
第二次大戦での敗戦から立ち直るべく、イタリアが活気に満ち溢れていた1947年。北西部の小さな街『Valenza(ヴァレンツァ)』で若き会計士、Gino Amisano(ジノ・アミザーノ)がモーターサイクル用のヘルメットブランドを立ち上げた。彼はクロムウェルなど英国製お椀型ヘルメットが全盛だった時代に、木のモールドを使用して表面に革を手貼りしたお椀型ヘルメットを完成させる。彼の名前であるGino Amisanoと、創業地Valenzaの頭文字から取ったブランド名は、AGVと名付けられた。
それから25年後の1972年、イタリア北部の街『Molvena(モルヴェナ)』で、Lino Dainese(リノ・ダイネーゼ)が1着の革製モトクロスパンツを縫い上げた。ダイネーゼブランドがうぶ声をあげた瞬間だ。
AGVとダイネーゼ。イタリア生まれのふたつのブランドはモータースポーツの世界を中心としながら、時代をリードするプロダクツ展開で成功を収め、ライダーにとって憧れの存在であり続けた。
2007年、ダイネーゼはAGVを傘下に収め、それまで別々の道を進んでいたふたつのブランドは歩みをともにすることとなった。カーボンシェル帽体の開発(AGV)や先進的なエアバッグシステム「D-air®」の実用化(ダイネーゼ)など、活躍の舞台こそ異なるが、両社を強く結びつけているのは「安全性とデザインを両立させたイタリアン・プロダクツ」という揺るぎのない共通項だ。
それから10年、そして両ブランドの創業からも節目となる2017年に、両社は揃ってアニバーサリーコレクションを発表した。シンプルでどこか懐かしさのあるデザインの中に、巧みに織り込まれているのは革新を積み重ねてきた時間の重みだ。
そこに歴史はあるか?
ヘリテイジという言葉だけが独り歩きしつつもある現在。真の歴史を持つブランドが発信したコレクションは、玉石混淆のシーンの中で決して覆い隠せない存在感を放っている。