VIRGIN BMW | 第10回 試作シート完成・試作品テスト 365日BMW Motorrad.宣言

第10回 試作シート完成・試作品テスト

  • 掲載日/2007年02月02日【365日BMW Motorrad.宣言】
  • コラムニスト/K&H 上山 力

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あらゆるシーンを想定し
シートの試乗を行います

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スポンジ部分の試作品はついにできあがりましたが、いつまでもスポンジの状態で遊んでいるわけにもいかないので、レザーの型紙をとることにしましょう。数種類のレザーを検討し、最終的には幅の細くなっている前側部分に、カーボン調レザーの帯を入れることにしました。レザー担当の者がスポンジからレザーの型紙を取り、試しのレザーを縫い上げてスポンジに仮張りするのですが、一発で決まることはまずなく何度かやり直しが必要になります。こちらとしては早く乗りたいので「早くして~」とやきもきしてしまいます(笑)。

やり直すこと数回、やっとテスト用のシートが出来上がったので、いつもテストコースにしている伊豆へ行くことにしました。テストコースは、高速道路200km下道300kmの計500kmの道のりです。下道のなかには、芦ノ湖スカイラインや伊豆スカイラインのような舗装がきれいな中高速のコーナーが続く道もあれば、アスファルトが陥没していたり浮き砂・枯れ葉や湧き水が道路を横断していたりするような3桁県道の峠道もあります。高速道路での走り続けるテストや、ワインディングでの性能、路面状況の悪いときの体の動かし方などを確認するために敢えてこういったテストコースを選んでいるのです。

「シート作りには関係ないんじゃないの?」と思われるようなことまでR1200RTの場合はテストを行いました。それにはちゃんと理由があります。シート製作のためにK&HにR1200RTがやってきてから、もうかなりの距離を走りました。走れば走るほど、このツアラー色の強いR1200RTというオートバイは、想像以上にいろいろなシュチュエーションを想定して設計されたオートバイなのだということに気が付いたのです。ゲレンデシュポルトの「GS」ほどではないのでしょうが、ツーリング先で知らない道に入り込んでしまったときに、路面状況が多少悪くなっても走破するだけの性能まで持ち合わせています。もちろんツアラー的な要素では他を圧倒していますね。そういうオートバイのシートを作るのですから、試作品のシートでもあらゆるシュチュエーションでテストをする必要があるのです。

理想の着座位置に近くなる
そこから生まれるメリットとは

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まずは高速道路に乗りましょう。風の巻き込みが少なくなったことに気が付きます。ノーマルシートのときは、後ろから肩を押されているような巻き込み風がありました。ニーグリップしにくいシート形状も手伝って、上半身をハンドルで支えるような格好になっていました。しばらく乗っていると掌が痛くなって肩が凝ったり、首が痛くなったりと散々な思いをしたのを覚えています。着座位置が高くなり少し前目に座るようになったことで、スクリーンを立てたときに綺麗に風が流れていくようになったのでしょう。今回テストしているハイシートは、本国仕様のシートと着座位置がほぼ同じ高さになるようにしてあります。本国仕様のシート高より若干低く設定してあるのですが、スポンジの沈み込み量をノーマルシートよりも少なくしているため、本国仕様の乗車位置に近くなっているのです。「それだとスポンジが硬いんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、ノーマルシートが柔らか過ぎるのです(笑)。

着座位置が車体設計上の理想の位置に近くなるわけですから、いろいろなところの具合が良くなるのは当然です。メーカーは、当然ライダーが乗った状態を想定して設計し、実験をしているはずですからね。理想の着座位置に近くなるので、172cmの自分が乗っても肘にゆとりがあるハンドル位置になります。ノーマルに比べ着座位置が高くなるため、ステップとの位置関係も改善され、膝にもゆとりが生まれます。これによりステップに荷重を掛けやすくなり、大型トラックやバスなどの巻き込み風や、橋や山間での横風、ワダチにも即座に対応できるようになりました。ステップ荷重をするとライダーの体重がステップに乗り、オートバイに対してのライダーの重みが車体の低い位置(ステップ)に掛かります。そのため、低重心になり車体を安定させることができるのです。前にもお話しましたが、BMWは真っ直ぐ走るのではなく真っ直ぐ走らせるオートバイです。乗車姿勢が安定すると真っ直ぐ走らせるのが今まで以上に楽しくなるのです。そして、膝にゆとりができてステップへの荷重が増え、ニーグリップがし易くなることにより、どっかりとシートに全体重を掛けなくなります。お尻への負担も減りますね。

ニュートラルステアを手に入れる
それを目指してシート開発を行いました

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色々な発見もあり、テストは高速道路から下道に移っていきます。良く雑誌のテストにも使われる芦ノ湖スカイライン、伊豆スカイラインを走ります。この道は舗装も景色も綺麗で、中高速コーナーが続く実に走りやすい道です。走りやすく、ついつい速度が上がってしまうので(笑)、個人的には好きな道ではないのですが、運動性能のテストをするには最適でしょう。ノーマルシートでのコーナーリングは、ハンドルにしがみつきハンドルをこじって(逆操舵)曲がり始めのきっかけを作っていました。ニーグリップ・ステップ荷重がしにくいため、下半身が固定出来ずに上半身の体重をハンドルで支えてしまっていたからこのようなハンドリングになってしまうのです。左右に車体を傾けようとするときには、本来は下半身で傾く上半身を支えるのですが、それができないので傾いた上半身を、傾いた側の腕で支えようとします。その結果、傾けようとしている側のハンドルを押して逆操舵をしてしまうのです。よく言われる「ハンドルをこじるな!」というのはこの動作のことなのですね。

「ニュートラルステア」という言葉をどこかで聴いたことがあるのですが、オートバイはステアリングが自然に切れていくよう設計されています。これは皆さんの身近にある自転車も同じです。自転車に人が乗らず後ろから押して、放すとどうなるか? 慣性で真っ直ぐ走るのですが、段々と速度が落ちていくと右左どちらかにステアリングが切れ、ステアリングが切れた方向に傾きながら弧を描くように回り込み、最終的にはポテっと倒れてしまいます。このように、左右どちらかにステアリングが自然と切れる状態がニュートラルステアです。ちなみに、このステアリングが切れるときというのは、車体が一瞬不安定になるから切れるのです。その逆に、安定(倒れないように)しようとしてステアリングが切れる、という意味でもあります。自転車は倒れないようにステアリングを切るのです。静止状態でなければ決して直立した状態から「パタリ」とは倒れません。オートバイに例えると、安定を取ろうとステアリングが切れようとするのに、逆方向にハンドルを切ってしまっては自然なコーナーリングとは言えません。逆操舵をすれば安定どころか必要以上にバイクは傾いてしまいます。このニュートラルステアを引き出すには下半身の安定が必要不可欠です。オートバイはハンドルを切って曲げるのではなく、上半身の重みを使って下半身でオートバイを曲げるのです。「下半身で操作する」というのはこういった意味合いからきているのですね。

このニュートラルステアを上手に引き出しながら、オートバイを操作するのがツーリングしながらスポーツする楽しさだと筆者は考えます。これは今までのコラム中で何度も書いているように、決して速く走るためではなく、楽しくオートバイを操るためのものなのです。では、今回テストしたシートはどうだったのか?それは次回にお話したいと思います。

プロフィール
上山 力

32歳。東京都練馬区のシートの名店「K&H」に勤務。シートの開発を主に担当。自らが長い距離を走り抜き、シートを開発するため、彼の年間走行距離は尋常でないものに。

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