ひと段落というか、チーム監督に「良太を勝たせたかったらマインダーを降りなさい」って言われたんだよね。父親が相手だと、選手にも甘えが出てしまう。それでこれからの選手人生は、プロのマインダーにゆだねることにしたんだ。確かにライダーは乗るのが仕事、マインダーはライダーの全てをサポートするのが仕事。そうなると、オレじゃ無理なんだよね。仕事もあるしさ。

ーちょっと寂しい気もしますね。

西元●まあ、でも仕方ないよ、アイツのためだから。いつまでもオヤジがついていたんじゃ、勝負の世界じゃダメだと思うし、そんな甘くないってことはよく分ってるから。

ー実質、良太さんは“親離れ”したわけですか…

西元●そうだね(笑)。でも良太にとって、本当に辛いのはこれからだよ。チームのサポートがついて、走ることが仕事になったら結果が全て。いままで普通に言葉を交わしていた選手も敵になって、上を目指すなら騙し合いも当たり前。ライディング以外の知識や経験も必要になってくるからね。アイツもいま、その難しさを痛感しているみたいだよ。

ーようやく自立、これからが本番、ということですね。それで西元さんは、この10年間を取り戻すかのようにBMWに乗ろうと思ったわけですか。

西元●まぁ、BMWもそうだけど、これまでトライアルに費やしてきた時間を、今後は下の2人の子供たちの応援にも向けなきゃな、って思っているんだ。自分のやりたいことだけじゃマズイよね。

10年のブランクがあったおかげで
買ったときと同じ気持ちに戻れた

ー10年間動かしていなかったバイクを復活させるのは大変だったのでは?

西元●そこでトライアルの整備の知識がだいぶ役に立ったね。どうしても手に負えない、というところは無かったから。

ー車両はどんな状態だったんですか?

西元●タンク内はサビだらけ、ホイールはクモの巣だらけで、もう単なる鉄の塊。ブレーキフルードなんてシャーベット状になっていて(笑)。もちろんゴム類の劣化も。

ーそれがよく今の状態まで戻りましたね! 外装は色褪せもなく綺麗なグラデーションを保っているし、フレームやインナーチューブにはサビも見られません。

西元●10年間まったく乗れなかったけど、年に1度くらいは触ってやってたんだ。他は何もしてない。カバーをかけて軒下保管。だから実際は見た目以上に酷かった。自分で何もかもやろうと思ったけど、プロに任せられるところはお願いしたよ。たとえばタンク内のサビ、自分でやったら結構な手間だったと思うけど、専門家に頼んだら2万円でキレイになって戻ってきたから(笑)。自分じゃあそこまで完璧にはできないよ。他にもキャブは自分でO/Hして、エンジンはオイルとプラグを交換しただけであっさりかかった。こりゃさすがBMWだと思ったね。

ーそれで、久々に乗ったBMWの観想は?

西元●ん~、なんせ自分でいろいろ整備したモンだから、仕上がりもイマイチでね。「ビーエムってこんな感じだったかなぁ…こんなモンじゃ無かったよなぁ?」という感じ。それで AMSフジイ さんのところで調整してもらったら、もうドンピシャ「これがビーエムだ!!」って、感動したよ。それこそ初めてBMWに乗ったときの感動がもう一度やってきたんだよね。嬉しかったなぁ。やっぱ自分で適当にやってたんじゃダメなんだね。でもAMSフジイさんに「よく動くサスペンションですね」なんて、フロントフォークの整備だけは褒めてもらえた。お世辞だと思うけどね(笑)。

ーところで、BMWを直そうと思う以前に、他のバイクに乗り換えようとは考えなかったんですか?

西元●直してまた乗るか、それとも手放して次のバイクの買い換えの足しにするか、という考えはあったね。それで最近のバイクにもいろいろ乗ってみたんだ。たまたまモーターサイクルショーの時期で、そこで試乗会をやっていたから最新モデルに乗り放題だったよ。そうしたら「これに何十万も払って乗り換えるくらいなら、BMWを直して乗ったほうがよっぽどいいな」って決心がついたんだ。自分にとって、こんな旧いBMWに勝るオモシロさが今のバイクには感じられなかったんだよね。

ーR 100 RSの魅力って、どんなところに感じますか?

西元●バイクなんて趣味の世界だからさ、性能云々じゃなくてこだわりなんだよね。俺は2バルブが好きなんだよね。あの2バルブボクサーエンジンの乾いた排気音なんて、聞いただけでゾクゾクする。もういい年だからスピードなんか求める気もないし。でも、決して遅くはないんだよ。アベレージはむしろ高い。高速道路を走っても、田舎道をゆ~っくり走っても、どんなシチュエーションでも気持ちよく走れる、そして絵になる、っていうところがいいね!

ー普段の使われ方は、もっぱらツーリングですか?

西元●そうだね。と言っても、毎週・毎月、必ずどこかへ走りに行けるほどの余裕は無いので、遠出は年に数回かな。あとは1人で陽のあるうちに200kmくらい流して帰ってくるくらい。たとえば早朝出発して、筑波山に登って景色を眺めながら一服ついて、田舎の広域農道走って明るい時間に帰ってくる。休みを丸1日も使いたくないから、せいぜいその程度だよ。

ーあれから新しい仲間も増えたようですね。ユーザーさんのお話の中で、たまに西元さんのお名前を聞くことがありますよ。

西元●知り合った人たちに会いに行く。それが走るきっかけになっているんだ。BMWのイベントやミーティングに足を運ぶのは、そういうところで知り合った2バルブ仲間に会うため。同じ2バルブ乗りだから話も合うし、一緒に走っていても気持ちがいい。そんな気の合う仲間と一杯やるために、走って行くんだよね(笑)。あ、もちろん泊まりだよ。

ーそもそも西元さんがBMWに乗るようになったきっかけは?

西元●若いころ、最初はトライアンフに乗っていたんだけど、近所の板金屋でBMWに乗っている人がいて、その仲間たちに誘われて一緒に走りに行ったことがあったんだ。で、その帰り道、雨の高速道路、談合坂の下りで「俺のBMW乗ってみな」って、乗り換えて走ってみたんだけど、もうビックリ! すごく安定していて、雨の高速下りコーナーでも不安が無い! こんな安定感のある、不安なく走れるバイクは初めてだ、と。それからもう欲しくて欲しくて! でもお金が無くてねぇ…。

ーR 100 RSに至るまでは、紆余曲折あったんですか?

西元●当時30歳くらいでR 80/7にやっと手が届いたくらい。その翌年にR 100 RSが出てね。馬鹿でかいカウルがくっついて「なんだこりゃ?」と思ったけど、2月の極寒ツーリングでR 100 RSに乗ったオヤジが寒くなさそうに走ってやがってさぁ(笑)! もうこれしかない! と思ったね。それでR 80/7を下取りに出してR 100 RSを買ったんだ。それからなんかハマっちゃって、ほかにもR 69 Sとかハーレーとか、あのころはいろいろ買い足してたなぁ。

ーその頃がバイク熱のピークだったんですね(笑)。

西元●そう、身体はひとつなんだから何台も持っていたってしょうがないのに、金ばっかかかってどうしようもなかったよ。結局乗るのは気に入ったバイク1台だけで、他は乗らなくなっちゃうんだよね。結婚を機に全部売りに出して、というか処分だな。それで人生最後の1台として、今のR 100 RSを買ったんだ。

ーそれが今でも現役で走っているというのが、いかにもBMWらしくていいですね。

西元●かれこれ25年モノ。良太と同じ歳なんだ(笑)。当時からの仲間が何人かまだバイクに乗っているけど、み~んな2バルブだね。やっぱり同じ車両の仲間と走っているのが一番愉しい。最新モデルの性能が全ての面で良くなっているのは確かだろうし、悪く言うつもりはないけれど、良くなっている反面『味』だとか『個性』だとか『独特の雰囲気』だとか、そういったものは欠けていると思う。それが20年前のバイクにはある。

ーそこそこの性能が良い、それが人肌に合っている、ということなんでしょうね。

西元●レースじゃないんだからサ、スピードなんか求めない。そもそも十分速いしね。俺らはスクーターに抜かれようが同じBMWに抜かれようが「ドウゾ先に行ってください」って感じ。ツーリングっていうのは無事故で帰るのが最低の条件だよ。そのほうが長く愉しめる。誰かが怪我したら途中で終わってしまうでしょ、それじゃつまんないよね。どうも俺たちみたいに2バルブを知っている人間が現行モデルに乗ると「つまんない」ってなっちゃうんだよね。まったくベツモノだからサ。余裕があれば2台乗るのもいいけど、1台だけとなったら、やっぱり2バルブのほうが好きだなぁ。

ー最初に言っていた『10年のブランク』というのは、埋まりつつありますか?

西元●そうだね。むしろ10年乗らなかったおかげで、いまは当時初めて乗ったときと同じ感動を味わうことができる。ずっと乗れなかったから、これからも乗り続けたいね。

プロフィール
西元 朗
東京都在住、縫製業経営。若いころからバイクに親しむ。息子(良太)さんと共にトライアルの世界に精力を注ぎ、10年間サポート役(マインダー)を務める。良太さんがチーム所属となってマインダーにもプロが就き、参戦から観戦する立場へ。以降、その間乗れなかったR 100 RSを復活させ、ブランクを埋めるかのように走り、仲間とのバイクライフを愉しんでいる。

Interviewer Column

BMWに乗る人は、それぞれが自分なりのこだわりを持っている、と感じることが多い。なにかと最新モデルがもてはやされる2輪業界だが、BMWに限っては、20~30年前のモデルも現役で走り続け、またそれを愛してやまないライダーも多い。プレミアムやヴィンテージといった、床の間に飾っておくような、走らせない名車ではなく、BMWは走る道具として、いつまでもライダーを乗せ、駆け抜けている名車を多く創出しているからにほかならない。今回取材にお伺いした西元さんも、10年というブランクを経て、誰よりもその愉しさを実感しているに違いない。(田中善介)

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