C600スポーツ(2012-)
- 掲載日/2013年01月31日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 取材・写真・文/小松 男
要望に応えついに登場した
BMWモトラッドのマキシスクーター
ここ10年来、BMW モトラッドの新型車攻勢はただならないものがある。伝統的なボクサーエンジンを主軸としながらもシングルから6気筒まであらゆるエンジンを開発し、エンデューロからスーパースポーツまで幅広いセグメントをカバーしてきた。そして今回紹介する C 600 Sport (C 600 スポーツ) もドラマティックな登場をした一台だ。というのも C 600 Sport の元ともいえる CONCEPT C が突如姿を現したのが 2010 年の EICMA (ミラノショー) でのこと。その EICMA の約一ヶ月前に開催されたインターモット (ケルンショー) では並列6気筒エンジンを搭載したフラッグシップモデルの K 1600 GT / K 1600 GTL が発表されたばかりで、ただでさえ世界中のモーターサイクルファンを驚かせたところで、畳み掛ける形での発表だったのだ。それから2年の月日が経ち、CONCEPT C を市販化した C 600 Sport / C 650 GT が、いよいよこの日本にも上陸した。
実は BMW モトラッドのスクーターは、これがはじめてのモデルではない。日本には正規輸入販売されなかったものの C1 というモデルが 2000年に登場しており、欧州の街中では現在でも多く姿を見かけるほど根強い人気を持つ。ただし C1 は 125 / 200cc の2タイプの小型のエンジンを搭載し、全天候に対応するルーフを備え、そのルーフ部分もフレームの一部として活用したりテレレバーサスペンションを採用するなど、コンセプト的にはスクーターというジャンルを超越したシティコミューターだった。そう考えると、本格的なスクーターモデルとしては、C 600 Sport が最初のモデルとなったと言えるだろう。
C600スポーツの特徴
中長距離移動も見据えた
絶妙なサイズ感
C 600 Sport をひと目みて最初に感じたのは、想像していたよりもコンパクトに纏まっているということだ。新開発の 650cc ツインエンジンを搭載しているというので大柄なものをイメージしていたのだが、エッジの効いたボディラインと、ビビッドなツヤ消しブルーがもたらす視覚効果で、シャープかつスマートな印象だ。
テレスコピックフォークや CVT トランスミッションをはじめ基本的な構成は、一般的なスクーターと共通する部分が多い。だがしかし、さまざまなギミックが設けられており、ライバルモデルとよべる他メーカーのスクーターを入念に研究し開発していることが伺える。たとえばサイドスタンド連動のパーキングブレーキシステム、シート下ユーティリティスペースの容量が変えられるフレックスケース、角度調整が可能なウインドスクリーン、グリップヒーターやシートヒーターなど、ライダーが欲求する機能を随所に散りばめているのだ。
心臓部には新開発の並列2気筒エンジンを採用。70度前傾させたシリンダーは低重心化に貢献、クランクピンを 90度オフセットした 270度間隔爆発としている。出力 60 馬力、トルク 66Nm ものハイパワーを発揮、CVT ミッションにより効率的に駆動力に変換し、ドライブチェーンを介しリアホイールにパワーを伝達させる。
そんな強力なエンジンを支える骨格は高い剛性を誇りつつ適度なしなり感を持たせたスチールパイプフレームを採用。フロントサスペンションからリアスイングアームへの一連の構成は見た目こそ一般的なものだが、モーターサイクルのようなライディングプレジャーを得るため計算しつくされたものだ。もちろん ABS も標準装備、スポーツシティクルーザーとして、ほぼ完璧なパッケージングとなっている。
ライバルとなるモデルの多いマーケットに、あえて BMW モトラッドが投入してきたマキシスクーター C 600 Sport、早速その乗り味を確かめてみよう。
C600スポーツの試乗インプレッション
モーターサイクルを愛する技術者が作り上げた
ダイナミックな乗り味
深いバンク角を確保するため、スクーターというパッケージからどうしても幅が広くなってしまうこと、そして快適な乗り心地を実現するために厚みを持たせること。これらの要因から、スポーツスクーターというジャンルでは当たり前となってしまったことなのだが、C 600 Sport は 810mm というデータ以上にシートの高さを感じる。足つきの悪さを考慮してステップボードがシェイプされているのだが、それでもシートに深く腰掛けると足つき性は気になるものだ。信号待ちなどで足をつく場面も多い街乗りをメインユースに設定しているのであれば、この点はもう少し考慮の余地があったかと思う。いきなりネガティブな印象を書いてしまい申し訳ないが、素直なインプレッションとして受け止めていただきたい。それにライバルモデルと比べればむしろ良くこの低さに抑えてきたとも言える。
セルボタンを押すことでエンジンは簡単に目覚め、ショートスタイルにまとめられたサイレンサーからは低音を効かせた歯切れの良い独特なサウンドを奏でる。これは 270度間隔爆発という設定から生み出されるものであり、エンジンおよび排気音にもこだわる BMW モトラッドの姿勢が伺える。そしてこのエンジンの爆発間隔によって、まるでモーターサイクルのような鼓動感を演出することにも成功している。CVT モデル全般に言えることなのだが、モーターのような出力特性となるので、こういった部分でモーターサイクルファンの心を掴み取ることができるだろう。
スロットルを開けると車体は軽々と前へと進みだす。CVT ギアが繋がるエンジン回転が若干高めに感じられたが、シグナルダッシュではこのセッティングが強い武器となった。4000 回転から 6000 回転付近で力強くリニアなパワーカーブを得られ、これによりストリートでもハイウェイでも気持ち良く流すことができた。
ハンドル位置はやや低め、車体を左右に振り回すようなスポーツライディングで抑えが良く効く。シートは前述の通り高めだが、前後に自由度が高く、低いハンドルと相まって、かなり攻めた走りも楽しめる。フロントサスペンションは倒立タイプのテレスコピックフォークで、トラベル量こそスクーターの数値然としているが接地感が高い。さらに車体左側に顔を覗かせる極端に寝かせられたリアサスペンションもリアタイヤを路面に強く押し付けてくれ、恐怖心を抱くことなく攻め込むことができた。
そして、なんと言ってもブレーキのタッチが秀逸だ。一般的なモーターサイクルを楽しむライダーにとって、左手側のレバーでリアブレーキを操作することは違和感を覚えることがあるかもしれないが、前後ブレーキの効き具合、そしてライダーにフィードバックされるフィーリングが良いために、車体を手足のように操ることができる。この両手で操るブレーキによって生み出されるスポーツライディングこそが、これまでの BMW モトラッドになかった部分であり、それを見事に高次元で実現している。
走りの部分以外で言えば、ウインドスクリーンの角度調節は手動でこそあるものの、扱いやすく乗車したままでも調節は容易に行えた。C 600 Sport の特徴のひとつでもあるフレックスケースは便利なのだが、広げていることを忘れてエンジンを始動できず焦る場があった。これに関しては実際にオーナーになれば慣れる点であろう。サイドスタンドを出すことでサイドブレーキが作動するシステムは画期的で、助かる場面も多かった。
C 600 Sport はトータルで見て、初めて作り上げたマキシスクーターとは思えないほど、好感触を持てるものだった。
こんな方にオススメ
プロペラエンブレムだけでも価値がある
ビーマーの間口を広げる決定打
近未来的なスタイリングからか、街中を流せば歩行者やクルマのドライバーなどからの視線を感じることもしばしばあった。それだけ目立つ上に BMW のエンブレムがついていれば、バイクに興味の無い人への訴求力も高いと言えるだろう。使い勝手的にも、一般的な日常ユースからツーリングまで一手に受け止める懐の深さがある。タンデムテストも行ったところ、2名乗車時のハンドリングも良く、パッセンジャーもリラックスできるポジションだった。なんと言っても、グリップヒーターとシートヒーターの装着で寒さの厳しい冬季でも快適に走らせることができた。この乗る者の心を考えた嬉しい装備が BMW モトラッドならではのマキシスクーターと言ったところだろう。
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