桂田 稔(カツラダモータース 副社長)
- 掲載日/2006年05月20日【インタビュー】
BMWの楽しみ方をもっと自由に
それを伝えるのが私の役目だと思っています
今回ご紹介するのは兵庫県のBMW正規ディーラー「モトラッド阪神」、「モトラッド神戸」を経営する「カツラダモータース」副社長の桂田 稔氏。BMWだけではなく、DUCATIやトライアンフも扱っており、欧州バイクに強い老舗のモーターサイクルディーラーだ。桂田氏は欧州のバイク事情を視察するため、毎年インターモトやミラノショーを訪れており、国内だけではなく、欧州のモーターサイクル事情に精通している。そこで今回は桂田氏とBMWの関わりだけでなく、欧州でのモーターサイクルの、そしてBMWを取り巻く環境についてお聞きしてきた。日本の外ではモーターサイクルという乗り物がどのように捉えられているのか…非常に興味深いお話を聞くことができた。
16歳で取ったオートバイ免許
たった3日で取り上げられてしまいました(笑)
桂田●高校生のときにホンダの『MB50』というバイクを手に入れて、乗ろうとしたことはあったんです。ただ、いろいろあって学校の先生に免許を取り上げられ…バイクに乗るのが遅くなってしまいましたね。
桂田●いやいや、先生にダマされたんですよ。私が高校生のときはちょうど「3ナイ運動」が盛んで。そんなことはあまり気にせずに免許を取ったのですが、ある日学校で「これは調査だけやから、正直に答えるように」と言い、クラスの生徒に挙手をさせたんです。「調査だけなら、正直に言ってやるか」と素直に手を挙げたら、何故か免許を取り上げられて(笑)。結局、高校の間はバイクに乗ることはありませんでした。大学に入ると、車に夢中になってしまい、しばらくバイクに乗ろうと思ったことは忘れていたんですよ。
「免許を取らナイ」、「バイクを買わナイ」、「バイクに乗らナイ」の3つの「ナイ」から名づけられた高校のバイク規制運動
桂田●小さい頃から当たり前のようにバイクに囲まれて育ち、バイクは見慣れた乗り物でした。ですから「バイクにはいつでも乗れる」と、興味の対象がそれ以外のことに向かってしまったのでしょう。私がバイクに興味を持ったのは、大学を卒業し「ホンダ学園」という整備学校に通いはじめてからです。学校に通学するための「足」として400ccのバイクを買い、毎日バイクに乗るようになって…。バイクに目が向きはじめました。
桂田●車の整備士を目指している人がほとんどでしたけれど、中にはバイク好きもいましたね。たまに、学校のバイク仲間と大阪の「金剛山」などに走りに行きましたが、レプリカ全盛の時代で、仲間は私の乗っていたバイクではまったく着いていけないペースで走るんです。そんなこともあって「そろそろ大型免許を取るか」と思い、初めてのBMWだった「K75C」と出会いました。
桂田●暖気をすると「壊れとるの、コレ?」というくらい白煙がモクモクと出てくる面白いヤツでした。はじめて白煙を見たときは「こんなバイク、よくメーカーが販売したなぁ」と思いましたよ(笑)。今となっては思い出深いバイクですけれどね。
桂田●昔はボクサーエンジンが好きじゃなくてね。「何でエンジンからシリンダーが突き出しているねん? カッコわるいやろ」と思っていました。一方、「K」はデザインが洗練されていて「カッコええなぁ」と気になっていたんですよ。当時のBMW乗りには「Rのあのエンジンがエエんやん。Rにしとき」と言われましたが、私には理解できませんでした(笑)。K75Cにしばらく乗ったあとR100RSに乗り換え、「R」とじっくり付き合ってボクサーエンジンの面白さには気づけましたけどね。私は「K」からBMWに入ってきたんです。
地味?あがりバイク?
そんなイメージはもう旧い
桂田●家に戻ってきたとき、BMWの販売実績はまったく奮っていなくて、たぶん日本で一番販売台数が少ないディーラーだったはずです。スタッフの数も少なく、営業から整備まで私がやることも珍しくありませんでした。そんな状態でしたので、実を言うと「BMWはもう辞めようか」と思ったこともありました。でも、カツラダモータースと古くから懇意にしていたお客さんから「これからも何とか続けて欲しい」と言われまして。BMWというモーターサイクルの面白さには魅力を感じていましたから「トコトンやってみて、もう一度判断しようか」と腹を括りました。私は熱くなると熱中してしまうタイプなので「やる限りは日本一を目指したる!」と燃えましたね。それからですよ、自分が理想とするBMWディーラーをイメージし、創りはじめたのは。
桂田●当時のバイク屋は、まだまだお客さんと「ナァナァ」の関係が当たり前で。お客さんと親しいのはいいのですが、注文書を出さなかったり、納期が曖昧だったり、が普通でした。お客さんが休みの土日にバイク屋が休みなのも珍しくありませんでした。もともと車ディーラーにいた私から見ると「え? それでエエの?」と思うことはたくさんあり、そういう基本的なことを1つずつ変えていきました。人間、真剣に何かをやろうとすると周りには志の高い人間が集まってくるもののようで。これからお店を変えていく大変な時期に、いいスタッフが集まってきて、私が思い描くBMWディーラー創りが軌道に乗り始めました。
桂田●「ショップのカラーをハッキリと打ち出したいな」と思い、BMWのオリジナルパーツを開発するプロジェクトを立ち上げたのがきっかけでしたね。よくよく調べてみると海外には日本には知られていないBMW用のパーツがたくさんありました。「それなら、海外のパーツを国内に紹介して、今までになかった『BMWの楽しみ方』を提案していけるんじゃないの?」そう思い海外のメーカーに交渉してパーツの輸入を始めました。
桂田●さすがにBMWのお膝元ですからね。パーツメーカーは多く、現地のディーラーがオリジナルパーツの販売を行っているところもあります。最新モデルに対応したパーツが販売されるのもさすがに早いですね。「シートやハンドルを換え、ポジションを変える」、「もっと積載性をよくして旅に出たい」などオーナーの目的に応じたパーツが豊富に用意されています。ヨーロッパのBMWオーナーは恵まれていますよ。
桂田●ヨーロッパ、特にドイツはしっかりとしたモノ造りをする土壌がありますから品質は折り紙つきですよ。品質だけではなくて、デザインに優れたモノ、発想が優れたモノも数多くあります。特にデザインと発想に優れたモノはイタリアのメーカーに多いですね。まぁ、いいことばかりじゃないですけれどね。
桂田●あるパーツを10セットオーダーしたとしましょう。でも、荷物が届くと8セットしかない…。先方に「商品が足りない」と言っても、相手は非を認めない。「ちゃんと送ったぞ」とあくまで言い張る…(笑)。国民性の違いからか「間違えました」と素直に認めてくれません。BMWはパーツメーカーがたくさんありますので、新しい取引先が増えると、こんなことの繰り返しで、苦労を重ねてきました。
桂田●日本ではこれからですけれど、BMWは世界で年間10万台近く販売されていますから。ドイツ本国だけでなく、スペインやイタリアでもBMWをよく見かけますよ。イタリアのナポリなんてBMWだらけの街でしたね。パーツメーカーが多いのはただ、台数が多いだけではなく、BMWの楽しみ方がヨーロッパでは多様だ、というのもあると思います。ヨーロッパではBMWを通勤に使ったり、長期休暇のときにBMWで旅をしたり、BMWの楽しみ方はさまざまです。ですから「自分仕様」にするために多くのパーツが求められているのだと思いますよ。
桂田●ヨーロッパではモーターサイクルは「高尚な趣味」として認知されています。「大人の趣味」だからこそ、BMWのような信頼性の高い、安全なモーターサイクルの人気が高いのでしょう。日本でも、高速道路二人乗りが解禁され、モーターサイクルを取り巻く状況は変わりつつありますが、まだまだこれからです。日本でもBMWを含めたモーターサイクルが「大人の趣味」としてもっと認知されていけばいいですね。海外からパーツを輸入するだけではなく、モーターサイクルの楽しみ方を、モーターサイクル文化を日本に紹介できればな、私はそういった想いも持っています。
桂田●いろいろな部分で変わりはじめているのは感じます。昔、R100系を販売していた当時は来店するお客さんは男性ばかりで。でも、最近は女性の来店も増えてきています。先日も高速道路をF650で駆け抜けるカッコいい女性を見かけました。「ああ、こんな時代がやってきたんやなぁ」とね、しみじみ嬉しかったですよ。「BMW=地味、あがりバイク」というイメージは過去のモノになりはじめているのでしょう。
桂田●新車と中古車の両方の販売をするにはどうしても広いスペースが必要ですし、何よりお客さんにはゆったりとした店舗でBMWを見て欲しいですから。私たちが販売しているのは趣味性の高いモーターサイクル。狭いところに並べるのではなく、余裕をもってBMWを並べたい。バイクだけではなくアパレルの展示スペースも広く取りたい、そんなことを考えるとやはりスペースが必要でした。BMWのイメージが変わりつつある今、ジャケットやヘルメットなど、BMWオーナーを着飾るアイテムが求められていると感じていますからね。それに、街を駆け抜けるBMWオーナーがカッコよくなれば、BMWに目を向けてくれる人はもっと多くなるでしょうからね。そんなBMWの将来が楽しみで仕方がありません。
モトラッド阪神
モトラッド神戸
Interviewer Column
BMWをもっと楽しく、BMWオーナーをもっとカッコよく…桂田氏の思い描く「BMW像」は従来のBMWのイメージの先を行っている。それはモトラッド阪神のお店造りを見てもよくわかる。モーターサイクルの販売店というより、アパレルの販売店といった店構えなので、女性でも安心して入れるのだろう。「質実剛健のBMW」確かに正しいイメージだけれど、最近のBMWはちょっと違うぞ、と改めて思い知らされるインタビューだった(ターミー)。
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