丹羽 忍(R1150GSアドベンチャー)
- 掲載日/2006年09月14日【インタビュー】
未舗装路を走って初めて気づいた
アドベンチャーのポテンシャルの深さ
純正のパニアケース、トップケースが付いているだけでも迫力なのに、カーナビやレーダー探知機などが取り付けてあり、まさにフル装備状態のR1150GSアドベンチャー。 “ゲレンデシュポルト”の名の通り、オフロード向けのモデルではあるが、土の上を走るのには躊躇してしまう巨体を持つ。今回インタビューにお伺い丹羽さんは、そんなアドベンチャーを毎週末のように川原に持ち込みダートを走り、平日でも思いついたら深夜に周辺の山まで走りに行くバイクライフを過ごしている。アドベンチャーをストイックなまでに乗りこなそうとする丹羽さん。彼のBMWにかけるエネルギーの源をお伺いしてきた。
アドベンチャーは相棒のようなもの
間違いなく乗らない週はありません
丹羽●結婚前に妻が住んでいた家に向かう途中、僕がお世話になっているBMWディーラー「ガル」があって。何度もそこを通るうちにBMWがだんだんと気になりはじめちゃったんです。ふと遊びに寄ったときにR1100RTに出会ってしまったのが失敗でした(笑)。出会った翌日にはもう購入してしまいましたから。それがはじめてのBMWでした。それ以前に、20歳くらいの頃に国産ネイキッドに乗ったことがあったのですが1年くらいで降りてしまっていました。久々にバイクに戻ってきたんです。国産に乗っていたときには、ほとんど荷物が積めず、缶ジュース一本買ってもどこに入れよう、と戸惑ってしまうほどでした。「リュックサックを背負っていなかったら、荷物は積めないの?」と、当時乗っていたバイクには利便性を感じられなかったんです。でも、BMWに乗り始めてからは僕のバイクを見る目はガラッと変わりました。
丹羽●パニアケースにはちょっとした旅の荷物なら難無く積むことができ、以前に乗っていたネイキッドに比べると、段違いに便利なバイクでした。アドベンチャーに乗り換えてからは積載性がもっとよくなりましたよ。一般的なバイクだと、ツーリング先で買い物して帰るのは「荷物が増えてしまう…」と考えてしまいます。けれど、アドベンチャーはケースに大きな買い物袋がそのまま入れられるので、大根を買ってこようが、何しようが、怖いものはありません。それが魅力的で、アドベンチャーで近所に買い物に出かけるなんてこともしています(笑)。
丹羽●僕にとってアドベンチャーは、なくてはならない存在で、まさに相棒のよう。都内の会社に勤めていると、人や車だらけの街が窮屈に感じることがあります。そんなときは、夜中だろうが朝だろうが、日中だろうが、思いついたらアドベンチャーでパッと出て行き、自然の中を走ってくるんです。僕が住む埼玉は秩父の山々が近く、気分転換するにはいい環境ですよ。
丹羽●平日はさすがにショートツーリングですけれど、ストレスを感じたときには夜中2時、3時といった時間でも峠道を走ります。日中に走るのとは違い、夜になると見慣れた景色でも違って見えるんです。そうやって時間を見つけて走るようにしていると、たまにそれまで見たこともないような光景を見ることもあります。以前、眼下一面に雲海が広がる光景に出会ったことがありました。見渡す限りの雲海の中に、僕一人の気配しか感じられない。そんな光景に感動し、急いで家に帰ってきて、その興奮を妻に伝えました。もちろん、全然わかってもらえませんでしたね(笑)。
丹羽●誰かと一緒にツーリングすることは少なく、ほとんど一人ですね。たまに、この前の白馬(バイカーミーティング)のような大きなイベントに声をかけてもらって行くくらいでしょうか。カミさんを後ろに乗せて走って帰ってくることもしますよ。昨日も妻と走ってきたのですが「秩父に天然氷を使ったカキ氷屋さんがある」というので二人で走ってきました。でも、妻とタンデムするときは「ここに行く、これを食べる」みたいな目的がないと乗ってくれません(笑)。
丹羽●暑い夏には乗ろうという気になれないときもありますが、乗らないときは「じゃあ掃除するか」となります。なんだかんだ言いながら毎週アドベンチャーには触っていますね。
GSチャレンジで広がった
アドベンチャーの「あと50%」の世界
丹羽●自宅から大きな川が近いので、最近は毎週のように走っています。アドベンチャーにテーブルや椅子を積み、川原に着いたらそれらを広げてパニアケースを降ろして、川原のダートを走るんです。フラットなダートから結構凸凹のあるところまで、いろんな道を走って練習しています。
丹羽●2006年5月に開催された「GSチャレンジ」に連れて行ってもらったのがきっかけです。実はあの時が初めての林道体験で。ディーラーの人に「初心者でも走れるから大丈夫」と、オフロード向きのタイヤを履かされ、わけもわからず参加したんです。僕にはとんでもなくハードなイベントでしたよ。林道を走ったことがなかったから「“初心者でも走れる”って、このレベルがそうなの?」とだまされた気分でした(笑)。そのうえ初日(※GSチャレンジは2日間開催)終わってから、「丹羽君、よくあの道をアドベンチャーで走ってきたね」とディーラーの人に言われちゃって。
丹羽●2日目は初心者向けに迂回路が作られていたらしいのですが、僕は迂回路があるのなんて知らず、メインルートに連れて行かれました。なんとか完走はできたものの「もっとうまく走りたい!」と、思いまして。それから川原通いが始まりました。タイヤを変えてダートを走る楽しみを知ってしまい、タイヤもまだ残っていましたから、近所の川原で練習してみることにしました。
丹羽●それまではアドベンチャーで林道を走るなんて、思いもしませんでした。ただ、GSチャレンジに参加してみて、今まで楽しんでいた「舗装路」はアドベンチャーで楽しめる世界の50%だったということに気が付いたんです。まだ、その先に「ダート」という50%が残っていたんです。あんなに重いアドベンチャーですけれど、林道でも平気で走れちゃいます。事実、GSチャレンジでも上位に入ったバイクは、ほとんどアドベンチャーでしたから。確かに大きさとか重さといったマイナスの面はあります。でも、そんなことを言い訳にしても仕方がないですからね。実際にアドベンチャーで走っている人をこの目で見ちゃいましたから。走れないのは自分の技術がないから。練習するしかありません。バイクに乗せられるのではなく、自分の腕で大きさや重さを言い訳にしないようになりたいんです。「あのデカいのをよく乗っているね」と言われることが、僕の一つの目標です。
丹羽●「カッコいいなぁ」って思われたいのかもしれません(笑)。バイク自体が格好いい、と思われたいし、車と違ってバイクは乗っている人もちゃんと見られますから「あのバイクもカッコイイ、乗っているアイツもカッコイイ」と思われたいですね。そんな風に考えているので「ただ遊びでBMWに乗るのではなく、趣味としてBMWに乗っていたい」んです。
丹羽●人それぞれの感覚なのでしょうけれど、僕は「遊び」と「趣味」は違うと思っています。妥協しないで取り組んでいるのが「趣味」で、中途半端な気持ちでやっているのが「遊び」でしょうか。周りから「あいつは格好つけているだけ」なんて言われるようでは、結局遊びなんだなぁ、と思います。決してそういう風に思われないような乗り方がしたい。だからライディングも“速く”というよりは、“うまく”乗りたいと思っているんです。
丹羽●BMWはこだわった物づくりをしている、という感じがするんですね。BMWって昔から守ってきているというものというのが、水平対向のようにわかりやすく目に見えているじゃないですか。昔から守ってきたものの中に、何とかハイテクなりいろいろな機能を組み合わせることで今の伝統みたいなものを築いてきた。そういう意味で僕も、腕時計という物づくりに携わっているので、そういうこだわりはもちたいな、と思いますね。
丹羽●実は今着けているモデルはデザインのモチーフが、アドベンチャーのフィラーキャップから来ているんです。僕の仕事は広報なので、直接デザインをするわけではないのですが、企画をする上で僕からアイデアを出すこともあります。そんなときは好きなオートバイをモチーフに、提案してしまうんです(笑)。このモデルはタコメーターのレッドゾーンをイメージした文字盤を採用してもらっていて、愛着のあるモデルですね。
丹羽●バイクの世界もそうですが、腕時計の世界も毎年技術は進化し続けています。けれど、ヨーロッパでは今でも高級腕時計の主流は機械式なんです。新しい中にもそうした伝統が息づいているところは、BMWと相通じる部分があるように思えます。新しい技術を積極的に導入しながらも、培われたテクノロジーや伝統をしっかり引き継いでいる。そういうこだわりを知ってしまうと、この先もBMWからは離れられそうにありません。
丹羽さんの勤務するケンテックスとは
Interviewer Column
今回の取材で撮影場所への移動のため、ほんの少しだけ丹羽さんと一緒に走った。何がどう、とは具体的に言い表しにくいのだが、その走る後姿からは、丹羽さんの言う“趣味”として、ライディングにもこだわっているということが伝わってきた。こうした濃厚な時間を毎週、いや、思いついたらすぐに、というほど頻繁に楽しむのにはバイタリティが必要だ。バイクへの接し方は人それぞれだと思うが、ストイックにBMWを楽しんでいる丹羽さんの姿を見て、自分を省みながらうらやましいと思う私だった。(八百山ゆーすけ)。
関連する記事
-
インタビュー
後藤 孝一(R1200GS, R100GSパリダカール)
-
インタビュー
伊藤 静男(R100RS, R80ST)
-
インタビュー
西元 朗(R100RS)
-
インタビュー
佐藤 義幸(R65G/S)
-
インタビュー
橋本 智(R1100S)