C600スポーツ(2012-)/C650GT(2012-)
- 掲載日/2012年03月30日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad Japan 写真/BMW Motorrad 取材・文・動画/河野 正士
BMW Motorad 初のメガスクーターは
『Sport』と『GT』の2台をラインナップ
2011年のEICMA(ミラノショー)で発表された『C600Sport』と『C650GT』。エンジンとフレーム、足回りといったプラットフォームを共通としながら、「スポーツ」と「ツーリング」という異なるカデゴリーに向け、ボディデザインや装備を開発。得意とするフィールドを磨き上げることで、異なる2台のメガスクーターを誕生させた。
開発がスタートしたのは約3年前。その段階からスポーツとツーリング、ふたつのキャラクターのマシンを造り上げることを決定。ヘルメットやライディングウエアなど、イクイップメントの開発も同時進行していたと言うから、その力の入れようもスゴイ。そして今回の市販車発表に先立ち、2010年の EICMA にはコンセプトマシン『コンセプトC』を発表。市場投入モデルを作り込んでいる最中に、EV を含めた未来の BMW スクーターの存在をティーザー的に擦り込まれていたのだ。
そして BMW は今後、スクーター市場にも積極的に参入していくと、今回のプレスカンファレンスで発表した。もちろんそこには “EV” や “小排気量” も含まれる。それらのカデゴリーをセールスエリアに取り込めば、BMW は市場規模を一気に拡大させることができる。そこに「BMW マーク」をインストールすればどのような化学変化が生じ、マッチするかを、BMW はよく理解している。
『C600Sport』と『C650GT』は、その足がかりとなるマシンなのだ。
C600スポーツ&C650GTの特徴
共通プラットフォームに
ふたつのキャラクターを確立
最大の特徴は、エンジン、フレーム、足回りを共通としながら異なるモデルを造り上げた共通プラットフォームの採用だろう。丁度、ホンダが発表した NC700X と NC700S、そして INTEGRA の関係と同じだ。4輪の世界では一般的な共通プラットフォーム。2輪の世界にもその流れが押し寄せてきたと言うことだろう。
そのエンジンは新開発した前傾70度水冷4ストロークDOHC並列2気筒 647cc。フューエルインジェクションを装着し、270度クランクを採用。その振動を打ち消すため、クランクを挟むようにふたつのバランサーが配置されている。振動が少なく、かつグッドサウンドという、開発陣が目指したエンジンに仕上がっている。
また変速機には、一般的な CVT を採用している。各カデゴリーにおいて独自の技術を投入することでも知られる BMW にとっては賢明なチョイスだが、その理由はシステムが確立されていることと、ハンドリングに与える影響も少ないからだと語っていた。
そのエンジン&変速ユニットは、スチールパイプとピボット周りにアルミダイキャストをハイブリッドしたフレームに直接マウントされ、フレームの一部として活用されている。それによって片持ちのリアアームはドライブチェーンとドライブ&ドリブンスプロケットが納められる、純粋なスイングアームとなっている。ちょうど 500cc のヤマハ TMAX と同じ仕様というわけだ( TMAX は2段掛けドライブチェーンを採用)。一般的なスクーターが採用する、スイングアームとエンジンが一体となったユニットスイングと違い、アクセル ON/OFF 時のリアリフティングが起こらず、またスイングアームピボットとドライブスプロケットを同一とすることで、高速域でのスタビリティと街中やワインディングでの軽快なハンドリングを目指したという。
これらの特徴は、すでにスクーターとしては一般的なディテールで、決して真新しさを感じるものではない。そのことを開発陣に問うと、あえてスクーターらしいディテールを選んだという。まずはメガスクーター市場で自らの存在感をしっかりとアピールすることが目標であり、そこをクリアしてから次のステップに向かうのだ、と。そう考えるとこの2台の『C』は、じつに戦略的なモデルと言える。
C600スポーツ&C650GTの試乗インプレッション
街中でも乗りやすい『Sport』
意外にもスポーツできる『GT』
クラッチ操作を必要としないスクーターは、簡単な操作がウリだ。その分、操作そのものが雑になってしまうことも多い。分かりやすく言えば、駆動力が伝わるのを探りながらゆっくりとスタートするより、“ウァッウァッ!” と少し煽り気味にアクセルを開け、断続的にクラッチを繋いでスタートする。そのぶん、その乱暴な操作に対する挙動が出やすく、排気量も重量も、パワーも大きなメガスクーターの場合はバランスを崩すきっかけにもなってしまう。もちろん BMW は、そんなことは織り込み済みだったようだ。
排気量 647cc のエンジンはトルクフルで、駆動系のセッティングも合わせ、さほどエンジンを回さなくても駆動力を感じやすく、必要以上にアクセルを煽る必要もない。またエンジンをフレームマウントしていることから、アクセル操作に対するリアの上下動も無い。余計な挙動が出ない分、繁雑な街中でもストレスが少ないのだ。
そのストレスフリーなフィーリングは、郊外に出ても変わらない。リアヘビーになりがちなメガスクーターにあって、この2台の『C』はその重さを感じない。高速道路で車線変更した際にも、ワインディングでコーナーにアプローチしたときにも、フロントタイヤとリアタイヤが同時にリアクションする。モーターサイクルではごく当たり前のことだが、メガスクーターには決して楽なことではない。その理由が、ユーティリティとパフォーマンスのバランスだ。
ステップスルーを実現し、シート下スペースを確保しながら、高性能なエンジンと足周りをバランスさせるのは決して簡単ではない。だからこそ BMW は、初のメガスクーターの開発に冒険的なディテールを拒んだのだ。その結果、両車ともじつにバランスの良いパフォーマンスを発揮している。
『Sport』と『GT』は、プラットフォームを共通とするほか、前後サスペンションや駆動系のセッティングも共通だ。違いは、車体重量とポジション。低くフラット気味なハンドルに、自由度の高いフラットなシートを採用する『Sport』。対して『GT』は、ステアリングヘッド位置は同じなのに、ハンドル形状やカバー類によって、ハンドルが手前に感じられる。もちろん、ステアリングを遠くで操作しているような感覚は皆無だ。
最初は腹筋と背筋に力を入れながら身体を前後に動かし、積極的に操る感覚に溢れる『Sport』のフィーリングが気に入っていた。それに対して『GT』は鈍重に思えたが、乗り慣れると、その適度な重さからくる落ち着いた車体の動き、それでいて『Sport』に負けないスポーツ性、そしてウインドウプロテクションの高さに、すっかり『GT』を気に入ってしまった。これはあくまで個人的な好み。他国のジャーナリストは『Sport』好きも多かった。
すでに成熟期に入ろうとしているメガスクーター市場。この『Sport』と『GT』は新参者ではあるが、そこにしっかりと食い込めるだけのポテンシャルを十分に持っている。今回の試乗で、それを感じることができた。
こんな方にオススメ
食わず嫌いはいけません!
BMW の戦略的なパフォーマンスを体験すべし
「あっオレ、スクーターでスポーツしたいと思わないし、特に興味ないし」そんな人にこそ、是非乗って欲しい。だって、ツーリングも街乗りもしっかりこなす上に、ワインディングでもかなり楽しい。モーターサイクルとまんま同じ、という訳にはいかないが、リアブレーキを上手く使い、人間トラクションコントロールを駆使すれば、スーパースポーツモデルだって追っかけ回すことだってできる。いや、コレ本当です。それを是非体験して欲しい。
まぁでも、いざ乗ってしまうと、「じつは出来るヤツなんですよ、コイツ」という余裕から、飛ばすことさえしなくなる。まさに4輪の BMW 的感覚。ということは、しばらくバイクから離れていたけど、その昔はブイブイ言わせた4輪からのカムバック組に加え、巨大化するツアラーモデルに少し食傷気味な方に、走る楽しさを再確認していただけるのではないか、と思う。
C600スポーツ&C650GT の詳細写真
C600スポーツ&C650GT のTest Ride
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