橋本 智(R1100S)
- 掲載日/2008年04月09日【インタビュー】
オンリーワンのR1100Sで
サーキットランを追求する
仕事柄、バイク関係のウェブサイトはよくチェックしているが、もう何年も前からブックマークしているサイトのひとつに 「FLUGGE 」 がある。このサイトの管理人「ふりゅっげ」さんは、R1100Sでサーキット走行を楽しみ、筑波サーキットのレースにも参加。そのレポートをこのサイトで公開している。内容は気の利いたコメントと写真の組み合わせがとても楽しく、次の更新が待ち遠しくなってしまうほど。さらに、その写真に写っているふりゅっげさんのバイクは、原型をとどめないほどに改造されたR1100S。レースの楽しみ方からマシン作りまで、BMWでレースを楽しみたい人にはとても参考になるサイトなのである。今回はそんなふりゅっげさんこと橋本 智さんに、サーキットの上でのBMWライフについて伺った。
R100GSに見た
BMWのスポーツ性
橋本●BMWのワンメイクレース「ボクサートロフィー」に参加して以来、しばらくはそればかりに出ていました。最近ではいろいろなイベントレースにある「ノーマルツイン」クラスとか、タイムでクラスが分かれている外車だけのレース「MAX10」に参加しています。
橋本●このR1100Sは1998年夏に発売されたのですが、その冬のクリスマスイブが納車でした。最初の2年くらいは、峠を走ったりしていたのですが、だんだんサーキットを走ることが増えてきて、レースに出始めたのは2000年ごろだったかな。だからもう7、8年は続けていることになりますね。
橋本●R1100Sを買ってサーキット走行会に参加していたのですが、そこで同じR1100Sに乗った人に「ボクサートロフィーに出てみませんか」と声をかけられたのがきっかけですね。もともとサーキット走行やレース参戦に興味があったので、その人にいろいろ教えてもらっているうちに自然とレースに出るようになっていました。
橋本●いやいや、最初は普通にツーリングでした。ただ私の場合、ツーリングといっても早朝の峠を走りに行くだけで、皆さんがイメージするようなツーリングはあまりしませんでしたが・・・。その後2年ぐらいしてサーキットを走るようになりました。最初は、公道走行とサーキット走行の比率が9:1だったのですが、そのうちその比率が逆転してしまい1:9に。サーキット走行の時だけ保安部品を外していたのですが、だんだん公道を走る時だけナンバープレートを付けるようになりました(笑)。
橋本●24歳の頃から6年ほどR100GSに乗っていました。
橋本●世の中で言われているような”オッサンバイク”ではなくて、R100GSもしっかりスポーツバイクでした。一生懸命走っているととても楽しい。R100GSはフロントタイヤがオフロード用の21インチなのですが、それでも舗装された峠道ですごく速い。どちらかというと、高速コーナーよりヒラヒラ走るような狭いワインディングが得意で、場合によっては日本製リッタースポーツと遜色ない走りができました。
橋本●いや、GSに6年乗ったあとビューエルに4ヶ月間だけ乗りました。ビューエルのためにインチ工具を揃えようとも考えたのですが、やっぱりBMWがいいと思い直しまして。それで、ちょうど出たばかりのR1100Sに乗り換えたんです。
橋本●R100GSはすごいバイクでした。いまでも一番いいバイクだと思っています。ではなぜビューエルにしたかというと、R100GSは丸一日乗っていても疲れなくて楽しいけど、あまりにも刺激が少なかったのです。それで乗り換えたビューエルは思ったとおり刺激的で楽しいバイクでしたが、なかなか私が馴染めませんでした。それならBMWでちゃんとスポーツができるモデルにすればいいんじゃないかと思い、当時最新のスポーツモデルだったR1100Sを選んだというわけです。
橋本●もちろんオフロードとオンロード、2バルブと4バルブという違いはありましたが、良くも悪くもBMWだなぁと思いました。包容力があってライダーに優しいけど、ちゃんとダイレクト感もある。このバイクを作っている人たちは、みんなバイクが好きなのだろうな、と思いました。
橋本●よく言われるBMWの悪いところってあるでしょ。バイクが重いとか、シャフトドライブだから最終減速比が変えられないとか。サーキット走行に向いていないとも言われますよね。でも、ギアの使い方や乗り方で上手く走ることはできる。BMWというバイクをいかに速く走らせるかということは、ライダーの腕にかかっているとも言えます。それって楽しいじゃないですか。
橋本●(きっぱり)ないですね。BMWはツーリングで疲れないバイクだと言われていますよね。それはサーキットでも同じで、包容力があるというか、ちょっと外乱があってもすぐに収束してくれるのです。今まで、BMWでなかったら転んでいたという場面が数え切れないくらいありました。このバイクだったから、転ばなかった、ぶつからなかった、という経験をたくさんしていますから。
橋本●それはあるでしょうね。ブレーキで抜かれることはあまりないですから。以前、同じBMWに乗るとても速い友人たちと「もて耐!」に出たことがあるのですが、彼らもブレーキングでは国産スーパースポーツに絶対抜かれなかったと言っていました。
サーキットで活きる包容力と
程よいカッコ悪さが魅力
橋本●「FLUGGE」はドイツ語で「翼がある」と言う意味の単語です。水平対向エンジンを前から見ると翼に見えるでしょ。それに、BMWが初めて作ったのは飛行機のエンジン。だから、翼があるという意味の言葉をタイトルにしました。また、この単語には、「巣立ち」と言う意味もあるらしいですよ。
橋本●でも、大半は自分のためにやっています。人の記憶って時が経つにつれて薄れていくものでしょ。みんなでレースを楽しんで綺麗な写真もあるのなら、それをいつでも見られるようにしておきたい。頭の中だけだと、レースで失敗したこととか天気とか、細かいことは覚えていられない。でも、FLUGGEのレースレポートを読むと、細かいところまで鮮明に思い出せて、リアルにその楽しさが甦ります。
橋本●よく3年前、4年前のレースレポートを見ますよ。新しいのもいいですが、何年も前のレースレポートがけっこう面白い。「あのときこいつは古いツナギを着ている」とか「こんなかっこ悪いヘルメットをかぶっていた」とか、写真と面白い話がいっしょになっていれば、昔のことでも楽しめます。
橋本●ほとんど自分のためですが、一緒にレースに出てくれた人が楽しかったことを思い出してくれればうれしいですね。自分の記録であり、仲間との記録であり、あとは、自慢ですね。
橋本●こんなオートバイを作って、こんなに楽しくレースで遊んでいるんだぜ、という自慢ですね。バイク乗り、しかもレースをやっているような連中は、ほぼみんな自己顕示欲の塊ですよ。「オレが一番だ! オレを見ろ!」ってね。手っ取り早く大勢の人に自慢できるのがインターネットだったというわけです(笑)。
橋本●一番の目的は、とにかく軽くすることでした。あのSは、マフラーやシートレール、タンク、サブフレームを変えないと軽くならない。それを変えたら形がこうなってしまって・・・。外見を変えたかったのではなくて、軽量化の結果です。
橋本●エンジンのパワーを上げても加速がよくなるだけですが、軽量化すれば加速だけではなく、減速もよくなって、コーナリングGも小さくなって、切り返しも速くなる。軽くするのはすべてにいいことなのです。ノーマルのR1100Sと今の私のバイクとでは何kgの重量差があると思いますか? 私のバイクが182~183kgで保安部品を外したレース仕様のR1100Sは225~230kg。約45kgも違うのです。小柄な女性一人分ですから、その効果は大きいですよね。
橋本●でも、カッコいいじゃなくて、微妙にカッコ悪いのを狙っています。レーサーだと普通はハーフカウルにするところを、あえてビキニカウルにしているのもそのため。ハーフカウルだとカッコよくなっちゃうでしょ(笑)。
橋本●いやいや、カッコいいと普通になってしまいます。微妙にカッコ悪ければ誰もマネしないし、私のバイクだと主張できるでしょ。この前から見たカタチが最高です(笑)。BMWが好きなのも、この微妙なカッコ悪さがあるからだと思います。
橋本●スタイルは決して垢抜けていませんよね。BMWのオートバイは、わざとちょっとカッコ悪くしてあると私は本気で思っています。最近の国産スーパースポーツのデザインはとてもバランスが取れていて、どこから見ても端正でカッコいい。でもしばらくすると、きっと見飽きると思うのです。その点、BMWはカッコ悪いけどそれに見慣れるというか・・・。そのカッコ悪さに愛着がわいてくる。いつまでたってもその魅力が色あせないというところもいいですね。
橋本●新型のオートバイは旧型のオートバイを否定するのが普通でしょ。でも、BMWの新型は「あなたがいたから僕が生まれたのです」と言うくらい旧型を尊重しているように思います。だから古くなっても陳腐化しない。これはメーカーが明確に意図しているのでしょうね。そういう意味では、本当に好きな人が作っているバイクなんですよ。よく「BMWってバイクも作っているんだ?」と言われるでしょ。でも私は「BMWはバイクメーカーですが、クルマも作っています」と言うようにしています(笑)。
橋本●放っておかれています(笑)。でも放っておかれるようにするために、怪我をしないように注意はしています。怪我をすると、まず痛いのがイヤ。あとは家族が心配しますよね。人に心配させながら自分が遊んでいるのはよくないと思うのです。あと、骨折などで仕事に支障が出ると、会社から「いつまでバイクに乗っているつもりだ」と言われそうで・・・。
橋本●コースを走っているとだんだん熱くなってギリギリまで攻めますけど、一線は絶対に超えないようにしています。安全マージンをたっぷりとるので、ヒザもヘッドも擦ったことはありません。7年間もレースをやっていて、一度も転んだことがない人はなかなかいないでしょ。仮に、私に転んでも壊れないオートバイを貸してくれて、絶対に怪我しませんと保証してくれたら、結構速いと思いますよ(笑)。
橋本●あります。多分転びにくいと思います。転倒する時には、無理して転ぶ以外に、2つか3つの要因が重なって転ぶということがあります。接近した相手が予測に反した動きをして、それを避けようとしてブレーキが間に合わなかったとか、避けたために反対側にいたオートバイにぶつかったとか。そういう予期せぬ事態を、走りの上で吸収してくれるような気がします。
橋本●そうですね。たぶん、いろいろな動きが唐突じゃないということでしょうか。この良さを理解できない人は、「ダイレクト感がない」とか「BMWはつまらない」とか言うのでしょうが、そうではないと思います。BMWでもちゃんとスポーツはできるのです。
Interviewer Column
ウェブサイトやサーキットで遠巻きに見た橋本さんは、うらやましいほどに楽しそうだった。それだけに、いつか橋本さんのBMWについて話を伺ってみたいと思っていたのである。今回初めて間近に見たR1100Sは、フレンチトリコロールのペイントが美しいバイクだった。大胆にカスタムされていると見えない部分や細部がおろそかになりがちだが、手抜きは一切なく、とても丁寧に作りこまれているのが印象的。見ていると、パーツのひとつひとつに注ぎ込まれているバイクへの愛情と、趣味を楽しむエネルギーがひしひしと伝わってくる。このR1100Sは、彼にとってベストワンであり、オンリーワンなのだろう。誰にも影響を受けず、真っすぐ純粋に楽しさを追求する橋本さんが、さらにうらやましくなった。(八百山ゆーすけ)
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