#10 8耐決勝! Team Trasかく戦えり
- 掲載日/2011年08月23日【S1000RRの楽しみ方】
- 文・写真/淺倉 恵介
本コラムの大きな柱としてお伝えしてきた、S1000RRでの鈴鹿8耐挑戦。既にレースは終了していますが、ここでは高田さんがライダーとして、Team Trasの一員として8耐を振り返ります。なかなか知ることのできないレースの内側を、ライダー自身が語るインサイドリポートです。
いよいよ始まった
8耐レースウィーク
さる7月31日日曜日、鈴鹿8時間耐久ロードレースの決勝レースが行われました。もう結果をご存知の方も多いかと思いますが、僕達 【Team Tras】 は、15位という好成績を収めることができました。昨年は18位ですから、着実な進歩だといえるでしょう。これも、ご協力いただいたスポンサーの皆さん、そして声援を送っていただいた皆さんのおかげだと思っています。ここで、改めてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
このコラムでもずっとお伝えしてきたように、僕にとって8耐はビッグイベントです。特に、今年の8耐はチームの発足当初から関わってきましたから、いろいろな想いがあります。レースというものは、ライダー1人でどうにかなるものではありません。メカニックやヘルパーの助けがあって、初めてライダーは走ることができる。僕自身はそう考えています。
極端な話をすれば、ライダーが1人で全てをこなせばスプリントレースを走ることはできます。事実、そうしてレース活動を行っているライダーも少なくありません。ですが、耐久レースの場合、少なくともペアを組むライダーが必要です。8耐のような大きなレースになれば、メカニックは絶対必要ですし、ヘルパーの存在も欠かせません。レースはチームスポーツ、耐久レースは、そのチーム力が試されるレースです。ここで 【Team Tras】 の戦いぶりを、ライダーとしてチームに参加した1人として振り返ってみようと思います。
チームの鈴鹿入りは7月27日。決勝レースは4日後ですが、それまでにフリー走行や予選をこなさねばなりませんし、マシンの最終的な仕上げなど、決勝前にやらなければならないことは山盛りです。実は、決勝用のマシンが組み上がったのは鈴鹿入りの直前。25日にツインリンクもてぎでナラシ走行を行ってきたという、バタバタの鈴鹿入りでした。そのためマシンは走行可能な状態ではあったものの、耐久仕様としては不完全な状態でした。27日夕方に鈴鹿に到着したのですが、荷下ろしも早々にマシンの整備にかからねばなりませんでした。この日、ピットを後にしたのは午前2時。それでも完成したとは言えません。マシン造りは、ある程度僕が担当していましたから、この点についてはチームに迷惑をかけてしまったと反省しています。
難航するセッティング
時間はわずか、課題は山積み
翌28日、この日はフリー走行が行われます。フリー走行では、通常は最終的なセッティングの確認などが行われますが、僕らの S1000RR はそこまでマシンが仕上がっていませんでした。ですから、走行時間をめいっぱい使ってセッティングを詰めたかったのですが、物事はなかなか上手く進んでくれません。この日の鈴鹿地方は天気がとても不安定で、突然の豪雨により2本予定されていたフリー走行の内、午前中の1本がキャンセルになってしまったのです。僕らが立てていた予定では、1本目の走行の時に決勝レースで使用するタイヤを決定するためのテストを行うつもりだったのですが、それができなくなってしまいました。理想を言うのなら、使用タイヤの選択はレースウイーク開始前に終えておくべきで、有力チームは皆そうしています。ですが、【Team Tras】 のようなプライベートチームは、頻繁にテストを行えるわけではありませんし、今回はマシンの仕上がりも遅れていたので、ここまで引っ張ってしまいました。やむなくタイヤ選択は翌日の予選前に行われるフリー走行に持ち越すことにして、この日の走行はサスペンションのセットアップ中心のメニューで行うことにしました。
本当なら、このフリー走行でガス欠テストも行いたかったのですが、それも出来ませんでした。ガス欠テストとは、ガス欠でエンジンが止まるまで走り、ガソリン満タンの状態から実際にどれだけの距離が走行可能なのかを計測するテストです。耐久レースでは、燃費はピット回数に関わってくる大きな問題です。1回の給油で走行可能な距離をしっかりと把握しておく必要があります。もちろんタンクの容量は量れば判りますし、燃費のデータはテストの時からイヤというほどとっています。それに、【Team Tras】 の S1000RR は昨年の8耐と同じ燃料タンクを装着しているので、今年の燃費データを当てはめれば走行距離は計算できます。決勝レースでもそのデータを元にして燃費を算出し作戦を立て、それで問題はありませんでした。けれども、やはり実際にガス欠テストを行っておきたかったのが本音です。決勝レースは何が起きるかわかりませんし、机上のシュミレーションでは見えない問題点が、テストでは浮き上がってくることも多いのです。念には念を入れるにこしたことはありません。
この日の走行では、決勝用に作ったメインカーと、“Tカー” の乗り比べも行いました。Tカーは、僕が全日本選手権などで使っている少々くたびれた車両なのですが、Tカーの方がフィーリングが良いと3人のライダーの意見が一致してしまいました。メインカーとTカーは、同じパーツ、同じセッティングを使用した全く同じ仕様で作られています。それなのに、エンジンやシャシーのキャラクターが微妙に異なり、今回の場合Tカーの方がライダーの評価が高いという結果が出ました。
実は、こういったことは珍しくありません。現代のバイクは非常に高い精度で生産されていますが、各パーツは全く同一とまではいえず、わずかながらも製品誤差が存在します。材質についても同様です。もちろん、品質管理上で問題ないとされる範囲なのですが、そういったミクロンレベルのわずかな差異が積み重なり、マシンのキャラクターに違いが出てしまうのです。本当にわずかな差なのですが、極限を求めるレースの世界では見過ごせない部分でもあります。また、組み上げた人が違えばそれも仕上がりの違いとなって現れます。そこが面白い部分でもあるのですがレースとなれば、そうも言っていられません。急遽、予備のエンジンをメインカーの車体に積み替えることになりました。僕は、翌日の予選に備えて早々に引き上げさせてもらいましたが、メカニックの皆さんは遅くまで作業に追われていました。マイスターの皆さん、ありがとうございました。
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