VIRGIN BMW | 【BMW Motorrad F900GS 海外試乗記】エンジン、車体、電子制御において大幅アップグレード! 試乗インプレ

【BMW Motorrad F900GS 海外試乗記】エンジン、車体、電子制御において大幅アップグレード!

  • 掲載日/2024年07月09日【試乗インプレ】
  • 取材協力・写真/BMW Motorrad  取材・写真・文/土山 亮

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BMW Motorrad F900GS(2024)
BMW GSシリーズの中核をなす、F-GSシリーズ。並列2気筒エンジンを搭載するFシリーズが2024年モデルから大幅なグレードアップを遂げた。オンロードからオフロードまで、その実力はいかほどのものなのか。スペイン・マラガにて試乗をおこなった。

BMW Motorrad F900GS(2024) 特徴

トータルで14kgもの軽量化を実現

新型F900GSは従来型のエンジンをベースとしながらも、排気量を従来の853ccから895ccにまで拡大。さらに車体や電子制御においても従来モデルを凌駕するアップデートが敢行されている。特に車体については、燃料タンクやリアセクションを完全に新設計するなど、トータルで14kgもの軽量化を実現するとともに、エルゴノミクス(人間工学)に基づいてライディングポジションをさらに最適化させることで、軽快な走りとオフロードでの走破性をさらに高めるべくアップデートが施されている。それが新型モデルのハイライトだが、以下に主要部のアップデートについて記述したい。

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まずはエンジンだ。並列2気筒の895ccエンジンは、最高出力77 kW (105 hp)で従来モデルよりもピークパワーが10hp上乗せされるとともに、トルク特性も見直されている。電子制御についてはDTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)をはじめABS Proなどいずれも最新世代にアップデートされた。

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車体については軽量化を念頭に各部が新設計されている。燃料タンクは材質を従来のスチールから樹脂に変更してタンク重量を4.5kg軽量化。さらに新設計のシートフレームで約2.4kg、アクラポビッチ製のサイレンサーの採用で約1.7kgの軽量化を図る。こうした各部の軽量化の積み重ねで車体全体で14kgの軽量化を実現した。そもそも、ボクサーツインのGSモデルと比較して、スリムで軽量なGSとして別路線を歩んできたF―GSシリーズだが、今回のアップデートによってそのキャラクターはより明確なものになったと言える。

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BMW Motorrad F900GS(2024) 試乗インプレッション

試乗前に悩んだシート高

地中海を望むスペインのリゾート地マラガのホテルから試乗へ。この日の予定は午前中にオンロードを、午後にオフロードタイヤを履く車両に乗り換えてマラガ近郊のダートを走るというもの。

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午前8時、今日の相棒となるマシンが貸与された。オンロードコースでの試乗に用意されたのは、日本導入のないイエローのカラーリングのF900GSだ。これまでにない派手な色合いのF 900GSは外装を含めてシャープなデザインに映った。と同時に、小柄な体格の自分にはそのシート高の高さに多少たじろいでしまった。周りを見渡してみると、一部の小柄なライダーたちはBMW Motorradが用意したローシートに付け替えている。この時点で純正のシート高を選ぶか、ローシートを選ぶかをひとしきり悩む。が、最終的にはローシートはチョイスせず、ストックのシートのまま試乗することを決断した。その理由は2つある。

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筆者の身長は162cm。ストックのシート高870mmでは足つきはご覧の通り。ただし、シート幅やフレーム幅が抑えられていることもあり、停止時にとっさに腰をずらす、という動作はやりやすい。

まずひとつ目に、本来の設計思想を体感するためにはストックのシートが良いと考えたからだ。そもそもF900GS発表時のプレスリリースに目を通した際に、“エルゴノミクスに基づいてシートとハンドル、ステップが形作る「トライアングル」の設定に相当に気を配った”という旨の記述があったことを覚えていたからだ。ここでローシートに交換してしまうと、設計チームが何を理想として新型モデルを生み出したのかがボヤけてしまう。新型モデルを試乗する上で、まずそれだけは避けたかった。

そしてもうひとつ。これまでBMWを含めてローシートやローダウン仕様の車両に数多く試乗した経験があるが、往々にしてその印象がまったく良くなかったからだ。ローシートはシートスポンジが薄く、長距離での疲労も溜まるし、車両によってはシートのエッジに太ももが突き刺さるような痛みを伴うこともある。そんな思いをするくらいなら、たとえ足つきに難があったしてもスタンダードのシート高を選びたい。そして、先ほどの話に通じるが、シート座面だけを下げると着座位置が下がり、相対的にハンドル位置が高くなるだけでなく、フットレストと座面の距離が近づくために膝の曲がりもキツくなる。結果的に「おかしなポジション」で乗ることを強いられてしまうのだ。仮にそんな状態でローダウン仕様のサスペンションが組まれていると、設計陣が当初思い描いたであろう本来の走りを確かめることなど到底無理なのだ。

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体格とシート高、そしてポジション。恵まれた体格ならいざ知らず、決してそうではないライダーは、基本設計と自身の乗りやすさのどちらを優先するかを天秤にかけなければならないジレンマを抱えている。ただ、BMW Motorradは現行モデルのR 1300 GSにおいて自動で車高を調整するオートレベリング・サスペンションを採用したことはご存知の通り。F900GSはより軽量でスポーティな走りを目指したモデルとあって、こうした機構は搭載していないが、R1300GSの装備を見る限り、こうした点について今はメーカーもしっかり考えてくれていることは歓迎すべきポイントである。

いざ試乗へ。エンジンはさらに扱いやすくなった印象

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すっかり前置きが長くなってしまったが、午前中のオンロード試乗は、マラガの海沿いのホテルを出発して高速道路での走行を経てワインディングへ向かうルートが設定された。前述の通り、高いシート高に一抹の不安を覚えていた筆者ではあったが、ホテルから高速道路へ向かう間に、停車して足をついた回数は数回のみ。というのも、交差点のほとんどは信号のないランナバウトのため、ほとんど止まらずに走れるのだ。高速道路へ入るまでの間、街中を少しだけ走行したが、30-40km/hほどの速度でも並列2気筒エンジンは低速から必要十分なトルクを発生している。

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以前に試乗した並列2気筒Fシリーズは、中速域以降の吹け上がりやパワー感に非常に満足していたが、こと低速域についてはもう少しトルクが欲しいと思う状況も多く、低速の渋滞路やダートではエンストを起こしやすい一面もあった。が、新型F900GSではかつてのようなネガティブなポイントは消え失せているように感じた。このフィーリングなら午後のダートでも安心して楽しめそうだ。

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流れの早い高速道路に入る。アベレージは140km/h超、というところだろうか。周囲にはさらにハイスピードで走る車も多い。F900GSの純正スクリーンは適度な高さで防風効果も十分。このまま半日以上高速道路を走るのなら、もう少し高さのあるスクリーンの方が良いとは思うが、着座位置の高いシートと極端に面積の大きくないスクリーンの組み合わせによる見晴らしの良さは爽快だ。高速道路では、ライディングモードを一通り試してみたが、従来モデルよりもフィーリングの違いがより明確になり、Dynamicモードのアグレッシブなレスポンスが特に際立った印象だ。

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30分ほど高速道路を走ったのち、いよいよワインディングへ。街と街をつなぐ郊外のカントリーロードはアベレージスピードもかなり高く、速度が3桁を超えることもしばしば。BMW GSシリーズの中核をなすモデルとして、オフロード走行もしっかりと見据えたF900GSは、フロントフォークのスプリングトラベルは230mm、リアのスプリングトラベルは170mmと、そのストロークも十分である。しかし、ストロークにゆとりがあるがゆえに、ワインディングのようなシチュエーションではサスがどんな動きをするのか試乗前にはかなり気になっていた。

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しかし、いざハイペースでワインディングを走行してみると、過度なピッチングはほとんどない。DyanmicESAのような電子制御を用いていないにも関わらず、車体の軽さ、ブレーキのタッチと効き、サスペンションの動き、そのどれもが上手く作用していて、オンロードスポーツバイクに乗っているような感覚だ。実際、同じチームで走行したジャーナリストたちは筆者が想像していた以上の超ハイペースでワインディングを駆け抜けている。

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視点が高く見通しの効くポジションでワインディングを駆けぬけるのは実に爽快だ。シフト・アシスタントProを搭載しているので、変速の際にクラッチレバーの操作も不要。最新世代のABSは、バンク中にフロントブレーキをかけてもなんの不安もない。事実、何度かコーナーの曲率を見誤って、フロントブレーキをかけながらラインを修正することがあったが、そんな時にも一切の不安もなく安心してフロントブレーキを強くかけることができる。

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ハンドリングはニュートラル。と言っても、思った以上にシャープな走りを楽しめる、というのが正直な感想だ。オンロードでのハンドリングはタイヤの銘柄でも大きく変化するが、それ以前にフロント21インチの大径ホイールでのワインディング走行がこんなにも面白いものだったのか、と思えるほどワインディングの走りは楽しい。前傾姿勢のロードスポーツバイク顔負けの速度域でもリラックスしたままコーナーに飛び込んでいけるほどよく曲がる。前後の荷重を意識しながら……などという小難しいことは一切考えずにコーナーリングを楽しめるF900GSは、どんなレベルのライダーでも下道のツーリングを楽しめるバイクだ。仮にオンロードユースをメインにF900GSを購入しても後悔はないだろう。

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オフロードへ繰り出す

午前中のオンロードでの試乗を終えて、郊外のレストランでランチを楽しんだ後は、オフロードタイヤを履いたF900GSに乗り換えて周辺のダートへ向かう。オフロード試乗用に用意されたF900GSはメッツェラーのカルー4を前後に履き、その見た目からも高いオフロード走破性を期待させるものだ。

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オフロード試乗の印象を語る前に、まずみなさんにお伝えしておきたいこと。それは、筆者はオフロードライディングのエキスパートではないということだ。どのくらいのオフロード経験があるかというと、これまで雑誌等の企画でR 1200 GSや旧型のF 800 GS、F 900 GS、単気筒のF 650 GS Dakar等で林道走行の経験は一応あるが、毎年何度も林道に出かけるほどではなく、2年に1回くらいフラットな林道へ出かけるレベルだ。オフロードコースでのレース経験もほとんどなく、せいぜいファンライドレベルなので、いわば下手の横好き、そのレベルだ。

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事実、GSモデルを含む本格的なオフロードモデルでダートに繰り出すのは、約2年ぶりだ。今回のF 900 GSの試乗にはオフロードも組み込まれているとは聞いていたが、内心はかなり不安と緊張に支配されていたことも事実だ。

周囲のエキスパートライダーとは違い、1人だけかなりの緊張感を持ってランチポイントのレストランを出発した。走り出してすぐに先導が脇道にそれて、いきなりダート走行がスタート。車1台が通れるかどうかの細いダートは丘陵地帯の畑の間を抜ける爽快なルート。路面は硬い砂利道だ。ガレ場のような路面もなく基本はフラットダートという路面を快調に走る。ライディングモードはEnduroに設定。エンジンのレスポンスは鋭いが、筆者はトラクションコントロールをオンのままにして走っているので安心感は高い。前後のサスペンションは本当によく動き、大きな凹凸をクリアしても本当に乗り心地が良い。フロントにしてもリアにしても、不快な突き上げもなく、常にしなやかなサスの動きに感心するほど。

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ABS Proがもたらす安心感

途中長いストレートに差し掛かり、ペースが一気に上がる。見通しが良いとはいえ、ダートの直線で100km/h超のスピードを出すのはかなりスリリング。もちろんダートでそんな速度を出したのはこれが生まれて初めてである。しかし、最新の電子制御によってリアタイヤは常に路面をしっかり掴んでいることを実感させてくれる。最初こそ緊張感があったが、恐怖感は不思議と感じなかった。そしてオンロードでも体感したABS Proはダート路面でも安心してフロントブレーキを握れるほどライダーにやさしい。聞けば、今回のモデルからABS Proが最新世代へとアップデートしており、車速や車体姿勢などさまざまなパラメーターを監視する6軸制御になったという。実際、ガレ場のようなダートを下る際には、車速の調整にギアを使うことが多い筆者だが、F900 GSでは積極的にフロントブレーキを使うことができた。この安心感は大きい。

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筆者がBMWのGSで初めて林道に出かけたのは、静岡県で開催された第1回GSチャレンジだ。あの時はF650GS Dakarを借りて林道へ繰り出した。当時は林道に入る前にABSをオフに……それが当たり前だったが、今ではABSに頼り切ってダートを走る自分がいる。オフロード経験が乏しく、ダートでのブレーキングに不安を抱えているライダーは筆者だけではないだろう。しかし自信を持って言いたいのは、F900GSのABS Proはオフロードビギナーにとって、ダートライディングの面白さを教えてくれる素晴らしいテクノロジーであるということだ。

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車体をなるべく傾けずに、そして極力安全にクリアしたいオフロードでのコーナーリング。躊躇せずにフロントブレーキをガンガン使えることは、ライン取りにも余裕が生まれ、余計な緊張感を排除して走りに集中できる。前後ともしなやかに動くサスペンションはハードな路面でもライン取りに自由度をもたらすとともに、身体の疲労も抑えてくれる。ギャップで意図せず車体から突き上げを食うことも皆無だ。

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シフトアシスタントProで生まれるさらなるゆとり

しかも、F 900 GSにはシフトアシスタントProが装備されている。クラッチレバーの操作をせずに変速が可能なクイックシフターだ。これがまた頼もしかった。オンロードの走行では何気なく行うシフト操作も、緊張を伴うダート走行では経験が乏しいライダーほど色々と気を遣う。特にスタンディング時のシフトチェンジは、シッティング時と比べて手首とクラッチレバーの位置関係が不自然になりやすい。常に適切なポジションを取ることが難しいビギナーにとって、長時間のスタンディング走行で変速を繰り返して手首に違和感を覚えることもある。事実、筆者は過去の林道ツーリングで何度もそういう経験をしてきた。

そして、可能な限りライン取りと加減速だけに集中したい筆者のようなビギナーには、クラッチ操作ひとつが減るだけで随分と心に余裕がでるもの。今回、久々のダート走行を大きく手助けしてくれた装備としてシフトアシスタントProの存在はかなり大きかったこともまた事実だ。

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そしてもう一つ感心したのは、スタンディングをした時の下半身の収まりの良さだった。ハンドルとシート、フットレスト、この3点によるトライアングルをエルゴノミクスに基づいて再構築したという新型F900GSは、スタンディングのポジションをとった時に、下半身と車体の一体感がとても良い。両足を膝の内側で車体をホールドしやすく、ハンドルの位置も極めて自然な位置にある。

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膝やブーツの上端が車体のどこかに引っかかったりせず、スタンディングの状態で下半身が前後するような状況でも常に車体をホールドでき、フラットなシート座面はシッティングのまま腰を前後に動かすことも自然にできる。ビギナーレベルでそう感じるのだから、エキスパートライダーならこの車体の利点をいかして、よりアグレッシブで自由なオフロードライディングを楽しめるだろう。

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ダートライドのハードルを下げる最新のトラクションコントロール

並列2気筒のFシリーズで走るダート。前述の通り、これまでにも何度か経験はある。小柄な体格ゆえ、ボクサーエンジンのR-GSよりは気軽さはあるものの、エンジンの扱いには気を使う場面も多かった。というのも過去のモデルでは低回転域のトルクにやや心許ない部分があり、低速コーナーでクラッチの断続を行う過程で不意にエンストすることもあった。中回転以降は鋭いピックアップを見せるエンジンは、回す面白さがありつつも、一気に高回転まで回るので、ダート路面ではそれがピーキーに感じることもあった。自分が思った以上にエンジンが回り、その結果としてリアが大きく振られる。ただ、年を追うごとに飛躍的な進化を見せるDTC:ダイナミック・トラクション・コントロールによって、そうした扱いづらさは減り、今回のF 900 GSでもそれは大いに感じ取ることができた。

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今回の試乗中、ダートでチョイスしたライディングモードはEnduroモード。DTCはダート路面に最適な介入をおこなうモードだ。Enduro ProではABSやDTCの介入度合いをライダーの好みで調整可能だが、筆者のライディングスキルでは一切不要だと判断してほぼこのモードで走った。

最新世代のDTCの何が良いか。それは、どんなスロットル操作に対しても、常に確実なリアタイヤのグリップを得られることだ。たとえば、スタンディングを強いられる急勾配の上りのガレ場。リアの荷重が抜け気味でリアタイヤが地面を引っかきやすい状況だと、リアが大きく振られたり、空転によって極端に車速が落ちて車体が不安定になりやすい。そんな状況でもF 900 GSのDTCは確実に路面を捉え、そして車体も暴れず、登坂に必要な駆動力が確保されていることを乗り手は体感できる。それは車速が乗った状態で通過する大小のギャップでも然り。そのフィーリングはこれまで以上に自然だ。

あらゆる状況下で車体を確実に制御できるエキスパートと違い、時にラインを読み間違ってアウトに膨らんだり、避けたかったはずの大小の石を避け切れずにそのまま乗り越えてしまったり……。ビギナーの場合はそんなちょっとしたミスで車体姿勢や自分のライディングポジションを大きく崩してしまうこともよくある。しかしDTCのようにトラコンが優秀であれば、不意にスロットルを開けすぎてしまったとしてもリアが大きく暴れることはない。常にマシンを確実に前進させるトラクションを得られる安心感は、ダート走行においてとても大切な要素だ。F 900 GSはそれを高いレベルで実現し、誰もがその恩恵に預かることができる。

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上の写真は、撮影ポイントで撮影してもらったもの。試乗コースの途中では各国のジャーナリストたちのライディングシーンを撮影するポイントが設けられている。ここは、硬いダート路面の上に数cmほどの砂が堆積している100mほどのストレート。見ての通り、それなりに滑りやすそうな路面だ。各国のジャーナリストたちはここぞとばかりにDTCの介入を少なくして、リアを流してファンライドを楽しみ、その豪快な走りをカメラマンに撮らせていた。もちろん、筆者は安全第一でEnduroモードのまま走行。

ただ、この日一番のチャレンジとして、可能な限りスロットルを全開にしてみた。体感としてややリアが左右に振られる感触はあった。が、それにパワーを喰われて失速することもなく、そして危険なスピンを起こすこともなく、マシンは確実に前へ進み、気がつくと左右の振れは収束している。何度やってもそれは同じだった。その後撮影してもらった写真を見ると、リアタイヤの軌跡はほとんどフロントと同じだったことに驚いた(本当はもっと派手にスライドしている写真にしたかったのだが……)。そこで撮られた20枚ほどの写真を見ていると撮影カットによって、リアタイヤがタイヤ1本分ほどの幅で左右にスライドしているレベルだったのだ。結局、本人が全開だと思う開け方でもそれほど車体はしっかり制御されていたのだ。

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その後、フカフカのサンド路面で再び撮影をおこなった。そこでは、DTCの介入を減らす、または切る、そんな指示をスタッフからされたので、素直に従って走行。しかし、DTCの介入が少なくなるほど、ライダー自身のスキルが試されてくる。残念ながら、筆者のレベルでは思うように車体をコントロールできず、1-2回の走行で再び元の設定に戻すことを選択する羽目になった。ブレーキングでリアを流したり、スロットルのコントロールでパワースライドを誘発して向きを変えたり、そんな走りを思いのままに楽しめるライダーにとって、Enduro Proモードは最適なモードであり、特にクローズドエリアではオフロードライディングの真髄を味わうことができるだろう。しかし、腕に覚えのないライダーにとっては、いかに安全・確実にダート路面をクリアするかが大切だ。そうした意味で、F 900 GSの最新世代のDTCとライディングモードは、あらゆるレベルのライダーが自分なりの走り方を実現できるテクノロジーだ。

環境にもライダーにも優しい走り

近年は世界的に環境保護意識が高まっている。貴重な林道でファンライドを楽しむなら、林道の路面にも配慮は必要だ。意図せずスロットルをワイドオープンにしてしまっても、リアタイヤの空転を最小限に抑えて駆動力に変える。それは、無駄に路面を掘り返さず、安全かつ確実なダートライディングが可能なことを意味している。新型F 900 GSの制御は、ライダーにフレンドリーなだけでなく、環境負荷をも軽減してくれるものだと筆者は考える。

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オフロードビギナーとして多少の不安を抱きながら繰り出したF 900 GSでのダートライド。最新の電子制御とエルゴノミクスを駆使した車体は、オフロードライディングのハードルを大幅に下げながら、安全性も走破性も確実に向上している。ただ、勘違いしてはいけないのは、自身のライディングスキルが上がったわけではないということだ。自身のレベルをわきまえた上で、ある程度の自制心を持った上で乗る必要がある——今回の試乗ではずっとそんなことを思いながら走っていた。それほどまでに、F 900 GSの走りと機能は洗練されているのだ。

BMW Motorrad F900GS(2024) 詳細写真

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オフロード試乗に使用したF 900 GS。今回の試乗では全車がメッツエラーのカルー4を装着。14kgもの軽量化に成功した車体は、特にリア周りが軽快になった印象だ。

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排気量894ccの並列2気筒エンジンは105馬力(77kW)を8,500rpmで発生する。低速域でも充分なトルクを発生していて、街中はもちろんダートでも扱いやすさが際立つ。

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左グリップにはマルチコントローラーを装備。オンボードコンピューターやEnduro Proでの各種DTCやABSの介入の調整などは直感的に操作できる。ライディングモードについては右側グリップのスイッチでおこなう。

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ブレーキペダルはオフロードブーツにも対応しており、先端の高さを可倒式で変更可能。

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リアサスペンションはZF製のアジャスタブル。荒れた路面でも非常にしなやかな動きが印象的だったが、舗装路での乗り心地も良好だ。

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滑りづらく、前後の移動もしやすいシート。燃料タンクの形状ともあいまって、シッティング、スタンディングともに車体とライダーの一体感はすばらしい。

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6.5インチのTFT液晶ディスプレイを備えるコックピット。ハンドルガードは金属製のパイプと樹脂ガードを組み合わせるタイプ。ハンドルは、ハンドルバー・ライザーを介して高さが24mmアップされている。

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アクラポビッチ製のマフラーの排気音は適度。高回転まで回すと迫力のサウンドを奏でる。サイレンサーの形状もF 900 GSのデザインに合うスポーティなもの。

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フロント21インチ、リア17インチのアルミ製リムはもちろんクロススポーク仕様だ。φ45のフロントフォークはSHOWA製の倒立式。搭載するBMW Motorrad ABS Proは最新世代である。

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燃料タンクの容量は14.5L。ヘッドライトを含めて灯火類はすべてLEDを採用する。ヘッドライトの搭載位置もステアリングヘッドにかなり寄せてある。見た目の軽快さ以上に走りの軽さにも拘っていると感じる部分だ。

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