BMW 新型S1000RRの海外試乗インプレッション
- 掲載日/2019年04月15日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad 写真/BMW Motorrad 取材・文/鈴木 大五郎
10年ぶりとなる初のフルモデルチェンジで示した
S1000RRの速さと万能性
歴史を紐解いてみると、BMWにもレースに積極的に参戦していた時代があった。しかし近年はレースシーンから遠ざかり、穏やかなツーリングバイクを製造するブランドといったイメージが強かった。
そう。2009年のS1000RRの登場までは。
独創的なマシン造りが特徴のBMWがレースシーンに殴り込み。それはとても衝撃的な出来事だった。どんなテクノロジーを投入してくるのか? しかし登場したS1000RRは、アルミフレームにテレスコピックサスペンション。コンパクトな並列4気筒エンジンと、非常にオードソックスな作りこみであった。なんだかちょっと肩透かしを喰らったかのようなファーストインプレッションだったが、マシンを走らせてみれば日本メーカーが脅威を抱くような完成度の高さがそこにはあったのだ。
そんなS1000RRはデビュー後も細かいブラッシュアップを繰り返してきていたのだが、ここにきて完全新設計のマシンを登場させた。エンジンはモトGPシーンでも話題となる逆回転クランクに加え、先に発売されているR1250シリーズに搭載済みの可変バルブ機構、シフトカムを備える。また、車体も全面刷新され、車重は従来モデル比マイナス11キロ(Mパッケージは14.5キロ)で、そこに207馬力を誇るエンジンが搭載される。
ポルトガル・エストリルサーキットで行なわれた試乗会は生憎の空模様。なんとかハーフドライで走ることが出来た1本目はOEMタイヤとなるブリジストン製S22を装着。エンジンマッピングもレインモードを選択。 ピットロードを走り出して真っ先に感じるのが豊かな低速トルクである。それはスーパースポーツマシンらしからぬトルクフルさであり、気が早い話であるがS1000RやXRにもこれはマッチングが良いはずだぞ!と考えてしまったほど。
シフトカムの採用は環境問題への対応というのが一番の理由であると思われるが、さほど高い回転域を使わない街中やワインディングでの走りでも大きなメリットがあるはずだと感じられたのだ。従来モデルでは、例えばレインモードを選択するとあきらかにパワーが間引かれているという、リニアさにかける反応を示していたものが、しっかりとパワーコントロールをされながらも、表情は豊かに感じられるのが印象的だ。
その後、天候はさらに悪化して、タイヤにはレーシングレインを装着。悪条件のため、パワー特性の穏やかなレインモードをチョイスしなければならなかったこともあり、本来のエンジンポテンシャルを味わうことは叶わなかった。それでも、最高出力は207馬力発揮されているとのこと。穏やかなパワー曲線ということもあり、そこまでのパワーを感じさせなかったとはいえ、さほど長くないストレートでメーター読み280キロを記録していたことを考えれば、それはマシンパッケージングの良さによる錯覚もあるのであろう。
そしてなによりも軽快なハンドリングが従来モデルとの圧倒的なキャラクターの違いを伝えてくれる。
車体に重さがまとわり付くことがなく、スッとマシンを倒し込むことが可能。徐々にペースアップしていった際でもその印象は変わることがない。M仕様に装備されるカーボンホイールはSTD比、-1.7キロとその性能差を感じるには十分であるものの、車体の設定や逆回転クランクによる慣性力の軽減による運動性の高さも見逃せないところだ。
剛性バランスの最適化による柔軟性のある車体とともに、セミアクティブサスペンションであるDDC仕様のマシンは、猫脚と呼びたくなるようなしなやかさとフィードバック性を持っている。ウェット路面を考慮して、減衰力も低めに設定してあることを差し引いても、その動きの良さ、わかりやすさは特筆するレベル。エキスパートのみならず、非常にライダーフレンドリーなマシンとなっている。
グリップヒーターやクルーズコントロール等、スポーツバイクらしからぬ快適装備も決して不必要ではなかったと感じられた装備も継続採用。挑戦者としてこのジャンルに参入したBMWは、いまや完全にメインメンバーの一員である。そしてこの新型で、再度そのリーダーシップに躍り出た。
スーパースポーツマシンのファンのみならず、幅広いスキルのライダーにその素晴しさを提供することの出来る可能性。衝撃のマシン、第2章の幕開けだ。
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