世界屈指の安全性を誇るダイネーゼのエアバッグシステムD-Airに新たな展開!なんと他社へのシステム供給が始まるというのだ。果たしてその意図とは?
危険を察知してわずか0.045秒でエアバッグが作動を完了するダイネーゼのDエア。独自のシステムとアルゴリズムの製品化に成功し、いまでは多くのユーザーがその安全性を認めている。開発費用は膨大で取得した特許も数知れず、普通なら自社製品だけに搭載する門外不出のテクノロジーだ。だがダイネーゼはシステムの他社供給を開始するという。一体なぜ?
実は18年のモトGPから、全クラスのライダーにエアバッグ装着が義務づけられる。とはいえ、いま技術を持たないレーシングスーツブランドがゼロからシステム開発するのは実質的に不可能だ。ダイネーゼが他社供給という英断を下した理由はそこにある。自社の安全技術をもっと多くのライダーへ。きれいごとではなく、安全性へのあくなき追求が数々の革新を生んだブランドだからこそできる判断なのだ。
レーシングスーツからストリート用のジャケットまで、すでに数種類のバリエーションが用意されているDエア。製品数が増えれば量産効果でシステムの単価も下げられ、より多くのライダーに自社技術を提供できる。そんな意図でいまでも搭載製品が増加中である。
ダイネーゼほどのブランドなら、エアバッグ市場で寡占状態を作り出すことも可能だったかもしれないが、すべてのライダーが平等に安全性を享受できる枠組みを作るのは、安全にこだわり続けたブランドの良心かもしれない。
ダイネーゼがDエア・アーマーと呼ぶ他社供給用のエアバッグユニット。基幹システムはこれまでのDエア同様だが、ダイネーゼ製品のようにレーシングスーツにシステムを組み込むのではなく、インナースーツにエアバッグユニットをセットアップする方式を採用している。この方式であれば、供給を受けるレーシングスーツブランドは、スーツにユニットを搭載するための形状を思案する必要もなく、エアバッグ作動時の膨張分を考慮したスーツを製作するだけで良い。また、アクシデントに備えて予備スーツが何着も必要なレースの現場でも使い勝手が良い。
システム提供の過程では両社のエンジニアが技術的な折衝を行う場面も必要だが、ゼロからシステム開発を行うと考えれば費用面での効果は高く、今後はこうした形でコラボレーションを行うブランドが加速度的に増えていくはずだ。現在、レースレベルで実用的なレベルにあるエアバッグシステムを自社で開発したブランドは、まだ数えるほどしかなく、またそんな状況だからこそDエア・アーマーのような発想が誕生したとも言い換えられるかもしれない。