VIRGIN BMW | #08 強力なサポーター BITO R&Dの登場! S1000RRの楽しみ方

#08 強力なサポーター BITO R&Dの登場!

  • 掲載日/2011年07月16日【S1000RRの楽しみ方】
  • 文・写真/淺倉 恵介
S1000RRの画像

鈴鹿8耐に向け忙しい日々を送っている高田さん。今回は S1000RR を耐久レーサー化させるため、欠かせないパーツを求めて BITO R&D を訪問。“世界のJB” とのコラボレーションで、S1000RR がどう変わるのだろうか…?

鈴鹿8耐本番までは、あとわずか
S1000RRレーサーは急速に進化中

いよいよ鈴鹿8耐まで1ヶ月を切りました。僕達のチーム、【Team Tras】 もテストに準備に大わらわです。先日行われた公開テストでは、相棒の寺本選手が好タイムを記録。S1000RR で走るのは、まだ数えるほどだというのにさすがという他ありません。僕も負けずにがんばらなくてはなりませんね。また、海外からも同じ S1000RR を駆る 【Team BMW Motorrad France 99】 の参戦が発表されました。彼らは世界耐久選手権で勝利を収めている強豪ですが、【Team Tras】 は地元日本のチームとして意地を見せてやるつもりです。皆さん、ゼッケン135に応援をお願いします。

8耐に向けマシン造りも進んでいますが、難航していたのが足周りのセッティングです。今年から前後タイヤを17インチから、16.5インチにスイッチしたこと。また、それが原因で足周りの設定を全面的に見直す必要が出てきたことは以前お話しした通りです。新しい16.5インチタイヤのポテンシャルは間違いなく高いはずですから、それを活かせる足周りを作らねばなりません。僕は、その鍵はスイングアームにあるのでは? と考えています。昨年から使用しているスイングアームは、レース用のワンオフ品で非常に剛性が高いものです。どうやらそのあたりが、タイヤとのマッチングに難があるようなのです。

では、スペックを変えた新しいスイングアームを…と、いきたいところですが、スイングアームを新造するのは簡単ではありません。大物パーツですから、ワンオフ製作となるとかなりのお金がかかります。残念ながら Team Tras の懐は裕福というわけではないのです。ですが、僕も長い間プライベーターとしてレース活動を行ってきた人間。お金がないのは当たり前、その分知恵を使って、あるものでなんとかするという考え方が身に染み付いています。そこで、思いついたのがノーマルのスイングアームでした。

ヨーロッパにはスーパーストック1000というレースがあります。WSBK と併催されるハイレベルなレースですが、改造範囲が非常に狭く、ほとんどノーマルのバイクで行われています。そのレースで S1000RR は好成績を収めており、昨シーズンはチャンピオンも獲得しています。そのマシンのスイングアームもノーマルです、ならば僕の S1000RR もノーマルでイケるのではないか? と、試してみたところ、これがなかなか好感触。若干、剛性を上げたい部分もありますので、そこはカーボンプレートを貼付けて剛性アップを狙おうと思います。なにしろ我がチームにはドライカーボンのプロ中のプロ、Tras代表の新田さんがついていますから。

ですが、問題が全て解決したわけではありません。8耐はご存知の通り耐久レース、ほぼ1時間毎にライダー交代があり、同時に前後のタイヤも交換します。1分1秒を争うレースの世界では、ピット作業も時間との戦い。スイングアームも素早くタイヤ交換が出来るように、特別な形状が持たされています。今まで使用していたスイングアームはレース用のスペシャルですから、もちろん耐久レース仕様になっていました。ですが、今年使用するのはノーマルスイングアーム。そのままではタイヤ交換に何分も時間がかかってしまいますから、耐久仕様へモディファイする必要があります。今回、その作業を 【BITO R&D】 さんにお願いすることになり、新田さんと2人でBITO R&D代表の美藤さんを訪ねて兵庫までお邪魔しました。

BITO R&Dといえば、ワークスマシンにも採用される高性能なマグネシウム鍛造ホイール “JB-MAGTAN” が思い浮かびます。僕の S1000RR に履いているホイールも JB-MAGTAN です。他にも数多くのバイク用パーツをラインナップされていますし、パーツメーカーとしてBITO R&Dをとらえている方も多いでしょうが、バイクのカスタマイズやチューンナップも得意とされています。美藤さんは元々レースメカニック出身の方ですから、その辺りのノウハウはバッチリです。

美藤さんは、いきなり押し掛けた Team Tras を暖かく迎えてくださいました。実は、美藤さんと親しくお話しさせていただいたのは、今回が初めてのことです。僕のレースに対する想い、Team Tras の8耐への取り組みなど思うがままにお伝えしたところ、チームへの協力を快く承諾してくださいました。同じレース界の人間同士、話も弾み美藤さんからもいろいろなお話しを伺ったのですが、美藤さんのアメリカ放浪時代や、ワークスメカニック時代のエピソード、JB-MAGTAN 開発秘話などなど、本にして皆さんに読んでもらいたいくらい面白い内容ばかりです。機会があったら、ご紹介したいものですね。

今回のBITO R&D訪問は、大変有益な時間になりました。Team Tras にご協力いただけることになったことは最も重要な成果ですが、それとは違った次元で、美藤さんの人柄に触れられたことは僕にとってとても大きい出来事です。美藤さんのバイクに関する深い見識、物造りに対して真摯に向き合う姿勢など、見習うべきところばかりで、本当に良い経験になりました。

実は、BITO R&Dに協力をお願いしようというのは新田さんのアイデアでした。美藤さんと実際にお会いしてお話ししようと言い出したのも新田さんです。新田さん自身、美藤さんと以前から親しくしてきたわけでもないそうなのですが、BITO R&Dにお願いしたいと考えていたようです。“物造りのプロ” としてBITO R&Dの製品を見て、何か感じるものがあったのではないか? などと想像しています。

これで僕の S1000RR は、BITO R&Dのホイール&加工に Tras のカウル、このワークスレベルのパーツがふたつも装着されていることになりました。なんだかスゴいバイクになってきましたが、それでもエンジンは相変わらず全くのノーマルというのが面白いですね。ともかく一部のパーツはワークス並ですし、チームも心意気だけはワークスにも負けません。こうなると、あとは乗り手の問題。8耐まであとわずか、気合いを入れ直し頑張って走ります!

S1000RRの画像
S1000RRの画像
S1000RRを囲んでモディファイの構想を拡げる、美藤さん、新田さん、高田さん。それぞれがスペシャリストであるだけに話は早い。S1000RRの戦闘力は、ますます上がりそうだ。

“世界のJB” に聞く
S1000RRとTeam Trasの8耐挑戦

BMW初のスーパースポーツ S1000RR には、美藤さんも興味津々。S1000RR について、どう考えているかを聞いてみた。

「BMWといえば、やはりフラットツインのイメージが強いですよね。ユーザーはもちろん、BMWも “我々はフラットツインのメーカーだ” って考えていたんじゃないでしょうか? そこを、よく思い切ったなあと思います。

エンジンや車体のレイアウトは国産のスーパースポーツと同じですよね。基本構成は同じですが BMW なら、全く同じものを作ってはこないハズ。どういう味付けになっているか、とても興味がありますね。

当社の S1000RR 用パーツとしては、現在 JB-MAGTAN の JB-3 と JB-4 をラインナップしています。実は、まだ実際に S1000RR に乗っていないんです。車輌をお預かりしましたから、じっくりと走り込んでみたい。まずは、自分自身 S1000RR というバイクをよく理解しなければなりません。このバイクはどこが優れていて、何が足りないのか? そしてこのバイクには何が必要かを考えます。その上で、ビトーR&Dとしてどんなパーツを開発すればよいのか検討したいと思います」

BITO R&Dから S1000RR 用パーツが登場する可能性は高そうだ。これは大いに期待したい。また、Team Trasへの協力を表明したビトーR&Dだが、美藤さんを動かした決め手はどこにあったのだろうか?

「車輌が S1000RR であったということが大きいのは事実です。当社は国産車をメインにパーツ開発を行ってきましたが、外車も手がけてみたいという考えは以前からありました。そこに “S1000RRでレースをやりませんか?” とオファーをいただいたので、一度お話ししてみようと…。

高田さんと新田さん、お二人にお会いして “この人たちは本当にレースが好きなんだ” って解りました。本当に好きな人が自腹を切ってレースをやっている。これは共感しない方がおかしいですよ。ビトーR&Dは小さなメーカーですし、やれることは少ないかもしれませんが、出来ることはなるべくご協力させていただきたいと思います。

個人的にも S1000RR というバイクを見極めたい。この S1000RR とアプリリアの RSV4 は、非常に短い開発期間でレースで結果を出してきています。なぜそれが可能だったのか? そこに興味があります。せっかく S1000RR でのレースに関わる機会が持てたのですから、コンストラクターとして S1000RR の本質的なところを探ってみたいですね」

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BITO R&D 代表 美藤 定 Jo BITO

1952年生まれ。“世界を見る” ため、20代半ばで単身渡米。カワサキZ2でアメリカ各地を放浪する。そのツーリングの途中、摩耗したチェーンを購入するため立ち寄ったのが、当時2度目のアメリカ進出挑戦中だったヨシムラ。その場でアルバイトとして、ヨシムラで働くことになる。そこで故POP吉村に師事し、レーシングメカニックを学ぶ。その後、USホンダやグランプリチームのメカニックとして世界を転戦。帰国後 【BITO R&D】 を設立、パーツ開発や販売を開始。1999年に世界初の市販鍛造マグネシウムホイール 【JB-MAGTAN】 を製品化。スズキやカワサキのワークスレーサーに採用された実績を誇る。
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BITO R&Dが手がけたR1100Sカスタム。前後ホイールはもちろんJB-MAGTANで、マフラーも同社製のチタン手曲げマフラー。ブレーキキャリパーはBITO R&Dが独自開発したラジアルマウント6ピストンキャリパーで、ローターも同社製。

BITO R&D の工場を少しだけ紹介
JB-MAGTANは、こうして生み出される

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これが加工前のホイールのブランク材。熱間圧延鍛造という技術を用いて作られている。切削加工前のため、軽量なマグネシウム製とは思えないほど重い。
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ブランク材を、NC旋盤を使用して切削加工。ベースの形状はこの工程で作り出される。マグネシウムの塊がホイールらしくなってくる。
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切削加工後の状態。だいぶ完成形に近づいているが、スポークやハブの加工はこれから。
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NCフライスで細部の切削加工を施す。この段階でスポークの形状が作られ、細部の加工も行われる。
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フライスでの加工後の状態、ほぼ完成している。ブランク材と重量を比較すると、ほぼ10分の1まで減っている。高価なマグネシウム材のほとんどが削られ、廃棄される。
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塗装仕上げの後、車種別のハブやカラー、ベアリングなどが組み込まれて完成。これはBMW R1100Sに装着されたもの。もちろん専用設計品。
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BITO R&D では、ホイールの企画開発、設計、切削などほとんどの作業を自社工場内で行っている。更には、破壊試験用の機材までを備える。破壊試験は全品に行う完成検査ではなく、あくまで開発時のみ必要な機材。通常、メーカーではなく検査機関などが所有するものだ。この検査機械では、回転でかかる負荷からの耐久性を検査する。
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こちらの機材ではホイールにタイヤを装着した状態で、衝撃を与えた時の強度を検査する。
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JB-MAGTANはリムがこれだけめくれても、エア漏れが発生しないように作られている。
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ホイールを固定状態にし、ハブにアームを接続して回転方向に捻り、その強度を確認している。
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BITO R&Dの主力商品のひとつである【ケーヒン FCR キャブレター】。キャブボディ自体はケーヒンの製品であるが、車種に合わせたフィッティングの設計や、パーツのアッセンブルは BITO R&D で行われている。
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車輌やエンジン単体が持ち込まれての、メンテナンスやカスタマイズの依頼も多い。これはカワサキZ1300のエンジンオーバーホールを行っているところ。
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ずらりと並んだエンジンやパーツは、絶版車修理用のストックパーツやコンプリートエンジン。
国際ライダー MFJ公認インストラクター
高田 速人
バイクのタイヤとメンテナンスの専門店「8810R」代表。1976年生まれ、東京都出身。中学2年でミニバイクレースを始め、高校卒業後はロードレースにステップアップ。1996年に国際ライダーへと昇格、全日本選手権や鈴鹿8時間耐久レースなど、豊富なレース経験を持つ。2010年は 【Tras & G-TRIBE + 8810R】 チームによる、S1000RR鈴鹿8耐への挑戦にライダーとして参加。2011年は S1000RR を駆り 、【Team Tras】 の第1ライダーとして鈴鹿8耐に参戦。15位獲得に貢献した。
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