高野 博次(R100GSパリダカール, R80GSパリダカール)
- 掲載日/2008年10月30日【インタビュー】
個性と安全性を求めてBMWに
2台のパリダカは道具であり嗜好品
旧OHVエンジンのGSと言えば、いまでは高値で売買されている人気絶版車のひとつだ。走らせてみれば、ゆったりとしたポジションでライダーを急かすことなく、高速道路では抜群の巡行性能を発揮し、またラフロードにおいても、ビッグオフとは思えない走破性でファンも多く、高野さんもその中のひとりだ。「個性的で、安心して乗れるバイク」という理由で手に入れたBMW。すでに稀少モデルではあるが、ここ東京ではワリとよく見かける。オーナーたちは、都会の喧噪を離れ、非日常の世界へと誘ってくれる夢の乗り物だということを知っているからだろう。そんな2台のGSについて、高野さんなりのバイクライフをお伺いした。
冒険をイメージさせてくれる
「パリ-ダカール」に一目惚れ
高野●いえ、もともと大きくて個性的なバイクが好きで、以前はV-Maxに乗っていました。あのマッチョな感じと直線番長的な存在に憧れていたもので。そのために限定解除をして、しばらくはそれなりに愉しんでいました。でも僕は乗るのが上手くないもので、高速道路の車線変更とか、ちょっとスピードを出したときとか、もうおっかなびっくりで、あまり愉しめなかったんです。そしてあるとき、たまたま工事現場を通り抜ける際に、ちょっとした砂利でリアをスライドさせてしまったことがあって、その時は何事も無かったのですが、これは僕には危険だと思って、もっと安全というか、安心して乗れるバイクを探すようになったんです。
高野●ええ。最初はハーレーもかっこいいと思っていたのですが、街でよく見かけるバイクですし、横並びでそれに乗るというのは自分の中にはなくて、ほかに個性や存在感があるバイクは何かなぁと考えた時に、ボクサーエンジンがあったんです。
高野●最初のきっかけはR100RSの存在でした。カウルも独特で、かなり個性的ですよね。それから、BMWってほかにどんなモデルがあるんだろう?って調べるようになりました。雑誌の「BMW BIKES」を見て、中古車インデックスにR100GS Paris-Dakarを見つけて、それで一目惚れです。ラリーや冒険という、男の子の心をくすぐるイメージ、それを大人になった僕に思い出させてくれました。
高野●バイクは嗜好品だと思っているので、ただ乗るだけではなくて、またがったときにこのままどこかへ行けるという、気持ちの余裕をもたらしてくれるものであってほしいんです。そういう意味であのパリダカ(100)はぴったりだったんです。それからディーラーを調べて直接見に行って、目の前で見た時にもうこれだと思いましたね。それが8年前です。
高野●すり抜けは出来ませんね。でも普段の足としても使っていますよ。それから、最近はあまり出来なくなっているのですが、早朝ツーリングにも行きます。やはり仕事と家族がありますので、しょっちゅうバイクで遊びに行くなんて無理じゃないですか。だから朝早い時間に出発して高速道路を一気に走り、降りたところで旨いもの食べて、ちょっと仮眠をとったらお昼前には家に戻って、あとは仕事をしたり、家族との時間を過ごしたり…そんな感じですね。朝は道路も空いていますし、空気も澄んでいて気持ち良い。綺麗な富士山が見えただけでもすごく嬉しいですし。そんな些細なことで感動して、今日も一日頑張ろう、って思えるんです。
高野●僕はバイクの事はよく分かりません(笑)。たまたま一目惚れしたバイクと縁あって結ばれたというだけです。バイクは自分の機動力を増すための道具として最高です。僕にとってそのバイクがパリダカだったんです。それから、今は自分でも乗っているから言えることですが、BMWのパニアケースに関しては、正直抵抗ありましたね「こんなハコつけてよく走れるな」なんて思っていました。でも使ってみたら、これほど便利だとは思いませんでした。もう絶対に外せませんよ。出先で何か買って帰りたいと思ったら無理してでも持って帰れますし、仕事の面でも取引先へ荷物を持って行くのに、パニアケースに入れてバイクで行くことが出来ますから。本当に実用的です。
旧いBMWだけれど日々の道具として
パリダカがもたらすデザインへの影響も
高野●4年ほど前に、たまたま仕事で群馬へ行ったとき、クルマでヤナセオートの前を通りかかったんです。そのとき一瞬ですが、あのパリダカのタンクが見えて「ちょっと待てよ」と思ったんです。仕事を終えて、戻る時間には暗くなっていましたが、閉店後のショーウィンドウにへばりついて、よ~く中を覗いて見たら、あのバイクがあったんです。やはりパリダカに乗っている以上、そのルーツに憧れを持つじゃないですか。値札もなくてただの飾りかと思ったのですが、翌日電話したら売り物だったんです。聞けばお客さんからの依託販売で、値段もこのモデルにしてはあり得ないくらいお手頃、もう即決です。電撃結婚したようなものですね(笑)。消耗品の交換だけで何の不具合もないし、エンジンも調子良い。今でも普通に乗れています。この出逢いには運命を感じずにはいられません。
高野●全然違いますよ。圧倒的にハチマルのほうが軽いです。一発目のパンチ力がいい。大きくてどっしりとした100よりもフットワークが軽い。だから100だとちょっと自信がないところでも、ハチマルだと行く気になれる。実際には狭い林道とか走りに行くなんて滅多にないのですが、その気にさせてくれるというか、もっと世界をひろげてくれるのがハチマルですね。ブロックタイヤを履かせて、土の上を走ってみたくなるんです。
高野●やっぱり安定性ですね。高速道路での安定性は抜群です。あんな小さなスクリーンでも防風効果は高いし、それにデカイバイクに乗っているという感覚がいいですね。目線の高さもそうですが、とても「馬」的で、ダラダラ乗っているのではなく凛としている。僕にとってビーエムは、乗馬に近いイメージがあるんです。人が乗る姿を見ても、姿勢が正しくて、タイヤが地面を蹴って走るような感じです。
高野●いや~愉しかったですね! たまたま知り合いに誘われて行ったのですが、行く前は、じつはあまり乗り気ではなかったんです。あの図体(100パリダカ)でオフロードを走るなんて、もともとそんな勇気も腕もありませんから。でもああいうイベントに参加して、丸一日おっかなびっくり凸凹の道をひたすら走って、思いっきり遊ぶのもいいモンですね。現行モデルにも試乗させてもらいましたし、タイヤメーカーの人も来ていて、空気圧ひとつでこんなに恐怖心が違うのかと感動しましたよ。いい勉強になりました。
高野●そうですね。R1200GS、アドベンチャー、それにG650Xカントリーと3台乗りましたけど、やはり旧OHVのアナログな感じ、スパナのような工具の感じが僕は好みなんだなぁとつくづく思いました。現行モデルは、自分の技量を度外視して乗れてしまう、すごく精密な電子機器という感じ。これ以上スピード出したら恐いな、とか、この先に行ったらヤバいな、とか、多少ビビりながら乗る方が、僕は好きですね。
高野●大いにありますよ。僕の創るウェアは、普段忙しい時でも、取引先へBMWにサッと乗って行ける、そんなときの格好なんです。バイク用の本格ギアではありませんが、ある程度機能的な部分を残しつつ、街で乗る時もストレスを感じない。そのまま遠くへも行けて、ちょっと遊ぶ程度であればそれで充分。それより先を求めるのであれば、やはりバイク専用のウェアを選ぶほうがいいと思っています。
高野●バイク用とはうたっていませんが、乗っている人たちから「そうそう、こういうのが欲しかったんだよね!」と言ってもらえるのが理想です。BMWのオリジナリティと同じように「高野さんらしいなぁ」と言ってもらえるものを創りたいですね。
高野●「誠意ある行い」とか「誠実な行い」という意味でつけました。自分のモノづくりに嘘をつきたくない。お客さんの目を見てお勧めできるモノでありたい。そうしていれば、もし間違っていたとしても、素直に謝ることが出来ますから。そしてデザインと生活が密着できるように、末永く着ていただけるようなモノを創っていきたいという願いもあります。やはり去年買っていただいたウェアをタンスから出してきて、今年も着てもらいたいですからね。
高野●ウェアは道具なのか、オブジェなのか。どちらもあるのですが、僕としては前者が基本にあります。もちろんそれ以外のウェアも創っていますけれど。そのうえで、ファッションというカテゴリの中で、バイクに合った道具・ギアでありたいと思っています。
高野●僕はメカのことはさっぱり分かりません。そこは自分の信じるメカニックさん、ショップさんにお任せでいいと思うんです。飽きずに愉しく、ずっと乗れる、たまにしか乗れなくても、乗ったら「ああ愉しいな」「気持ち良いな」と思いたい、それが僕のスタンスです。それに僕の場合、BMWには存在感や、乗っている時の凛とした乗馬のイメージが強いんです。旧いパリダカ、それも2台も乗っていながら、細かいこと言われても「スイマセン、僕わかりません」ですよ。僕なんて、いつまでたっても「バージンBMW乗り」なんです(笑)。
Interviewer Column
高野さんとお会いしたのはこの日が初めてではない。東京は中目黒の目黒川沿い、立派に成長し、川面に枝葉を映す桜の並木道をぶらぶら歩いていたとき、ふと立ち寄ったアパレルショップのオーナーが高野さんだった。決して広くはない店内に飾られた数々のオリジナル商品を眺めていると、それぞれにどことなく「バイクっぽさ」を感じ、店員さんに声を掛けたのがきっかけだった。デザイナーというクリエイティブな職業は、常にフレッシュな気持ちで創作に望み、消費者がなにかしら感動するアイテムを提案していかなければならない。それらの作品には自ずと作者の想いが投影され、そんな作品の数々に、自分もバイク乗りのハシくれとして、何か惹き付けられるものがあったに違いないと思う。(田中善介)
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新里 克一(Moto Sound)
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