BMW Motorrad CE04(2022)試乗インプレ / バイクのEV化の先端を走る、BMWの最新電動スクーター
- 掲載日/2022年08月03日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad 取材・写真・文/淺倉 恵介
BMWの電動バイク第二弾は
未来志向のデザインに最新技術を満載
2022年春、BMWのEVバイクCE04が日本に導入された。同社としては、既に販売が終了しているC Evolutionに続き、2モデル目となるEVバイクとなる。C Evolutionがマキシスクーター的外観を持ちつつも実験機的な存在であったのに対し、CE04は実用性にもフォーカスしたモデル。エクステリアは、2017年に発表されたコンセプトモデル「Concept Link」を忠実に再現したもの。あまりに未来的で実際に実車になることはないだろうと思われたデザインを、ほぼそのまま市販化したところにBMWの未来志向を感じさせる。BMWではCE04を「サイレント・レボリューション」とコンセプト付けし、電動バイクの新たな扉を開く一台としているのだ。
国内での車両区分は軽二輪、いわゆる250ccクラスだ。車格の大きさや200kgを超える車重を考えればアンマッチにも思えるが、これは15kW(20PS)の定格出力から決められたもの。マキシスクーターばりの押し出し感を持つマシンだが、普通二輪免許で運転可能。マニュアルミッションを持たないので、もちろんAT限定免許でOKだ。
BMW Motorrad CE04(2022) 特徴
四輪で培ったEV技術をフィードバック
多彩な走行モードも魅力
心臓部のモーターの最高出力は31kW(42PS)、定格出力で15kW(20PS)を発生させる。62Nmを誇る最大トルクは、排気量600ccクラスのエンジンに匹敵する。EVの世界では、専門メーカーから供給されるモーターを搭載する例が少なくないが、CE 04のモーターはBMWが自社開発し、生産まで行うもの。同社の四輪EV技術を投入し、バイク搭載用に新開発されたものだ。変速ギヤを持たない1速固定ギヤボックスをモーターハウジング内に搭載し、ベルトドライブで後輪を駆動する。
走行中も切り替え可能な「ECO」「RAIN」「ROAD」「DYNAMIC」という4つの走行モードを搭載。CE04は減速時に回生ブレーキを利用し、バッテリーの補充電に活用でしているが、出力と回生量のバランスで多彩な乗り味を演出している。「ECO」モードは出力を抑えながら、回生量を最大に設定。「RAIN」モードでは、出力と回生量の両方を抑えることで駆動力の急激な変化を抑制。雨天など路面状況の悪い状態での安全性を確保している。「ROAD」モードは、回生量は抑えて、出力はフルに使える。「DYNAMIC」モードは、出力と回生量を最大まで使用し、スロットル操作のみで加減速コントロールを行える。トラクションコントロールシステムも装備している。
BMW Motorrad CE04(2022) 試乗インプレッション
モーターの強みを活かした強烈な加速力
車体の完成度もハイレベル
CE04のスタート手順だが、まずステアリング下のメインスイッチをオン。マシンが始動準備状態になる。次に右ハンドルスイッチにあるイグニッション(?)ボタンをオン。これで、走行が可能になる。セルモーターを回してエンジンを始動させるわけではないのに、あえて走行まで二段階の手順を経るのは、安全対策だろうか? シート高は800mmと低くはないが、ステップボードの足の当たる位置が細くなっているので、足つき性は悪くはない。シート高なりといったレベル。車重が231kgもあるため、押し歩きは重い。けれど、モーターの力を使ったリバース機能を持つので、取り回し性は”まずまず”といったところ。使い初めのうちは緊張したリバース機能だが、慣れると本当に便利だ。
最初は“一番違和感なく乗れる”と聞いていた”ROAD”モードで走ることにする。スロットルを怖々と開くと、CE04は音もなくスッと動き出す。人が速歩きする程度の速度で走らすと、低速の安定感が今ひとつ? BMWらしくない? と感じたのだが、これは自分の勘違いだった。モーターは、エンジンとは異なり最大トルクの発生を回転数に依存しない。なので、いきなり大トルクを発生しての急発進を警戒していたのだが全くの杞憂だった。CE04のパワー制御は完成度が高く、静止状態からグイッと開けてもマシンがライダーを放り出すような不始末はしでかさない。一般的なスクーターと同じ感覚でスロットル操作を行えば、発進時のトラクションも車体の安定性もバッチリだ。
街中ではモーターならではのダッシュ力が光る。まあ速いこと、速いこと。スロットルに遅滞なくレスポンスするのが実に気持ちイイ。当たり前だが排気音は聞こえないし、回転上昇によるパワーの立ち上がりの”待ち”もない。そこに違和感を感じない自分に少々驚いた。それくらいCE04のパワーデリバリーは自然だ。それにしてもこのモーター、なんともパワフルだ。0-50km/hまでの加速時間は、わずか2.6秒とのこと。これは、600ccクラスのスーパースポーツ並み。リッターバイクでも本気で開けなければ、発進加速で負けてしまうレベルだ。このバイクが軽二輪登録であることが不思議に思える速さ。軽二輪どころか、普通二輪最強の加速マシンではなかろうか? この加速はクセになる。走りの鋭さは、マキシスクーターに並ぶものがある。
高速道路でもパワーは十分以上。最高速は120km/hとされているが、これは制御で抑えたものだろう。その領域でもモーターには余裕が感じられ、クルージングも快適だ。CE04は、見ての通り実に“ロー&ロング”な車体を持つのだけれど、そのおかげで直進安定性は極めて高い。それでいて、ハンドリングは軽快だ。1675mmという、長いホイールベースを感じさせない。
このホイールベースがどれだけ長いかというと、同じBMWで比べるならスーパースポーツのS1000RRが1440mm、超大型ツアラーのK1600GTLですら1620mm。ド級クルーザーのR18が1725mmで上回っているが、こちらは排気量1800ccの超大型バイクだ。CE 04の車体が実に特異な設計が与えられているかがわかるだろう。ホイール径が前後15インチと小径、かつキャスター角が26.5度と寝かせ気味でありフロントフォーク長も長いことで、低速でステアリングが切れたがる傾向こそ多少感じはするが、ハンドリングはおしなべて良好。高速コーナーの立ち上がりで、トラクションをかけていく時など実に気持ち良い。ブレーキの制動力とフィーリングも良いので、攻めた走りも楽しい。サスペンションもしっとりと動き、乗り心地も好印象だった。
CE04は4つのライディングモードを選択可能で、それぞれ最高出力と回生ブレーキの回生量が異なる。中でも、これは面白いと感じたのが“DYNAMIC”モードだ。パワーも回生ブレーキもマックスに効くモードで、スロットルを開ければ強烈に加速して、閉じれば思った以上にバックトルクがかかる。四輪のEVで、アクセルオンで加速、オフで減速のワンペダル操作をアピールするものがあるが、機能的にはそれに近い。バイクは駆動力のオン/オフで走りをコントロールする乗り物だけれど、その感覚がよりダイレクト。エンジンブレーキの効き過ぎとは違う、新しい乗り味だ。これこそが、電動バイクの”味”なのだと感じた。
自分はエンジンというメカニズムが大好きで、正直なところEVには否定的なイメージを持っていた。バイクにはエンジンの“味”が必須だと考えていたのだ。それが、CE04に乗って覆されてしまった。モーターにだって“味”がある。モーターをどう料理するかで、かなり美味しいモノに仕上がることがわかったのだ。それほどCE04の走りは“味わい”深かったのだ。EVバイクの時代が楽しみになってきた。
とはいえ、問題がなくもない。CE04の航続距離は130km程度とされているが、これは市街地での使用が前提。ゴー&ストップが多い市街地では、回生ブレーキによる充電が期待できるからだ。なので、スロットルを開けっぱなしの高速道路走行では、バッテリーは減る一方になり航続距離は大きく縮まってしまう。実際に高速道路は走っていると、どんどん下がるバッテリー残量を見て心配になってしまった。ちなみに今回の試乗では、バッテリーがほぼ満充電の状態から68km走行しバッテリー残量は50%、メーター上の残り走行可能距離は57kmだった。ほぼカタログスペック通りの走行距離が出ているが、走行可能距離は走り方自体で変動するので目安と考えるべきだろう。
また、充電の問題もある。CE04の充電には200Vの電源が必要。一般的な家庭用コンセントは100Vだから、200Vを使うには別の契約が必要。もしバッテリーが空になると、充電時間には4時間ほどが必要だという。BMWでは、オプションで急速充電器「BMW ウォールボックスプラス」を用意しており、こちらを使用すれば1時間20分ほどでフル充電が完了する。だが、一番の難関は出先での充電だ。CE04は高速道路のパーキングなどで見かける高速充電器の規格CHAdeMOに対応していない。EVの充電スポット自体は続々と増えてはいるのだが、必ずしもそのバイクが充電可能な充電器が用意されているとは限らない。これはインフラ側の課題なので、お役所がEVを推進したいのなら、インフラ整備こそ急務だと改めて感じた。
航続距離や充電環境など、解決すべき問題はある。それでもCE04の走りは十分以上に魅力的で、電動バイクの未来を感じさせるものだ。電動バイクの時代は、すぐそこまで迫っている。だからこそ一刻も早いインフラ整備、そしてさらなる技術革新を願わずにはいられない。
BMW Motorrad CE04(2022) 詳細写真
車体の底面は、ほぼ全てバッテリーが占めている。重量物であるバッテリーを車体の中心、かつ低い位置に置くことでマスの集中化と低重心化を図っている。空冷リチウムイオン高電圧バッテリーを搭載。
付属の充電器は、200V普通充電に対応。交流式200Vコンセントで使用可能。
レッグシールド左側のラゲッジボックスは電磁キーを装備、メインスイッチオンで開錠される。ETC2.0を標準装備。右側にあるのが充電用のソケットで、充電中はロックがかかる。
走行可能状態のメーター表示。走行中は車速、走行距離、走行モード、出力ゲージ、回生ブレーキの回生量、バッテリー残量、走行可能距離などが表示される。メーターは10.25インチ大画面フルカラーTFT。Bluetoothによるスマートフォン接続機能も装備。
左ハンドルスイッチは、近年のBMW各モデルに共通するもの。グリップ根元のホイールと「MENU」ボタンで、メーター表示や各種設定の切り替えを行う。「R」はリバースの略で、バック機能も装備している。
セルボタンに相当する、赤いイグニッションスイッチを押すと走行可能となる。グリップヒーターを標準装備。
フロントブレーキは径265mmのディスクと、スペインのブレーキメーカーJ.JUAN製の4ピストンラジアルマウントキャリパーを組み合わせる。フロントフォークはショーワ製。バンク角に応じた制御を行う、コーナリングABSも装備。
アルミ製のリアホイールは、特徴的なディッシュデザインを採用。
リアサスペンションは、片持ちスイングアーム式。駆動力の伝達は静粛性に優れ、長寿命なベルトドライブ。
リアショックユニットのプリロード調整は、ダブルナット式で無段階調整可能。リンク機構を持たない直付式で、ユニットはかなりレイダウンさせて配置。
サイドスタンドを出すと自動的にパーキングブレーキがかかり、スタンドを上げると解除される。他のスクーターにも欲しい装備。
フラットなシートは、薄めの割に座り心地は悪くない。CE04の航続距離を考えれば、お尻が痛くなることもないだろう。シートヒーターを標準装備しているのは嬉しいポイントだが、使用すればそれだけバッテリーを消費するのが悩ましい。
トランクスペースも装備。サイズは形状によるが、フルフェイスヘルメットが一つ入る程度。このスペースにバッテリーを搭載すれば航続距離が伸びるがユーティリティは落ちる。難しいところだ。
ウインカーとテールランプ、ストップランプは一体化したBMWの最新デザインを採用。小ぶりだが、被視認性はしっかりと確保されている。
フロントのカウリングは、ウイングレット的な造形を持つ。デザインなのか機能部品なのかが、気になるところ。
BMW Motorrad CE04のスペックや仕様を見る>>
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