第6回 バイカル湖へ
- 掲載日/2007年01月13日【ユーラシア大陸横断】
- コラムニスト/Erik Andreas Jorn
極寒、強風、雪で遮られる視界…
ウラン・ウデまでの過酷な道中
お世話になったアレクサンドルにお礼を伝え、私はチタを出発しました。これから向かうのはウラン・ウデという街です。1日あれば到着してしまう距離なのですが、ウラン・ウデまでの道のりは非常に辛いものとなりました。気温は一日中0度を下回り、冷たい風が強くふきすさび、体感気温は0度以下に感じます。R1200GSのフロントにはウインドスクリーンがついていますが、あまりの寒さに私は体を45度ほど倒し、風を受けないように変な姿勢でずっと運転していました。強い風が吹いていたかと思うと、突然その強さが弱まることもあり、車両のバランスを取るのも難しく、緊張感を持ったライディングです。怖いのでスピードを出せない私をバスやトラックがゆっくりと追い抜いていきます。どう見ても過酷な環境で走っている私を助けてくれる人は誰もいません。でも、これも旅の一部です。頑張ることにしましょう。
そう思った矢先についに雪が降り始めました…。ちょっとシャレにならない状況です(笑)。寒いし、風は強いし、おまけに雪で視界が遮られる。これまでのバイクライフの中で間違いなく、一番過酷なライディングです。仕方がないのでできるだけスピードを落とし、ウラン・ウデまでは慎重に走ることにしました。悪天候のせいで、陽が落ちるまでにはウラン・ウデに到着する予定が、街に入ったのは夜更けです。陽が落ちてからの行程は日中とは比べようもなく、街に入ってR1200GSを降りたときは体中の関節が固まってしまっていました。これまでも寒い中バイクで走ったことはありましたが「体の芯から寒い」とはどういうことなのか、この日にハッキリと理解できました。
汚い格好で臭うワタシ
ドレスコードに引っかかりました
「ロシアには道路標識が少なく、目的地を探すのが大変」とは前回にも書きました。ウラン・ウデでもその状況は同じです。この日に宿泊するホテルの場所がまったくわかりません…。チタではアレクサンドルに助けてもらうことができましたが、ウラン・ウデ入りをしたのは夜更けのため通りには人通りも少なく、道を聞こうにも人がいません。こんなときに頼りになるのがウラジオストックでOlgaとSashaからもらったHelpリストです。確認するとウラン・ウデで私が頼ることができる人の連絡先がここに載っているではないですか! 彼の名はNima。職業は警官です。さっそく連絡してみると、その日の業務シフトは終わったばかりで「一緒に探してあげるよ」と暖かい言葉をかけてくれました。Nimaは英語はカタコトでしか話せず、コミュニケーションには苦労しましたが、彼のおかげで目指すホテルまで何とかたどり着くことができました。ロシアの道路事情は本当に旅行者にはチンプンカンプンですので、皆さんもロシアを訪れる際はご注意くださいね。下手な季節に街をさ迷うと…凍死してしまうかもしれません(笑)。やっとの思いで探し当てたホテルに着くとNimaがこの辺りの地域の地図を買ってくれ、明日から私が通るルートのレクチャーをしてくれました。この先どのルートを進めばいいのか、地図上にラインを引いて丁寧に教えてくれます。あれこれとお世話になったNimaに何かお礼をしなければ…と彼を食事に誘うことにしました。
近くにあったBarに一緒に行くことにしましたが、私たちはBarに入れてもらうことができません。雪の中走ってきた私のドロドロの格好がお店の“ドレスコード”に引っかかるからだそうな。他のBarに入ろうとしても、また拒否されてしまいます。話を聞くと「オマエ臭うぞ」とのこと。そういえばこの数日シャワーを浴びていませんでした(笑)。仕方がないので売店でビールを買い、ウラン・ウデ市役所前にある巨大なレーニン像の前でチビチビとビールを飲ることに。その後、Nimaの車で市内をドライブしながらこの街のミドコロを案内してもらいます。Nimaは「ここも、そこも写真を撮った方がいい」と勧めてくれますが、辺りは真っ暗なのであまり観光に向いている時間ではありません。深夜1時くらいになり、私はそろそろ疲れてきましたが、彼は「ボーリング場に行こう」と盛んに誘ってきます。丁重にお断りしたのですが、Nimaは「じゃあビールをもう一杯だけ」と粘りをみせてきました。近くのスーパーで彼はビール1ダースにウォッカを1本などをどっさりと買い込んでいます。「この量を今から飲むの?」と驚いていると「持っていけ。旅の途中で寒くなったらお酒を飲めばいい。体が暖まるから」とのこと。飲酒運転はさすがにできません。そんなことを言ってくるなんて、Nimaは変わった警官です(笑)。
VISA切れまであと少し
バイカル湖を経てモンゴルへ
Nimaから「あと数日滞在し、ウチに泊っていきなよ」と優しい言葉をかけてくれましたが、VISAがもうすぐ切れてしまうので早く出発しなければなりません。この街でも触れることができたロシア人の優しさに感謝しつつ、Nimaにホテルまで送って行ってもらいました。ホテルでは何日かぶりの暖かいシャワーを浴び、綺麗にシーツが整えられたベッドに横になると、いつの間にか私は眠りについていました。綺麗なシーツにふかふかのベッドはやっぱり気持ちいいですね。テント泊をしていると暖かい部屋で寝る有り難味を再認識できます。清潔なベッドで深い睡眠をとった翌日、バイカル湖に向けて旅立ちました。ウラン・ウデからは西へ数百キロほどの道のりですが、このくらいの距離なんて旅慣れてきた私には近いものです。昨日のように悪天候でもありません。相変わらず寒さは厳しいものがありますが、ウラン・ウデから西に向けて快適なライディングを楽しみました。バイカル湖に到着したのは日が暮れ始めた頃で、今から観光するわけにもいかないので湖の側でテントを張りキャンプをすることに。周囲の散策は翌日にゆっくりすることにしましょう。
翌日は朝早くから目が覚めました。テントの中にいても外がかなり寒いのはハッキリとわかります。テントを出るとすぐそばはバイカル湖です。湖面が近いので寒さがなおさらキツイのでしょうね。ここバイカル湖はアジア最大の湖で、その最大水深は1743mもあるとか。湖なのになぜかサメ(チョウザメ)がいるのが特徴です。海と間違うほど広いその湖面は非常に澄んでいて、その水は当然ながら恐ろしいほど冷たくなっています。湖のそばの気温も低く、バイカル湖をのんびり眺めるために近くに温泉かサウナがあってくれたら…とくだらないことを考えてしまいました。暖かければもうしばらくバイカル湖の周りを観光してみたかったのですが、VISAの関係もありますから一度ロシアを出国しなければなりません。次なる目的地のモンゴル共和国に向けロシア国境へと足を進めることにしましょう。
35歳。スウェーデン国籍。15歳のときに渡米し、アメリカで医学を学ぶ。大学卒業後に1年間海外を放浪し、その後来日。8年間を日本で過ごした後にR1200GSでのユーラシア大陸横断を企画し、現在は旅の途中。
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