【BMW Motorrad M 1000 XR 海外試乗記】S 1000 XRにMモデルの高性能をプラス
- 掲載日/2024年05月14日【試乗インプレ】
- 取材協力・写真/BMW Motorrad 取材・文/土山 亮
BMW Motorrad M 1000 XR(2024) 特徴
第3のMモデル、それはマン島TTでデビューした
近年のBMW Motorradは、四輪のスーパースポーツブランドBMW Mのフィロソフィーを盛り込んだMモデルを相次いでリリースしている。S 1000 RRベースのM 1000 RR、S 1000 RベースのM 1000 R、そして第三のMモデルとして登場したのがS 1000 XRベースのM 1000 XRである。
長距離を高速で駆けぬけるハイスピードツアラーとして誕生したS 1000 XRをベースに、BMW Mが誇るハイパフォーマンスを惜しげもなく投入したモデルとして2023年の5月に発表されたM 1000 XR。そのデビューの舞台は、世界でも有数の歴史を誇る公道レースマン島TTであった。
マン島TTのレースウィークのエキシビジョンとして、近年のTTでS 1000 RRやM 1000 RRで数多くの勝利を挙げてきたBSB(ブリティッシュ・スーパーバイク選手権)のライダー、ピーター・ヒックマンがM 1000 XRでマウンテンコースをデモラン。このプロモーションによってM 1000 XRは初めてその姿をあらわしたのだった。いったいなぜマン島TTの舞台なのか。もちろん、TTが同系列のエンジンを搭載するM 1000 RRやS 1000 RRが活躍するレースであるという点もひとつ、そしてTTが欧州各地からレースを楽しむために多くのライダーが集まる場所でも知られているという点も大いにあるだろう。彼らの多くはヨーロッパ本土から海を渡り、往復1,000km以上の道のりを走ってマン島へやってくる。そんな旅にフィットする車両がM 1000 XRであるということをTTの舞台でアピールしたのだ。
BMW Motorrad M 1000 XR(2024)のスペックや仕様を見る>>
BMW Motorrad M 1000 XR(2024) 試乗インプレッション
圧倒的なパワーと安定感
最高出力201馬力を12,750rpmで発生するRR譲りの並列4気筒は、可変バルブタイミング機構BMW ShiftCamを搭載。さらにダウンフォースを発生させるMウイングレットなど、これまでのM 1000 RRやM 1000 R同様にWorldSBK(世界スーパーバイク選手権)のマシンからのフィードバックしたモータースポーツ由来の装備をふんだんに盛り込む。
一体なぜこうしたモデルが生まれたのか。それは欧州特有のモーターサイクルの楽しみ方がベースとなっている。今回、スペイン・マラガで開催された国際試乗会には、開発スタッフも参加。その現場で筆者はその真意をプロジェクトマネージャーに尋ねた。彼の地では日帰りや週末のツーリングでは高速道路を駆使しながら国境を跨ぎ、各地のワインディングを訪れるような旅は一般的であり、そうした旅をソロでもタンデムでも楽しむことが多いそう。そうしたことからXRのようなクロスオーバーモデルが誕生。その走りをさらに引き上げるためにM 1000 XRは生まれたというのだ。
試乗会のコースもそんな欧州のライダーの普段のツーリングを思わせるルートが取られた。一行はスペイン南部のマラガのホテルを出発してすぐに高速道路へ。小一時間ほど高速道路を走ったあとは、のどかな風景が続くカントリーロードへとマシンを走らせた。
まず高速道路で感じたのは並列4気筒エンジンの圧倒的なパフォーマンスだ。M 1000 XRのエンジンモードはRain/Road/Dynamic/Race/RaceProが用意されているが、ストリートではRoadモードでも十分すぎるほど速い。Dynamicモードに至ってはさらに過激で常に緊張感を強いられるほどレスポンスも鋭く、初めて乗るとその感覚に身体を慣らすことが必要だ。また、バーハンドルを採用するアップライトなポジションながら、S 1000 XR同等のフェアリングを採用することもあってその防風性は極めて高く、上半身を大袈裟に伏せることなく200km/h 超の速度域でも走れてしまう。そうした超高速域でもMウイングレットの恩恵か、直進安定性はずば抜けていて、腰高な車体ながら常に車体は路面を捉えて乗り手は確かな接地感を常に感じることができるのだ。
ワインディングでの走りは超シャープ
でも常に安心感がある
平均速度が100km/hを超えるような、日本ではまず体験することができない高速ワインディングに入ると、M 1000 XRはまた別の一面を覗かせる。4-5速のまま走り抜ける高速コーナーでも、2-3速を多用する中低速コーナーでもハンドリングは極めてシャープだ。初めてM 1000 XRを目の前にしたとき、シート高850mm、前後のサスペンションストロークは185mmとかなり腰高な印象を持った。しかしワインディングに入ってすぐに、M 1000 XRはスーパースポーツモデルやスポーツネイキッドのようにきわめてシャープなハンドリングを持っていることに気がついた。
DDC(ダイナミック・ダンピング・コントロール)を採用する最新世代の電子制御サスペンションは走行モードや路面状況に合わせて最適な減衰力を生み出すというが、BMW Motorradが誇るDTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)との組み合わせも相まって、ブレーキングから加速まで常に車体は安定しており、ハイペースの走行でも常にタイヤがしっかりと路面をつかんでいることを体感できる。ハイペースになるほど接地感は大切なインフォメーションのひとつなのだが、日本とはまったく異なるハイスピードでの走行となるワインディングにおいて、そうした感覚をしっかりとライダーにもたらしてくれるM 1000 XRは、スロットルを開ける楽しさを教えてくれる。
またMモデルだけに採用されるMブレーキのフィーリングが素晴らしかったことも付け加えておきたい。試乗するまでは、モータースポーツ向け、サーキット向けのレーシングキャリパーなのでは? という印象もあったが、筆者のように腕に覚えがないライダーであってもとてもコントロールしやすい。レバータッチも良いし、ブレーキの効き始めから制動力が強まるまでの感覚を掴みやすく、最新世代のABSとの組み合わせもあって、コーナーリング中でも思い切ってブレーキングができるので、初めて出掛けるようなワインディングでは特に大きな安心感につながる。実際、今回の試乗では、自身久々の右側通行のワインディングとあって、コーナーの曲率を読み間違えて、バンク中に何度かフロントブレーキを強くかける状況に陥ったが、問題なくコーナーをクリアすることができた。
余談だが、普段の筆者はワインディングでも腰を落としたりせず、リーンウィズorリーンインで楽しむのが常で、サーキット走行の経験もほとんどない。こう書くと、いかに筆者が一般的なライダーであるかはご理解いただけるだろう。でも、そんな筆者のような乗り方であってもM 1000 XRは十分に楽しめたのだ。BMW Mモデルというと、どうしても超ハイスペックで、腕に覚えのある玄人向けモデル……そんなイメージをついつい抱いてしまいがちだが、M 1000 XRに限っていえば決して臆することはない。リラックスしたポジションで乗れるクロスオーバーモデルとあって、現行Mモデルでは最もフレンドリーで使い勝手の良いモデルではないだろうか。
Mモデルの存在意義
今回の試乗では150km近くをマラガ近郊のワインディングで過ごした。アップライトなポジションゆえに、小柄な筆者でも疲れづらく、アイポイント(視点)が高いことで、初めて訪れるワインディングでも見通しが利き、より安全にコーナーへとアプローチできる。もちろん、コーナーを攻めることに疲れたら、ライディングモードをRoadやRainにしたり、クルーズコントロールを使ってスロットル操作をサボったっていい。M 1000 XRは、BMW Mの冠を持つ超スパルタンなモデルだが、常にその鋭い牙を剥いているわけではない。BMW Motorradがこれまで熟成してきたクロスオーバーモデルS 1000 XRの良さを引き継ぎながら、Mモデルの高性能をプラスしたハイブリッドなモデルなのだ。
快適性や安全性を決して犠牲にせず、世界でも屈指のハイパフォーマンスをいつでも引き出せる—これこそが四輪を含めたBMW Mモデルの真髄だと筆者は考えている。そういった意味では、現行Mモデルの中では、長距離ツーリングからサーキット、街乗りまであらゆるシチュエーションで最も使い勝手が良いモデルがM 1000 XRだと断言できる。
BMW Motorrad M 1000 XR(2024)のスペックや仕様を見る>>
BMW Motorrad M 1000 XR(2024) 詳細写真
フェアリングのデザインはS 1000 XR同様だが、サイドカウルにMウイングレットが装着されるほか、グラフィックなどはM 1000 XR専用。今回の試乗車はカーボンパーツ等のオプションパーツを多数装着するM パフォーマンスパッケージ。
最大出力201馬力は伊達ではない。サーキットではフルにそのポテンシャルを堪能できるだろう。とはいえ、BMW ShiftCamを搭載することもあって、低速時から必要十分なトルクを発生しており、街乗りでも非常に扱いやすい。
MパフォーマンスパッケージではAkrapovic製のサイレンサーを標準装備する。中・高速域では迫力のサウンドを楽しめる。
マルチコントローラーで各種メニューを操作するのはBMW Motorradの他のモデル同様だ。クルーズコントロール、DTCのセッティングボタンも左側スイッチボックスに装備。もちろんグリップヒーターも標準装備している。
フェアリングサイドにカーボン製のMウイングレットを装備。100km/hから効き始め、220km/hでは12kgものダウンフォースを発生させる。
シートハンプにMロゴが刺繍で入る。シートスポンジは手で押すとそれなりに硬めなのだが、実際のライディングではとても快適。250km程度の走行でお尻が痛くなることはなかった。
モード切り替えボタンは右側のスイッチボックスに配置。
Mパフォーマンスパッケージでは、アルミ削り出しのMレバーキットが標準装備。タッチもよく、調整機構も充実している。
6.5インチのTFT液晶モニターは日中での視認性も抜群だ。RRなどのように、最大バンク角を表示できるタコメーター中心の表示モード(写真)も備えている。
左右レバー同様に多彩な調整機構を持つMライディングステップキットを装備。標準装備のシフターの出来は秀逸で、アップシフトからダウンシフトまでスムースかつ確実な変速が可能。ワインディングから街中、高速道路まで、BMW Motorradのシフト・アシスタントProは非常に使いやすい印象だが、それはM 1000 XRでも同様だ。
Mパフォーマンスパッケージで標準装備されるMエンデュランスチェーンとMカーボンホイール。
BMW Motorrad M 1000 XR(2024)のスペックや仕様を見る>>
関連する記事
-
S1000RR鈴鹿8耐参戦記【英語】
#04 Finishing the ‘Suzuka 8hours’
-
試乗インプレッション
S1000R(2014-)
-
S1000RR鈴鹿8耐参戦記【英語】
#01 Our fate: ‘Suzuka 8hours’
-
S1000RR鈴鹿8耐参戦記【英語】
#03 Finally! Right before the race.
-
試乗インプレッション
S1000XR(2015-)
-
S1000RR鈴鹿8耐参戦記【英語】
#02 Construction of the ‘Suzuka 8hours’machine
-
試乗インプレッション
S1000RR(2010-)