ワインディング、高速道路、市街地、サーキットで徹底試乗! S1000RR
- 掲載日/2017年02月13日【ステージ別徹底インプレ】
- Text / Tomohiko NAKAMURA Photo / Tomonobu FUCHIMOTO
※本記事は2016年発行BMW BIKES 74号別冊付録VirginBMWに掲載したものです。
デビュー当初は世間から懐疑的な視線を向けられたこともあった。だがしかし、市販開始から7年が経過して3代目に進化したS1000RRは、近年ではリッターSS市場をリードするモデルと呼ばれているのだ。
世間の懐疑的な意見を一掃した、速さと優しさ
2008年にプロトタイプが発表されたとき、S1000RRの登場を心から歓迎したライダーは、決して多くはなかったと思う。その最大の要因は、既存のBMWとの関連性があまり感じられない、日本製SS:スーパースポーツによく似た構成にあったようだが、SBK参戦を宣言した同社の姿勢にも、当時は多くのライダーが違和感を覚えたものだった。
もっともこの時代のBMWは、すでにS1000RRに通じる資質を持つ第二世代のKシリーズを販売していたし、1970年代以降は距離を置いていたロードレースにも、徐々に積極的な姿勢を見せ始めていた。とはいえ、日本車が長きに渡って王座に君臨して来たSSとレースの世界に、日本車と同様のアルミツインスパーフレーム+並列4気筒エンジンで挑むのは、普通に考えれば無謀である。
しかし、プロトタイプの発表から8年が経過した現在、S1000RRに対する懐疑的な意見は、どこからも聞こえなくなっている。それどころか、サーキットやワインディングを速く走りたいなら、史上最高のSSが欲しいなら、“選ぶべきはS1000RR”という認識が、世界中で幅広く浸透しているのだ。
どうしてそんな大逆転劇、事前の予想を覆す大躍進が可能になったのかと言うと、それはもう単純に、S1000RRが日本車だけではなくイタリア車も含めた、既存のSSを凌駕する実力を備えていたからだろう。具体的な話をするなら、このモデルは圧倒的な速さに加えて、最新の電子制御技術を積極的に導入した結果として、BMWならではと思える優しさを獲得していたのである。
もちろん、速さと優しさの両立は昔からSS界の重要なテーマだったのだけれど、S1000RRの両立ぶりは、他社製SSとはレベルが異なっていた。その背景には、既存のR/K/Fシリーズで培った技術がある……と考えるのは、僕個人の勝手なこじつけかもしれないが、構造が日本製SSに似ていようとも、S1000RRはBMWらしさが存分に感じられるモデルなのだ。逆に言うなら、SSの世界でもBMW独自の理想を貫いたからこそ、S1000RRは既存のライバル勢とは一線を画する存在として、世界中で好セールスを記録しているのだろう。
近年では他社でも採用例が増えているクイックシフターだが、BMWが開発したシフトアシスタントプロの作動性は絶品。現行モデルはダウンとアップの両方に対応する。
ワインディング
未知の世界を体験できる驚異の動力性能
S1000RRのインプレを書くにあたって、僕は自宅にストックしている膨大な数のバイク雑誌の中から、歴代S1000RRに関する記事を拾い読みしてみた。以下に各誌の大まかな論調をまとめてみると、2010年に日本市場での販売が始まった初代では、“初めて手がけたリッターSSにしては大健闘!”だった表現が、2012年の2代目では“予想以上の大躍進。まさかここまで進化するとは……”に変わり、2015年に登場した3代目に至っては、日本車を完全に差し置いて、リッターSS界の主役にしてベンチマーク扱いである。
初代に感銘を受けた僕にとって、この評価はちょっと意外だったものの確かにS1000RRの完成度は2015年型で格段に上がっている。具体的には、初代と2代目で感じた荒っぽさが影を潜め、3代目は大型初心者でも気軽に乗れそうな友好性を身に付けている。4輪の世界でよく使われる、最新の○○こそ最良の○○という表現が、僕は好きではないのだが、少なくともこのモデルに関しては、最新=最良なのだろう。
さて、そんなS1000RRの資質が公道で最も満喫できる場面と言ったら、大小のカーブが続くワインディングだ。今回の試乗で僕が最もありがたみを感じたのは、クラッチ/アクセル操作が不要で、簡単かつ確実なギアチェンジが行えるシフトアシストプロだが、それ以外の電子制御、レーシングABSやトラクションコントロールといった安全装備にも支えられながら、圧倒的なパワーを発揮するエンジンと絶大な剛性を誇るシャシーを堪能していると、自分のテクニックが向上したんじゃないか?という錯覚を起こしてしまう。もっとも、近年のリッターSSで一般的なワインディングを走ると、場合によっては飛ばせないストレスを感じることがあるのだが……。
S1000RRの場合、飛ばせないなら“それはそれで”といった感触で、適度にスポーツランが楽しめるのだ。もちろん、低中速域におけるスポーツ性では、Sシリーズの派生機種として開発されたRやXR、フラットツインのR1200RSやR、車体が軽量なFシリーズなどのほうが、僕としては充実感が得やすいと思うけれど、ごく普通のペースで走るワインディングで、S1000RRに苦痛を感じるかと言うと、そういう機会は意外に少ない。このあたりに対する考え方は人それぞれだと思うものの、僕自身はS1000RRに対して、SSらしかぬ守備範囲の広さを感じているのだ。
基本的にはサーキットでの空力性能を追求しているS1000RRのフェアリングだが、その恩恵はツーリングでも十分に感じられる。今回の試乗車は高さがSTD+約5cmとなるハイスクリーンを装着。
高速道路
ハイスピードツアラーになり得る資質
いまから半年ほど前に、旧知のベテランライダーから、「高速道路を一気にバビューンと走れるツーリングバイクが欲しいんだけど、最近のモデルで何かオススメはある?」という相談を受けた。この言葉に対して僕は、R1200RSやRT、さらには他社製スポーツツアラーの車名を挙げたのだけれど、そのベテランライダーは、「60代中盤になった自分の体力を考えると、重くて大きいバイクはそろそろキツいんだよ。俺としては、快適装備は特に必要ないからさ、車重が200kg前後で、とにかく速くて面白いモデルがいいなあ」とおっしゃる。そう言われて僕の頭にふと浮かんだのが、装備重量が204kgのS1000RRだった。
もちろん、S1000RRはツアラーではないのだが、このモデルの高速直進安定性はピカイチだし、前ページで述べたように守備範囲の広さはSSらしからぬレベル。純正オプションのハイスクリーンを装着すれば、ウインドプロテクションも必要にして十分になる(ノーマルスクリーンでも、胸から下には走行風がほとんど当たらない。フェアリングの設計が優秀なのだ)。荷物の積載性に関しても、純正オプションやアフターマーケット製のタンクバッグやシートバッグを装着すれば、どうとでもなるだろう。
唯一の気になる点としては、高速走行中の進路変更時に感じる車体の微妙な粘りが挙げられるものの、その印象は、縦置きクランクのジャイロ効果が進路変更に悪影響をおよぼさないRシリーズや、クランクの慣性力が少ない並列2気筒のFシリーズと、同条件で比較して初めて体感できるもので、S1000RRだけを乗っていて、違和感を覚えることはないはずだ。
このあたりを説明したところ、前述したベテランライダーは2ヶ月後にS1000RRを購入した。もっとも、最初のツーリングで前傾姿勢にツラさを感じたため、市販のキットを使ってハンドルをアップタイプに変更したのは、僕にとっては予想外で、「そんなことをすると前輪荷重が減って、本来の安定性が得られなくなりますよ」と言ってみたものの、ベテランライダーはまったく問題ないとのこと。まあでも、それはそうなのかもしれない。何と言ってもS1000RRの高速直進安定性は、300km/hオーバーの世界を前提に構築されているのだから。日本の高速道路をバビューンと走るぶんには、アップハンドル化によるマイナス要素が、大きくクローズアップされることはない……のだろう。
市街地
ライディングモードの恩恵を感じる
あらためて書くのも気が引ける話だが、S1000RRは市街地を重視したモデルではない。その思想が顕著に表れているのは、サーキットやワインディングでの運動性を前提にしたライディングポジションで、おそらく不慣れなライダーが市街地でこのモデルに乗ったら、十数分で腰や背中、あるいは手首や足首に何らかの違和感を覚えるだろう。
とはいえ、その問題を解消できるSSの経験が豊富なライダーなら、S1000RRで走る市街地は、特に不快ではないのである。そう感じる最大の原因は、絶妙の設定が行われたライディングモードで、もっとも穏やかなRAINを選択すれば、エンジン特性は滑らかで優しくなるし、セミアクティブサスのDDCは常に上質な乗り心地を披露してくれる。その従順さは、ある意味ではSS的ではない、という見方もできるのだけれど、現代のBMWが採用する電子制御は、マシンのキャラクターをガラリと替えてしまうほどの包容力を備えているのだ(サーキット指向のRACEモードを選択すれば、エンジン特性は過激かつシャープに、前後サス設定はハードになる)。
ちなみに、エンジン特性やサス設定などをボタン操作で簡単に変更できる電子制御は、昨今では他メーカーもどんどん導入しているのだが、ほとんど利用価値のないモードが存在したり、モード変更後の効果が分かりづらかったりする車両が少なくないなかで、BMW各車が採用する電子制御には、各モードに明確な“立つ瀬”が感じられる。このあたりは10年以上前から電子制御に積極的な姿勢を示してきた、BMWならではのアドバンテージと言えるだろう。
さて、今回のインプレではS1000RRの柔軟性に着目する文章が多くなったものの、SSとして開発されたこのモデルに、従来のBMW全車に共通する美点だった抜群の快適性や安心感が備わっているかと言うと、当然ながらそういった面での性能は他のBMWにおよんでいない。とはいえ、何よりもスポーツライディングの楽しさを追求するライダーにとって、S1000RRは最適な選択になるはずだ。何と言ってもこのモデルほど至れり尽くせりで、安心して飛ばせるバイクは、現在のSS界には他に存在しないのだから。
ライディングモードの切り替えは右側スイッチボックスのボタンで簡単に行える。冬場はグリップヒーターもありがたい装備。
CIRCUIT IMPRESSION
サーキットで問う“RR”の真価
Text / Tomohiko NAKAMURA Photo / Tomonobu Fuchimoto(Interview)、Toru HASEGAWA(Circuit)
Special Thanks / Motorrad Yachiyo
デビュー当初からサーキットで高い評価を受けていたS1000RR。このページでは豊富なレース経験を持つモトラッド八千代の原田伸也さんに、S1000RRを本気で走らせた際の印象を聞いてみることにした。
世の中には数多くのSSが存在するけれど、出荷状態でのサーキットにおける戦闘力が、S1000RRほど高く評価されたマシンは、過去に存在しなかったのではないだろうか。当ページに登場していただくモトラッド八千代の原田伸也さんも、そんなS1000RRの資質に魅了されたライダーの1人だが、豊富なレース経験を持つ原田さんの目から見ると、初代モデルの第一印象は、必ずしも良好ではなかったようだ。
原田伸也 Shinya HARADA
1991~1998年の全日本選手権で活躍し、1995年以降はヤマハ製レーサーの開発にも携わった原田伸也さんは、超がつくほど豊富な経験を持つ元レーシングライダー。モトラッド八千代に入社したのは2013年で、同年にはS1000RRで鈴鹿8耐に参戦している。
「僕が初めて乗ったRRは、旧知の高田速人君が2010年に乗せてくれた鈴鹿8耐用のレーサーですが、少なくとも車体に関しては、まだまだ熟成の余地があると思いました。でもエンジンに関しては、初代から圧巻でしたね。レース用キットパーツを組み込まない、吸排気系に手を加えただけの状態で、ここまでの速さを発揮するのかと。2ストで育った僕の目から見ると、4ストはモサッとした印象を受けることが多いですが、RRのレスポンスと速さには2ストを思わせる感触がありました」
そう語る原田さんが、初めて本気でS1000RRを走らせたのは、2013年3月にもてぎで行われた全日本選手権で、同年7月にはチームトラス135として鈴鹿8耐にも参戦。
「この年は2代目を走らせましたが、僕が最も驚いたのは、初代で感じた車体に対する違和感が見事に解消されていることでした。フロントを低くした結果として初代より接地感が大幅に増しているし、リアのトラクションも良好になっている。なんて素早い対応なんだろうと。それで気をよくして走っていたら、少なくともセミワークスレベルのマシンとは互角に戦えるし、場面によってはワークス勢に追いつけることもあった。サクっと言いましたけど、これってスゴいことです。日本製SSを普通に買ってそのレベルの性能を手に入れるには、膨大なチューニング費用が必要になるわけですから」
2014年以降はレース活動を休止している原田さんだが、最近は同店のお客さんとともにサーキットに出かけ、最新型=3代目S1000RRを走らせる機会が増えているそうだ。
「2代目も素晴らしかったですが、3代目はさらにその上を行っています。特に洗練が進んだのは電子制御で、DDCやDTC、シフトアシスタントプロなどは、一般的なライダーがサーキットを走るうえでは、ものすごく有効な武器になるでしょう。改めて考えると、ひと昔前は最高出力が199psのリッターSSなんて、安易に人には薦められなかったですけどね、ライダーを優しくサポートしてくれる最新のRRなら、初心者からベテランまで、あらゆるライダーにオススメできる。いずれにしてもRRの進化は、選手権レベルのレースを戦うライダーだけではなく、サーキット初心者をも視野に入れて行われていると思いますよ」
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