VIRGIN BMW | 2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS” その2 ステージ別徹底インプレ

F700GS & F800GS (2016)の画像
F700GS & F800GS (2016)

2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS” その2

  • 掲載日/2017年04月01日【ステージ別徹底インプレ】
  • Text & Photo / Ryo Tsuchiyama

WINDING

①F700GS

絶妙の舵角が
自信と安心感に直結

2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS”の画像

近年のBMWの中で、ワイディングが最も楽しめるバイクと言ったら、筆頭に挙がるのは現代的なディメンションや前後17インチタイヤを採用する、R1200RS/RやS1000R/RR、F800Rなどだろう。ただし僕としては、それらに勝るとも劣らない資質が、F700GSには備わっていると感じている。もっとも、同じ区間を何度も往復するような場合は、前述した現代的な構成のモデルのほうが有利な気もするけれど、ツーリングで遭遇する多種多様なワインディングを、あたかも勝手知ったる道のように、自信と安心感を持って走り抜けられるという点で、F700GSは侮りがたい実力を備えているのだ。

どうしてF700GSにそういった印象が抱けるかと言うと、僕としては、コーナー進入時に感じるフロントまわりの絶妙な舵角、遅すぎず早すぎずのスピードで切れ、乗り手を導くかのように方向性を示してくれる、フロント19インチタイヤが大きな役目を果たしていると思っている。同じフロント19インチを採用するR1200GSでも、同様の感覚は味わえるのだけれど、車重が軽くて車格感が小さく、前後タイヤが細いF700GSのほうが、自由度は高い。いずれにしてもF700GSには、コーナー進入時にフロントの舵角さえ決めてしまえば、そこから先はどうとでもなる感触が備わっていて、その感触は乗り手にとっての自信と安心感に直結する。だからだろうか、僕はこのバイクに乗ると、自分のライテクが向上したかのような錯覚を起こすのだが、それは何度味わっても心地いいのである。

とはいえ、僕がワインディングで感じたF700GSの美点は、見方によっては、“乗せられている感が強い”、“面白味に欠ける”などという印象につながることもあるようで、そういう意見に対して、これまでの僕は正面から反論したことはなかった。でも今回の試乗で改めてF700GSに感心した僕は、このバイクに異論を述べる人は、ツーリングの本質をわかっていないのではないか、と感じている。いや、そういう表現をすると上から目線みたいになってしまうのだけれど、F700GSの環境適応能力の高さ、どんなワインディングでもスポーツライディングが満喫できることの素晴らしさは、常にツーリングを念頭に置いているライダーでなければ、なかなか理解できないのかもしれない。

2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS”の画像
’08~12年型ではシングルディスクだったフロントブレーキが、ダブルディスクに変更されたのは’13年型から。この変更で絶対的な制動力が向上したことは言うまでもないが、タッチもかなり上質になった。

②F800GS

すべての反応が
ダイレクト

2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS”の画像

これまでに再三述べて来たように、F700GSとF800GSは、エンジンとフレームの基本設計を共有しているとは思えないほど、キャラクターが異なっている。当原稿ではその違いにスポットを当ててきたわけだが、大前提の話をするなら、どちらもツーリングが楽しいモデルで、F700GSほどの優しさや包容力は感じないものの、F800GSだって長距離走行は十分に快適。ただしやっぱり、ワインディングで感じるフィーリングは似て非なるもので、700が柔なら800は剛、700が受動的なら800は能動的という印象だった。

2台のF-GSでワインディングを走って、誰もが最初に感じる大きな差異は、路面の凹凸を通過する際のいなし方、衝撃吸収性だろう。言うまでもなく、この点については前後サスのストロークが長いF800GSのほうが優勢で、F700GSでは減速や進路変更が必要になる凹凸に直面しても、F800GSは何食わぬ顔でクリアして行ける。それに加えて、倒立フォーク+ゴツいステムならではのフロント周りの剛性の高さや、スロットル操作に対するエンジンの反応の良さ(昔ながらのキャブレターに例えるなら、700はメーカー純正の負圧式、800はレース用のFCRやTMRといった印象)、リアタイヤから伝わって来るトラクションの濃厚さなど、F800GSにはF700GSとは一線を画する資質が備わっていて、だからこそブレーキングやスロットルのオンオフなど、あらゆる動作を思い切って行いたくなる。

で、そうやって走っていると、身体の中ではアドレナリンが分泌されるようで、もっと飛ばしたい、ガンガン攻めたい、などという欲望も生まれて来るのだが、逆に言うならF800GSの面白さは、乗り手が能動的になって初めて味わえるものなのかもしれない。事実、乗り手が一歩引いた姿勢になって、適度にまったりしたペースで走ると、前述したF800GSの特徴は、そんなに大きなメリットではなくなってくるのだから。このあたりはなかなか表現が難しいところで、人によってはF800GSの装備や特性を過剰と捉えるかもしれないが、F700GSとは違った意味での包容力を感じた僕としては、どちらにも立つ瀬があると思っているのだった。

2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS”の画像
基本構成がF700GSと同じとは思えないほど、シャープでパワフルなF800GSのエンジン。ツーリングでの扱いやすさを重視するなら、2次減速比をちょっとハイギアードにしてもいいかもしれない。

OFFROAD

①F700GS

ローダウンでも感じる
GSの資質

2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS”の画像

今さら言うのも何ではあるけれど、今回の試乗で使った2台のF-GSは、現在の日本市場でSTDとなっているローダウンモデルである。もっとも足つき性に特化したローダウンモデルは、F-GS本来の動力性能が味わいづらくなっているので、今回の原稿は過去に僕が体験した標準モデル(16年型の日本仕様では、ハイライン/プレミアムラインが標準モデルに相当する)を前提にして書いているのだが、F700GSのローダウンモデルでオフロードを走った僕が、ちょっと驚いたのは、意外にイケる?と感じたことだった。

と言っても、標準モデルのサスストロークが前後とも170mmであるのに対して、ローダウンモデルはフロント140mm/リア130mmで、おまけにシートの肉厚もかなり薄くなっているので、残念ながら衝撃吸収性と乗り心地は良好とは言えない。それどころか、ムキになって飛ばそうとすると、ゴツゴツゴツ!という感触が手足に明確に伝わってくるので、走るペースはどうしたって上がらない。でもツーリングの途中で遭遇したオフロードに、背を向けたくなるかと言うと……。

まったくそんなことはないのだった。攻める、飛ばすという行為はさすがに難易度が高いものの、通過するだけなら余裕しゃくしゃくだし、気軽にオフロードに入って行けるという点では、車格が大きなR1200GSより上かもしれない。改めて考えてみると一般的なオンロードバイクの場合は、そもそもオフロードに入ってみようという意識が芽生えないのだが、F700GSはローダウンモデルであっても、GSシリーズならではと思える資質を備えているのだ。

もちろん、サスストロークが長い標準モデルであれば、オフロードの走破性はローダウンモデルよりずっと上である。とはいえ、F700GSで走るオフロードは、あくまでも通過が前提で、攻めたい、飛ばしたという欲望を持っているライダーは、F800GSのハイラインかプレミアムラインを選ぶべきだと思う。

2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS”の画像
F-GSシリーズのリアサスペンションはリンク機構を持たない直押し式で、ショックユニットのプリロードは工具ナシで調整可能。両機種に設定されるプレミアムラインは、電子調整式のESAを標準装備。

②F800GS

フロント21インチの
圧倒的な安定性

2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS”の画像

近年のオフロードレーサーのフロントタイヤは、いずれも21インチである。どうしてそうなったのか言うと、悪路における安定性と旋回性が最も高いレベルで両立できるからだが、2台のF-GSでオフロードを走ってみると、フロント21インチの優位性が如実に理解できる。

と言っても、F700GSが採用するフロント19インチだって、現代のオンロードバイクの基準である17インチと比較すれば、悪路に対応できる資質を備えているのである。でも21インチとはまったくレベルが違う。わずか2インチでここまで異なるのかと思えるほどに、2台の悪路走破性は異なっているのだ。

僕が考えるフロント21インチの最大の美点は、圧倒的な直進安定性である。フロント19インチのF700GSは、ある程度以上のスピードで悪路を走ると、路面の凹凸や砂利や岩などに車体が弾かれる場面に遭遇するのだけれど、フロント21インチのF800GSはそういった障害物を逆に弾き飛ばすかのように、頑として進路を譲らない。しかも、コーナーで車体を傾けて曲がろうとすると、細身で径が大きな21インチのフロントタイヤは(90/90R21。F700GSは110/80R19)、意外に軽やかに向きを変えてくれるし、その際にフロント周りに思い切って荷重をかけても、破たんしそうな気配は感じられない。このあたりの軽快感や安心感も、フロント19インチでは得づらいもので、F800GSでオフロードを快走している最中の僕は、“水を得た魚”という印象を抱いたのだった。

さて、フロント21インチに関する話が長くなってしまったが、ワインディングのページで述べた豊富なサスストローク(ローダウンモデルは前後とも190mmで、ハイラインとプレミアムラインはフロント230mm/リア215mm)やフロント周りの剛性の高さ、ダイレクトなスロットルレスポンス、トラクションのわかりやすさなども、F800GSの悪路走破性を語るうえでは欠かせない要素。これらの効果でF800GSは、どんなに路面が荒れていても確実に減速できる、アクセルを開ければキッチリとした反応が返ってくるという意識が持てるので、安心してオフロードランに没頭できる。なおワインディングでは、能動的な姿勢が必要と感じたF800GSだが、周囲の環境がさまざまな影響を及ぼすからだろうか、オフロードでは受動的な姿勢でまったり走ることも、なかなか楽しかった。

2016年型 F700GS & F800GS 徹底試乗“ザ・ミドルGS”の画像
2台のF-GSのキャラクターの差異を強く感じるフロント周り。F700GSがφ41mm正立フォーク+19インチホイールを採用するのに対して、F800GSはφ45mm倒立フォーク+21インチホイールを導入。
ピックアップ情報