後藤 孝一(R1200GS, R100GSパリダカール)
- 掲載日/2008年03月12日【インタビュー】
まったく関心がなかったBMW
R1200GSの写真をみて衝撃を受けた
R1200GSに乗る友人が最近ダートに走ることにハマっている。これまでダートに縁のなかった彼が「なぜ?」と思い話を聞くと、今回インタビューにお邪魔した後藤孝一さんの影響を受けて、だとか。近頃では共通のBMWディーラーのお客さんでGSに乗る方々が、後藤さんを中心としたコミュニティを作って、週末になると関東近郊のダートに“演習”と称して走りに行っているという。彼らのバイクを見ると、跳ね石や転倒で傷だらけ。高価なBMWなのにそんなにキズだらけにしても平気なの? とこっちが心配になってしまうのだが、そんなことはお構いなし。キズの一つ一つが勲章であるかのように、泥んこ遊びを楽しんでいる。しかも、彼の“遊び”は通うBMWディーラーのGS乗りに少なからず影響を与えているのだ。こんな話を聞くと後藤さんに会ってみたくなるもの、そこで後藤さんにお話を伺ってきた。
まるで「ウサギと亀」のような話
R100RSを駆る友人が語るBMWの魅力
後藤●確かにBMWは高いと思います。だからオフロードを走って傷が付くのがイヤだという人もいるかもしれません。でも私はオフロードをこのR1200GSでガンガン走ってみたい、あわよくばキャラメルタイヤを履いて砂漠でも走れれば、なんて考え購入しましたから、たとえ傷が付いても全然気になりません。だって、バイクは自立しない乗り物、コケて当たり前ですから。オフを走れば汚れますが、それはそれで“味”になる。新車のようなピカピカもいいけれど、走った後の泥ハネとか汚れがまたカッコいいと思いませんか? そういう感覚は他の人とは違うのかな(笑)。
後藤●去年の5月に車検だったから、買ってからだいたい3年弱くらいでしょうか。今でこそ、R1200GSは大好きなバイクなのですが、これに乗り始めるまではBMWって大きらいだったんですよ。今でもBMWが好きというよりもGSが大好きなのかもしれません。GSを買う半年前まではBMWはバイクじゃないと思っていたくらいですから(笑)。私は中学生の頃からバイクでオフロードを走るのを楽しんでいますが、あんな大きなバイクでオフロードを走れるもんじゃないと思っていました。
後藤●私が中学生の頃、調布に元ワークスライダーだった矢島金次郎さんがやっていたショップがありました。そこにほぼ毎日、学校から帰ってくると自転車で通っていたんです。遊びに行くと50ccのバイクを貸してくれて、毎日のように走り回ったものです。その後、高校生になっても通い続けましたよ。その当時、モトクロス世界チャンピオンのガストン・ライエが来日したときには、お店の手伝いをしていたこともあって彼に会うことができました。それも感化されたきっかけかもしれません。
後藤●平らで綺麗な道を走るのはつまらなかったんです。最初に接したバイクが、丘を乗り越えたりジャンプしたりするものだったからかもしれません。また当時、私の家の周りは野原だらけで、中学生だった私はそこに勝手にコースを作り、自転車で走り回っていました。今でこそマウンテンバイクがあるけれど、当時はそんなものがないから3段変速の自転車にビジネスバイクの一文字ハンドルを付けたり、サドルを長くしたりして、オフロード仕様の自転車を作ったものです。それで自宅周辺の野原やクヌギ林、小川が流れる小さな谷を駆け回りました。泥んこ遊びばかりしていたから、二輪車ってそういうところを走るものという感覚が身に着いているのかもしれませんね。
後藤●そうですね。ホンダのCR80でモトクロスのレースを走っていたこともあります。公道ではホンダ「XL250」に乗っていました。その後、中学時代から一緒に矢島金次郎ショップに通っていた友達が買ったホンダ「ファラオ」を、ほとんど新車のまま譲り受けて、それからずっとファラオ1台です。ただ、子どもができてからはなかなかバイクに乗る時間が取れなくなって、月に1回くらいしか乗らなくなっていました。
後藤●仕事関係の知人がヤマハの「FJR1300」に乗っていたのですが、たまたま調子が悪くなったので、バイクショップの勧めでBMWの「R100RS」に乗り換えたんです。あくまでもFJRの代わり、ということで「半年たったらまた乗り換えるんだ」と言っていたのですが、半年経っても「コレがいいんだよ」と言って、乗り換える気配がない。その知人も最初はBMWなんてまったく眼中になかったのですが、実際に乗ってみて長距離ツーリングに出かけるとその良さがわかる、と私に言うんです。
後藤●FJRで高速道路を走っていると、同じBMWを何回も追い抜くことがあったそうです。つまり、自分が乗っているFJRだとサービスエリアごとに休まないと疲れてしまう。でも、BMWはゆっくりだけどずっと止まらずに走ることができる。だから、ゆっくり走っているBMWをFJRに乗る自分が追い抜くけど、サービスエリアに入っている間にまた抜かれ、ということを繰り返すわけです。そんなことを何回も経験していたそうですが、実際にBMWに乗ってみて、そうなる理由がわかったというのですね。でも、乗り始める前にそんな話を聞いても「へぇ~」と右から左に話を聞き流していただけでした。
後藤●2004年にR1200GSが登場したときに、バイク雑誌で記事を見たんです。「何だこのバイクは?」と衝撃を受けました。「コレはすごいな、コレだったら乗れるのかな」と、そのとき生まれてはじめてBMWを意識したんです。例のFJRの知人から「BMWはいいよ、今度のモデルは30kgも軽くなっている」と言われても、どのモデルの話なのか意味が分からなかったのですが、写真のR1200GSを見た瞬間に「これのことを言っているんだ!」と得心しました。
後藤●いやいや、見た目は私からすると全然違ったんですね。R1150GSとR1200GSは私にとってまったく別物なんです。他の方はどうかわからないけれど、R1150GSを見ていても何の魅力も感じなかったんです。でもR1200GSは30kg軽くなっているということがわかるコンパクトさとデザイン、そしてこれなら足つきも良くてオフロードを走りやすそうだと直感したんですね。それですぐにディーラーに試乗に行きました。
ロボット的な最新型だけでなく
人間的なOHVにも触手を伸ばす
後藤●ディーラーでR1200GSを借り出してすぐの信号でした。調子に乗ってアクセルを開けて加速したのはいいのですが、いきなり赤信号でパニックブレーキをかけてしまいました。すると、あまりにも普通に停まったんですね。「コレはすごい! 今までのバイクと違う」と思いましたよ。それで、あえてもう一度急ブレーキを試してみました。やっぱり姿勢も乱れないし、怖くないんですね。走ることも大事ですが、しっかり停まる止まってくれる方が重要だと思っていたので「これは安心して飛ばせるな」と確信しました。それからBMWのことを調べ始めたんです。BMWの歴史から、どういう車種があって、どういう風にエンジンが変わってきたかなど、それまでまったくBMWに関心がなかった私が、日々頭にGSを思い描くようになったんです。そして半年くらいして実際にR1200GSを購入しました。
後藤●とにかく楽しくて仕方ありません。その上、こんな楽な乗り物はないと感じました。私にとってはクルマより疲れない乗り物かもしれません。クルマでどこかに行って帰ってくると、結構ヘトヘトになってしまいます。でもR1200GSはたっぷり走って帰ってきても疲れが残らない。出かけたときと同じような調子で帰ってくることができる。そのまま飲み出かけたり、仕事にもいける。そのくらい疲れないということは驚きでしたよ。
後藤●それが実際に乗ってみると全然なかったんですね。もともとファラオのような大きなオフロードバイク、「ビッグオフ」というのは好きでした。それに歳を取るにつれだんだん体力がなくなってくるから、バイクのトルクで走るしかなくなってくる。でもR1200GSなら、コーナーへの突っ込みさえ丁寧に入れば、そのトルクを活かして立ち上がりで250ccよりも速く走れたりするんですよ。以前のGSのように重いと、そんな走りはできないけど、軽くなったR1200GSならそれができてしまうんです。
後藤●そうかもしれません。とにかく楽しくって仕方ないですから。最近はBMWのディーラーで知り合ったGS乗りの方々とダートに走りに行っています。GSでオフロードに分け入ってガンガン走ろうという方は少なかったようで、新しい経験に皆とても楽しんでいます。私もまだまだうまくありませんから、“演習”と称して関東近郊のダートに一緒に行って、お互いの走りをチェックしたり、写真や動画を撮ったりしています。もともと昨年の「GSチャレンジ」や「泥んこ祭り」で知り合った方々なのですが、今年もどこに行こうかとインターネット上にコミュニティを作って相談したりしています。
後藤●実はR1200GSを買って半年ほどして、たまたま同じディーラーで出物のR100GSパリダカがあったのでつい買ってしまいました。不動車ではなかったのですが手を入れないとしっかり走れないということで、エンジンの腰上やフロントサスをオーバーホールして、2年がかりでようやく先日出来上がったんです。GS乗りであれば最新のGSに乗ってその良さを知ると、今度はいろいろ伝説を作ったOHVのGSに興味がわくようですね。私も若い頃、モトクロスチャンピオンとして来日したガストン・ライエに会っていますが、その彼が1980年代にあの小さな体でGSを駆使してパリダカを制覇したのをよく覚えています。R1200GSに乗るようになってからも、いつかはOHVのGSに乗ってみたいとも思っていました。
後藤●ないものねだりかもしれませんね。確かにR1200GSはすごいバイクです。もちろん私にとってダートをガンガン走るバイクはあくまでもR1200GSです。だからR100GSパリダカを買ってもR1200GSを手放すつもりはありません。でも、パリダカは別物でしょ。パリダカは、2バルブで普通のテレスコピックフォーク。普通のオフロードバイクであるファラオの延長にある。それでいて、なおかつ疲れない。FJRに乗る知人が言っていたように、別に速く走らなくても自分を満足させてくれるバイクだと思うんです。パリダカでも飛ばすことは飛ばすけれど、別にこれ以上速く走ってやろうとか、カッ飛ぼうという気にはならない。R1200GSとは何か別の楽しさがあるんですね。
後藤●R1200GSがロボットでパリダカは人間かな。パワーユニットはR1200GSがモーターで、パリダカがエンジンって感じ。だからR1200GSのエンジンとかメカニカル的なところには、自分でいじれないこともあってあまり興味はありません。
後藤●両方ともしますよ。ロボットでも対話はできますから(笑)。バイクと対話するという意味ではどちらも同じなのですが、その反応がロボットと人間なんですね。R1200GSは指示した通りそのままにレスポンスを返してきてくれる。パリダカはワンテンポあっての反応という感じでしょうか、柔らかさがあるというか。こうした反応の違いが、R1200GS以外はオフロードで乗れないと考えていた自分変えてくれたのかもしれません。パリダカはまだ完成してから200kmくらいしか走っていませんが、これからダートにも走りに行ってみたいですね。
Interviewer Column
以前にも一度、ディーラーのツーリングでご一緒したことのある後藤さん。決して恵まれた体格というわけでもないのに、GSというビッグオフを気負うことなくスムーズに運転する姿を見て、さすが若い頃からずっとオフロードにこだわって乗っている人は違うなあ、と思った。取材中、何度も「BMWが好きなのではなくGSが好きなんです」と言っていた後藤さん。でも、それまで全然関心がなかったBMWに関心を持ってからというもの、歴史や車種を学び、実際にバイクを買って乗り、さらには古いモデルにも触手を伸ばしている。これはBMWにハマった人のパターンそのもの。最近では、ディーラーのオフロード系イベントで、そのお店に集まるGS乗りの中心的存在となり、盛り上げ役になっている後藤さんだが、先日お会いする機会があって出来上がったばかりのパリダカにも乗らせていただいた。オンロード専門だった私も「おおっと、GSでオフロードも楽しいかも」と思ってしまうほど、GSワールドへ誘う後藤マジックは強烈だった。(八百山ゆーすけ)
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橋本 智(R1100S)
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