千葉 保男(K75S)
- 掲載日/2007年08月09日【インタビュー】
愛車のメンテを自らこなし
K75Sを乗り継いできたベテラン
今回ご紹介するのは86年モデルの「K75S」に乗る千葉さん。K75をテーマにしたインターネット掲示板では、メンバーの中でも積極的に参加し、ミーティングがあれば毎回のように参加している熱心な方である。千葉さんは乗るだけでなくイジる方も大好きで、愛車のK75Sは基本的な整備はもちろん、フロントフォークのオーバーフォールからデフの分解までを自ら手がけるという。K75Sでまだ手をつけていないのは、エンジンとミッションくらいというほどのメカマニア。65歳という年齢を超えた千葉さんを、それだけ夢中にさせるBMW、そしてK75の魅力について語っていただいた。
不人気で安かったから
そんな理由で出会ったK75
千葉●3回目の車検を取ったばかりだから、6年くらいでしょうか。最初のK75Sに乗り始めてからだと、10年くらいになると思います。実は、今のK75Sは2台目なんですね。この前にも同じ’86年式で色違いのK75Sに乗っていました。前のは「ディアモントグレー」という色だったのですが、たまたま前から欲しかった「オニキスブラック」が知人から手に入ったので、K75に乗ってみたいという方にディアモントグレーの方は譲ったんです。
千葉●K75Sに乗るまで、友達のBMWに乗ったことはありましたが、自分でBMWを所有したことはありませんでした。“あまりにも完成されたバイク”というイメージは昔から持っていましたが、実はBMWにあまり興味がなかったんですね。私がK75Sに乗り始めたのは55歳からですが、それまではバイクに乗るだけではなく、メンテナンスしたり故障を修理したりすることにも楽しみを見出していました。でも、歳をとってくるとだんだんそういう楽しみより、故障しなくて手間のかからないバイクが欲しいなと思うようになったんです。それで友人に相談したら、勧めてくれたのがK75Sだったというわけです。その当時、私の求めていた条件が“中古車で価格が安くて、故障しないバイク”だったのと、勧めてくれた友人自身がK75Sに乗っていたというのもありますかね。あとは私の体格でしょうか。それでKシリーズが候補にあがり、K75Sに出会うことになりました。
千葉●R100RSは条件に合いませんでした。中古車の価格がKシリーズより断然高かったですから。その点K75は人気がなく、価格も安かったんです。K75Sくらいの時期のBMWなら自分でメンテできるのも魅力でした。今のBMWはコンピューターで制御されていて、整備するのに専用のコンピューターがないとだめですよね。素人がサンデーメカニックで触れるのは、このK75Sの世代くらいが最後なんです。
千葉●今のところエンジンには手を着けていませんが、それ以外は自分でやりますよ。今年やったのは、ステムベアリング交換とフロントフォークのオーバーホールです。ついでにブレーキのディスクもメンテしましたね。ただ、作業は駐車場でやるので、その日のうちにある程度片付けないといけないのが難点です。季節的に真冬だと厳しいし、真夏もあまりやりたくないですね。だから私の場合、作業時期、作業時間は限られているんですよ(笑)。
千葉●ミッションもまだやっていないかな。やりたいところはもっとありますよ。ギアポジションセンサーのスイッチの交換とか、ウォーターポンプのオイルシール交換とか。パーツは1年くらい前に用意してあるんだけど、なかなか段取りが揃わなくて着手できないんですよね。どうせ作業するなら付随する他のところもメンテしておきたいので、まとめてメンテできる他の作業が出てくるのを待っているんです。
千葉●そうです。今年初めにフロント周りをメンテしたんですが、当初はステムベアリングのグリースが固まっていたから交換するだけの予定でした。ただ、せっかくステム周りを開けるのだから、ベアリングは安いものだし取り替えたほうがいい、と作業が1つ増えました。そうすると、どうせフロントフォークを外すのだからオーバーホールもしようかと。さらに、フォークをバラすのだから、黒いアウターケースが飛び石などではげているのを塗り替えたい、ホイールも外すのだからタイヤも新しいのに替えておいて、ブレーキローターはまだ使うから中心部の黒い部分も塗っておこうかと…と、プランを考え出すとキリがない。その工程を全部描くのが大変でした(笑)。
千葉●以前、通信会社で機器の電源を扱う仕事をしていたのですが、通信機器は一瞬でも止まったらダメなんです。だから、切り替えの工事をしたりするときには、きっちり手はずを整えトラブルが出ないよう準備します。そういう習慣が染み付いているのでしょうね。だからK75Sをイジるときにも「今日やろうかな」と思い付きではやりません。計画を立てて、手順を用意して、道具を揃えて、チェックリストも作ります。そうしないと、でき上がったあとに「ビスが一個余っている!」なってことになりかねないですから。
千葉●もちろんそうですよ。作業できる時期や時間が限られていますから、予定した週末は集中的にやるようにしています。それだから、1箇所をバラすときにはできるだけほかの部分も一気にやるようにしているんです。もっとも、パーツを買うのが大好きなので、プランを立てながらついついパーツだけを先に買ってしまって、結果としてあれもこれもやることになってしまうというのもありますが…(笑)。
K75Sだったからこそ
貴重な友人に出会えた
千葉●乗るのも好きだけど、組み立てるのも好きですね。自分で組み立てた車両に乗ったときに、「よし、何の問題もないな」と思う。そういう瞬間が楽しいですね。ただ、僕はなるべくイジり壊さないように心がけています。自分でイジくったバイクを走らせて遠くまで走ることをやっていますが、すべて自己責任だと思っています。だからこそ「大丈夫」と確証がとれるまでトコトンやりますよ。キッチリ作業しているつもりでも、下手にやるとメンテしたつもりがかえって悪くなる場合もありますから。素人の手仕事だからこそ、段取りをよく検証しながらやらないと。BMWというメーカーが作ったものを、素人が元通りにするというのはとても大変なことだと思います。だから、エンジンなどの性能に直接影響するようなところはやりません。ちゃんと性能が出ているかどうかを検証できるような測定器や道具がないと不安で作業できませんからね。
千葉●とても合理的に作られていると思います。メーカーの工場で組み立てたバイクを、また素人が分解して組み立てるということが、一部を除いてとても少ない道具でできるようになっているんです。僕はちょうどこのK75Sと同じ頃の車「320i」に乗っていて、これもよく自分でイジります。この“少ない道具で組み立てられる”はBMWの四輪車にも共通していますよ。K75Sに乗る前には国産車やイギリス車なんかに乗ってきましたが、それと比べても特にそう思いますね。
千葉●電気という点から見ても、よくできていると思います。例えばワイヤーハーネスのケーブルの線は、国産車で使っているモノとは作りが違います。一般的に細い電線を使うことでハーネスを柔らかくするんですけれど、電気容量を満たすためには電線をいっぱい使わなければならず、どうしてもハーネスが太くなってしまいます。一方BMWは、一本ずつの電線が太く許容電流が多くなるから、ハーネス全体が細いような気がするんです。また、ハーネスのいろいろなところにコネクタが付いていて、後から電装品を簡単に付けることができます。グリップヒーターなどオプション装備のためにも、あらかじめワイヤーハーネスのコネクタが準備されているのも驚きでしたね。20年以上前のバイクでここまでやっているのには、まったく感心しました。
千葉●フィーリングがすごく似ていますね。K75Sの3気筒エンジンは“シルキー”ってよく表現されるんですね。BMWのクルマに積んでいる直列6気筒エンジンも“シルキーシックス”と言われています。でも“絹のように滑らか”だとは言いますが、今の車と比べると全然滑らかじゃないですよ(笑)。今のバイクと比べると音も大きいですし。
千葉●ディーラーで何度か新しいのには乗ってみたことがあります。前にR1100Sに乗って買おうかと思いましたが、最終的に跨ったままサイドスタンドの出し入れができないから諦めました。スタンドを加工してまで乗るのはあまり好きじゃありませんから。加工するのはあんまり好きじゃないんです。それに、新しいのに乗るとイジる楽しみがなくなってしまいますから。65歳にもなると、年中ツーリングに夢中ということもないから、やっぱり自分でイジれるほうが楽しめるかなと思います。
千葉●そうですね。さらに言うならば、今まで乗ってきたバイクの中で一番仲間を作れたバイクでもあります。インターネット上のK75をテーマにした掲示板や、主にK100ですがKシリーズをテーマにした掲示板に顔を出しています。そこで知り合った人たちのミーティングに参加したり、いろいろな情報を交換したりしているんですよ。もっとも、このK75Sに乗る前はインターネットがなくて、雑誌の集まりとか読者欄で募集するミーティングしかなかった、という時代性もありますけれど。
千葉●でも、人気のないバイクだからこそ、仲間意識が強く生まれたのかもしれません。K75の3気筒というエンジンは、BMWの歴史の中でもこのモデルにしかありません。ほかのメーカーを見ても希少なエンジン形式ですよね。だからこそ、これからもK75が好きな人は残っていくと思います。だから僕ももう少しこのK75Sに乗り続ける体力を残し、貴重な友人たちと一緒に楽しんでいきたいですね。
Interviewer Column
「ここのところあまり乗ってないよ」とおっしゃる千葉さん。でも、今年初めに行ったフロント周りの整備の話や、今度はオイルポンプからのオイル漏れを修理する、という話を聞くにつれ、こうしたメンテを通して千葉さんが愛車のK75Sをたっぷりの楽しんでおられる様子がひしひしと伝わってきた。また、ここには書けなかったが、千葉さんが若い頃ベロセットに乗って富士スピードウェイを走っていた頃の写真を見せていただき、そこには現在の有名なギョーカイ人が写っているなど、とても驚きと発見で楽しい取材だった。最後にガレージに収まるベロセットを見せていただき、私も千葉さんと同じ歳になったときに、同じようにどっぷりバイクを楽しんでいられる人生を送りたいと思った。(八百山ゆーすけ)
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