VIRGIN BMW | 第8回 シート開発スタート 365日BMW Motorrad.宣言

第8回 シート開発スタート

  • 掲載日/2006年10月27日【365日BMW Motorrad.宣言】
  • コラムニスト/K&H 上山 力

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R1200RTで『スポーツ』するとは
理解し、しっかり操作すること

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このコラムの最初の頃に「R1200RTの『楽しくスポーツできる部分』をもう少し伸ばしてあげよう!」と書きました。「では、スポーツとは何だろう?」の自分なりの解釈をご紹介しなければなりませんね。それは、なにもオートバイを速く走らせたり、深くバンクさせタイヤを端まで使ったり、ということだけではありません。

「自分が乗るオートバイのことを良く理解し、そのオートバイをしっかりと操作したい」。

これが私にとっての『スポーツ』ではないか。操作することに楽しさや喜びを見出すのがスポーツするということなのだと思うのです。考えようによっては、発進停止や交差点のゆっくりとした右左折も、私にとっては『スポーツ』なのです。もちろん、フルバンクからタイヤを最大限グリップさせるような走り方が、とても刺激的で楽しいことも知っています。ただ自分にとって必ずしも速度とスポーツ性は正比例していません。もし速く走らせることだけがスポーツだと思っているのでしたら、ツーリングバイクのR1200RTを相棒に選ばず、サーキットへ直行しているでしょう。

普段のツーリングの中でオートバイをしっかりと操作し、楽しさや喜びを味わいたいからR1200RTを選んだのです。ツーリングに行くと車線の多い綺麗な道や、細くてでこぼこした道があります。一人の時もあれば二人の時もあり、いつもの道や初めての道があります。そんな道々を走りながら、自分とオートバイの距離を近づけたいのです。そのためにはシートが重要な役割を果たすことを私は知っています。ですが、R1200RTとの付き合いは日が浅く、分からないことがまだたくさんあります。「それなら走るしかない」と、富山から帰ってからも、休みを利用して毎週奥多摩や伊豆などへ走りに行っていました。

コンセプトを確定し
いよいよ開発のスタートです

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走りながら頭の中でいろいろなアイデアがグルグルと浮かび、徐々に構想が練りあがってきました。シートの取り付け方法についてもアイデアが浮かび始め、早速取り付けステーの試作を始めます。

・ノーマルシートの2段階の高さ調整を生かしつつ、取り付け剛性を高くしたい。
・ノーマルシートより座面の高さを上げるが、足つきは犠牲にしたくない。

おまけに、以前にもお話したタンクをニーグリップしにくいシート形状。ステップワークやニーグリップというと、激しく走る人のテクニックのように思われるかもしれませんが、オートバイを操るための基本動作なのです。皆さんも免許を取るときに一本橋や波状路、スラロームから信号の右左折でもニーグリップとステップへの荷重や抜重を、しっかりと練習をしてきたはずです。ところがどうしたことか、このシートだとその基本動作がしっかりと出来ないのです。一般道に下りて、道路の陥没やマンホールなど滑りやすい状況に突然遭遇すると、座ったまま車体に身を預けることしか出来ません。BMWの車体設計がしっかりとしているので、極端に破綻することも無いのですが、ライダーが車体をコントロールすると言う意味では、あまり褒められたものではないと感じてしまいます。自分が作るシートは、この基本動作というごくごく単純でいて、重要な動作が自然に出来るような形状にしようと思いました。そのためにもニーグリップのしやすいシート前方の形状や、座面の高さをどうするかが重要になります。

まずは上記の2つを踏まえ、前側の取り付けパイプ両脇に付くゴムブッシュをキャンセルすることにしました。代わりに短いパイプを用意し、パイプの両端ではなく中央に引っ掛け固定することにします。こうすればゴムブッシュを介さないので、力が掛かった時にシート自体がグニャリと傾げてしまうことも無くなります。取り付け剛性も上がり、更には短いバーにする事によりシートベースを最大限に細くすることが出来ます。

前側取り付けパイプ付近だけでなく、足を下ろす時に内腿に当たる部分のシートベースも、サイドカウルぎりぎりまで追い込みます。これは、足つきを良好にするためにも、シートベースの製作段階で、なるべく幅を狭くしておく必要があるからです。後にこのシートベースを利用して、足つきを重視したローシートを製作予定なので、幅に関しては細心の注意が必要でした。

シートは車体の一部
乗り手と車体を繋ぐ架け橋

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ノーマルシートの取り付けにはもう1つ問題があります。取り付け前側と後ろ側のマウントに距離がありすぎるために、ライダーが乗る中央付近でシートベースがしなってしまうのです。そこで、サイドカウルがフレームにネジ止めされている部分を利用して、専用に作ったフラットバーで橋を渡すことにしました。渡した橋の上にシートベースをマウントさせれば、シートベースのしなりを防ぐことができ、同時に左右への動きを抑えることもできます。マウントは、不快な振動を抑える為にリジッドではなくゴムの足を介すようにしましょう。これら取り付けステーを全て付属することにより、ノーマルシート、フレームや取り付けステー等への改造無しに取り付け可能となりました。取り付け方法を多少アレンジしていますが、基本的にはノーマルに準じています。取り付け取り外しや高さ調整をするのに特別なコツは必要ありません。また、ノーマルリアシートとの併用も可能な造りにデザインすることにしました。今後ローシートやリアシートも開発しますが、ノーマルフロントシートやノーマルリアシートとの組み合わせが自由にできるようにする予定です。

なぜこうまでしてシートの取り付けに拘るかというと、極力車体とシートが別々の動きをして欲しくないからなのです。ライダーが車体に一番触れている部分はシートです。いい加減なシートベースやいい加減な取り付け方法では、車体からライダーに伝わるさまざまな情報が遮断されてしまいます。逆に、ライダーがオートバイに対して行う操作や入力も、シートベースが遮断してしまうと、しっかりと車体には伝わらないのです。私は、シートもオートバイの車体の一部だと考えます。ところが現状のノーマルシートでは、車体とシートは別々に機能しているように思えるのです。「車体は車体、シートはシート」と。いくら良い形状の良質なスポンジを使用したとしても、しっかりとしたベースの上に成り立っていないのでは意味がありません。しっかりとしたシートベースを、しっかりとした取り付け方法で固定して、初めてしっかりとしたスポンジが必要になるのです。シートベースの形状、取り付け方法、この土台作りの部分から私は拘わります。良いシートを作ろうと思ったとき手を抜いてよい部分など無いのです。今回のシート製作においてもここから徹底的に考え抜き、開発を進め始めました。

プロフィール
上山 力

32歳。東京都練馬区のシートの名店「K&H」に勤務。シートの開発を主に担当。自らが長い距離を走り抜き、シートを開発するため、彼の年間走行距離は尋常でないものに。

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