S1000R(2014-)
- 掲載日/2014年06月11日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 取材・写真・文/山下 剛
S1000RR 直系のネイキッドは
BMW の優等生的ストリートファイター
2009年、BMW はそれまでの概念を壊すようなモデルを発表した。水冷直列4気筒エンジンをアルミツインスパーフレームに搭載するスーパースポーツ『S1000RR』だ。SBK(世界スーパーバイク選手権)参戦のホモロゲーションモデルとはいえ、日本メーカーのお家芸といってもいいエンジンと車体構成は、国産4メーカーに対する挑戦状のようですらあった。事実、2012年にはマニファクチュアランキング2位を獲得し、ホンダ、カワサキ、スズキを抑えこんでいる。
2014年現在、1,000cc スーパースポーツの中で、ストック状態での戦闘力がもっとも高いといわれているのが S1000RR だ。本国仕様の最高出力はクラス最大の 193ps を誇り、プライベーターが選ぶレーサーとしての注目度も高い。2014年のマン島 TT では、マイケル・ダンロップがスーパーバイク、スーパーストック、シニアの3クラスで優勝を決め、BMW に 75 年ぶりとなるマン島 TT での勝利&制覇をもたらした。
そんな背景がありつつ、『S1000R』は、2013年のミラノショーで発表された。BMW の歴史を塗り替えたスーパースポーツのフェアリングを剥ぎとり、ストリートでのパフォーマンスを高めたネイキッドモデルだ。最高出力こそストリートに合わせて下げられているものの、異形2灯ヘッドライトやサイドカウルを中心とするフェアリングが織り成すスタイリングは S1000RR のイメージをそのまま踏襲しており、世界の舞台で実績を残したスーパースポーツ直系であることを強烈にアピールする。
しかしそこは BMW である。そうシンプルにはまとめない。
S1000Rの特徴
BMW らしさ溢れる外観と
一筋縄ではいかない装備群
まずエンジンから見ていこう。4ストローク 999cc 水冷直列 DOHC 16 バルブ4気筒は S1000RR 譲りだが、ネイキッド化の定石どおり、ストリートでの扱いやすさを狙った特性変更がなされている。エンジン制御システムも新たなものとなり、最高出力は 156ps/10,000rpm(日本仕様)だが、最大トルクは 112Nm/9,250rpm で、最大トルク発生回転数は 500rpm 下げられつつ、2Nm アップしている。
ライド・バイ・ワイヤによるライディングモード切替は継承されており、乾燥した路面用の『Road』、対して濡れた路面に適した『Rain』、スポーツ走行向きの『Dynamic』という3種のほかに、コーディングプラグを装着することで『Dynamic PRO』が使用可能となる。
ライディングモードによる設定変更は、スロットルの応答性、エンジン出力特性、レース ABS、DTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)に加えて、DDC(ダイナミック・ダンピング・コントロール=電子制御セミアクティブ式サスペンション)も変更され、すべてが状況に応じて最適化される。
この DDC こそ、S1000R の最大の特徴ともいえる機能だ。乗車人数に応じてプリロードを変更できるのは当然として、加減速やバンク角、路面状況などに合わせてコンピューターが最適なダンピング特性を判断し、設定を自動調節する。サスペンション内部のオイル流量を変化させるバルブの開閉は 10ms(0.01 秒)という応答速度で、まさしく瞬時にサスペンション設定を変更する最新テクノロジーなのだ。
ディメンションでは、スイングアームの延長やキャスター角の変更によってホイールベースが 1,417mm から 1,439mm と長くなった。バーハンドルやフットレストの位置も見直され、乗車姿勢がアップライトなものとなっている点も定石どおりといっていいだろう。
電子制御では、クルーズコントロールが装備されている点にも注目したい。スロットルを離しても任意の速度をキープするこの機能は、一般的にツアラーに採用され、いわゆるネイキッドモデルへの装備はめずらしい。このモデルを BMW がツアラーと定義しているわけではないだろうが、S1000R の万能性をいっそう高める装備として特徴的だ。また、シフトアシストも備わっており、スロットルを開けたまま、クラッチ操作なしにシフトアップすることが可能だ。
外観は BMW らしさ溢れる異形2灯ヘッドライトが作り出す左右非対称のフロントフェイス、サイドカウルからテールカウルにかけて跳ね上がるラインは、S1000RR と同じイメージを持っており、2車の関係性が一目瞭然だ。
S1000Rの試乗インプレッション
ボクサーにも通じる万能性と
さらなるスポーツ性を直列4気筒で味わう
アグレッシブさを感じさせる外観からは、どうしても過激なストリートファイターを連想してしまう。しかしまたがってみると、ワイド気味なバーハンドルを握ったライディングポジションはそれっぽさを感じるが、グリップ位置は高く、ヒザにゆとりのあるフットレストと相まって上半身はかなりリラックスしたポジションだ。ここからして他の欧州メーカーの過激なネイキッドモデルとはやや趣が異なる。
エンジンはその数値どおりにパワフルだ。低回転域でのトルクも十分で、直列4気筒らしくスロットルを閉じたままでも発進可能。とくに、街乗りで多用する 2,000~4,000rpm あたりでもトルクは太く、スロットルを少し開けておくだけで交通の流れをリードできる。
中~高回転域でのトルクカーブはごく自然な盛り上がりで、高回転域に入ったあたりでの加速とトルク感、そして排気音は直4らしさに満ちたレーシーなものとなる。シフトアシストが装備されるため、スロットルを開けたまま左足のつま先をかき上げると瞬間的に点火カットされ、小気味いい音とともにスムーズにギアが上がる。振動の少なさもあり、スロットルを開ける、ギアを上げる、という一連の動作が楽しい。
ライディングモードの切替は走行中も可能で、ハンドル右側に設置されたスイッチで希望のモードに合わせた後、スロットルを全閉にするとセットされる。ライディングモードによって変更されるパラメータは前述したとおり、スロットル応答性、エンジン出力特性、レース ABS と DTC の効き具合、前後サスペンション特性だ。
試しに『Road』と『Rain』を交互に切り替えてみる。体感しやすいようにとスロットルを急にひねってみると、『Rain』ではややレスポンスが低下する。だが、その具合は自然なところに落ち着いていて、スロットル開度と速度との違和感はない。むしろしばらく Rain モードのままでいてもパワー不足などは感じないし、一般ライダーの市街地走行では何ら不満はないレベルだ。それもそのはずで、エンジン出力値に違いが出るのは 6,500rpm より高い回転域で、Rain モードでも出力は 136ps に抑えられているにすぎないのだ。濡れた路面への順応はおもにレース ABS と DTC に依っており、どちらもタイヤのスリップやグリップ力の低下に対して早めに機能が介入することで安全性を確保しているからだ。だからたとえスロットルを急激に開けてもフロントタイヤはふわりと軽くなる程度で収まる。名称が『Rain』となっているため、つい雨天走行時用と考えてしまいがちだが、むしろ “City” や “Urban”、あるいは “Normal” と捉えてもいいくらいにパワーやトルクに不満はない。
『Dynamic』に切り替えると、S1000R の真価が垣間見える。スロットルレスポンスは俊敏で、ハイスロ化したかのように右手の動きに反応し、リアタイヤがアスファルトを蹴りつける感触が伝わってくる。ペースが高いワインディングやサーキットなら恩恵を存分に受けられるだろう。Dynamic モードではレース ABS と DTC の介入が遅くなるため、加速時には前輪を、減速時には後輪を浮かせられるが、その速度域だと、もはや一般公道で扱うレベルを超えてしまう。とはいえ、156ps もの強大なパワーを臆することなく絞り出せる電子制御技術の安心感は大きい。
何よりも、このモデルでダイナミックに変化するのは、やはりサスペンション特性だ。『Rain』『Road』『Dynamic』と変えるほど、サスペンション特性はハードになっていく(任意で変えることも可能)。しかし、たとえばハードだからといって路面の段差や凹凸に対してシビアな反応とならないところが DDC の素晴らしい点だ。路面の雑な補修を越えるときでも車体が跳ねるような挙動はまったくないし、逆にソフトにセットしているときに下り坂のボトムを通過する際でも、ダンピング特性が瞬時に自動調整されるため、“オツリ” をもらうこともない。それらはあくまで基本設定と考えて差し支えないだろう。
DDC はハイペースのスポーツ走行時にも有効だし、ゆったりと流して走るときでもその恩恵を存分に感じられる。S1000R の万能性を高めているのは、まさしくこの機能といえる。安全性と快適性が高次元で実現されており、これぞ “最新こそ最良” のテクノロジーだ。
唯一、不満があるとすれば、高速道路走行時における防風効果くらいか。ペースがやや高めになるとスクリーンがほしくなる。長距離走行を疲れずに楽しむならクルーズコントロールを使ったまま走れるペースあたりが適切だろう。それ以上を求めるなら K1300S を選ぶか、あるいはハイトスクリーンなどを装備したいところだ(もっとも、だからこそ S1000R がロードスターだといえるのだが)。
日々の街乗りや週末のツーリングをメインとしながら、ときにアグレッシブに、ときに距離を稼いで遠くへ出かけるといったスタイルが S1000R の真骨頂だろう。BMW 全般にいえることだが、S1000R はとくに乗り手がバイクに合わせることなく、乗り手のどんなスタイルにもバイクが対応できる万能性を持っている。コーディングプラグを使えばスリックタイヤを装着してのサーキット走行も楽しめるほどの高いスポーツ性を持っているが、むしろそれはオマケというか余力というか、“ソノ気になればいつでも発揮できる超高性能” と捉えたほうがいいかもしれない。S1000R の本領は、毎日でも乗れる取り回しの良さ、快適性と安全性、そして飽きのこない楽しさにある。
S1000R プロフェッショナル・コメント
S1000RR とは別物のバイク
街乗りもサーキットも楽しめる
S1000R が発売されて日数が経ちますが、いまだに多くのお客さまから「S1000RR をアップハンドルにしただけでしょ?」と聞かれます。でも、まったくの別物なのです。
車体での大きな変更は、サスペンションが電子制御式の DDC になったこと。HP4 に装着されているものほどのセッティング幅はありませんが、走る状況によって3段階に調整可能で、フロントフォークブリッジオフセットやホイールベースなどにも変更点が多数あります。エンジンも大幅に変更を受けました。本体は S1000RR と同じものですが、コンピューターやバルブ、バルブスプリング、排気ポート、カムシャフト、吸気システムの変更により、トルク重視の設計とされています。アクセルもワイヤー式から E-Gas スロットルバルブモーターとなり、操作が軽く、よりパワー感が強調。
私も試乗しましたが、やはりそのトルクに違いがありますね。乗車姿勢もツーリングポジションで、ハンドリング、ステップワークが行いやすいため、市街地走行が快適です。その一方で、ASC&ABS を OFF にして走るのも楽しいバイク。筑波サーキットの走行なら S1000RR より S1000R のほうが乗りやすくて楽しいと思います。今、一番ほしいバイクです。(モトラッド八千代 セールスマネージャー 原田 伸也さん)
S1000R の詳細写真
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