BMW Motorrad R18(2020)試乗インプレ / ゲルマンのエンジン屋、技術力を見せつける
- 掲載日/2020年11月11日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad 取材・写真・文/小松 男
大戦前モデルをオマージュしつつ
史上最強のボクサーを生み出す
バイク好きでなおかつR18に興味を持ち、この記事を読んでいる諸兄には、もはや伝えるまでもないことであるが、そもそもBMWというブランドは四輪自動車よりも先にモーターサイクルの開発製造からスタートしている。その初号機であるタイプR32は、1923年のパリ・サロンにおいてデビューしており、そのR32に搭載されていたユニット『M2B15』はさらにそれより前の1920年に完成していたと言われている。
そう、現在もBMWのモーターサイクルで採用され作り続けられている水平対向2気筒エンジン、通称ボクサーエンジンは、今年で誕生100年を迎えたのである。そのような記念すべきアニバーサリーイヤーに登場したR18は、なんとボクサー史上最大となる排気量1802ccの新型エンジンが搭載されている。スタイリングは世界大戦前に作られていた頃のモデルをモチーフに纏められており、最新モデルでありながらも、どこか懐かしさを感じさせるものだ。そんな注目のニューモデルR18に乗り感じたBMWが受け継いできた伝統の本質的な部分をご紹介する。
R18(2020) 特徴
スマートでいながらもワイルド
カントリーでありながらシティ路線
イタリア北部にあるコモ湖のほとりで、毎年開催されているイベント『コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ』。世界各地で開催されているクラシックカーをはじめとした自動車やモーターサイクルの美しいデザインやスタイリングを披露し、競われるコンクール・デレガンスの中でもトップクラスのものとなっており、毎回世界中からファンが押し寄せる。多くのクラシックカーが並べられる一方で、BMWはこの会場において、コンセプトモデルやプロトタイプを発表してきた。例えば現在ラインナップにあるRナインティは2013年に「コンセプトナインティ」として、後にK1600Bとして登場した「コンセプト101」などがこの会場に展示されていたのである。
そしてここで紹介するR18も、2019年の同イベントにおいて「コンセプトR18」としてお披露目されていたモデルがベースとなっている。ただし、それよりも以前に開催された世界各国のカスタムバイクイベントにおいて、この新型ボクサーエンジンを使用したモデルを様々なカスタムビルダーが発表していたこともあり、一部のファンの間では、R18は満を持して登場したと思われている。
R18は1936年に登場したモデルR5をモチーフに作り上げられている。他であまり取り上げられないR5の話題だが、ここで簡単に説明しておこう。戦前モデルの多くはプレスフレームが採用されていたのだが、徐々にテレスコピックフォークの完成度が上がり採用されてくると、次はフレーム側がもたなくなり、細部の設計を見直し剛性力を引き上げたパイプフレームが使われ始めた。その最初のモデルがR5であり、高回転型のボクサーエンジンを搭載するスポーツモデルだった。大戦直前という当時の世界情勢の問題もあり、2年間という短命だったが、それでもおよそ2600台が販売されたというから、その人気の高さが伺える。
そんなR5にインスピレーションを受けて作り上げられたR18は、クルーザーモデルという位置づけとされている。そのクラシカルなスタイリングは、黒く引き締まった印象を受けるが、実際はかなり大柄でワイルド。懐かしい雰囲気を持ち合わせているものの実際はストリートに映える。そんな一台に纏められている。
R18(2020) 試乗インプレッション
右手の僅かな動きに反応し
けたたましく咆哮を上げるボクサー
初めてR18を目の前にしたとき感じたのは、かなり大柄だということだった。全長は2465mmあり、これは多くのクルーザーモデルの中でも長い、さらに全幅はミラーを含み950mmというスペック数値であるが、見た目からしてとにかく主張の強いビッグボクサーエンジンと、さらにサイドスタンドで立てられていると横方向にもかなり広がっており、けしてコンパクトとは言い難い体躯を持っている。系統が異なるので一概に比べるものではないが、同BMWモトラッドの中では、K1600Bとほぼ同じサイズとなっている。
車体に跨り、注目のビッグボクサーに火を入れる。1802ccの水平対向2気筒エンジンは大きなトルクリアクションを放ち、スロットルを軽くひねるだけで、車体を左右へと揺さぶる。現行Rシリーズに使われている水冷ボクサーの場合、このトルクリアクションを打ち消すことに成功し、それが話題となったものだが、逆に大きな反動を作り上げて、それをこのエンジンの味としてライダーに見せつけているかのようだ。
左手でクラッチレバーをしっかりと握った状態から少しだけ力を緩めるだけで、強大なトルクで前へと押し出し発進する。ライディングモードにはROCK、ROLL、RAINの3種類が用意されており、ROCKはダイナミック、ROLLはロードというモード設定となる。私は新型ビッグボクサーのパワーを堪能するせっかくの機会なのでなので、ROCKで走り出した。最高出力は91馬力とされており、スーパースポーツモデルの200馬力越えが一般的になってきた昨今、驚かないかもしれないが、そのパワーのすべてを低回転トルクに回しているので、強烈な加速感を味わえる。少しでもスロットル操作をラフにしようものなら、R18は配下にされることを嫌がる猛獣のごとくライダーを振り落とそうとしてくる。ライディングモードをROLLにすると、これが驚く程収まり、急に従順な反応をするようになる。
BMWの作り上げるモーターサイクルだととても感じるのはハンドリングであり、クルーザーモデルでありながらも、スポーティな走りも楽しめた。ただしライディングポジションがかなりワイドなため、上半身を積極的に使うことを求められたこと、バンク角も限られているため、ワインディングを攻めるとステップ先に装着されたセンサーが接地する場面もあったことを付け加えておく。
R18は1802ccもの大排気量を誇るボクサーエンジンを搭載しているということや、往年の名車をオマージュした美しいスタイリングなどで注目を浴びている現在ホットなモデルだ。これまでBMWはモーターサイクルでも4輪自動車でも多くの名機と呼ばれるエンジンを輩出してきた。このR18に搭載されるビッグボクサーはそれに恥じない魅力的なものであるし、きっと多くのライダーが憧れる一台となることだろう。実際にテストを行った結果素晴らしい一台に仕上がっていると感じた。ただ、ここから先、少々主観的な意見を踏まえて書かせていただきたいと思う。
BMWはR18にはライバルは不在だというかもしれないし、私もそれと同意見だ。ただしプレミアムクルーザーというセグメントとして考えると、北米大陸で生まれ育ったビッグブランドがあり、しかもそちらは最近ではR18よりも大きな排気量を誇るエンジンを採用している。R18ではシフトチェンジにシーソーペダルを採用しているが、最近のトレンドはシングルシフトレバーだったりもする。つまりクルーザーというジャンルだけに限って捉えると、R18はスタート地点なのかもしれない。それにしてもR18は本当によくできていて、我々の技術力をもってすれば、「こんな凄いバイクも作れるのですよ」と、言っているかのように思えたものだが、購入するライダーの顔が今一つ浮かばなかったのは何故なのだろうと考えてしまう次第だ。
これからの流れをイメージすると、R18をベースとしてカウルを装着したモデルや、ポジションを変えたモデル、またはバガースタイルのモデルなど、派生させてくることが予想できる(スクリーン&バッグを備えたR18クラシックは2021年導入の発表済)。それは90年代に登場したR1200CにはじまるBMWモトラッドのクルーザー攻勢をトレースせんばかりのものであり、車両そのものはどれも個性があり魅力的だったものだが、割と短い期間でその歴史を終えている。わざわざ新型エンジンを仕立ててきたということを考えると、長く作り続けることだと思うが、せっかくなので例えばビッグボクサーを搭載した超巨大GSのような、度肝を抜かれるようなモデルを一台でいいのでマーケットに送り出してほしい。
R18(2020) 詳細写真
BMW史上最大となる総排気量1802ccの空冷ボクサーエンジンはボアストロークを107.1×100mmとしている。最高出力は91馬力、最大トルクは158Nmと強力。トルクリアクションも大きく、存在感に溢れる心臓部となっている。
面発光LEDデイライトを備えるヘッドライト。オーソドックスな丸型ながらも、内部にはBMWのロゴや中央にプロペラマークを配置するなど、凝ったディテールを備えている。
フロントタイヤは、120/70R19サイズ。ブレーキキャリパーもしっかりとデザインされている。フロントフォークのキャスターが150mmと寝ていることもあり、抜群の直進安定性を実現している。
一気筒ずつ取り回し左右2本出しとされたエキゾーストシステム。エンド部分はフィッシュテールとされており、往年のクラシッククルーザーをイメージさせるシルエットを持つ。サウンドは歯切れがよく、独特なものであり心地よい。
リラックスしたクルージングをもたらすため、ステップバーではなく、フットボードタイプが採用されている。シフトチェンジはシーソーペダルが使われている。着脱可能なので、好みに応じてシングルコントロールにも変更可能。
全長2465mm、全幅950mm、車両重量345kgと巨大な体躯を誇るR18は、足つき性こそ良いものの、取り回しは気を使う。リバースが用意されており、スイッチを切り替えてセルボタンを操作することで後進することができる。
スイングアーム部分中央に配置されたリアブレーキキャリパー。オーセンティックなクルーザースタイルを上手く取り入れている。なお、リアサスペンションは外観上見えない位置に設置されている。
ボクサーエンジンと並び、BMWの伝統的装備の一つであるシャフトドライブが採用されている。シャフトエンド部分は、オープンタイプとされており、クラシカルなイメージを助長している。
クラシックな雰囲気を持つスチール製リアフェンダーには中央部にプロペラマークが備わり、そのフェンダーの先にライセンスプレートホルダー類が設置される。ブレーキ及びテールランプは、ターンシグナルケースに含まれている。
初回限定とされているR18ファーストエディションは、特別仕様のエンブレムとバッジ、各部のクロームパーツに加えて、伝統的な2本のピンストライプが施されている。なおスタンダードモデルとの価格差は42万9500円だ。
アップライトなライディングポジションをもたらす、ワイドなハンドルバー。全体的にブラックでまとめられたカラーワークに、メッキパーツが多用されており、華やかな雰囲気だ。
ライダーとパッセンジャー側でセパレートされた2ピースシート。ソロライドを楽しむならば、シングルシートにして楽しむのも良いだろう。シート高は690mmと低く抑えられているが、フットボードがあるために足は開き気味となる。
ワイヤレスキーが採用されている。脇のボタンを押すと物理キーが飛び出し、燃料タンクキャップの開閉や、ハンドルロックなどで使用することができる。
シンプルなシングルメーターを採用。下方の液晶部分に、回転計、オド&トリップ、時計、電圧計など、様々なインフォメーションを表示させることができる。
ライディングモード切替、メーター表示切替、トラクションコントロールカットなど、多くの操作系統が左側のスイッチボックスに集約されている。なお右手側にはイグニッションオン、セルスタート、グリップヒータースイッチなどが備わる。
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