BMW Motorrad R nineT Urban G/S(2020) / 現代のGSシリーズとは一味違うアーバンGSをインプレ
- 掲載日/2020年08月24日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad 取材・写真・文/小松 男
現代の空冷ボクサーエンジンを用いて、
歴史に残る名車「R80G/S」をオマージュした一台
地球というフィールドを相手とし、モーターサイクルの可能性を一台に凝縮したアドベンチャーモデル、BMWモトラッド「GSシリーズ」。その始祖的存在として今も語り継がれる名車がある、それはR80G/Sだ。R80G/Sは1980年に登場する。G/Sというイニシャルはゲレンデ・シュポルトを意味しており、その文字通り山野など起伏にとんだ地形であっても走破できるモデルとして開発されていた。
その後一時ボクサーエンジンを搭載するRシリーズが製造されない時期があったが、1986年にはエンジンをリファインし、リアサスペンションにモノショックを採用したR100RSが復活し、GSシリーズもその波に乗り再生産されていくようになった。というのが、今から40年近く前の80年代の話だ。そのR80G/Sをリスペクトし、オマージュモデルとして作られたのが、Rナインティ アーバンG/Sだ。
Rナインティ アーバンG/S(2020) 特徴
都会に溶け込むモダンな雰囲気を持ち、
ひと目でソレと分かる個性が魅力
R80G/Sの伝説は、登場後すぐに始まる。というのも、世界一過酷なラリーレイドと呼ばれていたパリダカールラリーにおいて、R80G/Sをベースとしたマシンが81年から4年連続で優勝を遂げたのだ。この事実は世界中のデュアルパーパスモデルファンに広まり、R80G/Sは瞬く間に地位を確立したのだ。ここで注目したいポイントを挙げるならば、この後、GSシリーズは後継モデルを発表し進化してゆくわけだが、初代モデルであるR80G/S以降GとSの間に「/」を用いたイニシャルが使われることはなかった。その名は長年の時を経て、Rナインティ アーバンG/Sとして復活を遂げたのである。ここではそのRナインティ アーバンG/Sを紹介してゆくのだが、それにはGSシリーズのその後の流れと、ヘリテイジモデルとして登場したRナインティ登場の経緯という2方向を少し掘り下げて話さなければならないだろう。
GSシリーズは90年代に入ると4バルブボクサー、開発コードR259エンジンを搭載したR1100GSが登場し、さらにその後R1150GSへと排気量を引き上げるのと並行してオフロード走破性能をアップさせた仕様であるR1150GSアドベンチャーを追加させる。1100と1150でオンロード志向のキャラクターが強まっていったところに、冒険心を掻き立てるビックオフローダーも開発したというところだが、超大柄なボディワークは乗り手を選んだのも事実だった。
そこで登場したのがF650GSである。もともとファンとエンデューロを掛け合わせてファンデューロと呼ばれていたF650シリーズにGSモデルを作りあげ、しかもそれはパリダカで優勝を遂げ、兄貴分と同様に市場で支持されるモデルとなった。そして2004年に登場したR1200GSで爆発的なGSブームを巻き起こすこととなる。新型ボクサーエンジンを搭載し、超軽量化された車体により扱いやすく、まさしく地球相手のバイク遊びを楽しめる一台に成長したのだ。
F650系はパラレルツインエンジンとなりながらもGSを輩出してゆき、2010年代に入ると水冷ボクサーエンジンが開発される。その頃には世界中のGSライダーが競い合うイベント、GSトロフィーが開催されるようになっていた。そして現在もGS人気は衰えることを知らない状況である。
一方で次々とモデル攻勢を仕掛けるBMWモトラッドから新たにヘリテイジモデルとしてRナインティが2014年に登場する。実はこのモデル、出自を探ると2008年に行われたEICMA(ミラノショー)にある。GS人気の傍らWSBKに参戦するスーパーバイクS1000RRの開発、発表を進めていたBMWモトラッドは、モーターサイクルをカスタマイズする楽しみを持たせたモデルとしてコンセプトモデルLo Riderを出展していた。
その後Lo Riderの話はなくなったように思われていたが水面下で進められていた。5年後の2013年のこと、イタリアのコモ湖にて毎年行われている世界有数のヴィンテージカーコンクール、コンコルソデレガンツァ・ヴィラ・デステにてBMWモトラッド90周年を記念したコンセプトナインティを出展する。BMWデザインスタジオと世界的に著名なカスタムビルダーであるローランド・サンズが共同で作り上げたものであり、BMWモトラッドの往年の名車であるR90Sをオマージュして作られていた。
そして翌年市販版とも言えるRナインティが登場するという流れなのだが、Rナインティには数多くのカスタムパーツが用意され、自分好みの一台に仕立て上げるというカスタマイズする楽しさもウリとされており、これはLo Riderのコンセプトから通じていることだということが分かる。その後Rナインティはスクランブラーやレーサーなど派生モデルを投入し、2016年にはR80G/Sのパリダカでの功績を称えたオマージュコンセプトモデル、ラックローズが作られ、その市販バージョンであるRナインティ アーバンG/Sが登場したのだ。
Rナインティ アーバンG/S(2020) 試乗インプレッション
オールマイティーに見せつつ、
”可愛いだけじゃダメかしら?”的性格
前置きが長くなってしまったことを謝す。ただインプレッションを読んでいただく上でも、大まかにでも誕生までのストーリーを知ってもらいたかったのだ。R80G/Sの実車を知る私も、Rナインティ アーバンG/Sを目の前にすると、ポイントを良くつかんでデザインされていると感心させられる。特に丸型ヘッドライトに装着されたビキニカウル、アップセットされたフロントフェンダー、レッドカラーのシートは秀逸で、一目見ただけでR80G/Sをモチーフにしていると伝わってくるものである。フロント125mm、リア140mmのサスペンションストロークや、19インチと17インチのタイヤ径は、先に登場していたRナインティ スクランブラーと同等のスペックとされているが、日本仕様はクロススポークホイールが標準装備となり、オフロード色が強い。
エンジンをスタートし走り出す。長年作り続けてきた空冷ボクサーエンジンは、技術的に磨きこまれており、もはやポテンシャルを不足に感じることはない。それよりも歯切れの良いサウンドの作り方、低回転時のピックアップの鋭さには感心させられる。アップライトなポジションは、視界が広く込み合った市街地では大きな武器となる。スロットルワークだけでフロントは浮き上がろうとするほどパワフルなのだが、ASC(オートマチック・スタビリティ・コントロール)が作動し抑え込む。未舗装を走行する際など、あえてスライドやフロントアップをさせたいステージではABS&ASCはカットすることも可能だ。
市街地、高速、ワインディング、未舗装路と、使用を想定するステージを一通り走らせてきた。その結果感じたのは、どこであってもそつなく走るという印象だ。コンビニ散歩でもロングツーリングでも、過不足無くこなしてくれることだと思う。ただ乗って感じたのは、これはあくまでもRナインティ系統のモデルであり、GSシリーズではないということだ。
ヘリテイジモデルの中では一番長いというフロントサスペンションストロークだが、いざ走らせると、オフロード走行だけでなくオンロードであっても少ないと感じさせた。ただしこれはリアサスペンションのプリロードを緩めることで対応できた。ロードスポーツモデル的な走らせ方の方が楽しいが、前後のタイヤサイズや長めのホイールベースの関係からか、大きく減速しながらコーナーに飛び込んでいく場面で前後タイヤの回転差が生じ、フロントが切れ込んだ。そしてシートが薄いこともあり長時間乗っていると臀部に疲労感を覚えた。とはいえ、メーカーから数多くのカスタマイズパーツが用意されているので、自分好みの一台を作り上げるためのベースと考えればいい。ネガティブに思えてしまうようなことばかり挙げてしまったが、あくまでも意地悪な使い方をしたうえでのことであり、BMWモトラッドに対する愛情から湧き出る言葉だと理解していただきたい。それはRナインティ アーバンG/Sと共に過ごす日々において、もっと大きな点に気づいたことがあるからだ。
そもそもRナインティ アーバンG/Sは、ここ10年程続いているネオクラシックスタイルブームに乗ったうちの一台であり、ビンテージバイクを彷彿させるシルエットは親しみやすいものだ。さらにそれから10年程遡ると、実は自動車業界にその波の発端があったことが分かる。例えばローバー社からBMW社にライセンスが渡り開発されたニューミニやRRレイアウトからFFというまったく車体構成を変えながらも、古くから愛されてきたカブト虫スタイルを現代に蘇らせたフォルクスワーゲンのニュービートル、そしてフィアットの500(チンクエチェント)をオマージュしつつ最新のテクノロジーをもってして開発されたニュー500など、どれもその後のバイク業界の流れに続く、それではないだろうか。
さらにひとこと付け加えるならば、それらネオクラシックモデルのスタイリングというのは、老若男女を問わず幅広い層に受け入れられるものだ。Rナインティ アーバンG/Sは、街中をクルーズしているだけでも他からの視線を感じられ、これが”モテる”バイクであることが無意識的に伝わってくる。このバイクでもっとも秀でている部分は、キャッチーなスタイリングなのだと私は思う。
Rナインティ アーバンG/S(2020) 詳細写真
排気量1169cc、DOHC水平対向空冷2気筒エンジンを搭載。最高出力110馬力、最大トルク116Nmというパワフルなパフォーマンス。低回転に力を振った特性であり、ストリートでは快活な走りを楽しむことができる。
フロントタイヤサイズは120/70R19で、日本仕様はチューブレスタイヤを装着できるクロススポークホイールが標準装備となる。4ピストンモノブロックキャリパーは十分な制動力を持ち、さらにコントローラブル。
実のところ、本当の初代R80G/Sはこの形状のビキニカウルを標準装備せず、樹脂の黒いメーターカバーを採用していた。ただし限定販売されたパリダカモデルには、似た形状のビキニカウルやビッグタンクが装備されていた。
アップタイプのフロントフェンダーもRナインティ アーバンG/Sの特徴。フロントサスペンションはオーソドックスなテレスコピックフォークを採用。ストローク量は125mm。なお現行R1250GSは190mmだ。
シャフトドライブはBMWモトラッドの伝統的装備のひとつ。スロットルワークによるテールリフトを防ぐ、EVOパラレバー技術を採用している。リアタイヤは170/60R17で、前後ともにオフロードタイヤを装着できるサイズとなっている。
ステップペダルに備わる、ラバーパーツは脱着可能で、外すことでオフロードブーツでのグリップが向上する形状となる。シフトアシストは未装備。ミッションは6速となっている。
シンプルな丸型メーターを採用。ショート気味のギア比なので、タコメーターやシフトインジケーターは欲しいところ。写真で時計が表示されている部分はトリップメーターなどに表示変更が可能。その右側はグリップヒーターの強さが表示される。
他のモデルに採用されているジョグスイッチを持たないシンプルなスイッチボックス。ホーン、ウインカー、ハイロー切り替えとパッシング、そしてオフロード走行時のためのABSのカットスイッチが備わっている。
R80G/Sをイメージした赤いカラーのシートを採用。シート高は820mm。前方に向かって細身になるよう作られているので、スペックから考えるほど足つきは悪くない。両サイドのゼッケンプレートが似合っている。
マフラーはセミアップタイプのシングルサイレンサーを装着する。歯切れの良いサウンドは非常に心地よく、排気音にまでプレミアム感を求め、こだわりを持って開発をするBMWモトラッドの意識の高さを感じさせるものだ。
リアサスペンションはかなり立たされた格好で装着されている。ストローク量は140mmで、体重70kgの私は固く感じたため、プリロードを緩めたところ乗りやすくなった。
シートレールから延長する形でセットされたライセンスプレートホルダーに、LEDウインカー及びLEDテールランプも備わる。モダンな印象で、さらに視認性も高い。
シート下にはETC車載器が収められている。ユーティリティスペースと呼ぶにはコンパクトすぎるが、書類と多少の荷物なら入れておくことができそうだ。
燃料タンク容量は17Lで、リザーブは約3.5Lとなっている。二つのブルーカラーを使い分けたカラーリングで、R80G/Sのタンクをイメージさせるものとした。
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