BMW Motorrad R1250RS (2019-)/ジェントルでありながら、猛々しいキャラクターの新型R1250RS
- 掲載日/2019年08月28日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad 取材・写真・文/小松 男
伝説のイニシャル「RS(レン・シュポルト)」を
今につなげるBMWモトラッドの王道的存在
4気筒エンジンを搭載するスーパースポーツモデル、小型車両に使われる単気筒、さらに並列2気筒や、スクーターなど、ここ十数年の間に、BMWのモデルラインアップの幅は一気に広がったため、以前よりも薄れてしまったが、それでも”BMWと言えばボクサー(水平対向2気筒)エンジン”だ。と考えている人も多い。車体の左右にシリンダーヘッドが飛び出したエンジンレイアウトは、いつの時代もBMWの象徴的なスタイルであり、王道だ。
そのボクサーの中でも、R69SやR90Sなど強いキャラクターを持ち、後世に名を遺すモデルが存在する。1976年に登場したR100RSもまたしかり。世界初採用とされたフルカウルは、巨大かつ独特な形状を持ち、見る者の脳裏に焼き付いた。アウトバーンを有するドイツという地が生み出したハイウェイスターであり、当時のBMWの代名詞となったモデルである。そして今夏、RS(レン・シュポルト)のイニシャルを現在に繋げるニューモデル、R1250RSが日本に上陸した。最新ボクサーエンジンを搭載し、リデザインされたR1250RSの中身を探る。
BMW R1250RS(2019-)特徴
最新ボクサーエンジンが備えるポテンシャルを
いかなんなく引き出すことのできるアスリート
ここ最近BMWが作り出すモーターサイクルには、おおむねスポーティな味付けがされてきた。それは過度なものではなく、旨み=心地よさとしてライダーに伝わるように絶妙なセッティングとされている。昨年末登場したR1250GS、R1250RTから搭載されているニューボクサーエンジン、これがまた完成度が高く、乗り手をワクワクさせる物となっているのだが、捉え方によっては”スポーティすぎる”と思える一面を併せ持っていることも事実だ。以前テストした際にはGS、RTが本来秘めている”ゆるふわ”キャラクターから、逸れて行ってしまいそうな気にもさせた。逆にRSやロードスターなどの、スポーツ志向のモデルであれば、さらにマッチングが良さそうだとも感じていた。そして今回登場したR1250RSに乗り、その予感は的中したと確信。ニューエンジンの話を皮切りに、R1250RSの本質に触れていきたい。
R1250RSの最大の特徴は前述したニューボクサーエンジンの搭載だ。従来モデルと比較し、約50cc拡大された排気量、そして可変バルブタイミング機構であるBMWシフトカムテクノロジーを採用している。BMWシフトカムについて、簡単におさらいをしておくと、カムシャフトに高速カムと低速カムの二つを用意し、5,000回転までを低速カムで、5,000回転を超えるかスロットル全開時に高速カムへと切り替わるものだ。構造的にはシンプルで難しいものではないが、これが”効く”のだ。
BMW R1250RS(2019-)試乗インプレッション
その性格はジキルとハイド
涼しい顔をしながらも、風を切り進む
ニューボクサーエンジンの話に焦点が寄せられがちだが、実車を目の前にすると、フロントマスクのデザインが変更されていることが分かる。従来モデルは左右非対称ヘッドライトを採用していたが、ニューR1250RSは、左右対称のLEDヘッドライトとされた。これは先だって登場したS1000RRのデザインに通じるものだ。しかしサイドパネルなど他の部分は変更されていない。
シート下に標準装備されるETC2.0にカードを入れ、イグニッションをオンにする。キーレスシステムが採用されているため、キーシリンダーに鍵を挿すという、ひと手間が省かれる。これが最新BMWの作法だ。跨った瞬間に気づくのは、ライディングシートの低さだ。国内で販売されるR1250RSはローシートが標準となっているのだが、BMWのバイクは、昔からステップ位置が高く、膝の曲がりがきつめに設定されていることが多く、それに輪をかけた格好だ。ただし、250kgという車重、さらにパニアケースを装着し荷物を満載にしたツーリングも想定していることも考えると、ローシートを採用したことによる高い足つき性は、オーナーに安心感を与えてくれるものだと思う。
ボクサーエンジンに火を入れ走り出す。6.5インチの高解像度TFTカラーディスプレイに表示される回転計は、走り出しは5,000回転台からレッドゾーンで表示しており、エンジンが温まるにつれレッドゾーンの表示位置が狭まっていき最終的には9,000回転からレッドゾーンとなる。些細なことだが、メーターディスプレイというのはライディング中、常に目に入る部分だ。なのでこういった演出がとても効果的だ。
排気量アップによる恩恵が大きいが、超低回転域から太いトルクがあり、とにかく乗りやすい。3,000回転程度でも充分なパワーを得られるため、3速固定のオートマチックライドという芸当が容易にできてしまう。クラッチレバーの動作が非常に軽く設定されている上、レバー操作を行わずともシフトアップ/ダウンができるシフトアシストプロを装備しているので、総じて非常にイージーにライディングできるのだ。BMWシフトカムの作動は非常にナチュラルであり、スロットルを心持ち開け気味にし、4~8,000回転域を使うように走らせれば、他に類を見ない極上のエンジンフィールを楽しむことができる。
やや垂角がつけられた左右セパレートのハンドルが採用されているが、ローシートによる着座位置の低さによって、キツイ前傾姿勢となることはない。どちらかというと飛行機の操縦桿を握っているようなイメージに近いかもしれない。そんなライディングポジションとダイナミックESAが備わった足まわりによる、高い旋回性能によって、この上なく心地いいコーナーリングを感覚を得ることができる。これぞボクサースポーツの真骨頂と思えるものだ。
レイン、ロード、ダイナミック、ダイナミックプロという4つのライディングモードから、シチュエーションに合わせて選択できるうえに、ダイナミックESAの細かいセッティングなどもできるR1250RSは、フルバンクさせるようなアグレッシブな走り方をしても優しく受け止めてくれ、ライダーに、安全でありダイナミックなライディングをもたらしてくれる。最高速300キロオーバーをたたき出すようなスーパースポーツ的な性能は持っていないが、トータルでのバランスが非常に高く、たぶん多くのライダーはスーパースポーツモデルよりも速く、快適に走らせることができることだろう。
R100RSにはじまり、R1100/1150RS、同系譜と呼べるR1200ST、そしてRSのイニシャルが復活したR1200RSと、ひと通り乗った経験がある私の意見としては、ニューR1250RSは、BMWイズムをしっかりと受け継ぎながらも、ツーリングスポーツとしての性能がさらに成熟したものだということだ。どのモデルも、時代に沿った最良の一台として感じられるものだが、R1250RSに乗って得られる感動は、ひときわ大きく、正直なところとても驚かされた。派手さはないが、道が続く限りどこまでも走っていきたくなるような気持ちにさせてくれるR1250RS、これがBMWの神髄であり、王道的なバイクなのだ。R1250RSに乗らずして、最新BMWを語るべからず、是非一度は触れてみて、BMWの世界観を感じ取ってほしい。
BMW R1250RS(2019-)詳細写真
ライダーとパッセンジャーでセパレートされた2ピースタイプのシート。日本仕様はローシートが標準とされ、シート高は760mm。購入する際には820mmのスタンダードシート、840mmのスポーツシートも検討したいところ。
クラッチレバー操作をせずとも、シフトアップ/ダウンを行うことができるシフトアシストプロを装備する。ミッションは6速、クラッチはアンチホッピング機能を備えた湿式多板となっている。
Rシリーズ伝統装備であるシャフトドライブ。パラレバーリンクにより、シャフトドライブ特有のリフトアップは感じられない。チェーンドライブで必要な給油の手間が無く、基本的にメンテナンスフリーだ。
R1250RSで変更されたポイントとして挙げられる6.5インチ高解像度TFTカラーディスプレイ。車両の状態、セッティングなど様々な表示が可能なうえ、Bluetoothでスマートフォンと連動することで、音楽や通話などの機能追加も可能だ。
トップブリッジ上に備わるマウントを介して設置されるセパレートハンドル。やや垂れ気味の角度がつけられているが、リラックスしたポジションを得られる。おなじみとなったマルチファンクションジョグダイヤルをはじめ、メニューボタンや、クルーズコントロールなど様々なスイッチが集約されている。
センタースタンドは標準装備となる。スタンドを立たせる際、若干重く感じたので、もしかすると今後、イヤーモデル単位でのブラッシュアップ(改善)が行われるかもしれないと考える。
昨年登場したR1250GS/RT以降採用されているニューボクサーエンジン。R1250RSとともにR1250Rもラインアップされ、これでRシリーズの既存モデルはすべてニューボクサーに変更されたことになる(空冷のR nineT系を除く)。最大トルク143Nm、最高出力は136馬力は、Rシリーズ全車共通の数値。
ダイナミックESAを備えたフロントサスペンションは、スタンダードなテレスコピック方式を採用。ニュートラルなハンドリングでありながら、路面をしっかりと捉える。ブレーキの制動能力、タッチは秀逸。
リアサスペンションは、ダイナミックESAを備えたモノショックを採用。ストロークセンサーなどを使い、走行条件や操作を常に監視、自動的にダンピングを調整する。ライダーの好みに合わせてセッティングすることも可能だ。
フロントスクリーンは2段階の可動式。手動だが、縁を掴んで片手でも操作できた。市街地やワインディングでは寝かせて、高速走行時は立たせることで、走行風を防ぐといった使い方ができる。
ヘッドライトが従来の左右非対称スタイルからシンメトリーなタイプへと変更された。ロー・ハイビームどちらにおいても照度が広く均一な光量を得られるフルLEDライトを採用している。
燃料タンク容量は18L、内リザーブは4L。スペック上の燃費は21.05km/Lとされており、燃料満タン時から、おおよそ300km走行で燃料ランプが点灯する計算となる。タンクキャップもキーレス仕様だ。
テールライトおよびウインカーもLEDを採用している。BMWの四輪車のアイデンティティである、キドニーグリルを連想させるデザインとなっている。
ライダー側のシート下はコンピュータが収まり、ほぼ余裕が無い。対してパッセンジャー側のシート下は、標準装備となるETC2.0に加え、多少のゆとりが持たされている。
パニアケースステーが標準で装備されている。オーナーになった暁には、是非ともパニアケースも備えて、BMWモトラッドならではの、ロングツーリングを楽しみたい。
鏡面仕上げのステンレスサイレンサー。オプションパーツとして、チタン製HPスポーツサイレンサーも用意されている。BMWモトラッドのホームページ上において、両者のサウンドを比較することができる。
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