R1200RS(2015-)
- 掲載日/2015年06月11日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 取材・写真・文/山下 剛
RS の称号を持つスポーツツーリングモデルが
伝統を受け継いで 12 年ぶりの復活を遂げた
『RS』の称号がつけられた最初の市販車は、1976年登場の『R100RS』だ。その後、R1100RS、R1150RS とモデルチェンジを重ねてきたが、R 1200シリーズ登場時に『RS』の称号はなくなり、R1200ST が事実上の後継モデルとなった。
しかし R1200ST は初期型のみでラインナップから消え、ボクサーエンジンが DOHC、水冷と進化を続けながら GS や RT のモデルチェンジを繰り返していくなかでも再登場することはなかった。
2014年秋、イタリアのミラノで開催される『EICMA』にて、水冷ボクサーエンジンとテレスコピックフロントフォークを組み合わせたスポーツツアラーとして『R1200RS』が発表された。R1150RS の生産終了から数えると、実に 12 年ぶりの復活となる BMW 正統派スポーツツアラーである。
『RS』とはドイツ語の『Renne Sport』に由来している。レーシングスポーツといった意味であるが、もちろん R1200RS はレーシングマシンではない。そこに込められている意味は、近代 BMW の象徴的モデルである『R100RS』へのオマージュであり、伝統の継承といえるだろう。
R1200RSの特徴
RT よりも軽く、Rよりも快適にクルーズできる
BMW 伝統のスポーツツーリングモデル
排気量 1,169cc 空水冷水平対向2気筒エンジンは、先行モデルである R1200GS/RT などと同様のユニットで、同時開発された R1200R にフェアリングを装備したスポーツツーリングモデルといえる。
大きな特徴は、フロントサスペンションにテレスコピックフォークを採用している点だ。R1200GS/RT に採用されるテレレバーサスペンションよりも部品点数が少なく軽量にできることもあり、R1200RT と車重を比較すると R1200RS が 236kg、R1200RT が 274kg とその差は 38kg と非常に大きな違いとなっている。また、R1200R が 231kg であり、フェアリングなどによる重量増がわずか 5kg に収まっている点にも注目したい。
R1200RS の日本仕様はフルオプションとなっており、電子制御サスペンションシステム『ダイナミック ESA』、トラクションコントロール『DTC』、エンジン出力を変化させる『ライディングモード Pro』、クラッチ操作なしにシフトアップ/ダウン操作が可能な『ギアシフト・アシスタント Pro』を標準装備している。ABS やグリップヒーター、オートクルーズ、マルチコントローラーを装備するほかに、キーレスライドシステムも備えている。
さらにトップケースマウントを兼用するリアキャリア、パニアケースステー、BMW 純正ナビゲーション専用マウントホルダー、センタースタンドも標準装備される。さしあたり追加購入が必要なのはトップケースとパニアケースくらいのものだろう。
ハーフタイプとなるフェアリングはアッパーカウルとサイドカウルで構成され、BMW ならではの優れた空力性能を持つ。デザインは洗練されたもので、ダイナミックさと繊細さを両立させており、形状の美しさも目を引く。2灯式ヘッドライトは左右異型が採用され、S1000RR の系譜となるデザインとなっている。
BMW Motorrad 公式ウェブサイトでは S1000RR と同じカテゴリーに分類されているが、もちろんサーキット走行を意図したモデルではなく、あくまでスポーツ性能を高めたツーリングモデルという位置づけである。RT よりも軽量で、Rよりも快適な巡航性能を持つスポーツツアラー、それが R1200RS だ。
R1200RSの試乗インプレッション
BMW の中心的存在になりえる
卓抜した安定性と軽さを持つモデル
まずはキーレスライドシステムから注目していこう。リモコンキーを携帯していれば(効果範囲は約 1m)、車両本体のスイッチを押すことでイグニッションがオンになるもので、スイッチは従来のキーシリンダーと同じ位置に設置されている。ハンドルを左に切った状態でスイッチを長押しすることでハンドルロックが可能だ。また、給油口もキーレスとなり、ノブを引き上げるとロックが解除される。なお、給油口についてはスイッチオフから約2分間はリモコンキーがなくても開けることが可能となっている。
R1200R とは異なり、ハンドルにはセパレートタイプが採用されており、ハンドルポジションはやや低めだ。しかし日本仕様に装着されるローシートの効果によって、グリップ位置が相対的に高くなるため、ライディングポジションは前傾姿勢とはならず、上半身にはゆとりがある。
低回転域のトルクが強化されたとのことだが、体感ではそれほどの違いは感じられなかった。しかし、慣らし運転が済んでいない車両だったにもかかわらずエンジンの回転フィールは非常にスムーズかつ滑らかで、ツインエンジンでよく語られる “鼓動感” は希薄だ。振動のカドが研磨されたまろやかさが心地よく、BMW らしい味つけが強調されている印象だ。
今回は首都高速と都内一般道での試乗となったが、走行フィールの印象は「高次元の安心感と快適さ」だ。フェアリングによる重量増は R1200R と比較しても、ネガになるほどの感触はまったくない。市街地でも高速道路でも、ダイナミック ESA による電子制御サスペンションの効果が絶大だ。ハンドリングは直進安定性を重視しているようで、テレレバーと比較してやや軽快、一般的なテレスコピックと比較すると安定志向が強く、むしろテレレバーのそれに近い。両者の中間といった印象だ。
R1200R もそうだが、R1200RS のハンドリング特性はダイナミック ESA の恩恵が大きい。テレスコピックフォークにもかかわらずテレレバー並みの安定性を持っており、急制動でのノーズダイブ抑制、コーナリング中のブレーキによる挙動変化の少なさと安定性は、非常に高い安心感をもたらしてくれる。試しにスロットルやブレーキ、コーナリング操作をラフにしてみても、車体の挙動が急激に変化することがない。一般公道での試乗であること、筆者の技量不足によりコーナリング中の ABS や DTC の作動については試していないが、いわゆる “ヒヤリハット” に遭遇した場合、ダイナミック ESA と ABS が危険回避に大きく貢献するだろうことは想像に難くない。道交法の範囲内で走らせている限りでは、走行安定性に破綻する気配がまったく感じられない。
フェアリングの効果は、上半身への走行風をしっかりと守りつつ、両腕には風を感じられるものとなっている。可動式のスクリーンも、低い状態ではヘルメットに走行風を当てつつ上方へ受け流し、高い状態にするとヘルメットの上を走行風が通過していく感じだ。スクリーンの中にすっぽりと身を隠すと風切音もかなり軽減されるレベルになった。スクリーン上端リブに厚みがあるため見づらさも感じるが、わりとすぐに慣れてしまい、さほど気にならなくなる。
ギアシフト・アシスタント Pro はシフトアップのみならずシフトダウンにも対応しており、ニュートラルから1速と発進時以外のクラッチ操作は不要だ。慣れないうちはついクラッチを使ったり、エンジン回転に合わせてスロットルを操作したりしてしまうが、それらの操作をいっさいせずにシフトチェンジできる快適さはかなりのものだ。低回転域ではクラッチを使ったほうがスムーズな場合もあるが、しばらく乗っているうちにそのコツもつかめる。
ただし一点だけ気になったのが日本仕様に装着されるローシートだ。760mm と低いシート高を実現しているのがメリットだが、身長 165cm 以上のライダーの場合はそのデメリットを受ける可能性が高い。身長 175cm の筆者の場合は両足がかかとまで接地したうえでヒザが軽く曲がる。ステップに足を載せるとヒザの曲がりはややきつめだ。これによってハンドルが高くなるだけでなく、着座位置が後方へずれるため、ステップ位置が前気味になる。これはクルーザーのポジションに近く、R1200RS が持つスポーツ性能を生かしきれなくなってしまう。購入を考えている人は、またがるだけでなく試乗をした上でライディングポジションを確認し、必要ならば本国標準シートやハイシートへ換装することをお勧めする。
さて、最新電子制御技術のすばらしさを存分に味わえる快速ツアラー R1200RS だが、BMW ラインナップでの位置づけは先代モデルといえる R1200ST と同じといっていいだろう。大胆不敵にいってしまえば、軽くてコンパクトな RT である。テレスコピックフォークとダイナミック ESA、そして約 40kg の軽量化と低価格化で、先代である R1200ST よりも明確に RT との差別化を打ち出した。オンロードスポーツのスタンダードなツーリングモデルとして、BMW における選択肢を確実に増やした。
これはテレスコピックフロントフォークを発明した BMW の面目躍如ともいえるし、ダイナミック ESA との組み合わせは BMW スポーツツアラーの新時代を到来させたと思わせるに十分な存在感と走行性能を持っている。R1200RS は BMW の中心的存在になるかもしれない。
R1200RS プロフェッショナル・コメント
R1200RS のデビューに先立ち、ポルトガルで開催されたディーラー研修中に試乗することができました。先導を務めた BMW インストラクターが “後ろはおかまいなし” 的にガンガン飛ばしていく状況でしたが、初めて走る土地(市街地、高速道路、田舎のワインディングロードなど)でもそのペースについていけたのは、ダイナミック ESA が大きく寄与してくれています。また、ギアシフト・アシスタント Pro による減速時のクラッチ操作からの開放は、左手の負担が減り「こんなにも減速や旋回の操作に集中できるのか」とはっきり感じました。スポーツ走行用の装備のように思われがちですが、道路状況が刻々と変化していく公道にこそ有効なシステムです。
先に発売されている R1200R との違いですが、兄弟モデルながらもしっかりとそれぞれに個性が出されています。カウルの有無&ライディングポジションの違いによる前輪荷重のかかり方によるのか、R1200R はハンドリングに優れ、R1200RS はスピードが高めで見通しの良いコーナーでの安定感に優れていました。R1200RT ほどの防風効果はないものの、日本の高速道路であれば、ほど良い風圧で上半身をサポートしてくれるでしょう。
このモデルが発表されて以来、お客さまの期待値がたいへん高いことを感じています。もちろんその期待通り、みなさんが理想としている『RS』になっていると思いますよ。(モトラッド横浜 店長 佐々木 誠さん)
R1200RS の詳細写真
- 【前の記事へ】
R1200R(2015-) - 【次の記事へ】
F800R(2015-)
関連する記事
-
試乗インプレッション
C600スポーツ(2012-)/C650GT(2012-)
-
BMWディテール紹介
【S1000RR 徹底解剖】メーター&ハンドルスイッチ徹底ガイド
-
試乗インプレッション
HP2スポーツ リミテッドエディション(2010)
-
試乗インプレッション
S1000R(2014-)
-
試乗インプレッション
C600スポーツ(2012-)
-
試乗インプレッション
R1200GS(2010-)