1980年代から 1990年代中盤にかけてワークスライダーとして活躍した樋渡 治さんが率いる職人集団がアールズ・ギアだ。マフラーを主力商品としており、そのクオリティの高さゆえにユーザーからの評価は極めて高い。BMW バイクでのツーリングにハマっているという樋渡さんの年間2万km にもおよぶ走行距離は確実にフィードバックされ、快適に、より楽しさを感じられる製品へと仕立てられている。
アールズ・ギアが創業したのは 1998年。カスタムパーツとしてのマフラーは、当時すでに国産、輸入品ともにさまざまなブランドがリリースされており、メーカーとしては後発であった。だが、それから十数年経った 2014年現在では、アールズ・ギア製品を “指名買い” するユーザーも少なくない。スタイルアップに貢献するデザイン性の高さ、溶接をはじめとした各部の作り込み、音量は抑えながらも追求された音質、そしてピーク時のみならず全域でパワーアップを果たし、乗りやすく=結果的に速くなる特性など、マフラーに求められる要素を高次元で達成しているからだ。
代表の樋渡 治(ひわたし おさむ)さんは、元レーシングライダー。モリワキからスズキのワークスチームに入り、当時の最高峰クラスであった GP500 に参戦、世界 GP や全日本選手権での活躍を記憶している方も多いことだろう。現役引退後にマフラー職人の世界に戻り、自身で立ち上げたのがアールズ・ギアだ。
かつての樋渡さんの BMW バイクに対するイメージは、決して良くなかった。バイクとは速く走ってナンボであり、それとは対極的な BMW バイクは興味の対象外。それを使ってのツーリングのおもしろさや楽しさはまったく理解できなかったのである。
しかしながら、BMW バイクに関わらざるを得ない状況になってしまった。ササキスポーツクラブ(モトラッド鈴鹿)からマフラーの製作を依頼されたのだ。テストのために乗ってみれば、それまで抱いていた印象とは違う。スポーティーさとは遠い外観を持ちながらも、良好なハンドリング性能。走行会の先導でサーキットを走ってみれば、それまでに乗っていたワークスレーサーと同等!? 印象がガラリと変わってしまったのである。そして自分のバイクとして R 1150 RT を購入、以来 BMW バイクにどっぷりとなってしまったのだった。
「自分でも今の状況に驚いています(笑)。のんびりと景色を味わいながら走るのがこんなに楽しかったなんて。毎年、北海道に行って一日で下道を 700km くらい走るのですが、それでも夜にお酒を味わう体力が残っている。BMW バイクの疲れなさには毎回感心しますね」と樋渡さん。今や趣味の筆頭がツーリング。開発のためのテストを含め、年間で2万km 以上バイクで走っているそうで、取材時には「今週末は金曜日の仕事が終わってから広島に行ってきます」と、現地での走りはもちろん、食べ物なども楽しむ “バリバリのツーリングライダー” なのだ。
アールズ・ギア代表の樋渡 治さん。現在は R 1200 RT、R 1200 GS アドベンチャー、K 1200 RS の3台の BMW バイクを所有。週末は、ほとんどツーリングに費やされており、開発のためのテストを含めた年間の走行距離は2万km 以上! マフラー製作においては手曲げ職人としての腕も確かで、30年近いベテランだ。
樋渡さんの愛車であり、アールズ・ギアのデモ車ともなっている R 1200 GS アドベンチャー。マフラーのほかに、ステップやハンドルポスト、サイドスタンドの “ゲタ” など、アクティブコンフォートの製品をインストール。今後は得意分野のひとつでもあるシートの開発が予定されている。
ノーマルマフラー(赤線)と、R 1200 GS/アドベンチャー用ワイバンマフラー(青線)のパワーカーブ比較。ノーマルの 3,000 回転前後にあるトルクの谷がなくなっており、4,000 回転以上では厚みを増している。開発段階ではシャシーダイナモ上で徹底的に煮詰め、さらに実走テストで磨きをかけることによって、データには現れない実際のライディングフィールに合ったものへと仕立てられている。
アールズ・ギアの主力商品はマフラーだ。そのトップエンドを担っているのが『ワイバン(想像上の動物で、背中に羽を持った龍)』シリーズで、市場からの熱い要望に応えて BMW バイク用もリリースされている。そのコンセプトは前述のとおりであり、それがより高められているのだ。素材は腐食の心配がなく軽量なチタンを使用。それに BMW バイクに似合うスタイリングと作り込みを施す。音量は低く、音質にこだわったサウンド、そして全域でのパワーアップを実現する。例えば、Rシリーズ用ならばノーマルでは細く感じる低速域でのトルクの厚みが増すように設計されており、扱いやすさは格段に向上。もちろん各種規制をクリアした車検対応のマフラーである。
また “BMW バイクでもっとアクティブに、もっと快適に” をコンセプトとして企画・開発される『アクティブコンフォート』というアールズ・ギアの BMW バイク向けブランドも用意。そのメインとなっているのは、アルミ削り出しのライディングポジションの最適化パーツだ。「大柄な欧米人ならノーマルでジャストなのでしょうが、日本人向けではない。それを改善したかったのが製品化の動機ですね」と樋渡さん。自らが乗って感じた不満要素をフィードバックしているのだ。自社工場内には製品を作り出すマシニングがあり、企画から開発・設計、量産までを一貫して行う。さらには、快適なライディングを得るためのシートを『ワイバンコンフォート』として展開し、長距離を走る BMW バイクユーザーからの高い評価を得ている。
樋渡さんがパーツ開発とテストを行い、ツーリングにも出かける愛車 R 1200 GS アドベンチャーに装着されているアールズ・ギア製品を見てみよう。ワイバンマフラーにおける各部のクオリティを見れば、ユーザーからの評価が高いのも納得できる。日本人向けのポジションへと変更することで快適性や操作性を向上させるアクティブコンフォートも、見えなくなってしまう部分にまで施される作り込みの高さがあり、まさに BMW バイクにふさわしい。
社名の『r』には、主力商品であるマフラーの『エキパイが描く曲線=アール』や『ライダーに向けた』といった意味が込められている。開発段階では代表の樋渡さん自らも実走し、データには現れない微妙な変化を感じ取る “人間シャシーダイナモ” としての能力を発揮。よりライダーの感性にフィットした製品へと仕立てる。
住所/三重県亀山市のぼの62-9
Tel/0595-85-8778