海外試乗速報 New S1000RR(2012)
- 掲載日/2011年11月22日【特集記事&最新情報】
- Rider / Takashi TODA Text / Keisuke ASAKURA
初代登場からわずか2年でモデルチェンジを敢行した S1000RR。ここでは、スペインで開催されたワールドローンチに参加した、国際ライダー戸田 隆選手によるインプレッションをお届けします。
鈴鹿8耐や全日本ロードレースなど数々のレースを S1000RR で戦い、S1000RR を最も良く知る1人である戸田選手は、新型 S1000RR をどう評価するのか…?
ファースト・インプレッション
待望の新型 S1000RR
スタイリングはキープコンセプト
BMW モトラッド初のスーパースポーツとして、大きな話題を呼んだ S1000RR がニューモデルを発表した。登場から約2年という短いスパンでのモデルチェンジは、国産スーパースポーツのそれと同様。このクラスにおいての BMW の本気が伺える。自分は S1000RR でレース活動を行っており、当然新型 S1000RR の存在には大きな関心を持っていた。そんな折り、新型 S1000RR のワールドローンチ参加のチャンスをいただき、期待に胸を躍らせてスペインへと飛んだ。
試乗の舞台となったのはバレンシアサーキット。モトGPでも使用されている本格的なレーストラックである。そのピットロードで対面した新型 S1000RR は、一見したところ従来モデルから大きく変わったようには見えなかった。各部のディティールは細かく変更されているのだが、スタイリング上で目立つ変更点はシートカウルがコンパクトになったことと、アッパーカウルの左右に設けられたディフューザーが大型化&別体化された程度である。
跨ってみると、ポジションも先代 S1000RR とほぼ一緒なように感じられる。ただし、メーター周りの風景は変わっている。メーターのケース自体に変わりはないようだが、タコメーターの盤面に大きく “RR” のロゴが描かれている。似たように見えても、やはりこれは新型マシンなのだ。気持ちを改め走り出すと、ピットロードを加速するだけで低速トルクが増していることに気が付いた。また、車体を軽く左右に振ったところ、フレームの剛性バランスが変えられていることも解る。これは期待できる。
試乗インプレッション
中速域がパワーアップ
加速力は大きく向上
初走行のコースということもあり、最初はレインモードを使用。周回をこなしタイヤが暖まり、自分もコースに慣れたところで、スポーツ、レース、スリックと出力モードを上げ、ペースもどんどん上がっていく。最高出力は 193ps と、スペック上では先代 S1000RR から変更はない。体感的にもピークパワーの速さに変化は感じられないが、中速域の力強さは別物といっていい。ピーキーだった出力曲線がフラットなものになっている。
新旧2台の S1000RR を比べた場合、空力面での変化を無視してパワーの面だけで比較したとする。最高速は同じかもしれないが、その速度に至るまでが新型は確実に速い。ファイナルがショート化された効果もあるが、加速力の向上は明らかだ。モードを上げるにつれスロットルレスポンスが鋭くなってくるのだが、モードの切り替えによるスロットルフィーリングの変化は軽減されている。これは、スロットル制御マップの変更によるものだ。重めだったスロットルが、軽く操作できるようになったことも評価したい。
加速力の向上はディメンジョンの変更も関係している。スイングアームピボット位置を高くしたことで対地角が上がり、効率良くリアタイヤが路面に押しつけられているのだ。コーナー脱出速度が上がり、結果的にストレートスピードも伸びることになる。強化された中速トルクとの相乗効果で、コーナーからの立ち上がりの速さは確実に力強さを増した。だが、残念なことにそのパワーを 100% 味わえたかというと、そうではない。試乗時には純正タイヤが装着されていたのだが、サーキットの高負荷下では少々性能不足。ペースが上がってくると、レインモードですら全開時には DCT が介入してしまうのだ。まあ、逆説的にノーマルでそこまで攻め込める新型 S1000RR のポテンシャルを証明しているともいえるのだが…。
フレームとディメンジョンの見直しにより
スポーツ性を高めたハンドリング
シャシーの進化も著しい。一番大きな進化は、ストレートエンドでのブレーキングからコーナリング。フロントフォークのダンピング特性が見直されたことで、動作初期から減衰力がスムーズに立ち上がり、その動きもリニアだ。減速時の安定性が更に向上している。そこからコーナーへ進入していくと、剛性が上げられたフレームのステアリングヘッド部と、立てられたキャスター角や短縮されたホイールベースなどのディメンジョンの変更が効果を発揮する。コーナリング中、フロントタイヤが常に自分の手の内にあるように感じられ、フロントタイヤを使ってより積極的にマシンを曲げていけるのだ。
個人的には、このフレームの変更が新型で一番重要な変更点だと考えている。ディメンジョンの変更は、ある意味ユーザーでも可能。エンジンの出力特性も、チューニングでいじれる部分だ。実際、自分でもレースを戦う上で様々なトライを重ねてきた。だが、フレームに手を加えるのは、やはりメーカーでなければ難しい。その部分をしっかりと進化させてきてくれた BMW は、さすがに解っている。
バレンシアサーキットの最終コーナーは、アールの大きい左コーナーがそのまま回り込んでいる。フルバンクしたままスロットルを開けている時間がほとんどだ。こういうコーナーは S1000RR が最も得意とする部分。安定性に優れる車体に、完成度の高い DTC。ライダーは、マシンを寝かせてスロットルを開くだけでいい。このスタビリティの高さこそ、S1000RR が他のスーパースポーツとは違う部分ではないかと考えている。速さを求めることは、危険性の上昇と表裏一体だ。「速さ」と「安全性」という相反する要素を、どちらも損なうことなく両立させることは実に困難だ。BMW はその困難な課題に挑み、高い次元で実現した S1000RR を生み出した。これほど「安全」を感じさせるスーパースポーツは他にない。
誰もが「より安全に、スピードを楽しめる」のは素晴らしいことだ。しかしその反面、先代 S1000RR にはスーパースポーツとしての機敏さに欠ける部分があるのも事実。ストリートのレベルでは問題にならないが、レースの世界に限定すれば乗り手に優しい操安性がマイナスに働く部分もあったのだ。新型 S1000RR では、その点が大きく改良されている。フレームとディメンジョンの変更は、明らかに運動性向上へと向けた改変である。では、新型 S1000RR は過激なばかりで、速くても危険なマシンなのだろうか? もちろんそんなことはない。素晴らしいことに、レースの過激な走りに対応するポテンシャルアップを果たしながら、持ち味ともいえるスタビリティの高さはそのままだ。BMW のラインナップ中、異端児的な存在である S1000RR ではあるが、根底に流れる「安全で快適、そして速い」というバイク造りのポリシーに揺るぎはない。S1000RR は、やはり紛れもなく BMW のオートバイなのだ。
スタイリングに大きな変化がなく、ニューモデルとしての期待感は一見では小さいかもしれない。だが、その内容は大きな進化を遂げている。暴力的なピークパワーと、それを楽しめる制御系、安定感の高い車体など先代モデルの美点はそのままに、スポーツランにおける戦闘力は大幅に向上している。サーキットはもちろん、ストリートでもより楽しく走れるように生まれ変わった S1000RR。使い古された言葉ではあるが、これこそが “正常進化” というヤツだ 。
DETAILS
国際ライダー。2010年、2011年の全日本ロードレース選手権JSB1000クラスにS1000RRで参戦。2010年は鈴鹿8耐にもS1000RRで参戦している。他にもR1100S、K1200Rでの8耐参戦歴があり、HP2 Sportではもて耐優勝を果たしている。BMWでのレース経験は国内では並ぶものがない。車体とサスペンションのプロショップ【Gトライブ】代表。