#15 2011 鈴鹿8耐参戦記完結編 【後編】
- 掲載日/2011年10月21日【S1000RRの楽しみ方】
- 文・写真/淺倉 恵介
エンジン始動不調というトラブルを抱えながらも、懸命に周回を重ねる 【Team Tras】 の S1000RR。ポジション回復の兆しが見え始めた矢先に、次なるトラブルが襲いかかる。しかし、高田さんは挫けない。【Team Tras】 は、ゴール目指してチーム一丸となって突っ走る。
続くトラブル
これが8耐の怖さか?
エンジンの始動性は相変わらず悪いままですが、コースを走ってさえいれば S1000RR は快調です。トラブルが発生したスティント(耐久レースでは、1回の走行をスティントと呼ぶ)は、コース復帰に手間取ったため、順位が23位くらいまで後退してしまいました。その後すぐに20位前後までは戻したのですが、レースも中盤になりマシンの間隔もバラけてきたようで、なかなか先行するマシンに追いつきません。もっとも、周りのチームも皆必死になって走っているわけですから、そう簡単に前へ行けるものではないのも道理です。
こんな時、僕たちライダーはただ一生懸命走るだけです。順位を取り返すには、それしかありません。そんな中、再びトラブルが発生してしまいました。ピットに戻ると、前後のスタンドがかけられます。ライダーはスタンドがかかったのを確認してマシンから降りるのですが、そうしたところマシンが大きく傾き、あやうく引っくり返りそうになったのです。傍にいたメカニックが必死にマシンを支えて事なきを得ましたが、あきらかに異常な状態です。最初はスタンドが十分にかかっていないミスかと思いましたが、どうも違うようです。よくよく見ればフロントスタンドの角度がおかしくなっています。
8耐マシンのスタンドは、リアは一般的なレーシングスタンドのフックを大きくして、確実にスタンドがかかるようにしただけのものですが、フロントはレース用の特殊なスタンドを使用しているチームが大多数です。エンジンの前側に、車体を横切るようにパイプを取り付けて受けのマウントにし、そこに棒を差し込んでマシンを支持するスタンドで、フロント周りがフリーになりタイヤ交換の効率が大幅に上がるのです。【Team Tras】 の S1000RR もそのタイプのスタンドを使っていますが、車体に取り付けた受けのパイプがズレてしまったのです。
原因はアルミ製のパイプと、フレームに装着したパイプを固定する部品が、エキパイの熱で膨脹して緩んでしまったことでした。とりあえず、ステムシャフトに差し込むタイプの一般的なフロントスタンドを使用することにしましたが、これではフロントタイヤの交換に時間がかかってしまいます。少しでもピット作業にかかる時間を短くしたい状況ですから、正直苦しいなと思ったのですが、ここでマイスターの皆さんが男を見せてくれました。作業条件の悪い中で必死に作業をして、わずかなタイムロスでマシンをコースに送り出してくれたのです。今年のマイスター達は気構えが違う。またもやそう思わせてくれました。
メカニックがベストを尽くしてくれているのですから、ライダーはそれに応えなければなりません。僕も全力で走りました。自分の担当する最後のスティントでは、走り出す前に前を行くチームのゼッケンを確認してからコースに出ました。レース時間が長い耐久レースでは自分のポジションを見失いがちです。自分の順位は認識していても、どのマシンを抜けば順位が上がるのか? どのマシンに抜かれたら順位が落ちるのかまでは把握できていないことがほとんどです。そこで、最後の走行では追いかけるべきターゲットを決めることでモチベーションを上げました。
速く走ろうとするのはレーシングライダーの本能のようなものです。狙いをつけた相手を無心に追いかけていたら、トラブルが発生して以来20位あたりでくすぶっていたポジションを2つばかり上げることができました。最善を尽くせたかどうかは自分ではわかりませんが、できる限りのことはしたつもりです。あとは最終スティントの寺本選手の走りに期待し、マシンを降りました。
いよいよ8時間が経過
苦難を乗り越えてのゴール
残り時間が1時間を切り、空が薄暗くなってきました。少々、曇り空の今年は暗くなるのが例年より早かった気もします。ライトオンのサインが出され、ヘッドライトが流星のようにストレートを駆け抜けていきます。とても綺麗です。やはり、8耐のゴール間近の時間帯は、ナイトランがなければいけませんね。スタート時間が早まって、どうなることかと思っていましたが、ナイトランがあってよかった。
【Team Tras】 の S1000RR は順調に周回を重ねています。しかも残り10分を切ってから、更に順位を上げています。寺本選手は、最後までプッシュを続けているようです。最終ライダーとして、最後まで手を抜かない寺本選手。たいした男です。
午後6時30分。チェッカーが振られ、今年の8耐が終了しました。【Team Tras】 のリザルトは総合15位、週回数はトップから13ラップ遅れの204周でした。正直なところ、もっとやれたのではないか? こうすれば良かったのではないか? 今でもそう思うところは多々あります。特に心残りなのが、順位を大きく落とすことになったトラブルです。実をいえば、スターターリレーのトラブルもフロントスタンドのトラブルも、しっかりと準備しておけば防げたかもしれないものなのです。
今回はテストの段階でデータロガーを活用してデータ収集を行っていました。レース本番ではロガーを使用しない予定でしたので、本来であれば決勝前に取り外す計画だったのです。ですがマシンの仕上がりが遅れ、テストが後ろにズレ込んだせいで、データロガーを取り外す時間がなくなってしまいました。スタータリレーとロガーの本体はテールカウル内の近い場所に設置されていました。電子機器の発熱量はバカにできません。スターターリレーの不調の原因に、その熱の影響がなかったとは言いきれません。
フロントスタンドも同様です。フロントスタンドの受けのパイプを取り付けたのは決勝の前日です。もし、マシンが早々に完成しており、フロントスタンドを装着した状態でロングランテストを行なっていれば、事前にトラブルを発見していたかもしれません。であれば、決勝レースまでには対策を施すことが出来たはずです。そう考えると、どれもこれも自分のマネジメントのマズさが生んだトラブルに思えてきます。レースに「たら、れば」は無いと、よく解ってはいるのですが、射程距離内にあったシングルフィニッシュを逃したと思うと、ついつい悔しく思ってしまいます。
そうは言っても、15位という結果は素晴らしいものだと胸を張れます。チームの目標だった昨年の順位超えと世界耐久選手権のポイント獲得を果たしたわけですし、僕にとっても8耐のベストリザルトになりました。なにより、トラブルを抱えながらも、チームの皆が協力してリカバリーして得た順位です。それが何より誇らしく思えます。声援をいただいたファンの皆さん、8耐出場には欠かせなかったスポンサーのご協力、暑い中忙しく立ち働いてもらったヘルパーさん。共に走った寺本選手と片平選手にはいろいろと助けられました。そして、メカニックを務めてくださったマイスターの皆さんは、本当に素晴らしかった。ライダーとしての自分には、いろいろと悔いが残るところもあるのですが、それでも良いチームで、良いレースを走らせてもらえたと思います。【Team Tras】 の8耐チャンレンジを応援してくださった全ての方に、この場を借りて心からお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
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