サーキットで、そしてストリートで。転倒や衝突など万が一の事態が発生したとき、いち早くエアバッグを作動させ、ライダーの身体へのダメージを最小限に抑える。これがダイネーゼのエアバッグシステム「D-Air」だ。膨大な時間と費用を費やして実用化されたシステムは、不意の転倒によるリスクを最小限に抑えるアイテムとして注目を集めている。
ただ、ひとことでD-Airと言っても、その作動原理はサーキット用とストリート用で異なるし、システム自体は超ハイテクのデジタル機器なので、その進化のスピードも早い。でも難しい話をさておき、いまD-Airについてもっと知りたいという方のために、あらためてD-Airシステムの基本をおさらいしていこう。
A. 日本では2014年から。D-Air のプロトタイプ発表は2000年。その後MotoGPなどレース現場で実験と開発を続けて、2011年にイタリアで一般向けのD-Air Racingが販売された。2012年にはバイクに専用のセンサーを取り付けて使用するストリート用のD-Air Streetが欧州で販売を開始。日本では2014年からD-Air Racingの販売を開始。現在はD-Air Racingとストリート用のD-Air Road(こちらはジャケット単体で機能するスタンドアローン方式)の2ラインが展開されている。
A. 違う。サーキット用のD-Air Racingはハイサイドと、ライダーの身体が回転するようなスリップダウン(ロウサイド)に対応してエアバッグが作動する。一方のストリート用D-Air Roadでは、ハイサイドとスリップダウン、さらに自動車など他車や構造物への衝突を感知するとエアバッグが作動するようになっており、アルゴリズムがまったく違う。サーキット用をストリートで使ったり、ストリート用をサーキットで使ったりすると、本来のパフォーマンスが発揮できないので注意が必要だ。
【1】【2】サーキット用のD-Air Racingでは上のイラストのように、ハイサイドとスリップダウン(ロウサイド)にのみ対応してエアバッグが作動する仕組み。ただし、【2】の下のイラストのように、ライダーの身体が回転しない場合ではエアバッグは作動しない。
【3】ストリート用のD-Air Roadでは、D-Air Racingのハイサイド・スリップダウンにプラスして、対自動車(構造物)への衝突によってもエアバッグが作動する。
A. 0.025-0.030秒。ハイサイドでライダーの身体が飛ぶ、スリップダウンでライダーが地面で転がる、自動車などとの衝突で身体が投げ出される、いずれの場合も感知から0.015秒でエアバッグシステムが演算を完了。必要と判断するとD-Air Racingでは0.030秒で、D-Air Roadでは0.025秒でエアバッグが膨張。100分の1秒台で、まさに瞬時に対処するのだ。このミリセコンド(=100分の1秒代)での作動完了を可能とするシステムはダイネーゼの安全性へのこだわりだ。
A. 速度を正確に把握するためD-Airシステムは加速度センサーと角度センサーを計6つ、さらにGPSも装備している。GPSを使うのは作動条件の中でも「速度」を重視するからで、これにより極低速ではエアバッグが必要ないという高度な判断も可能になる。また、D-Air Racing、D-Air RoadともにトンネルなどでGPS信号をロストしても直前の速度情報をCPUに保持。仮に次に信号を受信するまでにアクシデントが起きても対応できるのだ。さらにD-Air RacingではGPSを利用したテレメトリー機能も備えているので、データロガーのようにサーキットでの走行解析に利用できるのも大きなメリットのひとつだ。
A. 各部均一に5cm厚まで膨らむD-Airのエアバッグは内部に特殊なマイクロフィラメントを使用しており、膨張するとどの部分でも均一に5cm厚まで膨らんで身体を衝撃から守る。他社にないこの均一な厚みこそ、D-Air最大の特徴のひとつ。これはダイネーゼだけが持つ特許技術であり、四輪の世界のエアバッグとも大きく異なるポイントでもある。
A. 充電式バッテリー。システムは充電式バッテリーで駆動する。サーキット用のD-Air Racingは6時間のフル充電で8時間駆動可能だ。ストリート用のD-Air Roadは6時間のフル充電で24時間駆動する。いずれも走行しない状態で一定時間以上が経過すると、自動的にスタンバイモードに入って消費電力を抑える設計となっている。例えばストリート用なら丸一日出かけるようなツーリングでも安心して使用できる。
バッテリーは各ユニットなどと一緒にスーツやジャケットに内蔵されている。エアバッグの膨張には、インフレーターと呼ばれる小さなボンベを使っている。CPUからの信号が入るとボンベが開封され、バッグ内へ一気に空気が充填される仕組みだ。
A. 現在は25万円から。ストリート用のジャケットD-Air ミサノが25万円(税抜)で販売されている。写真右のスーツ、ムジェロRは66万円(税抜)で、普及モデルのミサノ・エスティバは30万円(税抜)から設定されている。決して安くはないが、ダイネーゼでは毎年搭載モデルを増やしており、数多くのモデルに搭載されるようになれば価格もどんどん下がっていくはずだ。
A. できる。転倒によってエアバッグを作動させてしまっても、ダイネーゼジャパンにスーツやジャケットを送ればもう一度システムが作動するように組み込むことはできる。交換料金はレーシングスーツの最高峰モデル、ムジェロRが3万5000円(税抜)で、その他モデルが3万円(税抜)。納期は1~2日ほど。ただ、その場合エアバッグついては再利用しない。これはヘルメットと同じで、一度大きな衝撃が加わったものには100%の安全性が見込めないからからだ。システムを再組み込みの場合は、エアバッグは新品となる。
エアバッグを使わないにことしたことはないが、不幸にもエアバッグのお世話になっても、再度システムを組み込むことも可能なのがD-Airなのだ。
A.していない。現在システム単体で一般向けには販売していない。というのもD-Airを搭載するウエアは、エアバッグが膨らんだ時の容積も考えて設計されているからだ。2018年からMotoGPでは各クラスでエアバッグ装着が義務化となったので、ダイネーゼはD-Airシステムを他社ブランドのレーシングスーツにも供給しているが、スーツブランドとダイネーゼの間では、エアバッグ搭載部の寸法などについて細かなすり合わせが行われている。
MotoGPで他社に供給しているエアバッグシステムD-Airアーマー。搭載するスーツブランドはエアバッグの膨張も考慮してレザーレーシングスーツを設計する。