K1600GT/GTL 開発者に聞く 10の質問状
- 掲載日/2011年11月15日【特集記事&最新情報】
- 開発者/WOLFGANG MATTES(パワーユニット担当)
ANTON DOTTERBOCK(エレクトロニクス担当)
最初からストレート6ありきだったのか?
検討段階では大排気量の4気筒、4気筒+スーパーチャージャーを装着する、などあらゆる可能性を話しあった。その中でもしコンパクトなストレート6を作れたらそれがベストだ、ということになったのです。
BMWのイメージ、特に四輪ではストレート6は大きなアイコンになっています。それにストレート6エンジンが持つスムーズさは格別です。それならV12気筒と言い出す人もあったくらいです。結果的に私たちはストレート6への可能性に賭けたのです。
技術的な部分で四輪のストレート6技術が投入されたのか?
ドライブトレインを担当した私自身、2年半前に4輪開発から2 輪開発へとスイッチした一人です。BMW の社内では決して珍しいことではありません。4輪の開発者の多くが2輪に乗りますから。
ただし、2輪のエンジンと4輪のそれは完璧に異なる要求からきています。2輪のエンジンはギアボックスを内蔵していたり、外観意匠も大切です。今回、カムシャフトの製法など限られた部分で4輪から技術が投入されたのは事実です。また、様々な計算方法などごく限られたエリアで共用されているにすぎません。
カムシャフトに関しては四輪で使われる技術であり、S1000RRにも使われている手法を用いています。通常、カムシャフトは鋳造削りだしですが、K1600のものは、ステンレスチューブにカム山部分を圧入しています。これによりカムだけで1キロの軽量化を果たしています。
フラット6やV6は考慮の中には?
ストレート6の持ち味はスムーズネスです。それにストレート6のメリットはカムシャフトが2本ですむことなど、コスト的にも軽量化できるレイアウトでもあるわけです。メリットが大きいエンジン形式ということですね。
吸気系のトピックスは?
スムーズなストレート6。そのイメージ通りのドライバビリティーを発揮するように仕上げています。樹脂製の長いインテークマニホールドとφ 52 ミリのスロットルボディーを使うことで、豊かな低中速トルクと、大型スポーツツアラーにふさわしい狙ったドライバビリティーを得ています。レスポンスを向上させるためにマニホールドにはチャンバー室をもうけています。
通常、シリンダーに一つスロットルバルブを装備するのが2輪のエンジンではポピュラーですが、K1600GT/GTLはスポーツツアラーであり、スーパーバイクではありません。6連スロットルにした場合、ここまでよい特性を得ることは難しかったでしょう。
また、このシステムにしたことにより、エンジン上部のコンパクトネスも向上させることができました。これはライディングポジションにも好影響をあたえているのです。
その他吸気系に関するトピックスは?
エンジン全長(総幅)をコンパクトにする。これは大きな命題でした。スモールボア×ロングストロークにすることで、ピストンも軽量な仕上がりとなっています。クランクウェブもトルク重視のものとしながらも、軽量に仕上げることができました。こうしたシミュレーションと計算は多くを重ねました。
稼働パーツの軽量化は全体の小型化、軽量化につながります。クランク自体の剛性とバランスをよくすることで、7箇所あるメタルに関してもコンパクトな設計を施すことができました。
72ミリのシリンダーボア、シリンダーセンター間の距離は77ミリ。つまり、シリンダー同士の隙間は5ミリしかありません。これを具現化するために冷却性能を向上させています。ヘッドは効率的に冷却するために、すべての気筒ごとにクロスフローの冷却水経路を持たせています。
また、燃費に関してもこだわりました。インテークマニホールド、インレットポート、そして燃焼室に多くの技術を投影し、燃費に優位な燃焼室を作っています。K1300GTと比較してコンスタントスロットルで11%向上させています。
インレットポートから入った空気はスモールボア×ロングストロークのシリンダー内で大きなタービュランス(渦)を作ります。こうして充填効率を高めたことで、パワー、トルク、ドライバビリティー、そして燃費など、多くのメリットが得られています。
エキゾーストは実にコンベンショナルな仕様となっています。キャタライザーをマフラー内ではなく、エキゾーストパイプの集合部分背後に配置することで、始動直後から高い環境性能を発揮するようにしています。
GTLとGTではエンジン特性など違いはあるのでしょうか。
エンジン特性はGT/GTLともにまったく同一です。ただし、EUの騒音規制範囲内でGTLは規制値よりもより低く抑えたジェントルなサウンドに、GTはサイレンサー内部にある膨張室から膨張室へとつながるパイプのサイズを太くすることで、ワイルドなサウンドを作っています。
残念ながら、日本に渡ることになったとしても現在の厳しい騒音規制の関係で、GTにもGTLのサイレンサーをつけることになるのでしょう。
トランスミッションに特徴は?
コンパクトなストレート6を作るためにオルタネーターをシリンダー背後に搭載しています。そして3シャフトのギアボックスは、全体の幅をコンパクトにして、エンジン背後に搭載し、ライダーの足下を細くすることに貢献しています。
ミッションのギアはヘリカルギアを使って、ノイズ面にも配慮しています。
クラッチはアンチホッピングクラッチを採用しています。ボール&ランプの方式でバックトルクを吸収しています。そして、その原理を使い、クラッチを繋ぐと、より高い圧着力を生み出し、クラッチレバーの操作力の重さに響かないようにビッグトルクを確実に伝えるようにしています。
走行中に軽くレバーに触れるとレバーに軽い半力があることを確認できます。それはこうした機能のためなのです。また、ドライブトレインのレイアウトによって重心位置を最適化することにも貢献しています。
また、エンジン単体で102キロとなっています。クランクケースはアルミ製、オイルサンプカバー、クラッチカバー、ヘッドカバーなどはマグネシウムを使っているのも軽量化のためですね。
アダプティブヘッドライトその目的は?
車体のピッチングに対してはヘッドライトユニットを動かし、ロールに関してはライト上部にあるリフレクターを動かすことで、常にライトの光軸が進行方向を照らし、安全性を高めるシステムです。
たとえば右側通行、左側通行という双方の異なる交通環境の国をツーリングする場合でも、光軸調整を手元から操作して変更するモードを持たせています。旅先でヘッドライトレンズにテープを貼ったりする必要はもうありません(笑)。
今回K1600GT/GTLにあわせて装着されたわけですが、
このシステムは他機種にもこれから転用されるのでしょうか。
アダプティブヘッドライトのシステムは、大きなライトユニットを必要としています。そのため、デザイン的に使用する機種は限られるでしょう。GS などよりは RT などのほうが可能性はあるのではと思います。
エレクトロニクスでトピックは?
ブルートゥースのシステムに新しい機能を加えています。ナビゲーションを使っている時でもライダーはパッセンジャーと会話を楽しみつつ、ナビゲーションの音声案内を聴くことが可能です。
プライオリティーが最も高いのは電話であることはかわりません。また、ライダーに会話の優先権があるのも従来通りです。