【BMW Motorrad R12nineT 海外試乗記】ユーロ5+対応の空油冷ボクサーを搭載しフルモデルチェンジ
- 掲載日/2024年05月21日【試乗インプレ】
- 取材協力・写真/BMW Motorrad 取材・写真・文/土山 亮
BMW Motorrad R 12 nineT(2024) 特徴
誕生から10年、ヘリテイジシーンを牽引してきた
エポックメイキングなモデルがフルモデルチェンジ
BMW Motorradの創立90周年を記念するモデルとして2013年に発表されたR nineT。創業以来BMW Motorradが守り続けて来た空油冷ボクサーエンジンとシャフトドライブという象徴的な機構を搭載しながら、新しいコンセプトを盛り込んだ意欲作だった。それから10年の月日が流れ、R nineTはあらたにR 12 nineTとして生まれ変わった。R 12 nineTとは一体何者なのか。その説明にはいる前に、あらためてR nineTがどんなモデルだったのか、当時の時代背景を交えてお伝えしたい。
それまでのBMW Motorradといえば「スタンダードの状態こそ至高」「いたずらに手を加えることは御法度」そんな印象を多くのBMWファンが持っていたと言っても過言ではない。そうした「どこかお堅いイメージ」はBMWファン以外にも浸透していたように思える。しかし、である。R nineTは前述したように新しいコンセプトを盛り込んでいた。それは、カスタマイズを前提とした設計が車体作りに現れていた。例えば取り外しできるシートレールや、シートカウルやデザインの異なるシート、カスタムの利便性を考慮した各種外装パーツ、さらに様々なオプションパーツのラインナップ……そのすべてはユーザーが自由にカスタムを楽しむためであった。
そんな車体コンセプトを象徴するのが、2014年にBMW Motorrad Japanが展開したR nineTカスタムプロジェクトだった。一切の改造制限を設けず、46works/Cherry’s Company/Hide Motorcycle/Brat Styleの日本を代表するカスタムビルダーが手がけた斬新なカスタムR nineTは、発表されるや否や、世界中のカスタムファンを熱狂の渦に巻き込んだ。
カスタムバイクと一番距離のあったはずのBMW Motorradがとんでもなく過激なプロジェクトを敢行したことで、R nineTは当時隆盛しつつあったヘリテイジシーンの中心的役割を担うこととなった。以降、R nineTには、R nineTスクランブラー、R nineTレーサー、R nineTピュア、R nineTアーバンG/Sなど、シンプルな基本骨格を活かして様々な派生モデルが誕生。各モデルは世界中のカスタムビルダーやストリートライダーたちを巻き込んで独自の世界を構築していった。
そして2023年。BMW MotorradはR nineTの後継モデルたるR 12 nineTを発表する。見慣れた空油冷エンジンとシャフトドライブは健在。しかし当時、発表された写真を見た筆者は、そのフレームがまったくの別物であることにすぐ気がついた。それまでは直立していたリアサスペンションがほぼ水平に近い角度に寝かされていたのだ。一体どんな乗り味なのか。第一報の発表からおよそ半年、幸運にもスペイン・マラガで開催された国際試乗会に参加に参加することができた。ここからは、実際に試乗した模様をお届けしよう。
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BMW Motorrad R 12 nineT(2024) 試乗インプレッション
ユーロ5+対応の空油冷ボクサーは
サウンドも乗り味もより丸みが出た
試乗前に何度もR 12 nineTの写真を眺めては、乗り味を想像していた。リアサスペンションのレイアウトが変わったこと、そしてスチールチューブラーフレームのパイピングレイアウトが変更されていることは写真だけでも判断ができた。おそらく、その走りは大きく変わっているはず……と妄想するのは容易だった。なぜなら、筆者はR nineTアーバンG/Sのオーナーであり、同車の初期型と2021年型を乗り継いできた現役のオーナーだからだ。歴代R nineTについては派生モデルを含めてすべて試乗してきたし、現在も日々の通勤やツーリングにも使用。すでに10万km近くは愛車と過ごしているので、短所や長所はそれなりに把握しているつもりだ。
2月末とはいえ、温暖な気候のスペイン・マラガ。日中なら半袖でも快適に過ごせるほど。地中海を望むリゾートホテルから新しいR 12 nineTを走らせる。エンジンは基本的に従来型を踏襲しているので見た目はヘッドカバーが変わっている以外に大きな変化はない。しかし、サイレンサーはこれまでのイメージを引き継ぎながら新設計された左2本出し。サウンドは従来よりもさらにジェントルで、吐き出されるボクサーサウンドは、角の取れたような丸みを感じる。耳あたりもやわらかなサウンドだ。
スロットルのレスポンスは極めて良好だ。先代のR nineTではユーロ4モデルから2020年のユーロ5モデルへと変わった時に、エンジンには大きな変化があった。ユーロ4時代ではワイヤー引きだったスロットルは、ユーロ5仕様になった段階で電子制御式のフライバイワイヤーへと変更された。その際、スロットル開度が大幅に変わり、ハイスロ化された。開度で言えば体感で15-20度くらいは少なくなったという印象だった(つまり全開までの開度が少なくて済む)。R 12 nineTでもそれは同じ。電スロ化以外にもユーロ5対応時に追加された装備がクルーズコントロールとライディングモードだ。スロットルの電子制御化を果たしたからこそ、こうしたアップデートが可能になったのだ。
筆者の比較対象は2021年型アーバンG/Sとなるが、新しいR 12 nineTでもスロットルフィーリングやクルーズコントロール、ライディングモードの使い勝手はほぼ同じように感じた。R 12 nineTではロード/レイン/ダイナミックの3種類のライディングモードを装備。空油冷ボクサーのワイルドな感触を楽しみたいのなら、ダイナミックがやっぱりおすすめ。最高出力は109馬力と従来型同様だが、ダイナミックモードでの鼓動感や加速感、サウンドはやっぱり病みつきになる。最新のユーロ5+に適合するが丸みのあるサウンドは高速道路でワイドオープンにすると心地よい高揚感を与えてくれる。高速道路では高回転域まで出す状況ではなかったが、車速とギア、回転数から判断すると、最高速度はおそらく従来型同様に220km/h前後は楽々マークできるだろう。
進化したフレームとリアサスペンション
従来型オーナーの不満は払拭されるだろう
R 12 nineT最大のトピックはなんと言っても完全新設計フレームの採用だ。従来型のR nineTシリーズでは、倒立フォークとアルミタンク、前後17インチホイールを備えるハイエンドモデルのR nineTを筆頭に、正立フォークとスチールタンク、17インチや19インチのフロントホイールを持つ派生モデルについても同じ2ピースのスチールチューブラーフレームを採用していた(キャスターやトレールは足周りの違いで各車微妙に異なっていた)。これは簡単に言うと、ステアリングヘッドからシリンダー上までを1ピース、シリンダー下からスイングアーム(シャフトドライブ)ピボット、シート下に至るまでが1ピースという構造。要はフレームの前半部分と後半部分が分割されている構造で、ちょうどシリンダーの真上あたりでボルト締結していた。
写真は前後分割の2ピースフレームを採用していたR nineTのデザインスケッチ。
こちらはR 12 nineTの1ピースフレーム。リアサスペンションも大きく寝かされた。
R 12 nineTではこれらが一体型となり、それに伴ってパイピングレイアウトが変更されたのだ。これによるメリットはもちろん剛性のアップだ。R 12 nineTのプロダクトマネージャーも説明会ではそのことをしきりにアピールしていた。
実際にワインディングに持ち込んでも、その狙いは走りで感じ取ることができた。平均速度が100km/hを超えるような日本では味わうことのない高速ワインディングでも、車体の剛性感が頼もしい。従来のモデルでは、ハイスピードでギャップに入るような状況で車体が大きく振られがちだったが、水平近くに寝かされた新設計のリアサスペンションと新型フレームのマッチングは素晴らしく、従来型なら確実に車体が振られるような状況であっても、車体は常に安定している。
特に従来型のリアサスペンションは、ショックユニットが直立しており、ライダーはサスペンションアッパーマウントの真上に座るようなレイアウトを採用していた。路面の継ぎ目やマンホールの出っ張りなど微細な凹凸でも常にコツコツとシート下からの突き上げがあり、大きなギャップを超える際には常に腰を浮かすか、来たるべく突き上げに備えるなどの心構えが必要だった。同じモデルを乗り継ぐほどR nineTを気に入っている筆者だが、このリアサスペンションについてはずっと不満があった。しかし、新設計のフレームとリアサスペンションは、路面のギャップを軽やかに受け止めて速やかに収束。これまでのようにギャップを目視しても構えることなくスロットルを開け続けられる。現在もなおリプレイスサスペンションを投入することを夢見るほど、リアサスをなんとかしたいと考えている筆者にとって、この乗り味の変化は、新型R nineTの最大の美点だと断言したい。
シフト・アシスタント・プロの採用も
走りを大きく変えた要素のひとつだ
フレームとリアサスペンションの進化は、特にストリートやワインディングでの走行において、従来型ユーザーの不満を解消する大きなトピックだ。それ以外にも新型R 12 nineTの試乗で筆者が感動したのが、クラッチ操作をせずともシフトチェンジが可能なシフト・アシスタント・プロの採用だった。
新型R 12 nineTのエンジンは前述の通り、従来型を踏襲しており、ユーロ5+への対応やカバー類の微妙な意匠変更など見た目ではほとんど同じ。しかしだ。他のBMW Motorradの大型モデル同様にシフト・アシスタント・プロが初搭載となったのだ。Sシリーズや水冷Rシリーズ、K&Fシリーズなど現行モデルのほとんどで採用されるこの機構が、まさかR 12 nineTに搭載されるとは想像もしていなかった。なぜなら、R 12 nineTの空油冷ボクサーがベースとしているのは、2007年に発表されたHP2 スポーツがベースである。基本設計が20年以上前のエンジンにそんなことが可能なのか……。しかしエンジニアたちはそれをやってのけた。しかも見た目にはアクチュエーターとシフトペダルをつなぐ長いロッドも確認できない。現場にいたエンジニアに話を聞くと、システム自体はミッションケースに内蔵しているという。従来型オーナーとしては「もしかしたらシステムとして後付けも可能なのか?」という期待を胸に尋ねてみたが、残念ながら後付けはできないとのことだった。
今回の試乗ではワインディングをメインに200kmほどを走行した。4-5-6速をメインで使用する超高速ワインディングから、3速までしか使わないような超タイトなワインディングまで、速度域の異なるステージを存分に走った。シフト・アシスタント・プロは特に3速から上のギアを使うシーンでは非常に有効だ。シフトアップ・シフトダウンともに、現行のスポーツモデル同様に素早く・確実な変速を可能として、よりライディングに没頭できる。ブリッピングしてからギアを落とし、コーナーへアプローチする……そんな一連のリズムが身についていると最初こそ戸惑うが、慣れればクラッチレスのシフトチェンジは超快適だ。これまで同様のニュートラルなハンドリングに最先端の装備が加わったのだから、面白くないはずがない。
ただ、3速から2速、1速へ落とすような状況では多少注意が必要だ。ギア比は従来型同様のため、極端な高回転域からシフトダウンすると、一瞬リアタイヤがホップしそうな挙動を見せることがある。もちろん、BMW Motorradが誇る最新世代のDTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)とエンジン・ドラッグ・コントロールの恩恵もあって、そんな挙動は瞬時に収まる。とはいえ、基本設計の古いエンジン&ミッションにこうした最新のテクノロジーを盛り込んでくれたことはR nineTファンにとっては歓迎すべきトピックだろう。信号ダッシュや高速道路での加速で息継ぎなしのスムースなシフトアップを快感とともに楽しめるシフト・アシスタント・プロは一度使えば病みつきになる装備なのだから。
コンセプトを保ったまま進化
まだまだ空油冷ボクサーは生き続ける
R nineTやR 12 nineT、R18シリーズのようなヘリテイジモデルは、頻繁にモデルチェンジを繰り返す車両ではない。しかし、現代となっては古典的とも言える空油冷ボクサーがこの先どれだけ生き延びることができるのか、気になっているファンも多いはずだ。この10年、15年で数多くのバイクメーカーが空冷エンジンに見切りをつけて水冷化に踏み切った。しかしどうだろう、BMW Motorradといえば、空油冷エンジンをやめるどころか、R 18の大型ボクサーエンジンを新規で開発し、R nienTもR 12 nineTとして現代の規制に適合させた。いわば、いま空冷エンジンに一番のこだわりを持つブランドはBMW Motorradとなったのだ。
今回、空油冷ボクサーエンジンの開発担当者に将来的な展望を率直に尋ねてみると、
「我々はこの先も空油冷ボクサーエンジンを新たな環境規制に適合させることができる。君の心配はわかるが、大丈夫だ」
そんな答えが返って来た。場当たり的な規制対応というよりも、さらにその先を当たり前のように見据えている自信。言葉の節々からそれを感じ取ることができた。現にR 12 nineTは従来型同様の排気量1,170ccをキープしたまま。既存のR18シリーズをはじめ、新たに発表されたR 12 nineT/R 12の空油冷ボクサーエンジンを、我々はこれからも心配せず楽しむことができる。空油冷ボクサーファンにとって、これほど嬉しいことはないだろう。
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BMW Motorrad R 12 nineT(2024) 詳細写真
最高出力109馬力(80kW)、最大トルク115Nm、排気量1,170ccの空油冷ボクサーエンジン。エンジンカバーの意匠が微妙に変更された。従来型とヘッドカバーの互換性があるか開発担当者に尋ねたが、内部が微妙に違うとのことでカバー類の互換性はない。
1ピースフレームとなった新車体。従来はシリンダー上で分割されていた。フレームの変更に伴って、従来はタンク右側下に配置していたエアスクープも廃止に。エアスクープはシート下に配置された。インテークマニホールド上部にある大型の丸いノブは、リアサスペンションのプリロードアジャスターだ。跨ったまま回せる親切設計である。
ややスクエアに近づいた燃料タンクはアルミ製。上質なクリア塗装を施しつつ、アルミ地肌の質感も残している。容量は16L。
ラジエーター両サイドの樹脂カバーとエンジン前側のカバーは新デザイン。写真中央上方に見える樹脂製のフタはヘラーソケット。ユーロ5モデルではヘラーソケットが廃止されてUSB-Aソケットのみとなってしまったが、ヘラーソケットが復活。
その逆サイドにはUSBケットを備える。ただ、ヘラーソケット含めて従来ソケット類はシート真下に設置されていた。スマホなどに使用する分には問題ないが、電熱ベスト等を使う場合、この配置では若干使いづらいかもしれない。そんな意見を開発担当者に率直にぶつけてみたが、新型リアサスやエアボックスのレイアウトの都合上、ソケット類はこの位置になった、と。
スマートフォンとのコネクティビティに対応した3.5インチのTFT液晶ディスプレイが初登場。画面は小さいが情報は整理されており見やすい。従来のような砲弾型のツインメーターもオプションで用意されている。
TFTディスプレイの採用に伴い、左側のグリップにはマルチコントローラーが初採用に。また、グリップヒーターのスイッチが従来の右側から左側へ移動。さらにヒーターも従来の2段階から3段階に変更された。従来の2段階では、厳冬期ではヒーターの効きがイマイチだったので、このアップデートは嬉しい。スイッチが左側へ移動したことで使い勝手が格段に向上したのも嬉しいポイント。
新たにキーレスライドを採用したことで、右側のスイッチにはイグニッションボタンが追加された。ミラーホルダーのSOSは日本未導入のエマージェンシーコール(緊急時の通報システム)。なお、ハンドルロックは従来型のイグニッションキーの位置(タンク上面前方)に設置。
アルミ製テーパーバーを採用するコックピット。ポジションは従来通りのように感じる。軽い前傾姿勢となるが、ロングツーリングも問題なくこなせるリラックスポジションだ。
従来型を踏襲しながら新デザインとなった2本出しのマフラーはクロームメッキ済み。サウンドは非常にやわらかく、音量は適度に抑えてある。賑やかなサウンドを好むライダーには物足りないかもしれないが、長距離の走行では音によるストレスも軽減されて疲れづらい。また、早朝や夜間に閑静な住宅街でエンジンをかけても迷惑にならない程度だと感じた。
リアサス変更に伴ってパラレバースイングアーム本体は形状が変更されているが、ファイナルドライブについては従来型同様に見える。ただし、表面の処理は変更されて、従来のツヤありブラックペイントからリンクルペイントのようなざらざらとした表面に。
シリンダー上部にはR 12のエンブレムが取り付けられている。これはR 12 nineT / R 12両車に装着される。
スポークホイールは新デザインとなり、チューブレス化を果たした。スポークエンドは通常の丸型ではなく台形上で、マウント部のデザインを含めて、カスタムアピール度も高い。オプションでゴールドアルマイト仕様のほか、キャストホイールも用意されている。
シフト・アシスタント・プロを初採用したR 12 nineT。他のモデルのように、チェンジペダルから伸びるロッドのようなものは確認できない。シフター機構自体はミッションケースに内蔵されている。目立たないが新型モデルの大きな特徴のひとつだ。
新しいリアサスは大きくレイダウンされて、外観からはほぼ見えない。ボトムエンドにはリバウンドの調整機構を備える。
S1000RR譲りのフロントフォークは調整機構付き。スポーツ嗜好のライダーには嬉しい装備だ。
テールランプは新形状のLEDに。
ヘッドライトは従来型同様にアダプティブ機構付きのフルLEDだが、内部のリフレクターの一部がブラックアウトされて、見た目の印象はずいぶん異なる。
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