K1200R(2005-)
- 掲載日/2008年09月04日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 取材・写真・文/バージンハーレー編集部
近未来を予感させる
新時代のネイキッドK1200R
1988年から1993年にかけて、BMWのラインナップに「K1」というスポーツバイクが存在したのをご存知だろうか。その頃のBMWは、自主的に自社製バイクに100馬力の上限出力を設定しており、当時隆盛を極めていた日本製スーパースポーツに対して出力以外の対抗策を必要としていた。その回答が「空力特性」であり、それに基づき開発されたモデルが「K1」なのである。徹底的に空力を重視してデザインされたK1は、過去に存在したどのバイクにも似ていない独特のフォルムをまとっており、「未来を走行している姿がもっとも容易に想像できるバイク」とまで言われた。その後、時を経てK1200Rが発表されたのが2005年のこと。“K”という符号を除けば、エンジン形式や開発過程、その目的など、一切の関連がないと言えるほどの隔たりがある両モデルだが、たびたび映画に登場するほどの近未来的な容姿をもつK1200Rを見ると「血筋」というものを意識せずにはいられないのである。
簡単に言えば、K1200Rは並列4気筒エンジンを搭載した現行KシリーズのファーストモデルK1200Sのカウルを剥ぎ取った、ストリートファイター的なモデルである。Kシリーズ独特の車体構成やサスペンションなどが一目瞭然であるため、カウルつきのK1200Sよりもアクが強く、未来的な印象も鮮烈。登場から幾分時間は経っているものの、ランナップにおけるそのデザインは異彩を放ち続けている。外観だけではなく、その乗り味も含めて改めて再評価すべきモデルだと言えるだろう。
K1200Rの特徴
低重心・高剛性シャーシと
ハイパワーエンジンの組み合わせ
K1200Sから始まった現行Kシリーズ最大の特長は、高剛性・低重心の車体にハイパワーな並列4気筒エンジンを組み合わせていることだ。このシリーズに呆れるほどの走行安定性をもたらしている主役が、前代未聞の55度というシリンダー前傾角を持つ並列4気筒エンジン。前後長が長くなるというデメリットを承知のうえで、シリンダーを極端に前傾させているのはもちろん低重心化のためである。そして、そのデメリットを相殺すべく、限界までエンジンをコンパクト化するために潤滑はドライサンプ方式とされ、燃焼室や動弁系にはF1開発で培われたテクノロジーが惜しげもなく投入されている。シリーズが充実してきた近年、やっと免疫ができた感があるが、K1200Sに続きK1200Rが登場した頃までは、このエンジンがBMW製であることをにわかには信じられないほど、荒々しさが感じられる出力特性やビビッドな排気音に驚かされたものである。排気量1156cc、4バルブDOHC形式のパワーユニットは最高出力163ps/10,250rpm、最大トルク127Nm/8,250rpmを発生する。
そして、このK1200Rのフォルムを構成する重要な要素ともなっている車体構成は、今もその新鮮さが全く失われていない。前傾エンジンを抱くために新設計されたツインスパーフレームは、左右の極太ビームがほぼ水平にレイアウトされる独特の形状となっており、車体自体も徹底した低重心化が図られていることがわかる。足回りには、Rシリーズに採用されているテレレバーのコンセプトを推し進め、よりスポーツライディングに適した構造としたフロントのデュオレバー・サスペンション、そして熟成が進められたリアのパラレバー・サスペンションを装備し、まさに磐石の車体構成となっている。ブレーキはもちろん、パーシャリータイプのインテグラルABSを装備したEVOブレーキで、このストリートファイターを峠道で振り回すのに十分なストッピングパワーを確保している。
K1200Rの試乗インプレッション
BMWの認識が新たになる
過激なまでのスポーツ性
K1200Rで走り出すのには、やはり若干の勇気が必要だ。取り回しただけで感じる超低重心もその要因のひとつだが、最大の不安要素はやはり独特の外観を持つフロントサスペンション。走りはじめるまで、この前足がいかなる挙動を見せるのかが大いに気になるのだ。しかし、少し走ればその特性が案外自然で、いかなる状況でも抜群のロードホールディングを発揮してくれることに大きなメリットを感じるようになる。BMWが現行Rシリーズに採用しているテレレバーには、「つっかえ棒」的なAアームの存在感を感じてしまうこともあるが、適度なノーズダイブを残しているデュオレバーの感触は、むしろ出来の良いテレスコピック・フロントフォークの感触に近い。
デュオレバーの挙動を適度に学習して、アクセルを少し多めに開け始めるあたりからが、いよいよこのK1200Rの真骨頂と言える領域となる。アイドリング時から従来のBMWのイメージとはかけ離れた元気なエキゾーストノートを響かせていたK1200Rだが、それはまさにエンジン特性をストレートに表現したサウンドだ。ゴリゴリとした感触を伴いながらも、すばやくタコメーターの針を跳ね上げる様子は、かつての縦置きクランク4気筒のジェントルな振る舞いとは全く異質なるものだと言える。しかし、極低回転域から図太いトルクを発生する特性はいかにもBMWらしい部分であり、実用的な領域まで回転上昇を待たなくてはならないことが多い国産マルチとは大な違いを見せている。このような特性ゆえ、スピードの乗りも半端ではなく、アクセルワイヤーの遊びが取れたのを感じてからは、右手にも自制心が必要となる。
さて、これだけの鋭いレスポンスと大パワーを受け止めることになった車体とブレーキだが、これに関しては一切の不安がな言える。車体には、まるで巨大なレンガにまたがっているような錯覚を覚えるほどの剛性感があり、ブレーキも強力かつコントローラブル。超高剛性を誇るデュオレバーは、フロントタイヤの接地面に全荷重が集中するようなハードブレーキングも余裕で受け止めてくれるため、相当メリハリを利かせた走りが楽しめる。おそらく峠道でK1200Rに対抗出来るバイクはそう多くはないだろう。ただ、デュオレバーの特性なのか、高速道路のレーンチェンジなどではハンドルバーに現れる舵角が非常に少なく、フロント周りを含めた車体全体を1枚の板のように感じてしまうことがあった。これはフロント周りが自然にバランスをとった結果でその弊害はないものの、感覚的な慣れを必要とする部分かもしれない。
こんな方にオススメ
BMW流ストリートファイター
腕を磨きたいライダーにお勧め
特長的な外観と極めて高いスポーツ性をもつこのK1200R。酸いも甘いもかみ分けたベテランライダーはもちろんのこと、腕を磨きたいと考えているスポーツライディング好きのライダーには文句無くお勧めだ。エンジン特性やハンドリングはかなり過激な味付けにはなっているものの、そこはBMW。ABSなどをはじめとする安全装備の熟成具合に関しては、進境著しい他社と比較しても一日の長がある。もっとも安心してスポーツ走行を楽しめるビッグバイクの1台だとして良いだろう。
実はこのK1200R、ポジションはそれほどきつい前傾姿勢ではなく、シャープな形状のシートの座り心地も悪くない。小振りだが標準装備のされているウインドシールドも想像以上のウインドプロテクションを発揮する。そのため、このモデルをロングツーリングに連れ出すことも十分可能ではあるのだが、カウルを剥ぎ取ったこのモデルの趣旨を汲み取るのであれば、やはり本来のステージは週末の峠道だとしておきたい。
クローズアップ
先代のコンセプトを継承する
55度のシリンダー前傾角
BMWが現行Kシリーズに搭載している並列4気筒エンジンを発表したのは2004年のこと。それまでの約11年間継続採用してきた「シリンダー横倒し+クランク縦置き」の多気筒エンジンの開発に終止符を打ち、それに代わってデビューを果したのがこのパワーユニットである。
排気量1156cc、水冷4バルブDOHC並列4気筒。これがこのエンジンのプロフィールだ。これだけを見れば、「とうとうBMWも並列4気筒の優位性を認めて、日本製と同じエンジンを作り始めたか」と思われそうだが、それは大きな間違いだ。そう言い切れるほど、このエンジンには独自のアプローチが見て取れる。外観からも分かる最大の特長は、55度という極端なシリンダー前傾角だ。その最大の目的はエンジンの全高を抑え低重心化を図ることだが、このシリンダーレイアウトは車体全体に好影響を及ぼしているのである。例えば、吊り下げるようにこのエンジンを抱くフレーム自体が極めて重心の低い設計となっていたり、緩やかなカーブで吸気系・排気系がシリンダーに接続され、その効率を追求することが容易となっていたりする点である。
他メーカーにおいても並列多気筒エンジンのシリンダーを極端に前傾させた例はあるが、一般的にはエンジンの前後長が長くなるなどの弊害もあり、今ではほとんど見ることがない。こうしたデメリットに対して、BMWはエンジン全体を徹底してコンパクト化することで問題を解決している。ボア・ストロークは79ミリX59ミリだが、F1エンジン開発のノウハウを投入してピストンやシリンダーヘッドは極限まで全高を抑制。さらに、潤滑にはオイルパンを小型化したうえでオイルタンクを任意の位置に設置できるドライサンプ方式を採用している。こうした設計上の努力は低重心化とともにエンジン搭載位置の自由度をもたらし、車体前後の重量配分は理想的な50:50を実現。現行Kシリーズの良好なハンドリングと地を這うような安定感を両立しているのである。
このように、現行エンジンの極端なシリンダー前傾角は低重心化と高効率をシンプルに追求した結果である。そして、今もラインナップに残るK1200LTと先代Kシリーズが採用した縦置きクランクの多気筒エンジンも、奇をてらったわけではなく、現行エンジンと同様に低重心・高効率追求の産物だ。そのような意味で、いったん系譜が途切れたかのように見える先代エンジンと現行エンジンの間には、共通のコンセプトが明確に貫かれていることがわかる。
K1200R プロフェッショナル・コメント
従来のイメージを覆す
BMW流ストリートファイター
一目見れば、これまでのBMWには無かったアグレッシブなモデルであることが分かるのがK1200Rです。その前衛的スタイルは決して見掛け倒しではなく、走行中のパフォーマンスも一級品。登場してから幾分時間がたったということもあり、デュオレバーの感触やブレーキのタッチなども年々向上しています。熟成が進んでいる分、よりエンジンのパフォーマンスを発揮しやすいモデルになっているという点は見逃せませんね。かなり速いモデルですから、公道でそのポテンシャルを使い切るのはなかなか難しいのですが、現行Kシリーズでストイックに走りたいと考えている方には最適なモデルだと言えます。
また、カウルを装備しないモデルなので、BMW製並列4気筒エンジンのメカニカルな質感が楽しめるのもこのK1200Rならでは。街中に停めれば、最先端のバイクに乗っていることをさり気なくアピールできるという密かな悦びもあります。(オートショップフタバ 田中 久由さん)
K1200R の詳細写真
特徴的なフロントマスク
迫力ある極太サイレンサー
独自のフロントサスペンション
デザイン性の高いタンク形状
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