GSらしさを継承する「R1200GSアドベンチャー(2008)」
- 掲載日/2009年01月27日【GSナビ】
R1200GSアドベンチャー(2008)
2台のビッグGSから見る
最新アドベンチャーの方向性
2008年にマイナーチェンジ(メーカーいわくフェイスリフト)を受け、R1200GSと共にラインナップされたアドベンチャーの最新バージョンは、2006年に新型1200ボクサーエンジンを搭載したアドベンチャーをベースに、改良と熟成が重ねられて登場した。しかし代わり映えしない外観からその度合いを測るのは難しく、エンジンはセッティングこそ違うもののR1200GSとほとんど変わりはない。大柄なスタイリングは先代R1200GSアドベンチャーをほぼ継承しているので「いったいどこがどのように変わったのか?」と、思うのも無理はないだろう。しかし実際に乗って感じる違いは、確かに進化を遂げ、熟成が重ねられたと断言できるものだ。
その違いは先代1200アドベンチャーとの比較だけで語るより、ボディベースとなったR1200GSの進化とともに見たほうがわかりやすい。スペック面でも装備面でも進化を遂げたR1200GSは、オフロード性能はもちろんだが、よりオンロード性能の向上に指向を振っている。高速道路やワインディングといった、ツーリングの大半を占めるシチュエーションでの快適かつ安定した巡航性能が高められ、オンロードツアラーとしてのキャラクターを濃くしているのだ。R1200GSが示す方向性の変化により「世界一周仕様」を標榜するアドベンチャーは、おのずと「荒れた大地を走破するビッグオフローダー」という位置づけが明確になった。
これまで別項で何度か触れてきたとおり、BMWはGSというクロスカントリーモデルを創出したことで、ビッグオフというカテゴリを築き上げ、以来その分野において他メーカーを寄せ付けない圧倒的な力を見せつけてきた。いわばBMWの独壇場で、最新後継モデルの開発には、つねに自社製品を超えなければならないというプレッシャーを負ってきた。そして、それを跳ね除け、世界最強の名にふさわしいビッグオフロード(クロスカントリー)マシンとして新たにデビューしたのが今回ご紹介するR1200GSアドベンチャーなのだ。
全面変更されたエンジンと駆動系
R1200GS同様ながら設定が異なる
アドベンチャー、GSともに先代ボクサーから全面変更されたパワーユニットは、最高出力が100psから105psへアップし、ギア比と二次減速比の変更による、低中回転域でのトラクションの向上と、高速域での加速力アップが見られる。エンジンはこれまでHP2やR1200Sと共通だったものが、R1200RTやR、STなどと同じものをベースとしていることから、改良というよりは全面変更と言ったほうがいいだろう。
もうひとつの大きな進化として挙げられるのが『エンデューロESA』(エンデューロ用電子調整式サスペンション)と『エンデューロASC』(エンデューロ用オートマチックスタビリティコントロール)を工場オプションで搭載可能になったことだ。
堅牢なアルミケースとソフトタンクバッグが装着可能。無骨なデザインはアドベンチャーらしさと言える。
エンデューロESAには通常のESA(1人乗り、タンデム、積載)に加え、もう2段階上のプリロード・モード(フラットダート、ハードダート)が加えられ、ノーマル、コンフォート、スポーツという3つのダンピング・モードとの組み合わせによって計15段階(プリロード5段階×ダンピング3段階)のサスペンション設定を、グリップに手を置いたままボタンひとつで調整することができる。これによってオンロードだろうがオフロードだろうが、シチュエーションに応じて最適なサスペンション設定を簡単にチョイスすることができる。
またエンデューロASCは、従来のものにダート専用の設定がアップデートされた進化版と言うべきもので、ダートなどの滑りやすいコンディションでラフにスロットルを開けても、センサーがホイールの空転を感知し、スリップダウンしないようエンジンの回転を電子的に抑制してくれるというものだ。従来のABSとの合わせ技で、いかなる路面状況においても、マシンがライディングをアシストしてくれる。
進化したアドベンチャーは、R1200GS同様、優れた装備を搭載してフェイスリフトされ、その外観からは大きな変化が見られないものの、明らかに先代ビッグGSとは異なるものとなっている。
アドベンチャーにこそ顕著に現れる
本来のGSらしさ
アドベンチャーはGSと同じエンジンを搭載しているにもかかわらず、その乗り味はまるで異なる。キャストホイールが標準装備、クロススポークホイールが工場オプションのGSは、よりオンロードでのスポーツ性能が向上し、ビッグオフロードマシンに見られる、高速道路のギャップに乗り上げると車体が振られる、といった症状が解消され、安定した高速巡航が可能となっている。さらにオフロードでの走破性も、エンデューロESAの導入により消極的な走行を強いられることも無い。
アドベンチャーにもGS同様の走行性能の向上が見られるが、より大柄な車体のアドベンチャーの場合、オンロードではGSのキビキビとした軽快な走りではなく、エンジンはゆったりと吹け上がり、おおらかな回転上昇をともなって豪快に、かつ淡々とした走りを見せる。
オンロードでも高い走破性を持つオールラウンダー的性格は、新たなサスペンションシステムで進化を遂げた。
アドベンチャーの最大の特徴はオフロード走行でこそ現れる。スプリングトラベルがGSよりも20mm延長された前後サスペンションは、エンデューロESAの効果もわかりやすく、初期の動きがしなやかで接地感も高い。フロント19インチ、テレレバーサスペンションとは思えない踏ん張りとニュートラルなハンドリングで、その巨体からは想像がつかないほどのスポーティな走りも許容してくれる。
このオンロードでのおおらかな性格や、見た目の印象を裏切る高いスポーツ性能は、まさにこれまでのGSに持たされていた大きな特徴だ。そしてそれは、R1200GSよりもむしろアドベンチャーでこそ強く感じることができる。
2004年のR1200GSデビュー以降、相次いでニューモデルを市場に投入してきたBMWのモデル攻勢を振り返って見ると、オフロードでのパフォーマンスを追求したモデル群(HP2エンデューロ、F800GS、G450X、G650Xチャレンジ)の登場で、オンロードでもオフロードでも高い走破性を求められてきたGSはその義務から解放された、新たな進化の道を辿ることになったと感じられる。そして、これまでGSのバリエーションモデルという位置づけであったアドベンチャーにこそ、従来の「GSらしさ」が息づいている、と言えるだろう。BMWのモデルラインナップの中でそれぞれのベクトルが明確化されたことにより、今後もR1200GSアドベンチャーは、本来の意味での「GS = ゲレンデシュポルト」の名を冠するモデルとして、その存在感を放ち続けることだろう。
R1200GSアドベンチャー (2008) の特徴
優れたウィンドプロテクションでライダーの疲労を低減する
33Lの燃料タンク形状も膝下のプロテクションに貢献。新型はブレースバーが取り払われている。あまり違いが見られないのは、完成度が高いということ。
エンデューロ用ESA & ASC 走行中でも手元で調整可能
エンデューロ用ESAの調整はボタンひとつで変更可能。ボタンを共有するASCとABSは任意に解除可能。左手のスイッチボックスに配置される。
幅広のタンクとワイドスクリーン デザイン的な変更は見つけづらい
一見しても新旧の違いはわかりづらいが、フェンダー先端からオイルクーラーへと走行風を導くフラップが備わる。ナックルガードは上下2ピースに変更。
全面変更されたエンジン しかし形状は変わらず
見た目にはヘッドカバーにマグカラー、シリンダーはブラックにペイントされるが、エンジン自体の形状に変更は無く、エンジンガードなどは新旧で互換性アリ。
2代目ビッグGSの新システム エンデューロESAの恩恵は大
従来は素手や工具で操作していた調整をユニット付属のサーボモーターで動作させている。走行中でも手元のスイッチで操作可能という超・便利な機能だ。
堅牢なアルミケースはもはや定番 ラゲッジラックに小変更アリ
トップケースが積載されるラゲッジラックは、旧型よりも10cm下げて低重心化をはかる。テール、ブレーキライトはLEDタイプが標準となる。