中川 徹(R90S, R80ST, R80/7, R100CS)
- 掲載日/2006年07月14日【インタビュー】
70~80年代のモデルで遊ぶ
自分なりのBMWの楽しみ方
今から約10年前、ヨーロッパへのツーリングツアーで知り合った中川徹さん。「それ以来、もう10年になるね」というところからインタビューは始まった。ここ数年は、年に1回のオールドBMWの集まりで中川さんとお会いする機会が多い。そこに乗ってくる『R90S』はしっかりとメンテがされていて、オリジナルにこだわらないご自身のアイデアによるモディファイもなされている。中川さんのバイクに対する愛情は、ほんとうに並々ならぬものがある。話を聞けば、現在持っている他のバイクも含めて、メンテはほとんど自分の手でやるという。そんな中川さんのBMWの楽しみ方に興味を持ち、インタビューにお伺いした。
「構えなくても自然体で乗れる」
そんな“農耕馬”であるBMW
中川●今、持っているのはR90SとR80ST、この4月に仕上がったR80/7、あとはR100CSの車体に/6シリーズの外装を付けた“/6モドキ”です。なるべくバランスよく乗るようにしているんですが、“/6モドキ”は年間4,000~5,000キロくらい乗っちゃいますね。一番オールマイティというか、サスも柔らかくて疲れないですから。
中川●生産年で言うとR90Sが’75年、R80が’79年、“/6モドキ”が’81年、STが’84年。確かに今は’70年代と’80年代前半までのモデルに集中しています。以前はR69SやR60/2、R51/3なんかにも乗っていたんですが、実際に乗ってみて、アールズフォークの世代のことはだいたいわかりました。今、乗っている世代のモデルは、年齢的に今しか乗れないと思うんです。古いモデルは、これらが乗れなくなってからでもいいかな、と。乗れるのはあと一桁(年)くらいしかないですから。
中川●基本的には’70年代というのは、ものすごく技術が進歩した時期なんですよ。ブレーキがドラムからディスクへ、ホイールがスポークからキャストへ、点火系がポイント点火からトランジスタ点火へ。フレームやエンジンは変わっていませんが、こうした細かいところが変わっています。フレームやエンジンといった部分は変えないで、そういう進歩をこの時代のBMWは成し遂げた、モデルチェンジなしにね。だから興味が尽きないんです。
中川●確かにスポークホイールばかりですね。たいした理由ではなくて、スポークの方が綺麗で好きだから、くらいのことですよ。こだわり、というのならそういうところじゃなくて、部品の融通が利くモデルばかりを集めたことですね。大体、このぐらいの年代のBMWは部品のやりくりができるんです。コッチの外装をコッチの車体にとか、コッチのシリンダーをコッチの腰下にとか、そういったことが比較的簡単にできる、部品取り車を一台持っていれば融通が効くんですよ。
中川●ホントにエンジンとフレームはみんな同じです。違うのは、ボアだけ。だけど、800ccと1000ccではかなり性格が違うんですよ。ボア以外はストロークも同じで、他もまったくといっていいほど同じなんですが、違いがあり、それぞれいいところがある。例えば、R80なんて日本ではマイナーなモデルでした。当時はみんなR100RSを選んでいましたから。でもR80には、まさにBMWらしいいいところがあるんですよ。1000ccに比べると800ccのほうが振動は少ない、音が静か、ゆえに疲れが少ない、“農耕馬”のような魅力があるんです。
中川●スピードは出ないけど丈夫で壊れない。乗りやすいというか、構えて乗らなくても自然体で乗れる、というようことです。最新モデルの中で言うならGS系じゃないかな。かつてはサイドカーを引っ張ったりすることを前提にしていたから、そういう味つけになったのでしょう。「S」が付いているモデルは農耕馬とはちょっと違いますね。ネイキッドモデルの何もカウルが付かないような、ただのR100とかR80とかが“農耕馬”スタイルと言っていいんじゃないでしょうか。
中川●農耕馬スタイルが好きですから。このスタイルは当時のBMWの基本だったんじゃないか、と思うんです。ただ単純にパワーやスピードを追い求めるんだったら日本の4気筒にかなわないし、ドカにもかなわない。でも、それ以外のよさだったら、BMWが一番でしょう。その魅力を僕なりに表現してみると農耕馬スタイル、というわけです。
自分でイジっていて気づいた
BMWの技術的優秀さ
中川●もちろんです。痛んでいるものもあるし、痛んでいないものもある。それはそのときの状況によりけりです。「これはちょっと状態悪いからいらないよ」というのはありませんね。ほとんどの場合、仲間から「こういうのがあるんだけど…」と声がかかりますが、自分で直すから別に気にしません。ぶつかっていない限りは部品交換や部品の再生で何とかしてしまいます。塗装を全部塗りなおしたり、再メッキしたりすることもあります。
中川●もちろん、メッキはメッキ屋さんに出しますよ。たまたま家の近所には旋盤屋さん、内燃機屋さんなど、自転車で行ける距離にそういう工場がたくさんある。80年代までのBMWは、いろいろな電子機器を積んでいないので、僕のような環境にいるなら個人でも手が出せるんですよ。
中川●全部ではありませんよ。やってみたことがないところはまだまだあります。悪くないところは無理にバラしませんから。でもね、仲間にはミッション専門にスキルアップを狙っている人なんかがいるんですよ。「部品代だけでいいから」と言って、ベアリングとオイルシールを全部交換してくれる人とか。数年前にも僕のR69Sのミッションを「調子はいいから」と言っているのに、勝手に外して「オーバーホールさせてくれ」って持って行っちゃって。「これでオーバーホール5機目だ」って(笑)。自分のスキルアップのためにやっている、そんな仲間がいっぱいいますよ。
中川●やっぱりそういう人たちが自然に集まってきちゃいますね。特殊工具なんかも、仲間内でやりくりしていますし、手持ちの部品まで融通しあっています。「デフ貸してくれ」とか「ミッション貸してくれ」とかね。時には車両を交換することまでありますよ。「お前これ何年乗っているんだ?今乗っているのに飽きたから、お前の乗っているこれを俺に回せ」なんてね。嫁ぎ先がわかっていれば、「お前手入れ悪くしているな。戻せ」って言えますしね。
中川●バイクに乗り始めた頃からトーハツだとかスポーツカブなんかをイジっていましたし、クルマも自分でイジっていました。BMWの場合、どちらかというとクルマに近いですから、それが役に立っているところもあります。だからBMWをばらすのはさほど抵抗がありません。そうやって自分で触っているうちに、BMWの技術的な優秀さがわかってくるのも楽しいですしね。
中川●材質とか工作精度かな。その一つの例が、通称「デフギア」と呼ばれている「ファイナルギア」の精度。例えば11:33というギア比があるんです。11分の33=3.00ですよ。僕は昔、機械工学を学んでいて、ギアの設計をやっていたからわかるんですが、こういうギア比って一般的な常識として、割り切れる数字にしちゃいけないんです。クルマのカタログを見て「最終減速比」を見ればわかりますが、必ず割り切れない数字になっている。
中川●それはなぜかというと、各ギアがまんべんなく当たらないといけないからなんです。割り切れなければ同じ歯同士が再び噛み合うのにたくさん回らなくてはならない。そうやって、まんべんなくギア全体にアタリがつくようにするんですよ。それをあえて割り切れる数字にするということは、ギアの精度、特に各ギアの真円度に相当自信がないとできないことです。僕が受けた教育は40年も前の教育ですから、今に当てはまらないかもしれません。でも、40年も前からそういうギア比を採用しているということは、当時から精度や表面処理、耐久性に関して相当の自信があったということですよね。
中川●「ココをこうイジれば、こうなるはず」と自分で予想して、実際にやってみてうまくいくととても気持ちいい。だから、あっちこっちをチョコチョコとイジってみちゃうんです。「’77年製モデルだけど80年代の部品を入れたらどうなるかな」とか。今試しているのは、自分自身にとっての乗りやすさ、です。R100Sの変速ペダルを、もっとギアが入りやすくできないかな、とか。BMWはやってみたいことがたくさんあり過ぎて、興味が尽きませんね。
Interviewer Column
古いBMWの愛好家というと、とかくオリジナルにこだわる向きも多く、ちょっと敷居が高いイメージがあった。しかし、中川さんは、自分で好きな色に塗り替えてみたり、こっちの車体にこっちの外装と遊んでみたり、自分流の楽しみ方をしている。そんな中川さんの話を聞いていると、“チョイ古BMW”の世界がとても楽しそうに思えてくる。未だに中川さんが話す「6(/6:スラッシュ・ロク)」とか「5(/5:スラッシュ・ゴ)」といった、ボクサーの世代を示す番号が完全に理解できていない私だが、なんだかそこに共通するBMWの普遍性を教えてもらったようなインタビューだった。(八百山ゆーすけ)。
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滝本 幸一(Motorrad SHONAN Craft 専務取締役)
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