取材協力/ケイアンドエイチ 写真・文/モリヤン 構成/VIRGIN BMW.com 編集部
掲載日/2014年3月28日
日本のカスタムシーンの幕開け
K&Hの前身『紀一と博F.R.P.研究所』の歴史
創業者は、秋元 紀一氏と中山 博氏。秋元氏の家業の取引先にFRP製の風呂桶などを製作していた会社があり、当時はまだ入手が難しかったFRPの材料をそこから分けてもらうことができた。しかし、ノウハウまでは教えてもらえなかったため、ほぼ独学でFRPについての製造技術を習得し、オートバイパーツに転用していく。二人ともバイクレースに参加していてパーツの製作が急務だったことなどから、最初はまったくのプライベーターとして活動をスタートさせたという。
量産品の製作は、ホンダ CB400フォア用のシングルシートが最初である。1975年、このバイクの登場で、それまでとてもトラディショナルだったスポーツバイクのスタイリングを「カフェレーサー」という名前とともに一気にスポーツ性を前面に押し出したデザインが求められる時代に突入し、このシングルシートは飛ぶように売れた。その後も何度か復刻製作されるほど有名なシートとなり、紀一と博FRP研究所の名前は全国のバイク乗りのあいだに浸透していった。
海外のショーでも注目される存在となり、1980年代にはシートカウルやアッパーカウル、サイドカバーなどさまざまなモデルのモディファイパーツを製作。特にCB250RS用のカフェレーサーシングルシートやRZ250・350用キットなど、現在でも記憶に残る優れたデザインのFRPパーツを量産した。
1987年、社名をK&Hに変更。FRPパーツだけではなく、スチール製のガソリンタンクや真鍮のパーツなども製作。コンプリートでヤマハ SRをモディファイし、トライアンフレプリカを製作するなど、業務の幅を広げていく。そして2000年、シート製造法に現在のインジェクション方式を採用して、シート専門のメーカーへと路線変更。現在は第二世代のK&Hとして、そのポテンシャルを広げている。
高い技術とノウハウを持つK&Hの
シート製造工程における注目ポイント!
インジェクションスポンジ
型の中で発砲させるインジェクションスポンジを採用。さらにシートベースと一体成型としているため、スポンジとベースを接着する必要もない。原材料の密度によりスポンジの硬さをコントロールすることができるという大きなメリットを持つ。
ベースとなる型づくり
試作の段階では、ベースの取り付け方法からシート本体の造形まで何度も施工を重ねて調整する。モックアップの状態で実際に試乗しながら乗車姿勢や足つき性を考慮し、形状を決めていくのだ。
こだわりの革選び
表皮となる素材は耐久性を重視した合成皮革が主だったものであり、その数は豊富に取りそろえている。オーナーの好みにも答えるべく、セミオーダーシステムを導入しているのも大きな特徴である。
とくかく走ってチェック!
社長の上山氏をはじめ、スタッフ全員がバイク乗り。とにかく長距離を走り、ワインディングを走り、オフロードのレース等にも参戦してチェックを重ねる。時間をかけたライディングテストをするのがモットーだ。
セミオーダーシステム
ステッチの縫い糸など、シートはカラーリングを自由に選べる楽しさがある。K&Hのシートは、その品質も最高級だが、見た目のスペシャル感も他の量産シートメーカーとは一線を画す内容なのである。
仕上げ、そして完成!
作業工程のほとんどが手作業というのは、K&H創業時からのポリシー。品質を安定させるインジェクション製法と仕上げの手作業が組み合わされて最高のシートが送りだされているのである。
いつでもニュートラルな立ち位置の
ライダーでなければ進化はない
最新作は、水冷機能を備えた新型エンジン搭載のBMW ボクサーモデル R 1200 GS用と、F 650 GS/F 700 GS/F 800 GS用のシート。その開発コンセプトを伺った。
「BMWは車体がどんどん大きくなってしまって、小柄な日本人が乗るとなると、どうしてもシート高の低いローシートを選んでしまう。ところがこのメーカー純正のローシートは、どう考えてもただ座面を低くしただけのものなので、不具合が多いんですよ」
単純に座面だけを低くすると、座面の幅がシートベースの幅に近くなるため、どうしても脚を下ろす部分が幅広になり、シートの角が内腿を圧迫しガニ股になってしまう。これだと膝が外を向く格好になるので、着いた足先に力が入らず車体を支えにくいのだ。シート高は“低ければ低いほど良い”と思いがちだが、そう単純なものでもない。身長に対して低すぎる着座位置だと、相対的にステップ位置が近いため膝の曲がりがきつい姿勢となり、結果的に疲れるポジションとなってしまうのだという。さらにはどっかりと座らされてしまう乗車姿勢となるので、バイクの操作感が削がれてしまう。
K&Hが製作したシートは、脚をつくときのガソリンタンク直後の幅をフレームぎりぎりまで詰め、内腿の当たる部分をスムージングし、ある程度高い着座位置であっても足つきが良くなるように工夫されている。高い着座位置に乗車できるとステップ荷重もしやすくなり、よりバイクを操る楽しさを得ることができる。足を下ろす部分の幅は細くなっているが、着座部分はノーマルシートよりも広く取ってあるので乗り心地の良さを確保しいる。これで純正シートと同様の足つきであれば、高い位置に乗車ができるようになる。前下がりだった座面の水平基調も修正し、ライディング時と停止時の違和感を極力与えない形状になっているのだ。
「日帰りで、本州最北端に位置する青森の大間崎まで行くというテストランもしました。僕は自分で徹底的に走らせないと納得できないんです。それはどんなバイクでも同じですよ。ツーリングモデルでもオフロードモデルでも、使い込んだときに良さがわかるシートじゃないと、製作する意味がない」
“体格の小さな日本人でも扱いやすく、操作することが楽しくなる”というテーマで取り組んだシート製作。BMWのニューモデルにフィットするK&H製シートは、ノーマルよりもはるかに日本人に適したシートなのである。
ケイアンドエイチ
代表
上山 力 氏
20年以上在籍し、現在のK&H独自のノウハウを築き上げた人物。1990年代にはストリートテイストの「eggs」を立ち上げた。その後はシートの製造工程を完全に刷新して、現在のシート専門メーカーへの礎を作り上げる。2013年、代表に就任。
K&Hの日常を日々更新!
K&Hブログ 血と汗と涙のシート製作記
シートづくりのスペシャリストとして腕を振るい、テストライディングも積極的に行うのが上山さんのポリシーだ。
ライディングの快適さと
足付き性能の両立
大柄なR 1200 GSを日本人が乗りこなすには、シートの変更は最重要項目である。それはまず安心できる足つき性能も確保しながら、ライディング時の姿勢をいかに快適にするかという、相反するテーマの克服だ。解決策は、スポンジ形状とシートベースの構造にあった。
下げすぎず、快適に
理想のGSシートを追求
前述のスーパーローシートほど下げるわけではなく、最低限の足つき性を保ちつつもノーマルシートにはない快適性や耐久性を追及したのがこのローシートだ。シート裏の取り付け部分にも手を入れ、絶妙なポジショニングを実現。他メーカーでは作りえない製品である。
純正ローシートの不具合を克服
快適なライポジも生みだした
座面を下げただけの形状である純正ローシートは、幅が広くて足着き時には太ももの内側が強くあたるという不具合と、ライディング時の姿勢が前下がり形状のシートにより、腰への負担が多かった。その2点の不具合を徹底的に克服したのがK&H製シートである。
F 650 GS/F 700 GS/
F 800 GS
ミディアムシート
商品番号:S-3302
適合:F 650 GS / F 700 GS / F 800 GSモデル
価格:57,000円(税抜)
※表記価格は税別(2014年3月現在)
常に高級で快適なシートを追及
それがK&Hの基本ポリシーだ
代表の上山さんはじめ、スタッフ全員がバイクフリークであり、長距離ランやイベントレースにも参加する。自分で徹底的にライディングしたうえでなくては製品化はしない。そういうスタンスのK&Hだからこそ、信頼されるブランドなのだ。
住所/埼玉県朝霞市上内間木381-2
電話/048-456-3830
営業/10:00~19:00
定休/日曜、祝日
URL/http://www.kandh.co.jp/