F700GS(2017-)
- 掲載日/2017年03月10日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 文/山下 剛 写真/長谷川 徹
扱いやすさとファンライドを
両立したオールラウンドバイク
F700GSの起源は、BMWが1994年に発表したF650ファンデューロだ。
そのコンセプトは「道を選ばず、どこまでも楽しく走れること」で、大径フロントホイールと長いストロークを持つサスペンション、扱いやすくタフなエンジン、アップライトな乗車姿勢によって、街乗りからツーリングまで幅広いシチュエーションを気軽に走れるバイクである。同時に、BMWブランドに「親しみやすさ」という新風を巻き込んだ画期的なバイクでもあった。
2000年のフルモデルチェンジではオフロード走破性がさらに高められるとともに車名は「F650GS」となり、さらなる人気を獲得。とくに日本では「エフロク」と親しまれ、キャリア豊富なツーリングライダーが選ぶバイクの定番となった。
2008年に2度目のフルモデルチェンジを受け、エンジンは798cc水冷並列2気筒へと進化。当初はF650GSの車名を受け継いでいたが、その後「F700GS」へと改名されて現在に至っている。もちろんコンセプトは継承されており、手頃な車格と扱いやすくタフなエンジンによって、バイクの楽しさとツーリングの醍醐味を誰もが味わえる。
2017年モデルでは、スロットル制御にライドバイワイヤが採用されるとともに、排ガス規制値のユーロ4対応などの小変更が行われた。
F700GSの特徴
誰もが気軽にバイクの楽しさを
体験できるマルチパーパスバイク
普段のちょっとした街乗りから数日に渡るツーリングまで、路面がアスファルトでもダートでも快適に走ることができて、なおかつBMWならではの優れた安全性と快適性を備えるバイク。しかも、免許を取ったばかりの初心者でも気軽に運転できる。それがF700GSというバイクだ。
エンジンは798cc水冷並列2気筒で、最高出力は75psと十分なパワー。小さな交差点を曲がるときでも扱いやすく、高速道路をハイペースで走り続けるときでも頼もしい。とくに2017年モデルは出力特性が改良され、とくにUターンのような極低回転を使う場面での安定性が高められた。
砂利敷の駐車場や未舗装路、路面が激しく凹凸した古い舗装路といった不安定な道でも、19インチの大径フロントホイールと長いサスペンションが安定した直進性を発揮。カーブを曲がるときの安定性も高いから、小さな交差点でも不安がない。
そうした基本性能に加えて、ABS(アンチロックブレーキ)、ASC(トラクションコントロール)、ESA(電子調整式サスペンション)を装備しているのがF700GSの大きな特徴だ。ABSは咄嗟の急ブレーキでもタイヤがロックしないため、転倒の危険を大幅に軽減。ABSの効き具合にも唐突さや違和感はなく、安全に停車することができる。ASCは雨天走行時や砂利道など、滑りやすい路面状況でも安心して走れる。
ESAはサスペンションの特性を簡単に変更できるシステムで、乗り心地を3段階に調節できる。路面状況や積んでいる荷物の重さに合わせて、ボタンを押すだけで走行中でも変更できる便利な機能だ。
2017年モデルはABSを装備するスタンダード仕様と、ASCやESAその他を装備するプレミアムラインの2グレードが用意される。スタンダードはローダウン仕様となっており、765mmのシート高は足つきに不安がある人にオススメだ。
そして、2017年モデル最大のトピックは、プレミアムラインに「ライディング・モード・プロ」が装備されるようになったことだ。これはエンジン特性を3段階に調節できるもので、路面状況や走行ペースに合わせていつでも最適なエンジンパワーを選べる。また、排ガス基準値がユーロ4対応となり、サイレンサーはステンレス製の新デザインとなっている。
2008年の登場から熟成を重ねてきたF700GSは、そのコンセプトを着実に深めており、ますます乗りやすく、そして楽しいバイクに仕上がっている。
F700GSの試乗インプレッション
乗り手も道も選ばずバイクの楽しさを
味わわせてくれるマルチパーパスバイク
今回試乗したのはプレミアムラインで、ABS、ASC、ESA、ライディング・モード・プロを装備するグレードだ。この他にグリップヒーター、センタースタンド、パニアケースホルダーなどが装備され、オプションパーツを追加購入することなく、すぐにロングツーリングに出かけられる仕様になっている。
まずは乗車姿勢からみていこう。シート高は790mmで、一般的なオンロードバイクとしてはやや高めといったところだが、オフロードも走れるバイクとしてみるとかなり低めの数値。同行した編集者によれば、身長162cmのライダーでも両足が指の付け根まで着くので、足つきについての不安はほぼないレベルとのことだ。
車両にまたがったときの乗車姿勢にも違和感はなく、ハンドル、シート、ステップの位置関係のバランスは良好だ。
F700GSが本来持っている「乗りやすさ」は2017年モデルでさらに高められた。まず、走り出す瞬間の扱いやすさと安心感が大きく向上しているのだ。アイドリングのままクラッチをつないでいってもエンジンが停止する気配がなく、するすると発進できる。さすがに1,000cc以上の4気筒エンジンと比べると少し慎重になるものの、800cc2気筒エンジンの極低回転域のトルクとしては十分で、街乗りでの発進と停止が気楽だ。
これはダート走行でも効果的で、発進直後のエンストが大幅に回避されたことと良好な足つき性のおかげで、やはり気楽に停車できる。きれいな景色の場所に着いたとき、対向車を回避するときなど、不安なくバイクを停められるメリットはかなり大きい。バイクツーリングの楽しみがグンと広がる。
これはスロットル操作が、従来の金属ワイヤー式から電子制御式である「ライド・バイ・ワイヤ」に変更されたことによるメリットだ。排気ガス基準値をユーロ4に対応させることを主眼に採用されたものだが、スイッチを押すだけでエンジン出力特性とABS、ASCの効き具合を同時に変更できる「ライディング・モード・プロ」の搭載も可能にした。これがF700GSの乗りやすさと扱いやすさ、そして楽しさを大きく広げ、深めたのだ。
ライディング・モード・プロは、「ロード」「レイン」「エンデューロ」の3モードが用意されている。通常の街乗りやツーリングならロードにセットしておけば、F700GSの本来の性能を発揮できるし、ABSとASCも最適な効き具合で作動してくれる。
これは走行中でも操作でき、スロットルを戻すことで設定完了となるので、不意の雨でもバイクを停めることなくレインモードにセットできる。とはいうものの、液晶メーターを注視することになるので、あくまで緊急時の使い方としておき、通常は安全に停車できるところで操作するほうがいいだろう。
これから林道へ入るというとき、ライディング・モード・プロを「エンデューロ」にセットすると、スロットルの反応が穏やかになり、荒れた路面でもタイヤが滑りにくくなる。同時にABSとASCの効き具合も変更される。これらはオンロードタイヤを装着した状態を想定したセッティングになっているところが、さすがBMWといった妙を感じさせる。街乗りからツーリングにおいて、ほぼ9割以上の比率を占めるオンロードに合わせつつも、わずか1割に満たずともオフロードを走れることで広がる、バイクツーリングの醍醐味をきっちりとカバーしてくれる。
実際、ダート走行で「エンデューロ」にセットしてみた。スロットルの反応の変更はやや控えめなものの、4,000rpmあたりのトルク変動が穏やかになる。試しにスロットルを勢いよく全開にしてみると、リアタイヤが「ザッ」と音を立てて滑りはじめる挙動になるものの、それは本当に一瞬のことで、すぐさま燃料がカットされてリアタイヤが地面をしっかりとグリップする感触が戻ってくる。ABSも同様で、普段の舗装路と同じようにブレーキをかけてもABSがスッと効いてくる。たとえ初めてのダート走行であっても、その不安の大部分を消し去ってくれそうだ。
電子調節式サスペンションのESAは、ボタンを押すだけでリアショックのダンピング特性を変更するシステムで、「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」の3段階から好みを選べるものだ。乗り心地はコンフォートが柔らかく、スポーツだと硬くなる。コンフォートならまたがったときの沈み込みが大きいので、足つきに不安があるときにも役に立つ。逆に、キャンプツーリングなどで多くの荷物を積んでいるならスポーツにしておくと、重量の増加による乗り心地の悪化を防ぐこともできる。それを工具もなしで、ボタンひとつで変えられるのはとても便利だ。
最新の電子制御テクノロジーと熟成されたエンジン、そしてシャシーによって、F700GSはコンセプトをさらに深め、誰もがバイクのおもしろさを味わえるモデルとなった。ビギナーに最適なのはもちろんだが、その乗りやすさはベテランも納得できる仕上がりだからセカンドバイクにもいいだろう。あらゆる人がいかなる道も楽しめる、まさしくマルチパーパスなバイクだ。
F700GSの詳細写真
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