BMW Motorrad S1000XR(2020)試乗インプレ / 進化を続ける過程に入った新たなる可能性
- 掲載日/2020年12月16日【試乗インプレ】
- 取材協力/BMW Motorrad 取材・写真・文/小松 男
ハイパワーを誇るマルチエンジンと
ロングフットの柔軟性を同居させる
WSBK(世界スーパーバイク選手権)参戦のホモロゲーションモデルとして、S1000RRが登場したのは2010年のこと。それ以前のBMWモトラッドには存在しなかった攻撃的かつロードレースで勝つために生み出されたスーパーバイクが新たに作られたことに世界中のライダーは歓喜した。
数年後、その派生モデルとしてロードスター(ネイキッド)バージョンのS1000Rを追加、ここまではある程度予測ができたものだが、2015年にはツーリング性能を引き上げたクロスオーバーモデル、S1000XRが誕生したのである。最新テクノロジーを駆使し作られたスーパーバイク+快適なツーリングを楽しめるパッケージ。この相反するとも言えるキャラクターの組み合わせを見事に実現したS1000XRは、BMWモトラッドに新たなファン層を招き入れたと言っても過言ではない。それから5年が経ち、2020年モデルにて、フルモデルチェンジが行われた。今回はそのニューS1000XRを紹介する。
BMW S1000XR (2020-)特徴
どのようにすればスポーティさを確保しつつ
快適なツーリング性能を引き出せるかを熟慮
その長めに設定されたサスペンションストロークから、S1000XRをアドベンチャーバイク的に捉えている方もいるようだが、そもそもBMWモトラッドには、『GS』というアドベンチャーバイクの看板モデルが存在しており、もしその方向で作られたのであれば、S1000GSなどという名称が与えられただろう。しかし、そもそもゲレンデ・シュトラッセの意味を持たされたGSではなく、クロスランナーといった趣旨でつけられたXRは、基本的にはストリート、ワインディング、ハイウェイ、そしてさらには多少のダートやサーキットなども含め、どんなステージでもハイパフォーマンスを楽しめると言った意味合いが強いものだと捉えるのが正しそうだ。その紐づけに関しては、これからのインプレッションにて書き記させてもらうが、オンロード走行を主体としたスーパースポーツツーリングバイクといった立ち位置が私の見解である。
昔から欧州のツーリングライダーには、アルプスローダーと呼ばれるような、長いサスペンションを有するツーリングモデルがもてはやされてきた。アップライトなポジションは視界も良く安全かつ快適、豊かなサスペンションストロークで大きな荷物やタンデムも許容、ワインディングではその気になればスーパースポーツバイクにも引けを取らない運動性能を発揮する。そういったモデルが求められるニーズが根付いているのである。その経緯もあり、GSが一大ムーブメントになり、他のメーカーも追いかけるように様々なモデルをマーケットに投入してきた。ただその中でも、スーパーバイクをベースとして作られたのはS1000XRだけだ。そう聞くだけでも、興味がそそられるのは当然のことではないだろうか。
BMW S1000XR (2020-)試乗インプレッション
アドベンチャーマシン、ではなく
スポーツツアラーライクな性格
従来のS1000XRには試乗インプレ、ツーリング記事製作などで使用し、結構乗った記憶がある。S1000RR譲りのハイカロリーなエンジンでありながらも、それを上手く料理してあり、秀でた運動性能を有するスーパースポーツツアラーというイメージを持った。そこで今回はフルモデルチェンジを果たした新型S1000XRは、どのような変化がもたらされているのかという点も考慮しながらテストをすることにした。
新しいS1000XRのデザインは大幅にブラッシュアップされているには違いないのだが、従来モデルのデザインを踏襲しているために、詳しい人でないと新旧の区別はつきにくいかもしれない。いざ実際に触れてみると、大きく驚かされたことがある。それはボディの軽さだ。サイドスタンドをかけた状態から、車体を起こすだけでもわかり、それは押し引きなど取り回しをすると如実に感じられるものとなっている。従来型と比べてのことではなく、新型を触れただけでそう思ったほどなのだ。のちに調べてみると、エンジン、エキゾースト、バッテリー、ホイールなど多岐に渡り軽量化が施されており、車重は約10キロも引き下げられているようだ。かなり大柄な体躯を持つモデルなだけに、この軽さはかなり意味のあることだ。
現行型S1000RRをベースにデチューンされた並列4気筒エンジンに火を入れる。ディスプレイ内に表示されるタコメーターは、エンジン温度によって、その推奨使用回転以上をレッドゾーンで示す。エンジンが冷え切った状態だと、4000回転付近で、そこから徐々に、引き上げられてゆくといった具合だ。出だしでは排気ガス規制の問題などからか、極低回転のトルクは若干絞られているように思えたが、クラッチを繋いで走り出し、常用回転域に入れれば、どこからでも意のままにパワーを得られる強靭なエンジンだ。そのフィーリングはマイルドにしてアグレッシブで、古くからエンジン屋の異名を持つBMWとあって、この型のエンジンもかなり熟成されてきた感がある。
東京都心部の道が入り組んだ市街地から走り出し、車両全体をじっくりと温めてゆく。アップライトなポジションかつシート高840mmから眺める世界であったり、前後サスペンション共に150mmと豊かなストロークはアドベンチャーモデルのそれに近いものだ。しかし決定的に違うことがある。それは前後17インチタイヤで設定されていることだ。よって、かなりクイックなターンも楽にこなせてしまう。私が所有し普段乗っているGSのイメージでコーナーをパスしようとすると、想像以上に小さい半径で回れる。大柄なボディでいながらも小回りが利くために、まずストリートでは敵無しといった走りを楽しめた。そして高速道路へとステージを移してゆく。
そもそも防風性能は割と高く、さらに片手で操作できるフロントシールドを引き上げると、ほぼ上半身への風を防ぐ格好でクルージングを楽しめる。S1000RRと異なりシフトカムを持たないエンジンは、最高回転数を1万2000回転としているが、サーキットというステージでない限り、そんな高回転を頻繁に使う場面はまずない。従来モデルと比べ、ハンドルが手前に10mm、ステップバーが前方へ20mm位置変更されている。これにより、これまで以上に快適なライディングポジションを取れるようになった。それにミッションは4速から上がロングな設定とされているため、高速道路はかなり楽なのである。
そしてワインディングだ。S1000XRのシートは腰をしっかりと押し付けて座る形状であり、コーナー時に腰をずらして果敢に左右に振り回すには不向きとも言え、どちらかというとRTのようにドカッと座ったままの状態で、ワインディングを駆け抜けるスタイルだ。このように書くと、スーパースポーツ的ではないように思われるかもしれないが、実はRTにしてもかなり高い次元での運動性能を誇り、S1000XRはさらに4気筒エンジンならではのスポーティなエンジンフィールを得られるのだから楽しくて仕方がない。右手のブレーキレバー操作だけでも前後の制度を得られるインテグラルブレーキシステムや、コーナーリング中のブレーキでも不意なロックを防ぐABSプロなどの安全装備のおかげで、安心してコーナー攻められるうえに、急激なシフトダウンを行ってもリアタイヤのロックを防ぐMSRや、エンジンブレーキの効き具合を任意に調整できるEBCの装備も心強い。
およそ一週間、色々と乗り回してみたが、従来モデルよりも扱いやすく、それでいてポテンシャルも引き上げられている。さらにはリカバリーやサポートを行う電子制御系統もレベルアップしているので、公道では無敵とも言えるロードスポーツに仕上がっている。至れり尽くせりとなった新型S1000XRの価格は税込198万1000円から。もっとも手強いライバルを挙げるとしたら、兄弟モデルにあたり、114万8000円からというプライスがつけられたF900XRなのかもしれない。
BMW S1000XR (2020-)詳細写真
現行型S1000RRのエンジンをデチューンしS1000XRに合うセッティングとされた999cc並列4気筒エンジン。シフトカム機構は持たない。最高出力の165馬力は11000回転で、最大トルク114Nmを9250回転で発生させる。
120/70ZR17サイズのフロントタイヤを採用。ディスク径320mmをダブルで装備し、ラジアルマウントされた4ピストンキャリパーを組み合わせる。インテグラルブレーキが採用されており、フロントブレーキレバーで、前後ブレーキが作動する仕組みとなっている。
全体的なスタイリングは従来モデルを踏襲した形であるが、LEDによるデイポジションライトやシャープに纏められたフェイスマスクにより、さらに精悍なイメージが持たされている。バンクさせるとコーナーの先を照らすコーナーライトも装備されている。
フロントのウインドスクリーンは、手動式ではあるものの、片手で操作できる設計となっており使い勝手が良い。写真は高い位置にセットした状態。高速走行時など、高い防風効果を得られた。
高輝度LEDディスプレイを採用。左手側のスイッチボックスに備わるジョグダイヤルで、車両のあらゆるインフォメーションを表示させることができる。写真で表示されているタコメーターに注目して欲しい。まだ走り始めてエンジンが温まっていないため、6000回転以上をレッドゾーン表示していることが分かる。
左手側のスイッチボックス。BMWモトラッドのアイデンティティとなったジョグダイヤルスイッチで、各種コントロールができる。なお、純正ナビもこのスイッチボックスと連動させ、コントロールすることができる。
ステップ位置は従来モデルと比べて20mm前方へとセットされた。ギアシフトアシスタントプロも装備しており、クラッチ操作をせずにシフトアップ/ダウンを行うことができる。
セパレートタイプに見えるが、実はワンピース構造とされたシート。前方がシェイプされているので、わりと足つき性は良い。大きなグリップバーや純正トップケースベースも兼ねるラゲッジラックは、荷物の積載時にも重宝する。
ダイナミックESAプロを装備しており、ロード、ダイナミックという2つの減衰パターンがプリセットされているので、路面状況に応じて適宜セッティングを変更する。ストローク量は前後ともに150mmとなっている。
燃料タンク容量は20Lとかなり余裕を持っており、ロングツーリングなどでも給油回数を少なく済ませることができる。ただ、高回転を多用するような走りをすると、当然燃費は悪くなる。キーレスライドシステムが採用され、燃料キャップの開閉も物理キーを使わない。
燃料タンク前方には小物ケースが備えられている。ETCが標準装備となるため、高速チケットを入れる機会は少ないかもしれないが、簡易防水とされており使い勝手は良い。
湾曲スイングアームやマフラーの形状など、スーパースポーツモデルさながらのアグレッシブさを感じさせるテールセクション。ホイールベースはS1000RRよりも110mm長い1550mmとされている。
リアウインカーはストップランプも兼用となっている。LEDライトが採用されており、小型ながらも視認性は高い。そのウインカーやライセンスプレートを支えるステーの付け根に見える物理キーシリンダーを使い、シートの開閉を行う。
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